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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~想えよ戦士達、今はただひたすらに~

 ずっと後悔していた。

 ずっと借りを返したかった。

 学生時代に衝突してからずっと。


 何の理由も知らずに突っかかって。

 その上で自ら巻き込まれて。

 魔剣を取った理由だって本当は自分の為で。

 そんな理由を隠したまま、色々と勇を振り回して困らせて。


 そうして何度も迷惑を掛けた。

 勇が天士として覚醒した時だってそう。

 愛だなんだと言って止められた理由も考えず、また衝突してしまった。


 そんな後悔の連続だったから思いもするだろう。

〝これだからきっと天士になれないのだろう〟と。

〝余りにも人間的過ぎた、人間の枠を越えられなかった〟と。


 なので借りを返せる機会はもう来ないかもしれない。

 天士となった勇と自分とではもう何もかもが違い過ぎるから。


 ならせめて自分の出来る事はしたい。

 そう思って止まらなくて。




 だからこそ今、心輝は勇達を背にしていた。

 迫る崩力球との間を割る様にして。




「後悔なんてよおッ!! 死ぬまでとっときたいなんてェ思うモンじゃあねーぜえッ!!!」




 この時、獄炎が迸る。

 自身を、勇達をも包む程に激しく強く。

 更には瞬時にして渦巻き、島直下へと向けた巨大な紅竜巻をも形成していて。


 その直後、竜巻周囲が無数の爆発を起こす事に。


ズゴゴゴゴーーーッッッ!!!


 するとたちまち崩力球までもが崩壊・爆裂していく。

 連鎖誘爆を引き起こしているのだ。


「死力を尽くしたいって思うのは茶奈だけじゃねぇ。 俺達だってまだ戦えるんだってよぉ!」


「シン……」「シンさん……」


「だったらよ、俺達にも頼ってくれよ。 何だってしてみせるからよ」


 そんな爆発の包む竜巻の中を三人が落ちていく。

 思いの丈をぶつけながら。


 後悔なんて、借りなんてもうどうでもいい。

 今はただ勝ちたいから。

 死力を尽くす勇と茶奈と同じ様に。


 それが親友として、仲間として成すべき事だと誰よりも強く思っているから。


「その為だったら俺はッ―――」


『その身を捧げるかあ!? 肉らしく喰われてえッ!!』


「「「―――ッ!?」」」


 しかしその想いを全て伝える間も無く、醜悪な声が遮る事に。

 なんとアルトラン・アネメンシーが炎渦(えんか)を突き破って現れたのだ。

 その二本の腕で強引に引き千切りながら。


 しかも更にはもう二本の腕を掲げ、合わせた拳を振り下ろすという。

 三人纏めて叩き潰せる程の勢いで。


 その中で心輝は何を思ったのだろう。

 それでも切り抜けられると思っただろうか?


 いや、もう心輝は諦めていた。




 己の保身など、もうとっくに。




 心輝の脚が勇を突く。

 炎の欠片の舞う中を。

 全ての想いを託したままに。


ドギャゴオッッッ!!!!


 そうして勇と茶奈が離れる中、たちまち鈍い音がその場に響いた。

 心輝が巨大な拳を叩き付けられた事によって。


 己の身を顧みず、勇と茶奈を庇ったのだ。

 この後での戦いに全てを賭けて。


「シィィィーーーーーーンッッッ!!!?」


 直後、打たれた心輝の身が大地へ向けて突き抜ける。

 大量の血飛沫を後に舞わせながら。


 まだ意識は有る。

 でももう動く事さえ叶わない。

 それ程強く砕かれてしまったから。

 身体も、魔剣も、自慢の反骨心さえも。

 

「全く、世話の焼けるッ!!」


 しかしその直下には瀬玲が待ち構えていて。


 展開した命力の網でしっかりと受け止める。

 出来る事と言ったら精々これくらいだから。


 でもお陰で心輝の落下死は免れたと言えよう。

 もっとも、生きているかどうかも怪しい状況だけれど。


 だが―――

 

 


『鬱陶しい蠅共が!! 消えてしまえええーーーーーーッッッ!!!!』




 アルトラン・アネメンシーの標的は既に切り換わっている。

 まともに飛べない勇達から、戦いの邪魔をした心輝と瀬玲へと。


 一度芽生えた殺意は相手が消滅するまで収まる事は無い。

 それが怨恨憤怒を司る邪神である故に。


 その怒りが大地へと黒閃光を解き放たせる。

 まるで先程の仕返しと言わんばかりに。

 瀬玲が呆然と空を見上げる中で。


 ただの人にしか過ぎないこの二人に崩烈閃を防ぐ手立てなど無い。

 そして速過ぎるからこそ、逃げる事さえ叶わなかったのだ。


 この攻撃からは逃げられない。

 そう悟ってしまって。




パパキィィィーーーーーーンッッッ!!!!




 しかし放たれし崩烈閃は全て、あらぬ方向へと曲がっていた。

 二人の頭上を覆う、虹の壁によって。


 何物をも通さないという強い意志の下に。




「これ以上はこのデューク=デュランがやらせはしない。 彼等は人類の、この宇宙の希望なのだからッ!!」




 その背後にて、デューク=デュラン立つ。

 持てる力を心輝と瀬玲を守る為に全て注いで。


 いや、この場に居る全ての者達を守る為に。


 そう、やっと()()がやって来たのだ。

 【六崩世神】を退けた全ての仲間達が、デュランと共に。


 【忘虚】を無に還した獅堂、ズーダー、ディック、バロルフが。

 【憎悦】を消し飛ばしたイシュライト、アルバ、サイが。

 【諦唯】を圧し返したアージ、マヴォ、エクィオ、ピューリーが。

 【憤常】を叩き潰した剣聖、ラクアンツェが。

 【劣妬】を断ち切ったナターシャ、アンディが。

 【揚猜】を砕き祓った福留、莉那が。

 全員が一堂にして集結したのである。


「アンタ達……!?」


「重ね重ね、遅れて済まない。 だけどこれで全ての御膳立てが済んだ。 後は私が勇の代わりに君達を守ろう、何があろうとも」


「だからってなんで皆まで!?」


 でも、だからこそ瀬玲が疑問を隠せない。

 戦える者ならともかく、ほぼ誰しもがボロボロで。

 おまけに中には命力を持っていない人間だっている。

 どうしても戦いの邪魔になるとしか思えなかったのだ。


『お前がもう一人の天士、デューク=デュランという奴か。 小賢しい肉がまた一人増えよって』


 突如として現れたグランディーヴァの面々に、アルトラン・アネメンシーも不快さを見せつける。

 特に、もう一つの懸念だった存在へと。

 やはり茶奈を通して知ってはいたのだろう。


「ああ。 だが私は戦わない。 何故なら、貴様の相手はもう決まっているからだッ!!」


 ただデュラン自体は戦意よりも何よりも防御の姿勢を貫いている。

 それは単に、自分がこの場でどんな役目を担っているか知っているから。 


 そう双方が言葉を交わした直後だった。

 空の彼方から紅光の塊が高速でやってくる。

 勇と茶奈がようやく復帰出来たのだ。


 それどころか勢いのままにアルトラン・アネメンシーへと斬り掛かっていて。


 勇も茶奈もまだ全然諦めてなどいない。

 庇ってくれた心輝の為にもと言わんばかりに。

 故にたちまち双方が空へと飛び上がり、攻防が再開する。


 またしても天地を揺るがす激音を鳴らしながら。


「ねぇデュラン! ししょ達を助けてあげてよ!」


「いや、私では二人の力にはなれないんだ」


「それよ。 なんでアンタは皆を連れて来たのさ!?」


 そんな戦いを見上げながらも、瀬玲が疑問を投げかける。

 仲間達と共にボロボロの心輝を寝かし、再び膝枕をする中で。


 仲間が戦いに加われないのはデュランだって知っているはずで。

 なら仲間達を置いて自分だけで参戦すれば戦力になるのだと。


「それは私の力が彼程に強くないからだ。 人々の期待の受け皿も、根本的な力の使い方もね。 だからまず役には立たないだろう。 でも君達は違う。 君達には可能性があるんだ。 私が参戦するよりもずっとずっと有利になるくらいの」


 どうやら他の仲間達も同様には思っていたらしい。

 だからこそ今度は皆がデュランに視線を向け、答えらしい答えを期待する。


 どうすれば勇達の力になれるのかと、一同にして。




「誰よりも強い絆を結んだ君達が応援する事で、勇の力はもっと大きく増加するんだ。 より近く、より高らかと、より強く願えばなお。 それを成せるのが天士という存在だから」




 でもその答えは考えずともわかるくらいに、何よりも簡単(シンプル)だった。


 そう、勇の天士としての心は人の想いにより強く反応する。

 それは物質的距離にも影響するほど敏感に。

 しかも関係性を持てば持つほど掛け算の倍率が増える。


 だからデュランは勇の力を高める為に仲間達を連れて来たのだ。

 そして彼等を守る為に防御に徹しようとしている。

 それが何よりも勝利への近道となるからこそ。


「んじゃヒーローショーを観る子供達みたいに応援しろっていう事かい!?」


「ああそうさ。 でも必ずしも声に出す必要は無いよ。 想いの強さが何より大事なんだ」


「おやおや、羞恥心のある紳士淑女にも優しい能力なことで」


「だが、声を出す事で何よりも昂れるだろう。 ならば俺は叫ぶぞ、二人の為に!!」


「おまえらぁ、腹から声出せェ!! あの邪神野郎がウザがるくらいになあッ!!」


 そうと知ればもはや叫ばずにはいられない。

 ただただ想いのままに、願うままに。


 力なんて関係無い。

 勇と茶奈を想うからこそ叫ぶのだ。

 二人に絶対に勝って欲しいから。

 邪神を退け、その上で生きていて欲しいから。




 この時、場の全員の願いが空へと渡る。

 友を想いし純粋な心の欠片が揚々と。


 そしてまた一人、願わずにはいられない者からも。




「へ、へへ……、なら、よぉ……」


「シンッ!?」


 震えたその手が高く仰ぐ。

 光瞬く青空へと向けて。

 届かなかった空に、届けたかった想いを乗せて。


「ブチ貫きやがれェ、お前の……意志、を―――」


 誰よりも強く、純粋に。

 その気高き想いはなお―――不動。




 例え、天差す手が崩れ落ちようとも。

 



 仲間達の想いを受けて、勇と茶奈の力が迸る。

 以前よりもずっと強く、速く、激しく唸る程に。


 その姿こそが世界への希望となろう。

 今はまだ意図が全てに届かなくても。


 願いは巡る。

 想いは走る。

 距離も大気さえも抜け、世界を越えて。


 今この危機を乗り越える為にも。




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