~その知恵、醜悪なまでに周到~
経験に学び、知恵に導かれてここまでやってきた。
多くの魔剣を操り、その力を幾度と無く信じ抜いて。
その末に今、二人は一心同体となりて空を貫く。
かつて己が信じた魔剣と同様、互いに想いを寄せて。
『無駄だ! 幾ら力を増したところで、今のお前達の力では我に及ばぬッ!!』
「いいや、これから越えてみせるさ! 貴様も、この困難さえも!!」
『抜かせェェェーーーッッ!!!』
その姿を前に、アルトラン・アネメンシーがこれ以上無く顔を歪ませる。
邪神にとって何よりもの嫌悪の対象と言えたからこそ。
そうして沸き上がった怒りが憎しみが、またしても崩力球を無数にバラ撒かせる事となる。
明らかな殺意と叛意の下に、勇達一点へと集中する様にして。
でも今の勇と茶奈にもう躊躇いは無い。
例えどんなに攻撃が激しくとも、全てを躱し防いでみせるという意志がある。
故に、もはや自由自在だった。
まるで稲妻の如き鋭角軌道を見せつける程に。
隙間無いと言わんばかりの崩力球の中を、だ。
切り裂いて道を造り。
僅かな隙間さえも刳り抜けて。
その中刻まれた稲妻軌跡がアルトラン・アネメンシーへと一気に突き抜けていく。
あの崩力領域さえも瞬時にして抜けて。
『だがあッ!!』
しかしそれでも斬撃が届かない。
巨体が急激に旋回し、大きく避けた事によって。
それでも今一歩届かないのだ。
ドガガアッ!!
それどころか反撃の巨拳が二つ、勇達へと振り下ろされる事に。
たちまち衝撃が打ち当たり、一閃軌道が不本意に折れ曲がる。
ただこれは勇達にも通用していない。
【創世甲】による天力領域の極み―――【流天哮壁】が全てを受け流したのだ。
これは万物を受け流す【命流滑】の応用技術。
【崩力】を一身に受け、盾外縁へと拡散放出する専用対抗術である。
剣聖が見せつけた【創世拳】無効化を応用したものだ。
だからこそ、軌道は崩れても再び空へと舞い上がれられる。
それどころか寸後には再び鋭角軌道による接近までしてみせるという。
勇達もアルトラン・アネメンシーも互いに譲らない。
激しい攻防を繰り返し、空を突き抜け暴風さえも巻き上げて。
その末にはもう一つの島上空にまで辿り着き、またしても地表を削っていく。
勇達が加速するだけで岩塊が打ち上がり。
崩力球が炸裂するだけで削られ吹き飛ぶ。
余りの攻防であるが故に、一帯全域へ地震さえもたらそう。
海が震える。
雲が引き裂かれる。
大地も海床さえも割り砕きながら。
決して見た目だけでは測れない程の力が迸っている。
それだけの天力が【崩力】が事ある度に世界そのものを打っているからこそ。
しかもその攻防はなお激しさを増す一方だ。
戦いに更なる変化をもたらす程に。
『単調な攻撃に飽きたかあッ!? ならこれならどうだ? あの目障りな女の力をそのままそっくり返してやろうッ!!』
お陰で崩力球だけだった攻撃にもとうとう変化が。
突如として黒の光筋が空を突き抜けたのだ。
瀬玲が見せつけた一閃の如く、超高速で。
超高圧縮光線―――崩烈閃である。
それも【創世弦】の一発に勝るとも劣らない威力の。
なんとそれが幾つも。
掲げた二本の手指から撃ち放って見せていたのだ。
その数なんと十筋、更に勇達を囲う様に放たれていて。
「うおおーーーッ!?」
「くううーーーッ!!」
これはまるでデュランの【十三烈神光破斬】だ。
逃げ場を削りながら周囲より迫る様相はまさに。
しかもそのいずれもが直撃すれば即死は免れない。
それどころか一瞬にして蒸発してしまうだろう。
全てが絶対に喰らってはいけない一撃だ。
しかし、だからこそ回避手段は知り得ていよう。
閃光束が走る中、筒を抜ける様にして加速して。
その中で燐光を打ち放ち、その姿を大気へ消す。
天力転送だ。
一心同体の今なら、茶奈と一緒であろうと負担は変わらない。
故に今、勇達はアルトラン・アネメンシーへと突っ込んでいた。
崩力閃の領域外より一直線と、自慢の加速と共に。
「それでも俺達は乗り越えてみせるッ!! 今までに経験してきた全てを力に換えてッ!!」
『ハ ハ ハ!! 一瞬を生きただけなお前達の経験など、虫けらの記憶と大差無いッ!!』
故に相打つ。
互いに急速接近する中で。
剣を拳を振り上げながら。
『―――ならばこんな経験は有ったか?』
しかしそれは所詮、フリにしか過ぎなかった。
邪神という存在が醜悪に巧妙であるが故の。
なんと直後、一筋の閃光が勇達の背後より貫いたのだ。
―――ギュオンッッッ!!!
何もかもをも貫くが故に、事さえも一瞬だった。
咄嗟に気付いても、全てを躱すには無理があった。
突如として、崩烈閃が勇達の片翼を撃ち抜いたのである。
その威力故に片翼が丸ごと弾け飛ぶ。
翼を形成していた補助パーツごと。
転移した崩烈閃が貫いたのだ。
勇と瀬玲の合わせ技だった転移式追跡光線砲の如く。
天力と同位である崩力体だからこそ成し得たのだろう。
「「うあああーーーッッ!!?」」
たちまち推力を失い、勇達の軌道が地上へ傾いていく。
それも天地の区別も付かないきりもみ状態で。
そしてその瞬間をアルトラン・アネメンシーは見逃さない。
『今こそ滅せよ!! その愚かな行いに恥じたまま我が糧となる為にッ!!』
そんな勇達に崩力球が打ち放たれる。
容赦なく何発も。
逃がすつもりなど無い。
何一つ加減するつもりさえ。
煩わしい存在を滅するまでは。
その破壊の意志たるままに迫り行く。
自由の効かない勇達へと―――
「へっ、だったらテメーにも経験はねぇよなぁ!! こういう展開はよぉーーーッ!!」
だがこの時、勇達と崩力球の間には人影が立っていた。
獄炎を、爆炎を滾らせた一人の男の姿が。
園部心輝、その魂に秘めし想いが迸るままに。