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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~救いの代償、そして挫けぬ心~

「―――でも、何か、しなきゃ……!!」


 それは心輝と瀬玲が無力に打ちひしがれていた時だった。

 こんな声が聴こえ、全員が足元に振り向いてみれば。


 なんと茶奈が寝返り起き上がろうとしているという。

 それも震えながらも使命感に駆られるままに。


 いつから話を聞いていたのだろうか。

 そもそもいつから目を覚ましていたのか。


 とはいえ事情を説明する必要はもう無さそうだ。

 恐らく、乗っ取られてからの事は邪神を通して知っているのだろう。

 だからこそ既に戦意も見せ、背中の魔剣に光を灯そうとしている。


 でも肝心の身体がボロボロで。

 救う為とはいえ、勇達に叩かれ続けたから相当に痛いはず。

 起き上がろうとしても「うぅ~!」と唸るだけで、四つん這いから動けないくらいに。


「茶奈!? 無理しちゃダメよ!!」


「無理、じゃないです、勇さん、待ってる、です……!」


 しかも口調もどこか変だ。

 今までの様に流暢と話せず、何だか片言で。

 確かに呼吸も荒いが、それだけではとても説明が付かない。

 それどころか突如として手先が崩れ、再び肩がドチャリと地を突く事に。


 そんな状況に茶奈自身もどこか不可解さを隠せなくて。


「~~~ッ!?」


『いいえ茶奈さん、それは本当の無理なのです。 いいですか、よく聞いてください。 今の貴女の首上と手の先にはもう命力が通っていません。 厳密に言えば繋がりを断ち切っただけですが。 でもその所為で該当部における命力使用は出来ず、命力機動も意思発声も出来ないのです』


「「「えっ!?」」」


 ただ、その原因はどうやら疲労やダメージなどではないらしい。

 茶奈を救う上でどうしても必要となる代償だったのだ。


 確かに、勇は茶奈と邪神との繋がりを断てた。

 ただし茶奈の命力の流れを断ち切る事で。

 これは一歩間違えれば死に繋がりかねない行為である。

 だからこそ可能性が薄かったのだ。


 そんな中でも幸い、上手く断ち切る事には成功して。

 でもその上で後遺症だけは避ける事が出来ないから。 


 結果、茶奈は()()()()()()()

 命力を得る前の喋り方に。

 上手い語り方さえわからない、本来の肉声に。


 ずっと命力の会話を使っていたから誰も気付かなかったのだろう。

 普通に話せる事が当たり前で、それを出来ていたと思っていたから。

 だから本人も知らぬまま依存し、本当の話し方を学ぶ事無く今までを生きて来て。


 そして断ち切られたからこそ気付いてしまった。

 自分の醜いと思っていた喋り方に。

 多くの者達から嫌われた吃音に。


 しかもより一層酷くなっていたという事実も加えて。


「あ、あ、うぅ~~~ッ!!」


「茶奈……」


『残念ですが、これは防ぎようがありませんでした。 茶奈さんを救う上で背負わなければならない代償だったのです……』


 しかもこの声だけは受け手側が天力・命力を持っていても変換されない。

 茶奈の声に一切の命力が乗っていないからだ。

 よってこの声はもはや島打つ波音とも変わらないという。

 相手側の命力がそう認識してしまうが故に。


 この事実をア・リーヴェさえも知っているなら、勇もきっと知っているのだろう。

 決戦の末に茶奈が何かを失う事になると。


 だが勇はそれでも茶奈を救いたかった。

 命こそ救えれば、喋り方なんて後で幾らでも矯正出来るから。


 例え全てがやり直しとなろうとも。

 例え他の皆が嫌いになろうとも。

 今からは苦しくても、いつかはどうにでも出来るのだと。


 だから斬ったのだ。

 この戦いが終わった後、一緒に苦難を乗り越えるつもりで。

 いつか必ず何の不自由も無い、穏やかな生活を送れる様にと。


『でも勇を悪く思わないであげてください。 これは彼なりに思った事で―――』

「わかって、ます! 勇さん、そんなしないって……!」


 そして茶奈も、そんな勇を心から信じている。

 勇は決して陥れるつもりなど無いのだと。

 今こうして生きている事が何よりもの愛の形なのだと。


 故に茶奈は諦めない。

 勇が言った通りの頑固ささえ見せつけて。

 

 例え手に力が入らなくとも関係無い。

 なら泥だらけになろうとも肘を立てて強引に体を起こすだけだ。

 それを心輝と瀬玲が支え、どうにかして立ち上がる。

 事実を前にしてもなお挫ける事無く。


 更には景色の彼方、勇と邪神の舞う戦場へと視線を向けていて。


「私は、出来る事、します。 後悔して、したくない、から!」


「ちゃ、茶奈ッ!?」


 その間も無く、光がその場に迸る。

 再びその背に薄紅の翼が形成されたのだ。

 それも先の戦いのとは違う、いつもの優しく淡い色合いで。


ババウッ!!


 たちまちその翼が推力を与え、止める間も無く景色の先へ。

 余りの強引さに心輝も瀬玲も唖然とするばかりだ。


「全く、あの子は……」


「ホント、こういうトコばっか似てるよなぁ。 頑固なのはお互い様かっての」


「フフッ、確かに。 勇もここぞって時は相当頑固だからねぇ」


 こうなった手前、もう二人もただ笑うしかない。

 勇と茶奈の頑固さと言ったら折り紙付きだと知っているからこそ。


 だったらこのまま何もかも薙ぎ倒して行ってしまいそう。

 事実も現実も口実も、纏めて倒されてレーンに消えてしまいそうなのだと。


『もしかしたら二人には言葉さえ要らないのかもしれませんね。 なまじ天力や命力という概念があるからこそ忘れがちな、とても大事な事なのだと思います』


「心が通じ合う、かぁ……羨まし。 私もそんな恋愛してみたかったなぁ」


「へっ、柄でもねーな―――オグッ!?」


 理由なんて要らない。

 ただそうしたいからそうする。

 相手がそう求めていると信じているから。


 きっとここまでの関係を築ける者はそう多くも無いだろう。

 大概が自己満足だったり、先走りだったり。

 いや、もしかしたら勇と茶奈もその類なのかもしれないけれど。


 でもきっとそれでいいのだ。

 それでも二人は許し合えるし、行為そのものも愛せる。

 だから通じ合っている様に見えるのだろう。


 心なんて探らなくてもいい。

 機嫌取りなんてしなくてもいい。

 思うがままに行動するだけで互いに認め合えるから。

 

「みぞおちは止めとけ、ンゴゴ……!!」


「センチな想いをこねくり回した罪は重い」


 ただこれは愛ではなく理解だ。

 なら例え愛し合う者同士でなくとも同様に出来るはず。


 互いに認め合った者なら誰でも。


 それを心輝も瀬玲も頭では理解していないかもしれない。

 けれど思う所があるから、茶奈の去った彼方を見つめて想いを馳せる。

 茶奈が何を思って行ったのか、何をするつもりで飛んだのか。


 同様に、自分達にも出来る事は何か無いのかと。


「さ、さてと。 じゃあ俺達も行くかぁ。 このままじゃ締まりも付かねー」


『ほ、本気ですか!? 一体何をなさるつもりなのですかあ!?』


「何って別段、特に案は無いよ。 ま、何とかなるんじゃん? 邪神ちゃんに命力ぶつけなきゃいいだけでしょ」


『それはそうですがぁ……』


 満身創痍だろうが、武装が無かろうが関係は無い。

 役割を探すのは戦いながらでいい。

 この戦いに導いてくれた仲間達の分までやれる事をやるだけなのだと。




 こうして決意の下、心輝もが空をゆるりと行く。

 瀬玲とア・リーヴェをぶら下げ、グラグラと揺れながらも。

 少しでも決戦での役に立つ為に。


 この二人もまた、こうなったらもう止まらないから。




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