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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~今こそ巫女よ、この手に帰れ~

 今この時、アルトラン・アネメンシーは焦っていた。

 未だ衰えぬ気迫を見せる勇達を前にして。


―――何故だ!? 本来ならば奴等など軽く蹴散らせたハズ……!!―――


 本当ならもう戦いは終わっていたはずだった。

 三人纏めて叩き伏せ、絶望に落として。

 その上で世界に力を見せつけ、滅びの序曲とするはずだった。


 でも今はそれどころか抗ってきている。

 しかも、あろう事か三人それぞれが自身に匹敵する程の力を見せて。

 勇はともかく、心輝と瀬玲の飛躍ぶりは到底説明が付かない。


 二人もが天力に目覚めたのか?

 いや、人間としての力のまま抗って見せている。

 星の化身とも言える存在相手に怯む事も無く。


 だからこそわからない。

 その力の根源がどこにあるのか。

 何故、星力を前にしても()()()()出来るのかと。


「何故だ!? 何故そコまでしテ抗う!? 苦痛を望んダのハお前達のハズだッ!!」


「いいや違うぞアルトラン・アネメンシー!! そんな事など誰一人望んじゃいないッ!!」


 その疑念が邪神の本心をも声として曝け出す。

 三人の猛追を前にその身を退かせながら。


 先陣を切ったのは勇の無間攻撃。

 茶奈の逃げ道を塞ぐ連続拳撃だ。


 例え防がれようと躱されようと関係無い。

 手痛い反撃が無いからこそ、逆に打ちこまれようとも耐えきれる。

 だからこそ遠慮無しだ。

 魔剣が無いだけでこれだけ変わるのかと思える程に。

 距離・速度に縛られない勇だからこそ出来る()()()として。


 そう、足止めである。

 勇は今、敢えて援護に回っている。


 続き来る心輝と瀬玲に攻めの全てを託して。


「シャラァァァーーーッッ!!!」

「こンのぉぉぉッッ!!!」


 烈火の右閃拳が唸る。

 蒼燐の左螺拳が迸る。

 まるで一拳の如き、甲合わせの双撃として。


 この一撃に寸分の狂い無し。

 たちまち生まれた威力は、茶奈を彼方へ弾き飛ばせる程に強烈。


 しかしこの程度では終わらない、終わらせない。


 瀬玲が途端、振り切った左拳を引き込む。

 すると途端、茶奈の身体へ急激な制動が加わる事に。


 命力糸だ。

 今の一瞬で茶奈に括り付けていたのである。


 その様相を例えるなら、まるでヨーヨー。

 糸の引張力を利用し、茶奈を逃がそうとはしない。

 それどころか、己の推力にさえ変えてみせるという。


 なれば、撃ち込まれた右拳は先の一撃さえも凌駕しよう。


ガッゴォォォ!!!


 故に、打たれた茶奈の顔が跳ね上がる。

 苦悶の表情を浮かべたままに。


 ただ、その眼に反撃の意志を覗かせながら。


 直後、瀬玲の背もが曲がり上がっていた。

 反撃の膝蹴りが腹部へと見舞われた事によって。


メキメキィッ!!


 異音が響く。

 軋みが唸る。

 今のが瀬玲の身体を破壊するまでの威力だったからか。


 いや、それは違う。


 なんと瀬玲と茶奈の膝の間には、心輝が居た。

 それも交差した両腕で膝蹴りを受け止めながら。

 両腕甲を犠牲にして瀬玲を守ったのだ。


 鱗片が飛び散る中、茶奈の膝が跳ね返される。

 心輝と瀬玲の眼光が煌めくその中で。


 揃って不敵な笑みを零すままに。




 その直後、茶奈の背中に衝撃が走る。

 なんと勇が上翼二枚の根を握り潰し、引き千切っていたのである。




「人は苦痛を乗り越えて生まれる可能性に賭けたんだッ!!」


 翼の破壊が有効かと言われたら答えはNO。

 命力体にしか過ぎず、直ぐに復元出来るからこそ。


 だがその行為そのものが邪神の心に揺らぎを与えた。


 恐怖したのだ。

 生まれたばかりと侮った勇と、肉と罵った心輝と瀬玲の猛攻に。

 想像の絶する抵抗を見せつけられた事に対して。


「そうして積み重ねて、発展を続けて、更に挑戦し続けたッ!! そのお陰で人は強くなれた!! 戦争も、殺し合いも乗り越えてッ!!」


 幾ら天士と言えど、超濃度の命力を引き千切るなど不可能。

 幾ら極人と言えど、これ程の攻防に耐えきるなど不可能。

 それら全ての認識がエラーを起こした今、冷静でなどいられる訳がない。

 

 だからこそこの時、茶奈は逃げていた。

 即座に翼を戻し、空高く舞い上がって。




「オイオイ、逃げるラスボスなんて聞いた事ねぇなあッ!!!」




 しかし逃げられる訳が無い。 

 逃がすはずが無い。


 直後、茶奈の腹部に衝撃が走る事となる。

 瞬時にして空上から現れた心輝の一撃により。


 勇の他者転送が心輝の無間攻撃(プロセスアウト)をも可能とさせたのだ。


 もしこれが冷静な茶奈相手ならば、きっと反撃されて無為に消えていただろう。

 でも焦りと恐怖の覗く今ならば転送追跡(トレース)する程の意識が向かない。


 つまり今、勇達の意地が邪神の本能を凌駕したのだ。

 何にも負けない胆力を見せつける事によって。


「アリエナイッ!! お前達はアリエナイ存在だあああッッッ!!!!」


 その現実が茶奈に更なる激昂をもたらす事ともなったが。

 真っ黒な翼の様相を刺々しく変えてしまう程の怒りを。


 そんな四翼がまたしても拡げられる。

 力の限りに、怒りの限りに。

 何者をも弾き飛ばさんとする重圧を辺りへ撒き散らしながら。

 

 そう、弾き飛ばす―――はずだったのに。


 だが勇達はなんとそれさえも凌ぎきっていた。

 【剛命功(デオム)】が、身体を大気に固定して。

 【命流滑(トーマ)】が、重圧を強引に切り裂き、打ち抜き。

 【命踏身(ナルテパ)】が、更にはその反力さえも推力と化す。


 もう完全に見切っていたのだ。

 所詮はただの空圧攻撃にしか過ぎないのだと。

 どれだけ強大な力を見せようと、物理現象の枠を出ないのだと。


 故に心輝が湾曲残光を描き、瀬玲が糸を手繰り寄せる。

 全ての障害を乗り越え、拳に力を籠めたままに。


 そうして打ち放たれしは両肩を貫く双一閃。

 共に【翼燐エフタリオン】の肩パーツを破砕する程の一撃だった。


「ぐぅぅうッ!!?」


 銀の破片が瞬きながら舞い散っていく。

 苦悶を浮かべるその中で。

 またしても予想を越えた一撃に戸惑いさえも滲ませて。


 それだけでなく、たちまち抗えない程の衝撃が身体を襲う事に。

 苦悶がハッキリと見えるまでに胸を押し上げさせる程の。


 しかしここまでは所詮、仕込みに過ぎない。

 隠れた僅かな可能性を引き出す為の。


 全ては、勇へとその機会(きぼう)を託さんと。


「俺達は、お前の知るヒト()とは違う―――」


 そして満を持して託された。

 勇の右手に迸る虹光へと。


 愛する者を救えと願うままに。




「今この時も未来を創ろうと願う、(人間と魔者)なんだあーーーーーーッッッ!!!!!」




 今、虹光一閃が茶奈の胸元を輝き打つ。

 想いと、願いと、希望を受けたその拳が。

 その身を貫かんばかりの閃光をも撒き散らしながら。

 

「グぅアああーーーーーーッッ!!?」


 更には空高く身を打ち上げさせて。

 あれ程の力を見せていた崩力領域までもが歪んで震える。

 今の一撃にはそう成すだけの希望が籠められていたからこそ。


 ただ、今の一撃には言う程の威力は無かった。

 打ち上げるだけで致命傷には至っていない。

 それどころか空で自由さえも与えていて。


「何故ダ、何故お前達ハ―――」

「ここまで言われてまだ気付かないのか? 俺達が強くなったんじゃなく、お前が弱くなったんだって事に!!」

「―――ッ!?」


 でもその空を舞う姿は今までに無いほど不安定だ。

 まるで風に煽られるがままの木の葉の様に。


 そう、もはや茶奈には自分で飛翔する程の力が無い。

 明らかに弱まっているのだ。


「茶奈を喰ったと言うのなら知っているハズだ。 俺達は絶対に諦めないと。 でもお前はそれを想定外と思っているんだろ? それはすなわち、お前が茶奈をまだ喰えていないという事に他ならない」


「ウウッ!?」


「それに、彼女は誰よりも未来を望んでいる。 不幸だった過去を忘れず受け止めて、その上で塗り潰そうとするくらいにな」


 それは決して茶奈の身体が弱まっているからではない。

 魔剣を失ったからでも無ければ、邪神が弱くなった訳でも無い。


 勇達の一撃一撃を受ける度に、茶奈自身が目覚めているのだ。

 力を司る星力制御を取り戻し始める程に。


 そして今、最後のキッカケを胸へと撃ち込んだ。

 三人の希望を籠めた()()を。


「茶奈はさ、頑固なんだよ。 一度決めたら折れないくらいに。 俺なんかよりもずっと強いくらいにな。 そんな彼女が心を知らないお前なんかに喰われる訳が無い。 なんせ俺達がここまで戦えてるんだ、なら茶奈だって今でも戦ってる! 俺はそう信じているッ!!」


 故に手を伸ばそう。

 いつか茶奈の手を取ったその右手を。


 なお胸に輝く道標へと向けて。

 掌を返し、力の限りに反った指腹を掲げて見せて。


 後はただ想い迸るままに。






「だから帰ってこいッ!! 茶奈ァァァーーーーーーッッッ!!!!!」






 その叫びが、訴えがキッカケだった。

 直後、茶奈の漆黒翼が突如として縮み始めたのだ。

 まるで空気が抜けた風船の如く。


「ナッ、ナンダトッ!?」


 遂には鳥翼の様相がまるで蝙蝠の翼膜の様に薄くなり始めていて。

 大きささえも維持出来ないままに。


 しかもそれどころか空を浮く事さえままならない。

 とうとう自重に負け、命力翼の方がへし折れるという。

 するとたちまち茶奈の身体が地上へと真っ逆さまで落ち始める事に。


 それも困惑の表情を隠せぬまま。


「今だあああーーーーーーッッ!!!」


 この一瞬こそが勇の狙いだった。

 星力の制御を失った瞬間こそ、邪神が無防備になる時なのだと。


 故に今こそ解き放つ。

 その翳した右手に虹光を灯して。

 力の限りに引き絞りながら。


 今こそ、閃緑光に包まれた一振りを握り締めよう。


「行くぞ茶奈……今、君を救うッ!!」


「だ、だガッ!! 天力が効カぬとイウ事に変ワリは無―――ッ!?」


 もう迷いなど無かった。

 この一太刀こそが茶奈を救えるのだと。

 この時の為にずっと秘めていたのだと。


 友が繋いでくれた道程を。

 友が託してくれた希望を。


 そして、友が遺してくれた可能性を今こそ奮う。


「ウゥオオオオーーーーーーッッッ!!!」

「ク、クルナァァァアーーーーーーッッッ!!?」


 全ては、この一瞬に賭して。




 若葉の輝きに希望を乗せて。

 今こそ交わした誓いを果たそう。

 果てしない道を経て、愛せし者を救う力となる為に。




キュウィィィーーーーーーーーーンッッッ!!!!




 この時、虹光一閃が世界を切り裂いた。


 咄嗟に覆ったその両手ごと、茶奈の胸元を貫いて。

 狙い寸分も狂う事無く。




 勇の想い迸る斬撃が遂に茶奈を捉えたのである。




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