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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~引き千切れ、死の可能性など~

 遂に勇達へと転機が訪れた。

 茶奈の魔剣破壊を成功させた事によって。


 こうなればもう炎弾などの砲撃は実現不可能だ。

 加えて邪魔だった星達も制御を失い地に堕ちる。

 事実上の戦力半減である。


 もちろん勇達も満身創痍にである事に変わりはない。

 勇の使っていた魔剣【エベルミナク】は刀身を削られた事で死んで。

 心輝の魔剣【灼雷宝鱗甲ラークァイト】は利き手拳部が砕けた。

 瀬玲の魔剣【虹閃奏弓ペルパリューゼ】も砕け散り、武装はもう無い。

 おまけに誰しも傷だらけで消耗も著しいという。


 ただそれでも、作戦成功による気力の充実は大きい。

 心輝や瀬玲の消耗を賄える程に。


 何より進展が目に見えてわかる。

 たかが武器でも、こうして派手に砕ければ期待も生まれよう。

 全人類が見ていたからこそ影響は計り知れない。


「ああ、アあ……ッ!! お前達、よクも、よくモォォォーーー!!!」


 そしてこの結果はアルトラン・アネメンシーにとって大きな想定外だ。

 何故なら―――理論上、魔剣を砕く事など本来は不可能だったのだから。


 邪神制御下の星力ならば、魔剣を限り無く不壊とさせるはずだった。

 例え最高硬度の素材を使わなくとも。

 強制的に分子結合を極限化してしまうからだ。

 おまけに自己修復機能も伴うからこそ、外力が耐久を超える事は無いのだと。

 

 だが勇達の力はその理論さえもを覆した。


 これは茶奈にも無かった情報だ。

 勇達の力がここまで強大であるなどとは。


 故に今、激昂している。

 それは決して魔剣を破壊された事に腹を立てているのではない。


 勇達に自知識を凌駕された事が何よりも許せなかったのだ。

 

「許さぬッ!! 魂ごト磨り潰してやルッ!! 星の力を全テ使い切ろウともォ!!」


「やれるもんならやってみやがれェーーーッ!!」


 魔剣を砕く程の一撃を経てもなお、心輝の気迫は途切れない。

 裂光拳の勢いのまま、追撃の右拳を二発三発と撃ち込んでいく。


ドガガガッ!!!


 その威力は先程までとは格がまるで違う。

 幾ら星力を解放した茶奈とて見過ごせない程に。

 心輝の命力がなお高まり続けている証拠だ。


 だからこそ勢いに押され、再び二人の軌跡が空へと刻まれる事に。


「セリッ!! お前は暫く休んでるんだ、俺とシンで何とかする!!」


 一方の地上では、勇と瀬玲が合流を果たしていた。

 心輝が攻勢に出てる今だからこそ。


 当然心輝自身も二人に気付いている。

 気付いた上で一人で引き付けているのだ。

 少しでも時間を稼ぎ、勇に決定的なチャンスを届けようと。


 自分の力が茶奈に届かない事などわかりきっている。

 それでも今の勢いなら一人ででも押せるだろう。

 なら全てを出し切るまで突っ走ってみせる。

 その命尽き果てるまで。


 これこそが心輝の今抱く覚悟であるが故に。


「冗談ッ!! ここまで来て大人しく出来る訳が無いッ!!」


 だからこそ瀬玲も引こうとはしない。

 心輝の意志を誰よりも理解しているからこそ。

 伊達に小さな頃からずっと一緒だった訳ではない。


「……わかった。 ならとことん付き合ってもらうッ!!」


「おっけぇ……!!」


 正直な所、瀬玲の状態は三人の中で最も酷い。

 魔装はほぼほぼ燃え尽き、インナーさえ露出していて。

 その上で至る箇所から血が流れ、全身を赤黒く染め上げている。

 きっと内臓や骨格にも相当な負荷が掛かっている事だろう。

 炎弾や爆発、光球をもろに受け続けた影響で。


 明らかに立っているのが不思議なくらいの重傷だ。

 おまけに魔剣も無いのだから戦力的には乏しい。


 でも戦意だけは一切衰えが無い。

 この戦いへの意欲だけは昔からずっと変わらないから。


 故に今、己の命力を駆け巡らせる。

 秘術によって身体を強制的に活性化させる為に。

 今一度だけ戦いに参加するだけの力を得ようと。


「で、勝てる算段は?」


「ある。 答えはもう―――()()()()()!」


「へぇ……! んじゃ、繋げてあげるよ。 その答えまでの道程をさ」

 

 加えて、勇の一言が勇気をも与えてくれた。

 纏う命力に揺さぶりをも与える程に。


 突如、表皮で波打つ命力に変化が訪れる。

 細い糸状へと分かれる様にして伸びたのだ。

 しかも直後、まるで自分自身を縛る様に巻き付いていくという。


ギュギュムッ!!


 そうして引き絞られれば、たちまち蒼光の外装が生まれる事に。

 なんと【疑似命鎧装(アレムグランダ)】を自らの命力だけで再現したのである。

 その模倣技術に、もはや際限など有りはしない。


「その代わり、埋め合わせはよろしくね。 アメリカ戦の分と、デュラン戦の分とー」


「待て待て、そこまで積んだらどうやって返せばいいかわからないんだが?」


 でもその途端に始まったのは、なんて事の無い普通の会話で。

 瞬く空を二人して見上げながらも普段の笑顔がついつい零れる。

 そんな場違いな緩い雰囲気が確かにあったのだ。


 まるで、二人だけが別の空間に居る様な。


「そんな深く考えなくてもいいよ。 じゃあさ、これが終わったらデート、しよっか」


「は!? ちょ、何でそうなるんだよ!?」


「だから深く考えないでって。 普通に買い物行ってさ、映画観て、ご飯食べて話して。 誰かとゆっくりそんな事がしたい、ただそれだけだからさ」


「ま、まぁそれくらいならいいけどさ」


 きっとこれが瀬玲にとっての一種のリラックスの仕方なのだろう。

 思い詰めるよりも、心輝の様に熱くなるのでもなく。

 ただただ自分らしく、それでいて望むままに。


 だったらこうして一つでも楽しみを作ってもいいだろう。

 その為に突っ走るくらい、許されてもいい。


 例えそれが不純なお楽しみなのだとしても。


「……なんかその約束、シンが『死亡フラグだ~』なんて騒ぎそうだよな」


「ふふっ、言えてる。 ま、私はそんなの軽く引き千切ってやるけどね」


 たったそれだけで明日を生きられるのなら安いものだ。

 そもそも死ぬつもりなど毛頭ないからこそ。


 ならば死の可能性(フラグ)など千切ってみせよう。

 それも片っ端から跡形も無く。

 そう出来る知恵が彼女にはあるのだから。


「なら折角だ、全員の死亡フラグって奴を纏めて引き千切りに行くぞ。 準備はいいな?」


「上等じゃん。 おっけ、おまけでミス邪神ちゃんにそのフラグ擦り付けてやるわ」


 そんな決意と覚悟が出来たから頷きで返す。

 この後に待つ死線を潜り抜ける為に。


 もう振り返りはしない。

 かつて格好つけるだけだった自分は居ないから。

 例え泥塗れ血塗れとなろうとも生きる為に戦おう。

 

 来たるべき明日にて、仲間達と共に平穏を享受する為にも。




 こうして今、二人もが跳ぶ。

 心輝と茶奈が繰り広げる激闘の最中へと。


 戦いの大詰めを迎えたからこそ、三人で空を翔ける時が来たのだ。




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