~猛攻、その真なる目的は~
島が業炎に包まれた。
直径二キロメートルにも及ぶ島全体が、だ。
それも空を巻き込まんばかりに黒煙を膨らませて。
その更に上空では巨大な赤翼を拡げた茶奈の姿が。
なお周囲に舞う四星達から炎を放ちながら。
「燃えろ! 燃エろッ!! 魂素ノ欠片も残さず焼き尽くサレてしまえッ!! アッヒハハ!!!」
太陽光さえ遮らんばかりに赤々と燃え、見下ろす茶奈の顔をも影に堕とす。
その中で歪に笑う様相は、今までの演技とはまるで違う。
まさしく悪魔だ。
曝け出された邪神の本性だ。
根底が捻り狂った逸人の、世界に負を擦り込む怪声だったのだ。
何者をも焼き尽くさんばかりの業炎黒煙を前に、その怪声が響き渡る。
未だ絶えぬ爆裂音さえ裂かんまでに甲高く。
しかしそんな茶奈が咄嗟に気付く。
炎の中に一瞬、ごく小さな光が瞬いた事に。
―――それが始まりだった。
突如、光が業炎を刳り貫いて飛び出したのだ。
虹色の、極々細い糸の様な閃光筋が。
それも一直線に茶奈へと向けて。
キュオオオーーーンッッ!!!
この光はまるで【創世弦】の光矢そのもの。
何者をも瞬時に貫く無限裂光だ。
その輝きの元を辿った先に見えたのは―――なんと瀬玲。
この爆炎の中でも生きていたのである。
勇の【極天陣】に守られて。
しかもその才能が【創世の鍵】の一撃さえも模倣する。
魔剣の砲身が白熱融解する程の超高出力砲として。
ただその一撃は高出力であるが故に直線的。
素早い茶奈を捉えるのは不可能に近い。
だがそれでも撃ち放った。
それは当てられる可能性を秘めていたからだ。
茶奈が翼を扇ぎ、空を跳ねていく。
するとその途端、光線筋が驚くべき軌跡を見せつける事に。
突如として途切れ、何も無いあらぬ方角から飛び出したのだ。
それも逃げる茶奈を追う様に幾度と無く。
たちまち乱立軌跡群が後へと刻まれる事に。
それも瞬時に、茶奈もが鋭角残光を残す中で。
その正体は勇の天力転送。
遠隔転送で高出力砲の軌道を強引に変更したという。
【崩力】の感知外、かつ最短距離からの全域攻撃を再現したのだ。
すなわち、転移式追跡光線砲である。
その様相はまるで光網の如し。
もはや人一人を通す隙間が無い程に細かく、そして破壊的だ。
偶然か必然か、巻き込んだ魔剣星一つを貫き消し飛ばす程に。
「小賢シいッ!! ならばお前達ごと消し去るまで―――」
しかし勢いは止まらない。
空へと舞い上がる茶奈へと向け、流星一つが降り注いだ事によって。
なんと心輝が落ちて来たのだ。
魔剣を赤熱発火させる程の勢いで。
これも勇の仕込んだ事である。
島爆発直後に心輝を成層圏スレスレまで運び、落とした事によって。
加えて当人の爆発力も加われば、その速度はまさに流星の如し。
空気を裂き、音をも穿つ。
烈火の煌鋼拳が何者をも打ち砕かんとして。
ドッギャァァァーーーンッ!!!
それが容赦なく茶奈を打つ。
杖柄で防がれようとも構う事無く。
爆炎の中へと押し込まんばかりに叩き付けて。
その左拳は主彗星。
ならば右拳は続く連星群となろう。
拳は止まらない。
左拳を押し付けたまま、右拳を何度も何度も。
それも茶奈自身ではなく突き出された杖へと執拗に。
「短絡的なあッ!! そノ程度で私が突破出来ルとでモ思ったかッ!!」
茶奈はそれでも凌ぎ切って見せる。
その見境無い連撃を弾き、黒煙をも避ける事で。
しかも超高速で空へと舞い上がり、大翼を拡げていて。
「圧倒的な力差を理解出来ヌ肉共が!! 潰れテ滅しろおッ!!」
強大な羽ばたきによる超重圧を心輝へと叩き込む。
地球の重力を遥かに超えた、何者をも潰しかねない圧力だ。
だがその瞬間、なんと勇が心輝の目前に。
それもプロセスアウトによる【創世剣】の一撃を繰り出すまま。
歪み揺れる空間をも断ち切って。
なんと重圧が、切れた。
真っ二つに、まるで二人を避ける様に。
理をも断つ【創世の鍵】の力ならばそれさえ可能としよう。
その隙を縫って、心輝が再び飛び出す。
勇の切り拓いた道を抜け、茶奈へと一直線に。
その機動力、もはや限界を超えて。
感情が爆発する。
想いが燃え盛る。
茶奈にさえも追い付ける程の力をもたらす程に。
するとたちまち空に二つの鋭角軌跡が長々と刻まれる事に。
燐炎が、破光が、幾度と無く迸る中で。
空さえも狭いと思わせる程の縦横無尽と。
しかもその中へと高出力砲が再び放たれる。
当然、転移式追跡光線砲として。
なれば二つだった軌跡が遂には三つに。
こうなるともう留まる事など無い。
瞬時にして全てが遥か空の彼方へと抜け、またしても残光軌跡を描く事に。
まるで流星群が空を自由に飛び回っているかの様だ。
「肉が皮肉ってならよォ!! 牛も豚も鶏肉でも、旨ぇから誉め言葉になるんだぜえッ!!」
「執拗い煩い鬱陶しいッ!! 性懲りもナい屑肉どもガあッ!!」
その中で茶奈が杖を振り回し、心輝を強引に軌道より叩き出して。
更には杖先に光を灯し、なお燃える大地へと向けて解き放つ。
【光環珠】だ。
アメリカ戦で見せた、核弾頭をも飲み込むという超圧縮光球である。
そんな命力包球が到達すれば―――地表が今度は光に包まれる事に。
「うあああーーーーーーッッ!!!」
その下では、瀬玲が必死に光球を受け止めていて。
地表が割れ崩れる。
辺り一帯を押し潰して。
岩が砂が消し飛びながら。
何者をも光の真白に覆い尽くす中で。
ビギギッ!!
その圧力が、濃度が遂に魔剣の強度さえも凌駕する。
【ペルパリューゼ】の筐体に無数の亀裂が走ったのだ。
高出力砲の負荷に加え、【光環珠】の命力吸収に耐えきれなかったらしい。
「耐えて【ペルパリューゼ】ッ!! 今一度だけえッ!!」
命力珠が融解し、筐体が破片を舞わせる。
しかしそれでも瀬玲の強い想いに応え、四つの砲身がまた光を飲み込んだ。
それが渦巻き、捻り、炎と共に飲み込んで。
赤煙と共に収束、瞬光を弾かせたままに空へと向けて輝き迸る。
焼けた大地にそそり立つ、閃光の巨大十字柱として。
その下で瀬玲が魔剣を番え、頭上一直線に解き放つ。
【光環珠】の超エネルギー全てを集約した一撃を。
周囲を抉り尽くす程の衝撃波と共に。
魔剣【ペルパリューゼ】が粉々に砕けようとも構う事無く。
放たれた一撃は今までの何よりも強大かつ巨大。
あの茶奈が首を引かせてしまう程に。
そんな彼女の前に三星が飛び塞がる。
それも光の三角陣を描いて。
光の盾だ。
小さいながらも高濃度の命力盾が形成されたのだ。
命力盾と十字光矢。
この二つの力がたちまち打ち合い、飛雷裂光する事に。
均衡している。
どちらも負けてはいない。
あの【アストラルエネマ】の力を以てしても打ち消せないでいる。
「よクここまでやルッ!!! だがーーーッッッ!!!! 」
ただこれは子星達の力だけを使った結果に過ぎない。
そこに本体の持つ力が加われば―――
ドッバァァァーーーンッ!!!
こうして弾けて散る事となる。
茶奈の杖による一突きが加わった事によって。
魔剣を犠牲にした決死の反撃もこれでは無為に。
だがやはり瀬玲は瀬玲だ。
こうなる事さえも見越していたのだろう。
光が弾ける。
無数の糸を撒き散らしながら。
それも、茶奈を覆い尽くす様にして。
光矢に細工を施していたのだ。
茶奈の動きを止める包縛網となる様に。
ただでは転ばない瀬玲らしい追撃である。
「それは簡単には解けないでしょッ!!」
しかも茶奈の超濃度命力を流用している。
お陰で自身では切れない事も加え、強靭かつ強固。
故に、あの茶奈が捕らえられて間も無く身動きをも止められる事に。
「ぐウううッ!!?」
「くぅおおおーーーーーーッッッ!!!!」
その隙を逃がす訳にはいかない。
そう言わんばかりに背後から勇が現れ、輝く斬撃を力の限りに振り下ろす。
ギャアアアアアンッッ!!!
しかしその時鳴り響いたのは斬れた音でも空音でもない。
金属を擦り削る金鳴音だ。
なんと三星が勇の斬撃を受け止めていた。
縦一列に均等と並び、削岩機の様に回転しながら。
一寸の狂いも無く【エベルミナク】の刃に並んで突き立っていて。
更には驚くべき事までやってのける。
三星が回転するまま、刀身を強引に削り取ったのだ。
深々と抉り、象形飾りさえも砕き炸裂させる程に勢いよく。
「うおおおーーーッ!!?」
「この程度ノ束縛があッ!! 私に何の意味をもたらスというのだあッッ!!!」
しかも勇もが激しく弾かれる事となる。
突如として茶奈から放たれた強圧によって。
茶奈の命力の色が変わっていく。
赤々しかった光が真っ黒に。
命力質転換である。
本来、普通の人間では実現不可能と言える現象だ。
「どれダけの魂を喰らってきたと思ってイるッ!? この肉だケが我が力ではナいッ!!」
これは人ならざる邪神だからこそ出来る。
無数の人々の魂を混ぜ込んだ存在だからこそ。
故に、身に纏う捕縛糸さえ瞬時にして消し飛ぼう。
そうして翼を奮う姿にもはや神々しさは欠片も無い。
まるで闇を抱く邪悪そのものだ。
その性質と合わさり、見紛う事無き邪神を示している。
でもその姿がなんだというのだ。
邪神と戦っていた事実に変わりはない。
だからこそ恐れはない。
怯えも恐怖も不安も取り払った。
全てを巻き込み、全てを力と換えた。
ならば力巻こう。
己と、仲間と、死んでいった者達の想いも推力へと換えて。
燐光が渦巻く。
虹炎が轟く。
青の空をも貫く輝羅烈閃の軌跡が示すままに。
「ブチ貫けェ!! 灼雷咆哮ァーーーーーーッッッ!!!!!」
それは茶奈が捕縛を解いた直後だった。
気付けない程に一瞬の事だった。
たったそれだけの間に心輝が距離を詰めていて。
その中で遂にあの極光烈拳を解き放つ。
全てを穿ち、貫き、焼き尽くす究極拳を。
「ちいいッッ!!?」
その拳に、茶奈の杖先突きが迎え撃つ。
躱せない防げない、そう悟ったからこその応戦として。
ガッキャアアアンッッッ!!!
故に激音が響く。
鼓膜を突く程にけたたましく。
超高硬度の魔剣が打ち合った事によって。
その衝撃は場を包む程の虹燐光を撒き散らすまでに強大。
それでいて大気が吹き飛び、真空圧をももたらしていて。
その中で打ち合った二人が、睨みを交わす。
力の限りに自慢の拳を、杖を突き押して。
ビギギンッ!!
しかしその押し合いも直ぐ均衡が崩れる事に。
【ラークァイト】の左拳に亀裂が走ったのだ。
さすがの高強度を誇ろうとも、このぶつかり合いと威力には耐えきれなかった。
「だから無駄だト言って―――」
「いいやッ!! 無駄なんかじゃねえええーーーーーーッ!!」
でも拳は収まらない。
炎が光が、魂が打ち震える限り。
魂燃ゆる拳は何であろうと貫けぬもの無し。
何故ならば。
今穿ちしは物ではなく、その魂なのだから。
バッギャギィンッ!!!
裂音がまた響く。
それも連鎖的に。
それでいて、先よりもずっと破壊的に。
バッキャァァァーーーーーーンッッッ!!!!
そして遂に砕け散る事となる。
茶奈の杖が。
今まで猛威を奮ってきた魔剣【ユーグリッツァー】が、粉々に。
「なんダと……ッ!!?」
「へっ、へへ……ッ!!」
この結果を前に心輝が小賢しく笑う。
一方の地上でも勇と瀬玲が力拳を握っていて。
そう、三人はこれを狙っていたのだ。
決して茶奈本体では無く、武器である魔剣の破壊をずっと。
だから攻撃を繰り返した。
魔剣を破壊し、攻撃力を削ぐ為に。
体力も命力も削ぐ上で攻撃手段をも奪う事に徹したのである。
そうして今、とうとう実が成った。
勇達の地道な努力が決定的な成果として。
確かに茶奈は無尽蔵の命力を持ち、本体だけでも充分に強い。
だが遠距離砲撃が無ければもう、一撃必殺級の攻撃は皆無となる。
すなわち恐れる要因が激減したという事に他ならない。
ならここからが勇達の真の反撃となろう。
邪神攻略はここより真価を見せる事となるだろう。
人類 対 邪神―――この戦いにようやくの転機が訪れた瞬間だった。