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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~それでも女戦士は奮う~

 勇達がアルトラン・アネメンシーの猛攻に晒されている時。

 日本、相模湖アルクトゥーン係留地では―――


 人々が走る。

 一定の流れを描くままに。

 降機した人員の避難が始まっていたのだ。

 

 彼等の行く先には幾つもの大型観光バスが。

 もう既に多くが乗り込み、中には発進し始める車両も。


 ただ、人々の顔色は誰しもが浮かない。

 やはり勇達の苦戦する姿を見て不安を抱かずにはいられないのだろう。

 例え大丈夫だと信じていても、こればかりは簡単に拭えなさそう。


 でもこの不安を取り除く事もまた勇達の役目だ。


 だからという期待を胸に、強く信じる者達が率先して人々を誘導する。

 グランディーヴァ隊員や親類―――そして大迫ら〝影〟の人員達である

 

 移動車両を輸送してきたのも彼等。

 降機人員の緊急避難の為に急遽訪れたのだ。


 それというのも、鷹峰総理が何よりもまずグランディーヴァ人員の保護を第一としたから。

 勇達と繋がりの強い彼等の希望がより力となると知っているからだ。


 そしてその希望が強い故に、何者を引き寄せるのかにも気付いたからこそ。


「皆さん、誘導に従ってバスへ乗り込んでください! 決してパニックを起こさないよう!」

 

 もう既に半数がバス搭乗を終えている。

 このまま順調に行けば十数分後には全台が出発出来るだろう。


 だが、どうやらそう上手くはいかないらしい。


「でッでで、出たぁ~~~!!」

「うおおッ!? マジかよヤッベ!?」


 すると突如、渡部&前田の叫び声が場に打ち上がる。

 なんと林の向こうから悪魔の様な異形が走り込んで来たのだ。


 そう、邪神の眷属である。


 希望の匂いに釣られてここまでやってきたのだろう。

 まだ一体だけだが、このままだとどれだけ増えるか予想も付かない。

 

 しかも一体一体が並の人間では歯が立たない程に強いという。

 ならば戦闘員でも無い避難人員に襲い掛かれば、惨事は免れない。


 だからこそ大迫達が応戦する。

 それも懐に隠し持っていた拳銃で。


 けど効かない、止まらない。

 口径が小さ過ぎて致命傷に至らないからこそ。

 なまじ相手が強靭だから拳銃程度では通用しない様で。


 そこにグランディーヴァ隊員もが加わっても無駄だ。

 彼等の持つ銃弾は全て対命力弾で、須らく無効化されている。

 どうやら邪神の眷属は命力無効化の能力をも備えているらしい。


「奴等に対命力弾(ソウルバスター)は効きません!! あるならば通常弾の使用を!!」


 その情報を持っていたから大迫も対応出来ているのだろう。

 ただ銃そのものが少ない日本だからこそ、装備も万端とは到底言えない。


 だから出来るのは精々足止めくらいだ。

 逃げる人々の前に立って、その盾になる事しか。


「グルォォオーーーッ!!!」


「ここを通す訳にはいかない!! それが私達に与えられた使命なんだッ!!」


 例え効かなくとも。

 例え無駄だとしても。

 諦めない、挫けない。

 使命を果たす為に。


 そう出来る様に社会の裏で鍛え上げて来た。

 家族にも友人にも黙って、誰にも関らずに。


 己を犠牲にしても守りたい者達が居るからこそ。


 薬莢が跳ねる。

 幾幕と硝煙を吐いて。

 弾丸が黒い肉を抉り、穿つその中で。




 しかしその時、風が吹いた。

 硝煙も、土煙をも巻いてしまう程の突風が。


 居気までをも一転させる―――桃花(とうか)の旋風が。




 その風の香りを感じた時、まさに景色は一転していた。

 なんと異形が瞬時にして、大地へと叩き伏せられていたのだから。


「オッケー、感覚は鈍ってないらしいわね……!」


 レンネィである。


 完全復活を果たした彼女が見事に捻じ伏せたのだ。

 異形の頭を強引に大地へと叩き落し、潰した事によって。


 余りに突然の事で、たちまち場が森閑(しんかん)とする。

 渡部や前田は愚か、大迫達もが絶句していた事によって。


「お、お、お姉様さすがっす!!」


「やっべ、超カッケェ!!」


 ただこの二人が黙ったままで居られる訳も無い。

 直ぐにでも静寂を切り裂き、感激の声を張り上げていて。


 これにはどうやらレンネィもまんざらでも無さそう。


「んふふ、ありがとっ! さあバリバリやっちゃうわよぉ!!」


 だからこその彼女らしく。

 すっくと立ち上がっては力拳を見せつける。

 「ここは任せて」と言わんばかりに。


 そう、レンネィは察しているのだ。

 迫っていたのがこの一体だけではないという事に。


「オ オ オ……ッ!!」

「ガフッ、ブルル……!!」


 物音一つ立てば、林の奥から影が幾つも。

 殺意の眼を輝かせ、一同にして敵を睨む姿がそこに。


 それも十数などでは収まりそうもない程の量が。


「でもどうやら一筋縄ではいかなさそうねぇ。 ま、でも試運転には丁度いいかしら。 久しぶりの戦いだからどこまでやれるかわからないけど!」


 強気にこう語ってはいるが、滲む冷や汗までは抑えられなかった様だ。

 さすがのレンネィもこの数を前には不安を隠せないらしい。


 するとそんな時、陽光を遮る何かが宙を舞う。

 それもレンネィへと向けて真っ直ぐに。


「―――なら、心強い相棒と一緒ならどうでしょうか!?」


「ッ!? こ、これはッ!?」


 それはなんと魔剣【シャラルワール】。

 レンネィがかつて使用していた愛剣だった。


 何でこんな物がここに。

 家に置いて来たはずなのに。


 そんな想いで振り向いて見れば、視線の先には見知った顔が。


 御味だ。

 グランディーヴァ影の功労者である彼もがこの場に居た。


 どうやら大迫達に紛れてこの場に訪れていたらしい。

 しかも大層なお土産を持って。


「すいません、必要になるかと思って!! 御宅に不法侵入した件は後で謝罪します!!」


「いいえ~!! むしろ助かりましたあっ!!」


 きっとこうなる事を見越して取って来ていたのだろう。

 福留の采配か、それとも個人の判断かはわからないが。


 でもお陰で百人力だ。

 長年共に戦ってきた相棒が今こうしてまた腰に下げられる事となったのだから。

 すなわち、全盛期のレンネィ今ここに再び顕現す。


 ただ命力が通用しない相手だというのは周知の事。

 ならば魔剣一本が増えた所で、戦力が増えたとは到底言えるかどうか。


「その魔剣でどうする気なんですッ!? 相手に命力は通じないのですよッ!? ならそんな物を持っていたって何の力にも―――」


 その事実を知っているからこそ大迫も気が気でない。

 ただの重しにしかならない物に一体何故そこまで重きを置けるのかと。


 だがそれは大迫が何も知らないだけに過ぎない。

 魔剣使いにとっての魔剣が如何な存在であるのかという事を。




ドガガガガッ!!!!




 故に知るだろう。

 打ち鳴らされた激音の先に見える真実を。


 数匹の異形を瞬時にして叩き伏せるレンネィを目の当たりにして。




「それは違うわ。 魔剣が力なんじゃない。 力を奮う為の魂を、魔剣が鍛えてくれるのよッ!!」




 力ではなく魂を奮う。

 それを成せる者こそが真の魔剣使いだからこそ。


 故に相棒。

 故に愛剣。

 刀身が折れ、滅ばない限りこの関係は終わらない。

 それ程までに愛着を持っているからこそ、魂をより強く鍛えてくれよう。


 故にレンネィは魔剣使いである。

 命力を駆使せずとも、魔者を討たなくとも。




 己の魂を奮い、愛するべき者達を守る。

 そうする為の戦士であり続ける事を望んだのだから。




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