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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~アネメンシー~

 竜巻が場を扇ぐ。

 島をくまなく削り取る程に広く強く。

 その勢いは勇達が抗えない程に強烈だった。


 解放された力がそれだけ強大であるが故に。


 【アストラルエネマ】、星の命力。

 その性質は天力と同等にして膨大な容量をも誇る。

 生命育む星としてあるべき力強さと共に。


 その力が今、勇達の敵となった。

 しかも邪神という加減を知らぬ存在に操られて。


 なれば知るだろう。

 その圧倒的な強さを。

 今まで頼ってきた力が如何に恐ろしいモノだったのかという事を。


 翼一つ扇げば、大地を抉り。

 翼二つ扇げば、空を堕とす。

 全ての采配は(茶奈)に在り、如何なる力をも介在を許さない。

 なれば小さき命の力など、一つ吹くだけでたちまち無為と化そう。


「これより肉共は、真の絶望を見る事、となるッ!! 何者にも抗えぬ、力を前にしてッ!! これがお前達の安易に名付けた〝ネメシス〟なる力と知れえーーーッ!!」


 この嵐はまるでそんな神の怒りを具現化したかの様だった。

 稲妻さえ迸る中、勇達はもはや流されるばかりで。


 身動きさえ出来ないのだ。

 身体に四方八方からの不規則な圧力が掛かっていたから。

 それも、少しでも力を抜けば四肢が引き千切られてしまいそうな程の。


 天士の勇になら抗える術が何とかまだある。

 だが心輝と瀬玲は別だ。

 二人の力では重圧に抵抗するだけで精一杯で。


 苦痛で顔が歪む。

 抗えぬ事に悔しさが滲む。

 そうありながら、ただ体を丸める事しか出来はしない。


「知っていたかあッ!? お前達肉共が呼びしその名にッ!!」


 そんな心輝に魔の手が迫る。

 なんと茶奈自らが突っ込んで来たのだ。

 怒りを体現するままに咆え、心臓を抉らんとばかりに腕を伸ばして。


 途端、竜巻がうねる。

 力の素が強引に動き回った事によって。

 そのうねりが力の流れを歪め、勇達に更なる重圧をも与える事に。


 しかもその中で、心輝が拳で打ち抜かれた。

 この暴風さえもものともしない勢いのままに。


「―――如何な怨念が練り込まれていたのかをッ!!」


「うっごあッッ!!?」


 身を固めていたからこそ致命傷には至らない。

 しかしてその衝撃は茶奈の命力を存分に乗せたもの。


 たちまち打点から捻じ切れんばかりの激痛が身体に走る。

 骨が軋み、筋が断たれ、血が逆流したと思える程に。

 意識すら持っていかれかねない一撃だ。


 そうして弾かれるも、なお竜巻に巻かれ揉まれたまま。

 どうやらそう簡単には逃してくれないらしい。


 更にはその毒牙が瀬玲にも。

 まるで心輝を踏み台にしたかの如く飛び出していて。


「それをお前達は安易に呼称したッ!! 的を得たが故に愚かだとおッ!!」

 

 突如、強烈な足蹴が見舞われる。

 まるでボールの様に体を固めた瀬玲の身体へと。


「あぐあッッ!!?」


「そして何より愚かはア・リーヴェッ!! お前だァァァーーーッッ!!!」


 それでもなお勢いは止まらず、遂には勇にさえ狙いを定めていて。

 

 雷鳴が走る。

 赤の残光と共に。

 巨大な翼が一つ扇いだだけで。


 たったそれだけで勇の身体が動きを止めた。

 ありとあらゆる慣性を打ち殺し、空中に貼り付けたのだ。


 しかしこれは【命流滑(トーマ)】ではない。

 そんな技巧を使わずとも圧倒的命力があれば成し得る事だ。

 相手の周囲全てに超濃度の命力を充満させるだけでいいのだから。


 つまり勇を包んだのは超巨大な【命力全域鎧(フルクラスタ)】である。

 そしてその中を茶奈だけが自由に行き来する事が出来るという。


「やはりお前は早々に滅するべきだったッ!! 星を分かつ前にィィィッ!!!」


『その怨念は一体―――ッ!?』


 その茶奈が再び魔剣で穿つ。

 身動き出来ぬ勇を討たんばかりにと超高速で。




「これが私の全てだッ!! 全てが始まった時からこの怨念は蓄積され続けているッ!!! 【アネメンシー】の始まりこそが私を産んだのだあッッッ!!!!!」




 輝きが勇を貫いた。

 余りにも鋭く強く穿たれたが故に。

 虹光までをも撒き散らしながら。


 だがその時、茶奈がその目を疑う。


 なんと勇の身体もが光と成って消えたのだ。

 まるで周囲の命力塊に溶けるかの様にして。


 これは天力転送によるもの。

 命力が包む中であろうとこれだけは使えるからこそ。


 故に今、勇は別の場所に居た。

 それも心輝と瀬玲を捕まえて。

 二人を両脇に抱えたまま竜巻の外へと出ていたのである。


「す、すまねぇ勇……」


「いや。 けどアイツの力を反力にしてどうにか躱せたが、ギリギリだった……ッ!!」


 ただ無事とはいかなかったらしい。

 その証拠に、勇の胸にはだらりと血が滴っている。

 今の一撃を僅かに貰ってしまった様だ。


 もちろん心輝も瀬玲も相応に疲弊している。

 今の一撃だけで相当なダメージを蓄積してしまったのだろう。


「なんなのさアイツのキレ具合、何で名前にあんなキレてんのよ!?」


『それは私にもわかりません。 〝ネメシス〟への執着がある事だけは確かですが、それはその語源となった【アネメンシー】に関係があるからかも』


 お陰で二人の魔装ももうボロボロで。

 恐らくもう防御能力さえ機能していないのだろう。

 だからか心輝は吐血し、瀬玲は腰から血を流している。

 どちらもまだ戦えそうな(てい)だが、このままでは。


『ですが、それがあれ程の怨念になる理由がわかりません……! 【アネメンシー】は、()()は怨念とは何の関係も無いハズなのです!』


「彼女? って事はまだ俺達が知らねぇ事があるのかよ!?」


「それはアルトランと直接的な関係が無いから―――ッ!?」


 でも、どうやら勇達にはもう休む暇など与えてはくれないらしい。


 竜巻の中から炎弾が飛び出してきたのだ。

 しかも勇達を狙って無数に。


 更には茶奈自身までもが竜巻から飛び出して来ていて。


「知らないなら教えてやろうかッ!? アルトランと【アネメンシー】、その関係性をッ!!」


 その周囲には魔剣【ユーグリッツァー】の星達までもが飛び交っている。

 今なお漆黒の炎弾を撃ち放ちながら。


 茶奈は本気なのだ。

 もう既に本気で勇達を仕留めに掛かっている。

 こんな会話などその中の戯れに過ぎない。


 たちまち勇と茶奈が再び魔剣を打ち合わせる事に。

 心輝と瀬玲、そしてア・リーヴェをも地面へと放り投げたままに。


『実はアルトランには双子の妹が居たのです。 それが【アネメンシー】。 ネメシスの幻名となった人物の名です!』


「幻名って事は、私達の意識に擦り込まれた天士の記憶ってやつ?」


『そうです!』


 本気を出した茶奈に正面から立ち向かえるのは勇だけだ。

 だからこそまた勇が打ち合いながら空を翔ける。

 魔剣を幾度と無くかち合わせ、虹光と雷鳴をも轟かせながら。


 その中で着地を果たした心輝と瀬玲が二人を見上げていて。

 かつ肩で息をしつつもア・リーヴェの声に耳を傾ける姿が。


『かつての彼女はアルトランよりも優れた技師でした。 しかしその後アルトランの才能が開花し目立つようになり始めて。 それからの彼女はずっと日陰者として扱われ、気落ちしていったのです。 そしてあの事件が起きました』


「あの事件……ってまさか!?」


『そう、人間と魔者の戦争です。 アネメンシーはその根源でした。 誰よりも先に怨念を抱き、皆に負の感情を植え付けた張本人だったのです』


 恐らく勇は二人を休ませる為に茶奈との一騎打ちを挑んだのだろう。

 その事が痛い程よくわかるからこそ、遂には膝を付いていて。


 少しでも休んで参戦し直さなければならない。

 勇一人で戦うには余りにも荷が重過ぎるからこそ。


 心を休めるには、こんな話でも無いよりマシだった。


『ですがその後、アネメンシーは改心したハズ。 隠れ里を造る手伝いも彼女がしてくれたのです。 いつかアルトランが帰って来てもいい様にと! だからわからない……何故あそこまで激昂しているのか。 〝ネメシス〟もこの世界での意味をなぞって使っただけなのに……!』


「それが何故かあッ!! 答えは考えればわかる事でしょうッ!!」


 しかし突如、そんな心輝達の直ぐ傍で大地が炸裂する事に。

 勇が叩き付けられた事によって。


 回復する暇すら与えない。

 茶奈がそれだけの猛攻で圧しきったのだ。


「「勇ッ!?」」

「だ、大丈夫だ……ッ!! ガフッ!」


 その中で茶奈が勇達の頭上にふわりと舞う。

 四基の守護神(ほし)を周囲に回しながら。


「アネメンシーはまた堕ちたのだ。 アルトランと出会ったその時にな」


『えッ!?』


「お前は世界を別った直後に封印されたから知らないだけだ。 あの後何が起こったのかを。 だから教えてやろう。 一時の戯れとして」


 そう言いながらも星達には力が充填され続けている。

 今にも攻撃を放ってきそうな雰囲気で。

 その中で憤りを露わにしたまま、茶奈が魔剣を掲げて示す。


 再びの、ドス黒いまでの崩力領域を。




「奴はアルトランに言った。 『全ての元凶はやはりお前だ、お前が居なければ良かった』と。 そうして殺意をぶつけ、殺そうとしたのだッ!! しかもアルトランが改心の誓いとして造った武具(おもちゃ)を使ってなあッ!!」




 怒りが迸る。

 命力が雷閃光の如く放たれる中で。

 崩力領域をユラユラと揺らさせながら。


「だから喰らってやったッ!! その魂素を何一つ余す事無くッ!!」


 その一言がキッカケだった。

 そう咆えた途端、茶奈が急降下していく。


 更には大地へと杖を突き刺し、今度は抉りながら勇達へと一直線に。

 全てを巻き込み、削り、弾き飛ばして。




「―――そして私が産まれたのだあッ!!」


 


 なれば荒々しく、何もかもをも持ち去ろう。

 勇も心輝も瀬玲も巻き込み、全てを共に空へと打ち上げて。


 四星が輝きを瞬かせる中で、四つの巨翼が空へと仰ぐ。


「アネメンシーの魂はアルトランへの怨念の塊だったッ!! 全て手遅れの、諦念の塊だったッ!!」


 その重圧はなお凄まじく、勇達の内臓をも揺さぶり打つ。

 加えて四肢をあらぬ形へと捻じ曲げんばかりに。

 まるで全身をプレス機で挟まれたかの様だ。

 逃げ道が無いからこそ只耐えるしか無く。


「何もかもをも信じない猜疑の塊だったッ!! どうしても満たされない虚無の塊だったッ!!」


 その中で心輝の腹を突く。

 その中で瀬玲の背を打つ。

 心をも潰さんとばかりに容赦無く。


「才能を妬んで止まない嫉妬の塊だったッ!! そしてアルトランの常々とした怒りが合わさり、私と成ったッ!! だから私はアルトラン・ネメシスという名を敢えて受け入れたのだッ!!」

 

 その怒りは勇をも逃がさない。

 天力転送さえも許さぬまま、膝が肘が勇の顔と腹を打つ。

 何もかもをぶち抜かんばかりの破壊力を以て。


 故に鮮血が舞う。

 しかも三人同時にして。

 それ程までの速度で、それ程までの威力で打ち回ったが為に。




「―――いや違うな、奴の魂を礎としたならば……私の名は【アルトラン・アネメンシー】だッ!!」




 それでも止まらない。

 茶奈が留まる訳が無い。


 大地へ突き落とされた勇達は垣間見るだろう。

 その暴挙を、怒りの迸りが解き放たれるその瞬間を。


 空に瞬く四つ星の洗礼として。




ドゴゴォッッ!!!

ズドドォッッ!!!

ドンッ!! ドッギャォォォーーーンッッッ!!!!




 突如として熱榴弾が降り注いだのだ。

 しかも数えきれないほど無数に。


 故に、島が燃える。

 海をも焼き、岩礁をも吹き飛ばしながら。

 どこ一つ余す事無く爆炎に飲み込まれて。


 島全体が皆融の獄炎と灼熱の黒煙によって覆い尽くされたのである。

 

「フッフフ、アハ、アーーーッハッハッハ!!!」


 その直上、空の上で茶奈が高らかに笑う。

 なお撃ち込まれ続ける炎弾と爆炎を見下ろして。

 超高熱の放射熱もが、陽炎として揺らめき漂うその中で。


 これこそが神の力なのだと示さんばかりに。






 赤の燐光を纏い笑う姿はまさに悪魔そのもの。

 そしてまさに悪魔的と言わんばかりの一方的な戦いを見せつけた。


 故に世界は揺らぐ事だろう。

 絶望の一途へと、抗う事も出来ないままに。




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