~邪力は今、嵐を呼ぶ~
【古代三十種】は天士でも扱える。
もしかしたら、この事実があったからこそ勇はここまで強くなれたのかもしれない。
かつて魔剣【大地の楔】を所持していた頃、勇の実力は明らかに異常飛躍していた。
とても無才の魔剣使いとは思えない実力を以て多くの問題を解決してしまう程に。
それはもしかしたら、勇が魔剣の特性を知らず内に利用していたからかもしれない。
元より天士としての才能があって、天力をも知らぬ内に使っていたというのならば。
しかもその特性を利用して訓練したから、誰よりも早く強く肉体を育て上げられた。
その状態で最高峰強化を行える【翠星剣】を得たからこそ、見違える様に強くなったのだと。
ただこれは所詮推測に過ぎないが。
ア・リーヴェでさえもそこまでは見えていなかったから。
とはいえ【古代三十種】があったから今の勇が居るという事実に間違いは無い。
故に再び手にした魔剣が同種であれば、懐かしささえ感じずにはいられないだろう。
それに加え、この魔剣【エベルミナク】は多くの因縁をも抱えている。
アルトランが造り上げた事は元より、友人達を斬った怨物として。
しかもそうでありながらジョゾウより怨念祓いにと託された願物としても。
多くの人々の血を吸った呪われし魔剣。
しかしそれと同時に、多くの者達の願いを受けた期待の器でもあるのだ。
そんな魔剣を持ち直し、天力と共に振り切る。
順応性は高い様で、もう勇に馴染んでいるらしい。
これならば【崩力】を展開されようと妨げられる事は無い。
「敢えて言っとくけど、気を入れ過ぎると光刃が出て刀身本体が無防備になるから気を付けて」
「わかった。 改めて、大事に使わせてもらう」
ただし改良仕様上、刀身は凄く短く小剣級。
長剣級の【創世剣】と比べると戦い方が若干変わって来る。
剣単体を振り回すよりも肉弾戦闘のお供として扱う形となるだろう。
つまり、あの茶奈に対して超接近戦を余儀なくされるという事に他ならない。
でも、誰よりも強靭な肉体を誇る勇ならばそれが出来る。
例え相手が天力を退ける力を持とうとも。
魔剣ないしは肉体という器までをも歪める事は叶わないからこそ。
一度目は躱されたが、二度目は許さない。
そんな気概を以て、勇が空へと向けて体を引き絞り構える。
当然、心輝も瀬玲も同様にして。
ならもう再開は一瞬である。
今度は勇が先制してみせる。
死角―――背後からの無間攻撃だ。
でもこれは牽制。
躱される事を意図した一撃に過ぎない。
故に回避間際に放たれた回転蹴りを左腕で塞き止め耐えてみせる。
しかも吹き飛びはしない反衝防御で。
更には再びの無間攻撃を重ねては追撃して。
幾ら返されても防ぎ、耐え凌ぎ、動き回る茶奈を追う。
誰よりも強靭な勇ならではの空中殺法である。
「クフフッ! いいんですかぁ勇さん、そんな魔剣で斬ったりして! 当たり所が悪かったら私、死んじゃいますよぉ!?」
「そうしない為にも斬るんだッ!! 貴様には理解出来ないだろうがなッ!!」
「まっっったく、理解出来ませんねぇ!!」
こうなればもはや天地に拘り無し。
互いに縦横無尽と飛び回り、頭が地に向こうがお構いなしだ。
ありとあらゆる体勢のままに打ち合い、斬っては防いでを繰り返す。
まさに力と力。
強烈なぶつかり合いが衝撃波をも生み、大気を大地を揺らし続ける程で。
その所為か、海もが荒れて大波さえ呼ぶ事に。
その余りの攻防ゆえに、地上では介入するのを躊躇う心輝や瀬玲が。
「冗談キツイぜ、あんな中に飛び込めってよぉ……!!」
「でも行かなきゃ始まらないッ!! 少しでも気を引かなきゃさッ!!」
何せ勇と茶奈の攻防は、いつかのデュランや剣聖との戦いにも匹敵していたから。
あの尋常ならざる応酬はもはや人知を超えている。
自分達があの戦いを再現出来るのか、と不安を覚えてしまう程に。
だが再現する必要は無い。
茶奈を、邪神を追い詰めるならば、例え針の様な一撃であろうと必要となる。
重要なのは威力よりも注意を削ぐ事にあるのだから。
隙を生めば、それが糸口となるからこそ。
「っしゃらあああッッ!!!」
「チッ!! うっとおしい雑魚がきたかッ!!」
だから打つ。
勇との攻防の最中であろうとも飛び上がって。
少しでも、僅かでも注意を引く為に。
「邪魔だあッ!! 煩わしいッ!!」
それでも茶奈が弾き飛ばし、反撃の炎弾さえも放ってみせる。
それも勇の攻撃を受け止めながらという器用さまで見せつけて。
しかしその炎弾をなんと瀬玲が受け止めていた。
心輝に運ばれて空まで飛び上がっていたのだ。
「貰いッってねえ!!」
ならば返しも瞬時にして。
したたかな瀬玲ならではの反撃が、爆炎収まる間も無く放たれる事に。
バッシャァァァ!!!
閃光波である。
目くらましの光、それに加えて幾つもの命力塊を放つという。
射撃が通用しない事を理解し、弱体行動に徹する事にしたのだろう。
もちろんこれは勇も心輝も知る所で、どちらも目を瞑って防御済みだ。
「ぐううっ!! また小賢しい真似をッ!!」
でも茶奈はそうもいかない。
先程とはまた一味違う感覚抑制に動揺さえ見せていて。
やはり命力探知感覚のみならず視覚をも奪われれば戦い難くもなるから。
ただその効果など一瞬の事に過ぎない。
だからこそ、ここぞとばかりに勇と心輝が攻める。
しかも今度は心輝さえもが一味違う。
なんと茶奈に取り付き、その細い左腕をガシリと両腕で縛り込んでいて。
叩くよりも何よりも、茶奈の動きを止める事に注力を注いだのだ。
少しでも動きを鈍らせ、勇へ決定打の機会を与える為に。
そんな心輝の拘束は伊達ではない。
例え軽くとも慣性を自由制御出来るからこそ。
それをおのずと理解したのか、茶奈の防御が右手の魔剣のみで行われる事に。
勇の連続攻撃を前に防戦一方だ。
金鳴音が幾度も響く。
残光が縦横無尽と刻まれる度に。
その中で茶奈の体が不本意に押し引きされて。
強引に防御動作をもズラされよう。
一見地味だが、効果は絶大だった。
たちまち茶奈のワンピースに幾つもの切れ込みが刻まれる事に。
攻撃が届き始めているのだ。
時には杖を打ち。
時には光翼を刻み。
そして時には体をも斬る。
こうして積み重ね続けるだけだ。
いつかその内に潜む邪神を断ち切るまで。
「うおおおーーーーーーッッ!!!」
「でぇりゃあああッッ!!!」
三人にはそれを貫き通す気概がある。
例え何時間と続けようとも成し遂げんとする気概が。
皆がそれだけ茶奈の事を愛しているからこそ。
その愛が、願いが、邪神の心を不快に染め上げた。
絶やす事の無い希望が眩し過ぎて、不愉快で。
故に今、業を煮やした感情が噴出する。
邪神の本性として、遂に。
「もういいッ!! 頃合いだあああーーーッッッ!!!!」
突如としてそれは起きた。
茶奈の周囲に、身を揺るがし潰さん程の重圧が解き放たれたのだ。
その重圧を前には勇も心輝も瀬玲も抗う事さえ叶わない。
弾かれ、引き剥がされ、引き込まれて。
遂には、途端に生まれた巨大竜巻の中で揉まれる事に。
竜巻の中心には茶奈が。
巨大な四枚の翼を拡げ、世界を扇いでいて。
そう、とうとう星の力を解放したのである。
彼女が秘めし【アストラルエネマ】の力を。
邪神に蝕まれし星の力。
その力強さはもはや想像をも絶する事だろう。