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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~それでもまだ切り札は有る~

 【崩力】。

 それが茶奈を―――邪神を取り巻いていた力の秘密である。

 絶望の権化とも言えるこの力は常々彼女を取り巻き、見えない壁として存在していて。

 今や神の一振りである【創世剣】でさえ刃が通らないという事実をも明らかに。


 この力は確かに【六崩世神】も有していた。

 でも彼等は力を分け与えられただけで、自ら生み出した訳では無い。

 よってその力は分散した勇の仲間達でも退けられる程度に()()だった。


 だが今勇達の目の前に居るのは根源(オリジナル)だ。

 負の心を今なお吸収し続け、力を増させ続けている。

 【六崩世神】を『紛い物』と称したのも頷ける程に、段違いの強大さのままで。


 故に究極なまでの脅威となろう。

 神が絶句してしまう程に、どうしようもないと思える程に。


「ではどうする? 今さら地に頭を擦り付けて生を懇願するか? クフフ、それもよかろう……一興としては充分な演出だ」


「そんな事をする訳が無いだろうッ!!」


 しかしそうであろうとも勇達は抗うだけだ。

 例え相手が絶対に敵わない存在なのだとしても。

 諦めてしまえば、隠れた可能性さえも立ち所に消えてしまうだろうから。


 今は希望という光が見えなくとも。

 それはまだ暗幕(ヴェール)に覆われているだけに過ぎないかもしれない。

 茶奈を取り巻くその暗幕を取り除き続ければ、いつかは露光が見えてくるはずだ。


 ならば闇を取り除き続けよう。

 今までだってそうしてきたのだから。

 仲間達と共に、ずっと何度も。


 それに今も心輝と瀬玲が居る。

 ア・リーヴェさんだって。

 だから最初の頃の様に一人二人でがむしゃらに戦う訳じゃない。


「俺達はよぉ、相手が強いからって『はいそうですか』って簡単に諦める様なタマじゃねぇんだよ……ッ!! むしろ燃えるぜッ!! こういうシチュエーションを乗り越えるのが真の主人公(ヒーロー)なんだってなぁ!!」


「ふふっ、今はシンに同感。 主人公~なんてガラじゃないけど、今回ばかりは乗っからせてもらうわ。 これを乗り越えたら……どんだけ目立てるかなぁってさあ!!」


『ええ。 その諦めない心こそが【崩力】への反力になります。 だからこそ諦めないでください。 挫けないでください。 そうすれば必ず打開策が生まれるはずです! 私も、その為に全ての力を注ぎますから!!』


 この三人で討ち勝つ。

 それ以外に、人類が選ぶ道は無い。


 だからこそ勇達がまた再び空を見上げる。

 何度叩き落とされようと、打ちのめされようとも諦めずに。


 その手に再びの力を灯して。


「クフフ、それでいい。 そして打ちのめされて絶望を吐き出せ。 それだけがお前達に与えられた役目なのだから」


「いいや、俺達はそんな物は吐き出さない。 吐き出すなら、お前を苦しめる為の綺麗事をたくさん並べてやるさ。 少しでもお前の力を削ぐ為にッ!!」


 その声一つ一つに希望を乗せて。

 何事にも振り回されず、強い意志のままに。

 こうして積み重ねて、何度も繰り返して。


 そしていつか見えて来るであろう可能性を掴もう。


 故に今、勇達はまたしても走っていた。

 今度は一緒に飛び出す事も無く、三人で分かれる様にして。


 その間も無く、地上の一箇所から光が瞬く。

 瀬玲から光弾が放たれたのだ。


 ただ様相は先程までとはまるで違う。

 細い閃光筋を刻む光線だ。

 しかも直上に放たれたと思いきや屈曲して茶奈へと飛び掛かっていく。


 追跡光線弾(ホーミングレーザー)である。

 それも茶奈の命力をふんだんに利用した高濃度圧縮光線として。

 それがなんと幾重にも。


 迫る光線を前に、茶奈が飛び上がりつつ回避する。

 しかしそれでも光線達は途切れる事無く追跡し続けるという。

 かつて使っていた魔剣【カッデレータ】の矢弾と同様にして。


 躱されようと、空へと飛び上がれば揃って弧を描き。

 波を描いて四方八方から迫り飛ぶ。


 するとたちまち、青空に無数の閃光筋が刻まれる事に。


 一発一発は茶奈が弾ける程に弱いものだ。

 でも高速であるが故に、一つ打ち当たれば追撃弾が重ねていく。


 そうなれば当然―――


ドドンッ!! ドドドドッッッ!!


 直後、爆炎が空に幾度となく燃え盛る。

 今なお光線が飛び込み続ける中で。

 連続着弾・炸裂爆破を引き起こした事によって。


 まるでミサイルだ。

 光線を模したミサイルが次々と撃ち込まれていく。

 空がまたしても黒く染まる程に激しく。


 そんな中、光線弾に紛れた雷光が一つ。

 それがなんと爆炎すらものともせず、共に中へと突っ込んでいくという。


 心輝である。

 炎を操る事に長けたこの男だからこその采配だ。

 むしろ多少の爆炎ならば力に換える事さえ可能だからこそ。


 故に魔剣【灼雷宝鱗甲ラークァイト】が輝き放つ。

 瀬玲の命力さえも取り込み、爆発的加速の燃料へと換えて。


ガッギャァァァーーーンッ!!!


 途端、空よりけたたましい金属音が響いた。

 それと同時に黒煙の中から何かが飛び出していく。


 やはり茶奈だ。

 杖で防いだ事で強引に叩き出されたのだろう。


「ウゥオオオーーーーーーッッ!!!」


 しかも心輝の勢いは更に加速する。

 その様相はもはやロケットの如し。

 魔剣機能を最大限に発揮した大爆発加速によって、瞬時に茶奈の下へ。


 心輝の覚悟が、決意が、【アーディマス】の限界性能にも耐えうる力を与えてくれた。

 故に最高速度(トップスピード)へと達したこの男を止める術は、無い。


ガッゴォォォーーーンッッ!!!!


 空()く蹴りが杖を打つ。

 またしても金鳴音を響かせて。

 その勢いはもはや小島など軽く飛び越える程に速く荒々しい。


 だからか、空に刻まれた残光がたちまち弧を描く。

 爆炎を幾度と無くなお弾き飛ばしながら。

 脚より吹き出す炎翼を羽ばたかせるままに。


 茶奈を蹴り付けたままに軌道変更していたのだ。

 潰れんばかりの重圧を受けてもなお速度を減衰させる事も無く。


 そして遂には元の島の地表へと目掛けて角度を落とす。

 茶奈を大地へと叩き付けるつもりなのだろう。


 いや、違う。

 どこでも良かったが狙いは一つ。


 なんと軌道の先には勇が待ち構えていた。

 心輝の刻む軌跡を読み、先回りしていたのである。


「来ぉぉいッ!!」

「っらあああーーーーーーッ!!」

「馬鹿が!! だから天力は私に通用しないと―――ッ!?」




 だがこの時。

 茶奈はそう言いながらも―――躱していた。


 それも、勇の突き出した()を恐れて。




「クッソ、駄目かッ!!」

「まだだ、何度でも繰り返すさッ!!」


 心輝の突撃拘束から逃れ、茶奈が自由のままに空へとまた飛び上がる。

 ただし、光の翼の一部を()()()()()ながら。


 しかしてその顔にはまた不機嫌そうな表情が浮かぶ事に。


「……そうか、お前達にはそれがあったか」


「ああそうだ。 例えお前にとっては遺物でも、俺達にとっては重要な力だからな」


 それもそのはず。

 勇が手に持つ剣の力は、邪神こそが誰よりも良く知っているからこそ。


 それは【創世剣】では無かった。


 勇が掴んでいたのはなんと魔剣【エベルミナク・クラトワカ】。

 瀬玲から密かに託された魔剣を武器として操っていたのだ。


 けれど何故魔剣を操れるのか。

 天力で魔剣を殺してしまう勇では本来使えないはずなのに。




 命力と天力が異なる力なのは周知の事実。

 その所為で勇は魔剣も扱えず、【創世の鍵】以外の武器は得られなくて。

 結果、デュランとの戦いでも苦戦を強いられたものだ。


 しかし、決して全ての魔剣が使えないという訳では無い。

 あったのだ、例外が。

 天士でも扱える様に造られた至高の一品が。


 そう、【古代三十種(エンシェントサーティ)】である。


 【古代三十種】は元来、天士であったアルトラン達が運用する為に造られた物。

 暴徒と化した人間・天士・魔者を鎮圧する為の万能武器だ。

 だからこそ天力にも適応し、存分に力を奮う事が出来る。

 命力だけに特化させた劣化コピー品の現存魔剣とは訳が違う。


 しかも器として存在しているならば歪曲する事も無い。

 まさに対アルトラン・ネメシスの切り札ともいうべき武器だろう。




 その伝説の魔剣が今再び、勇の手に。




 かつてアルトランの生み出した武器がアルトラン・ネメシス打倒の鍵となる。

 この因果を今、最大限に利用してみせよう。


 何を行使してでも邪神は倒さなければならない。

 その覚悟を以て挑む勇達に、もはや何の躊躇いも無いからこそ。




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