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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~その力、源理を崩さんが為に~

 勇が瓦礫を退け、再び空の下に姿を晒す。

 でも二度にも渡る強烈な墜落の所為で、魔装はもう既にボロボロだ。

 勇が運用出来る程の装備でも耐えきれなかったらしい。

 やはり命力を齧ったばかりの人類が造る産物ではこれが限度か。


 しかしそんなボロボロの勇を前にしてもやはり茶奈は降りてこない。

 追撃も来ない辺り、まだ勇達を転がし遊ぶ気で一杯なのだろう。

 地上で大人しくしている分には休憩も叶いそうだ。


 だからこそ勇が再び二人を傍へと引き寄せる。

 どうやら二人も何とか生きていた様で、しっかりと立ったままでの召喚だ。

 もっとも、どちらも傷だらけで無事とは到底言えないけれど。


「何やってんの勇ッ!! あれだけのチャンスは無かったはずよ!?」


「悪い、想定外の事が起きたんだ……!」


 そして瀬玲は憤りさえも隠せないでいる。

 勇が決定的な機会を逃した事に強く腹を立てているのだ。


 瀬玲は見ていたのだろう。

 勇が隙だらけの茶奈へと斬撃を見舞うその瞬間を。

 ただ【創世剣】が歪む所だけは()()出来なかった様だが。


『瀬玲さん怒らないでください。 今の現象は私でさえも何が起きたのか全く理解出来なかったのですから。 私が読み取れたのは、【創世の鍵】の力が一瞬途切れた事だけ。 勇、一体今何が起きたのですか?』


 ただどうやら認識出来なかったのは瀬玲だけではなかったらしい。

 心輝は元より、ア・リーヴェさんでさえも理解出来ていないという。


 いや、厳密に言えばア・リーヴェさんも認識だけは出来ている。

 ただしフララジカシステム上からの機能認識として。


 でも実際に何が起きたのかまでは把握出来ていない。

 勇が何を見て、何を感じたのかまでは。


「よくわからない。 けど俺が見たのは、【創世剣】の歪む所だった。 まるで茶奈を避ける様に刀身が勝手に曲がったんだ……!」


「そんな事が有り得るのかよ!?」


「この世界の理に則ってる存在なら成し得られないさ―――本来ならな……!」


 きっと勇もどう説明したらいいかわからないのだろう。

 視覚的に見れば言った通りだが、実際に起きている事は全く違うから。


 【創世の鍵】の一時的途絶。

 その事象が刀身湾曲という不可思議な現象を引き起こしたのだ。


 しかもその事象が起きるなど有り得ない。

 天力を歪める力など、本来ならば。


『【創世剣】の存在現着乖離(パーサストレンジ)という事象を成し得るのは反物性(アンプローター)のみ。 であるならば、まさか彼等の力は……!!』 


 だが唯一、ア・リーヴェだけがその現象の正体を論理(ロジカル)的に導く事が出来る。

 【創世の鍵】の仕組みを一から理解している神である彼女だけが。


 その神が遂に答えへと行き付く。

 フララジカシステムとの同時演算を経て、実際の力を目の当たりにした事で。 


 そして知るだろう。

 神のみならず勇達もが。

 邪神の秘めたる力が何を意味しているのかという事を。




『アルトラン・ネメシスの力の秘密、それは―――もう一つの天力です!! 今までの世界では生まれ得なかった、天力と同じ様で全く異なる概念力が生まれていたのです!!』




 そう、邪神は命力でも天力でも無い、全く新しい概念の力で動いている。

 この世界で生まれてしまった、絶望を糧とする新力が。


 だからこそ認識出来ない。

 だからこそ天力と相反する。


 決して隠れている訳でも、見えない様にしている訳でも無かったのだ。

 そもそもが認識出来ない力だった。

 何せ今までの【セカイ輪廻】の中で一度も産まれ出なかった概念なのだから。


 その新しい力が今、世界を崩壊させる為の原動力となろうとしている。

 ならば神はその力の事を敢えてこう呼ぶだろう。




『その力を名付けるならば―――【崩力】……!!』




 【崩力】。

 天力と同様の力でありながら天力を退ける性質を持つ、謎の力の正体。

 【六崩世神】をも生み出し、絶望を力として蓄え続けられる永劫積増の力である。


 永劫積増とはすなわち、力が増える一方で損なわれないという事。

 その場限りの増幅しか出来ない天力とは違い、感情が積み重なる度に強くなるという。

 しかもその力の源は怨念や憎悪といった負の感情ばかり。


 人は恨みを忘れない。

 故に消えない、損なわれない。

 まさに生物の持つ怨恨の性質に酷似した力だと言えるだろう。


 この力を生み出してしまったから、アルトランは負に染まった。

 この力が育ってしまったから、アルトラン・ネメシスが生まれた。

 それが遥か太古の時代より、怨恨を溜め込みながら今まで生き続けている。


 だからこそ【創世剣】が負けたのだ。

 余りの強大な負の力に押し負け、天力体そのものな刀身の方が歪んでしまったのである。


「クフフ、この短期間で答えを導くとは、さすがだなア・リーヴェ。 しかし【崩力】、か。 その名、潔く使わせてもらう。 その代わりに曝け出すとしようか、お前が今名付けし【崩力】の真価を……!!」


『皆さん、解析が完了しました。 今すぐ【創世の鍵】を通して【崩力】を視覚化します!!』


 神が造りし世界を分かつ力―――【創世の鍵】。

 それ程の力さえも退かせ、世界を脅威に晒す負の力の正体とは。


「なんだ、あれは……!?」

「オイオイオイ!?」

「有り得ない……あれが命力とかと同じ力だっての!?」


 その姿を視認した時、勇達は初めて理解する。

 自分達が如何な存在と戦っていたのかという事を。


 ここまでの戦いで見せた力が茶奈自身の力などではなかったのだという事を。




 なんと、茶奈を中心に黒い球状磁場が形成されていたのだ。

 それも境界が漆黒に染まる程に濃く深く。

 それでいて茶奈を丸ごと包み込む程に巨大。


 その姿、まるで女神を覆う日蝕金環が如し。




 これが【崩力】である。

 邪神が司る絶望の力である。


 認識しなければ何の影響も無かっただろう。

 しかし見えるようになってやっとわかる。

 あの中に入れば、天力などまともに働かないのだと。

 だから【創世剣】は磁場に沿って歪み、無間攻撃も先読みが出来る。


 いわば対天力ブラックホールの様な物だ。

 情報は吸い込み、状態は狂わせる。

 対象が天力ならば例外は無い。


 故に、茶奈に一撃を見舞う事は天力を使う限り―――事実上、不可能である。


『恐らくあの球体は天力不可侵領域です。 すなわち、天力で茶奈さんを斬る事は……出来ません』


「何よそれッ!? それじゃあ茶奈を救えないじゃないッ!!」


「これで実行時期がまだ早い方だってんだろ!? マジでチートかよッ!!」


「くっ、まさか奴の力がそれほど強大になってるなんてな……!」


 確かに、亜種的な力が潜んでいる事は何となく予感していた。

 それでも天力と同じ性質を持つならばまだ何とか打開出来ると踏んでいて。


 でもどうやらそれは全くの見込み違いだったらしい。

 性質どころか根幹から何もかもが違うのだ。

 ただ天力と反作用するという特性だけを残して。


 今こうして戦いの映像を観た者達から絶望を吸い取り、なお力を増し続けている。

 増加量こそ微々たるものだが、今まで積み重ねた力と合わされば脅威に変わりはない。

 しかも減衰しないならば、最悪の場合は世界の希望を集めても覆せないだろう。


 生半可な力では超える事も叶わない。

 それ程までの力を今、茶奈はありありと見せつけていたのだ。


 これでは茶奈を救うどころか邪神討伐さえままならない。

 自慢の天力が通らなければ、邪神を斬るなど夢のまた夢なのだから。




 事実が更なる絶望を呼ぶ。

 希望という穴を隙間無く詰める程の濃く深い絶望が。


 【崩力】―――その力が見せた闇は、勇達の抱く可能性さえも総じて塞がんとしていた。




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