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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十八節 「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
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~人類至高の叡智 莉那達 対 揚猜⑥~

 人型となったグランデスが背面走行で砂漠を突き抜ける。

 迫るオーギュの追撃を躱し、反撃を見舞いながら。


 既に極光線砲で作り出した荒野領域をも越え、砂だらけの大地を突き抜ける事に。

 これにはさすがのオーギュも走るのに難儀する様子が。

 そんな相手を他所に、グランデスは推進器(バーニア)をも駆使して丘陵を乗り越えていく。


 故に死を巡る追いかけっこの状況は均衡。

 互いに高速走行を続け、撃っては躱すという攻防を繰り広げていた。


「ジリ貧ですねぇ!! 残弾あと千発を切りましたよ! もう五分と持ちそうにありません!」


「やはりグランディオンとは違いますね……! こんな事ならもっと別の武装も付けて貰えば良かったです!」


 ただその内側では問題は次々と噴出してくる。

 残弾・残存エネルギーの問題、各部の消耗・損傷、搭乗者達の体力など。

 幾ら機体が改造を受けたとはいえ、それらの問題を全て解決出来る程に都合よくは出来ていない。

 

 特に、二人は常人だ。

 これだけの相手を前にここまで戦えた事が奇跡に近い。

 例え鍛えていようと、緊張状態を続ければ長くは持たないからこそ。


 空調が効いていようとも汗がとめどなく溢れ、服を濡らしていて。

 どちらも体力が限界を迎えようとしている証拠だろう。


 だが、この二人がただやられる為に走っていると思うだろうか?


 いや、そんな訳が無い。

 少なくともこの二人に関しては。

 何事にも滞りなく、準備に余念が無いこの二人なら―――


 この状況を打開する手段を持ち合わせていない訳が無い。


「莉那さん、間も無く()()()()()()ですッ!! 準備はいいですねッ!?」


「了解! ならもう『野と成れ山と成れ』ですッ!!」


 そう二人が口合わせをした時、グランデスの動きが突如として変わる。


 今までは両腕掃射していたのが、左腕だけの射撃に切り替わり。

 右腕先の連装砲身(バレル)がガチリと回転し、突如として刺突剣を形成したのだ。

 徹底応戦の構えである。


 もちろん、そんな武器でただ応戦しようとも勝ち目は薄い。

 きっとそんな事など二人ともわかっているだろう。


 しかしそうしなければならない理由がある。

 その為にならもはや危険さえ覚悟の上だ。


 その覚悟が足りない事は最初からわかっていた。

 でも想像以上に足りていなかった。

 だからこそ、今度は本当に腹を括ってみせよう。

 それは決して〝幸運の留まる場所〟に相応しい確証があるからでは無い。


 命を賭ける価値があるからだ。

 命を賭けなければ、勝ち目は無いからだ。


 勇達ならきっとそうしている。


 故に剣を真っ直ぐ、迫るオーギュへと向け構えよう。

 それはさながら騎士の如く。

 空を裂く素早い剣捌きを見せつけて。


「その様な棒っ切れでェ!! この俺を倒せるとでも思ったか愚か者がァァァーーーッ!!」


 そんなグランデスへと向けて、オーギュが駆け抜ける。

 身長差はざっと二倍。

 二人からして見れば、見上げる程の巨体だ。


 それでも二人は臆する事は無い。

 もう覚悟は決めたから。

 勝ってみせると誓ったから。


 だから突き出された節脚攻撃も躱せよう。

 冷静に、慎重に、その攻撃を見切った上で。


 直後、オーギュの脚による叩き付けが空を切る。

 グランデスがその身を捻らせて躱した事によって。


 しかもそのまま、腰部が火花を散らせながら回転していて。


 上半身が、回る。

 斜に構えていた刺突剣を豪快に振り回しながら。


「うわあああーーーーーーッッ!!!!」

 

 更には莉那の叫びが、気迫の合わさった力強い回転斬りへと昇華させよう。


ザギンッッッ!!!


 ならばオーギュの身体を傷付ける事も可能。

 命力とは得てしてそういうものだからこそ。


 たちまちオーギュの下部に一本の切り傷が刻まれる事に。


 しかもそれだけでは止まらない。

 空かさず今度は、左腕の砲塔をもその傷口へと押し宛てていたのだ。


ズガガガガガッ―――!!!!


 零距離からの全力発射である。

 例え砲身が傷付こうが焼けようが関係は無い。

 それはただただ、敵を撃滅せんが為に。


 高出力の命力弾が巨岩の身体を抉り撃つ。

 オーギュが苦しみを見せつける中で。

 遂にはその大口を開き、悲鳴までをも上げていて。

 

 他の【六崩世神】とは違い、オーギュ本体は非常に脆い。

 肉体的にも、精神的にも。

 こうして簡単に砕けそうな程に。


 しかしそうであろうと、執拗さだけは群を抜いていよう。


 だからこそ、それ知っているグランデスが跳ね退ける。

 間も無く圧し迫ってきた相手から逃げるようにして。

 巨体で潰そうとしてきたのだろう。

 懐は死角であり、足が届かないのだから。


「おのれぇちょこまかとォ!!」


 ただその懐から離れれば、そこはすなわちオーギュの攻撃範囲内。

 長くて強靭な節脚が待つ領域である。


 なれば間も無く、またしても巨大な脚が振り下ろされる事に。


 尋常ではない速度だ。

 高速機動出来る強靭さは伊達では無い。


 それでも、その速度は既に見切っている。

 莉那の集中力が、福留の判断力がそれさえも成し得た。

 剣で受け流し、いなしてみせたのだ。

 まるで勇達がやってみせたのと同じ様にして。


 彼等の戦いなど目に穴が開く程見て来たから。

 分析し尽くし、研究し尽くしてきたから。

 だからこそ再現出来るだろう。


 そこからの転身も。

 更には、その先に続く逆転への道程も。




「莉那さんッ!!」

「いッまッだあああーーーーーーッッ!!!」




 猛攻を潜り抜けてでも狙うその先は―――なんとオーギュの正面。

 大口を開いたその場所にこそ、好機が潜んでいるのだと。


 その口へと向け、満を持して両腕が突き出される。

 銃を、剣を、その一点へと撃ち貫く為に。




 だが―――




「甘ァァァーーーーーーいッッッ!!!」




 その直後、両腕がなんと巨大な歯によって噛み潰される事となる。

 バキバキと音と火花を立てさせながら容赦無く。


 両腕とも噛まれた箇所が跡形も無くひしゃげて潰れ、もうビクとも反応しない。

 中の機構全てを潰しきる程に強烈だったからこそ。

 こうなっては例えトリガーを幾ら引こうとも無駄だろう。


 ただし、それは福留がまだ操縦桿を握っていれば、の話だが。


「貴方にもっと学習能力があればまだ違ったかもしれませんねぇ!! 残念ですが今の時代に必要なのは強靭な身体では無く、柔軟な頭脳なのですよッ!!」


 福留がその時握っていたのは全く別の操縦桿。

 操作パネル下より引き出した簡素なレバーだ。


 それを巧みに操り操作した時、それは遂に現れる。


 グランデスの腰裏から一本の自在腕(アーム)が伸び出てきたのである。

 腰裏下に収納されていた隠し腕が満を持して。


 隠し腕だからこそその様相は鉄工材を繋ぎ合わせただけで貧相だ。

 しかし性能は折り紙付き。

 素早い動きで一瞬にして、その先端をオーギュの僅かに開いた口の中へ。


「ななな、なんだこれはァァァ!?」


「人というものはこういう危機にこそ強く成れるものなのです。 そうやって人は文明を、科学を構築し続けてきたのですから。 貴方は散々人類を見下していましたがねぇ」


 その腕の先、簡易マニピュレータの中で輝くのは、一つの鉄筒。

 危険物を示す印が刻まれた、人類史上最高最悪の兵器。


 そう、核弾頭である。


 しかもただの核弾頭では無い。

 アルディ=マフマハイドが造った魔剣ミサイル、その技術の応用が詰まっている。

 それも米国科学技術部とビーンボールが研究し、追求し、再構築した逸品が。

 すなわち今その手に握っているのは、かつての魔剣技術さえも越えた代物だ。

 現代技術と最新鋭の魔剣技術を融合させた、紛れも無い究極の破壊兵器である。


 それが今、遂に火を灯す。

 執拗なまでに迫り続けた準神をこの世から消し去る為に。






「その人類の叡智を、あまり舐めないで頂きたい……ッ!!」






 その一言がキッカケだった。


 その一言が放たれた時、彼等の中心で光が―――弾け飛んだ。




 音も無く。

 景色も無く。

 全てが白無に包まれて。


 そして全てを消し去ろう。


「ば、馬鹿なァ!? この力わガッ―――」


 準神さえも例外となりはしない

 この破壊の光を前には、砕け、溶けて蒸発して消え去るのみ。

 その魂までも焼き尽くし、魂素の欠片さえ遺す事無く。


 それは当然、グランデスも一緒である。

 共に光へと包まれ、その身を焼かれよう。

 これが福留達の覚悟の形なれば。




ズズズ……




 爆心地のあらゆるものが焼き尽くされた。

 その光に巻き込む何もかもを。


 魔剣技術の応用だからこそ、この爆滅もまた限定領域式だ。

 領域内だけを焼き尽くして消滅させるという。

 加えて、放たれた放射能もまた命力で増幅したからこそ一時的な物で。

 一度爆発が収まれば、危険粒子までもが光と成ってほぼ消える事だろう。

 実にクリーンな仕様である。

 人類同士の戦争であろうと後腐れなく撃ち放てそうな程に。


 やはり人間とは恐ろしいものだ。

 新たな技術を使って造り上げた物が、この様な超破壊兵器とは。


 救いがあるならば、その兵器をこうして宇宙の維持に使えた事か。

 その点で見れば、福留が愛した人類の叡智は紛れもなく世界を救った事になる。


 なんたる皮肉だろうか。

 人類同士で殺し合う為に造られた兵器が世界を救うなどとは。

 元々は人類を救う為に産まれた技術で造られた殺人兵器だったのに。


 しかし世界は救えても、人は救えない。

 少なくとも、破壊の領域へと巻き込んだ者達は。




 それでも生き残りたいならば、自衛を貫く以外に道は無い。




 光が収まった時、()()は姿を現した。

 真っ黒に焼き尽くされた塊が。

 元々がなんだったのかわからないくらいに溶け爛れた鉄塊が。


 その中では―――


「莉那さん、生きていますか?」


「はい、なんとか……」


 そう、二人がなんと生きていたのだ。

 あれだけの爆発の中であろうとも、しっかりと。


 これはグランデスの防御機能の賜物。

 対命力爆滅用の防御シールドがしっかりと備わっていたのである。


 もちろん、それがあっても防げるとは言い難い威力だった。

 でもその事は当然、福留達も知る所で。

 だから追加で対物質干渉(リフジェクター)軽減膜(フィールド)と外部命力壁を駆使し、最大限の防御に徹した。


 そのお陰でこうして生き残れたという訳だ。


「いやはや、一か八かでしたが……何とかなりましたねぇ」


「ええ、紛れもなくこれもう終わりでしょうね。 ようやく休めますよ、はぁ」


 とはいえ、全てが順風満帆とはいかないが。


 操縦席内部は至って無事と言える。

 リフジェクターのお陰で外も微かに見えるし、内部機構も形を残していて。

 でも想像を超えた破壊の所為で、空調がどうにも効かない。

 おかげで操縦席内部はほんの少し暑くてゆで上がってしまいそう。


「さぁて、後は救助が来るのを待つだけですが……果たして、この状況で来てくれますかなぁっはっは」


 おまけに機体は大地と一体化するくらいに溶けている。

 これではすぐさま開放は困難かもしれない。

 それに周囲には、ほんの少しだが放射線も飛び交っている事だろうから。

 そんな中へ容易に来れる救助隊などある訳も無く。


「これはしばらくサウナを愉しむしかありませんねぇ」


「まぁ、安堵の苦しみだと思えばまだ気軽ですけどね」


 だから今はただ勝利の余韻に浸るのもいいだろう。

 その為の苦しみなら、二人は喜んで受け入れるだろうから。


 これが今の二人が願う、至福の形なのだから。






 二人の覚悟が遂に【揚猜】オーギュをこの世から消し去った。

 これで【六崩世神】が全て倒された事になる。


 つまり、決戦が今この時から始まったという事だ。


 今頃、勇と心輝と瀬玲がアルトラン・ネメシスと対峙している事だろう。

 世界の真なる救済の為に。

 全宇宙の理を守る為に。


 しかしこれは所詮まだ序曲に過ぎない。

 僅かな可能性を切り拓くのは、これからの事なのだから。


 故に今願う。

 人類が、魔者が、生命が願う。


 その可能性を切り拓く事を。

 明日への運命を掴む事を。

 勇達が可能性を諦めない限り。


 故に世界は抗おう。

 その強き意思に従って。




 人はまだ―――生きたがっているのだと。






第三十八節 完




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