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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十八節 「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
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~これが覚悟の輝きだ 莉那達 対 揚猜④~

 【揚猜】オーギュの逆襲。

 その執拗かつ策謀的な戦いが遂にグランディオンを追い詰める。


 グランディオンは右足の膝下を失い、左足も不全状態。

 左翼をも失い、機動力はもはや半分以下だ。

 たちまち膝を突き、満身創痍の姿を晒す事に。


 その無様な様子を前にして、オーギュが堪らず優悦に浸る。

 追い詰める事も無く見下し、せせら笑いながら。


「やはり肉共の出来る事など、所詮はこの程度よォ。 そのまま這い蹲って我等が神に許しを請い願うといいぞォ!! 何をしたって助かりはせんがなぁ!! そう、俺の様に敬愛し尽くさねば!!」


 既に察しているのだろう。

 グランディオンにはもう打つ手が無いという事を。

 ここまでの戦いで、自身を傷付ける様な武器を見せつけられなかったが故に。


 実際その通りだ。

 極光線砲を破壊され、翼をもがれた今、効果的な武装はもう無いに等しい。

 通常戦闘が出来るほどの出力は得たが、装備が無ければ元も子も無いだろう。

 まだ空を飛べれば打開策はあったかもしれないのだが。


 成す術無し。

 それを理解した福留達に、唇を噛み締めた苦悩の表情が浮かぶ。

 目前で余裕を見せつける強敵を前に、その打開策が浮かばなくて。


「フゥー……これは、どうやら諦めなければならない様ですねぇ」


 遂にはあの福留の口からこの様な言葉までが。

 そんな声を聴いた途端、莉那の目元がピクリと震える。


 認めたくなかったのだろう。

 意固地な所もあるからこそ、現実を受け入れ難くて。

 まだ心のどこかで、どうにかなると思っていたから。


 でもこれはもう認めなければならない事だ。

 相手の方が一枚も二枚も上手だったのだと。

 このままでは自分達に勝ち目は無いのだと。




 ただし、これは決して気の迷いでも落胆でも無いが。

 



「―――()()()()()()()事は、もう諦めましょう」


「そうですね。 どうやら私達に足りなかったのは覚悟なのかもしれません。 やっぱり勇さん達の様にはいきませんね」


 彼等は戦いを諦めた訳ではない。

 単に〝完勝〟を諦めたのだ。


 古代人が造り上げた戦闘プログラム【G・D・O・N】は完璧だった。

 戦闘慣れしていない莉那があれ程までの動きを体現出来る程に。

 それでも倒せなかったのは、ただオーギュが想定を超えた存在だっただけに過ぎない。




 ならば【G・D・O・N】を超えるプログラムを構築すればいいだけだ。

 オーギュを完全滅壊出来る秘策を盛り込んだプログラムを。


 無事では済まされないであろう能力の構築を、今ここで。




「いいですか莉那さん、五分です。 五分、時間を稼いでください!」


「わかりました。 一時的に全システム管制をメインパイロットに移行!」


 福留がそう言い放った途端、前シートに納められていたキーボードを「ガチリ」と倒し出す。

 内部システム書き換え用の緊急アクセスツールである。


 そのキーボードへ手を翳し、一つ息を整えて。

 何かを想う様に目を瞑り、口元を「キュッ」と引き締めさせる。


「さて……ビーンボール、貴方に教わった事を実践する時が来ました。 だから祈っていてください。 私達の様な年寄りにも、まだ成せる事はあるのだと……!!」


 これは祈りだ。

 ここまで自身を繋いでくれた仲間への。

 そして、自身が仲間達の想いに応えられる事への。


 その想いが十指を動かす。

 何一つ迷う事無くキーを叩き始めたのだ。

 しかも常人・老人とは思えぬ恐ろしいまでの速度で。


 たちまち画面へと、数列が凄まじい速度で刻まれていく。

 考えたままのプログラムが確実に、何一つ間違う事無く。


 一方の莉那も負けてはいない。

 思考を巡らせ、グランディオンを奮い立たせていたのだ。


「グランディオン、両翼を強制パージ。 リフジェクトライトを脚破損部へ射出着化。 主考(イニシェイト)戦闘(コンバット)モードを継続します!」


 不全の左足を紫水晶で固め、右足も損傷を覆い隠し。

 右翼もたちまち切り離されては大地を揺らさせて。


 そうして示す為にも再び立ち上がろう。

 人造神はまだ、諦めてはいないのだと。


「ほぉ!? まぁだやる気なのかぁ鉄屑めぇ!! ならば望み通り粉々に打ち砕いてくれるわァ!!」


 その様な姿を見せつければ、オーギュとて黙ってはいない。

 またしても四つの腕を振り上げ、その力強さを見せつけていて。

 脚が二本に戻っている辺り、あの隠し足は攻撃の為だけのものなのだろう。


 しかし機動力は変わらない。

 超重量の上半身をも支えられる巨岩脚ならば。

 再び荒々しく大地を蹴り、グランディオンへと向けて突撃していく。


「腕部装甲開放、【アームブレード】展開ッ!!」


 それに対するグランディオンが執ったのは当然、武装展開。

 その掛け声と共に現れたのは、両手甲に輝く光の剣だった。


 超出力命力を誇るからこそ成し得る、高濃度の命力刺突剣(ソウルブレード)である。

 規模だけなら茶奈が体現していた物と同等の代物だ。


 だからといって通用するかどうかはわからない。

 でも使わないよりはずっとマシだろう。

 あと五分弱、時間を稼ぐ為ならば。


 両手を輝かせ、グランディオンが跳ねる。

 それもあろう事か、迫るオーギュへと向けて一直線に。


「ぬおおッ!? 小癪なぁッ!!」


 そんな相手を迎え撃たんと、オーギュの巨腕が再び空を裂く。

 先程のデジャヴを感じさせる剛拳撃として。


 だが莉那は同じ過ちを繰り返さない。

 一度見た以上、認識は既に実際以上を想定した形へと塗り替わっている。


 故に、グランディオンは跳ねていた。

 正拳突きを躱し、頭上から迫っていた背腕をも掻い潜って。


 高機動は何も翼と足だけが成していた訳ではない。

 腰やふくらはぎ、腕部にも補助推進器(ブースター)が内蔵されているのだから。

 だからこそ跳躍軌道変更程度ならお手の物だ。


 たちまち空へと通り抜け、反撃の十字二閃を刻み込む。


ギャギャアンッ!!


 その瞬間、オーギュの背腕が一本空へと刎ねる事に。


 これが決定打にはならない事などわかりきっている。

 敵の戦力を削ぐくらいが関の山だろう。


 でもこれでいい。

 高出力ならば通用するとわかっただけでも。

 福留が指定した時間さえ稼げればそれで。


 その思い切りが莉那の判断力を加速させる。

 グランディオンの機能【S.A.D.A.M.E.】と相まって更に。


「肩部装甲展開、【ヴォルトロンランチャー】!!」


 オーギュの後方へと着地するや否や、次なる手段が展開される。

 肩甲がスライドして開き、幾つもの砲穴を露わにしたのだ。


 そうして放たれたのは無数の連装光弾。

 個々の軌道を描き、背を向けたオーギュへと迫り行く。


ズズン!! ドゴゴゴッ!!


 一発一発が戦闘機用ミサイルをも凌駕する爆砕光弾だ。

 それらが着弾したと同時に炸裂し、大気を揺らす。

 オーギュの身をも包み込みながら何度も何度も。


 しかし突如、爆発の中から巨大な手が飛び出してきたではないか。


 その様な爆発であろうともオーギュは怯まない。

 例え少し欠けようが構わず突っ込んで来たのである。

 

 ただその伸びた手はグランディオンを掴む事無く宙を裂く。

 莉那はそれさえも予知し、光弾を放った時にはもう退いていた。

 しかもそれだけに留まらず、手甲から光線砲を撃ち出して追撃を加えていて。


 それは【アームブレード】の原理を応用したハンドカノン。

 濃度こそ剣の時よりも薄いが、威力は肩光弾よりもずっと高い。


 故に当てられたオーギュの手が砕け、指が飛び散っていく。


「ノォォォーーーーーーウッッ!!! キッサッマー!!!」


 どうやらある程度痛覚はあるらしい。

 だからこそ破壊された腕を振り上げ、痛がる様を晒す事に。

 ただそれも、憤りを増させる行為にしかなりはしないが。


 間も無く、破壊された腕がメキメキと難なく再生を果たす。

 当然だ、再生の材料は今足元に無限と存在するのだから。




 しかし、その再生の間で―――もう必要な時間は充分稼げた。




「お待たせしました莉那さん。 プログラム【C】構築完了です」


「四分十二秒、早かったですね」


「ええ、思った以上に指が捗ってくれましたから」


 そう、福留が戦闘プログラムの構築を終えたのだ。

 それも想定よりもずっと早く。


「今メイン領域に転送完了しました」


譲渡確認(アイマーク)、【C】モード起動(アクティベーション)!!」


 突貫作業による仮物だが、その出来は完璧と言いきれる。

 何せ他意思が絡まない限り全てを完璧にこなす福留の造った物なのだから。

 だからこそ莉那は迷い無くプログラムを起動させた。

 福留が思い描いたオーギュ打倒の切り札を。


 するとたちまち、グランディオンが赤光を纏い始める。

 稲妻をも纏い走らせる程の高濃度の命力走光を、装甲の隙間から強く。


 命力増幅器(ジェネレーター)が唸りを上げ。

 各部機構部が光を打ち放ち。

 紅く染まった眼水晶が煌めきを迸らせる。

 その様相は命力解放(フルオーバードライヴ)状態にも似ていよう。


 でも何かが違う。

 先程よりもずっと禍々しくて。

 グランディオン自らが震え軋む程に。


 それでも二人は冷静だ。

 起動させたプログラムの意味を充分理解しているからこそ。


「さぁやりましょうか。 何が何でも私達は勝たねばならないのですから」


「ええ。 私達は礎ですから。 ならば礎らしく成し遂げましょう―――そのためにもッ!!」


 故にその覚悟が、グランディオンを咆哮させる。

 全身を、内蔵機器までをも震わせながら。

 叫びを視覚化させんばかりの赤閃光を全身から解き放って。


 そうして一歩を踏み出す姿はまるで血塗れの赤鬼だ。

 であれば噴出する赤の燐光は血飛沫か。

 その異常なまでに変貌した姿は、あのオーギュでさえ怯ませる。


 それだけの威圧感が今のグランディオンにはあったのだ。


「ぬぅぅぅ!! おのれ鉄屑が何をしようとォ!!」

 

 しかしオーギュとて、賜った岩体を信じていよう。

 ならばと、憤りを見せたままに踏み込み駆け抜けていく。

 グランディオンが飛び出したのと同時にして。


 その間も無く、二人の拳が突き出される事に。

 

バッキャァァァーーーーーーンッ!!


 途端、二人の間に轟音が鳴り響く。

 グランディオンの突き出した左腕が肩ごと押し潰され、砕け散った事によって。

 真向からの打ち合いではオーギュの方が圧倒的に有利だ。


 ただそれでもグランディオンは止まらない。

 オーギュの懐へと潜り込まんとその身を屈ませていて。

 更には右手の【アームブレード】で、オーギュの左肩根元を打ち貫く。


 強烈な慣性が、相対速度が、その威力を十二分に跳ね上げた。

 オーギュの左肩を砕いて斬り落とす程にまで。


 だがその瞬間、グランディオンの頭上から強烈な打ち下ろしが。

 背腕が容赦無き追撃を身構えていたが故に。


ギャギィィィンッ!!!


 その一撃が無情にも、グランディオンの頭部横半分を削り取る事となる。

 内部の管制室もが弾け、内装品を跡形も無く吹き飛ばしながら。


 でも、それであろうともグランディオンは止まらなかった。


 遂には懐へと潜り込み、引き構えていた右腕で狙いを定める姿が。

 オーギュの腹部、自ら弱点と宣っていた場所へと向けて。


 ―――今、突き出される。




ギャァァァーーーーーーンッ!!!




 しかしそれはあろう事か、通る事はなかった。

 拳自体は打ち当たったのだが。


 命力の刃が刺さる事無く弾かれていたのである。


「ぬぁははーーーッ!! ここが弱点とは言ったがぁ!! この本体こそが最も強固なのだぁッ!!」


 そう、オーギュの宣った事ははったり(ブラフ)

 弱点を敢えて狙わせて隙を突くという策略だったのだ。


 そして今、グランディオンがその策略にハマった。

 ならばもう後は思うがままに砕くのみ。


 途端に背腕がグランディオンの腰部を抱き込む様にして捕らえ、締め付ける。

 強引に、力の限りに。


 するとたちまちその巨体が軋みを上げて亀裂を走らせていく。

 胴体の中で最も脆い腰部から、ミシミシと音を立てて。

 その亀裂からも赤閃光を鮮血の如く吹き出しながら。


 もはや脱出さえもままならない状態と言えよう。

 万事休すか。




 ―――と言っても、中の二人は妙に冷静だったが。




「さてさて、そのまま一生懸命抱いててくださいねぇ」


「【グランデス】固定具パージ完了。 おじい様、いつでもいけますよ」


「こちらも準備完了です。 では行きましょうか」


「了解、グランディオン背部排出口強制開放!!」


 しかもこの様な余裕まで見せつけて。


 すると操縦席内部モニターが突如として【グランデス】の視界へと切り替わり。

 それと同時に頭上を覆っていた天井が破裂し、赤閃光迸る空が露わに。


「―――【グランデス】緊急離脱ッ!!」


 その間も無く【グランデス】が爆音を響かせ、頭上の穴から飛び出していく。

 グランディオンをオーギュに抱かせたままにして。


 オーギュが気付く訳も無いだろう。

 その視界が鉄の塊(えもの)によって妨げられているから。

 何より、捕らえた敵を潰す事に夢中だったからこそ。


 【グランデス】が遥か後方へと飛び去って行く。

 まるで砲弾の如く弧を描いて。


 そのまま大地へと降り立った時、二人は笑みを浮かべていた。

 景色の遥か先、小さく見える二体を前にして。

 

 起動させしプログラム【Companion(仲良く逝こう)】を遂行しきった事で。




「三、二、一 ……はい、お疲れさまでした」




 福留のカウントダウンはグランディオンと連動している。

 つまりそれは、オーギュを道連れとする秘策への数かぞえ。


 その時にはもう、グランディオンの包む輝きが強さを増していて。

 赤く強く輝き、遂にはオーギュをも包み込む程に。


「ぬぅ!? なんだ、なんだこれはァァァーーーーーーッ!!!?」


 しかし気付いた時にはもう遅い。

 既にグランディオンに籠められた命力は臨界点を突破した後なのだから。

 自己融解し、他物を巻き込む程の強大な破壊エネルギーとして。

 

 そしてそのエネルギーが膨張し尽くした瞬間―――




 砂漠一帯が、陽光を押し返す程の真っ赤な光に包まれる事となる。






カッッッ!!!!!






 そんな爆心地を今この時、福留と莉那は悠々と眺めていた。


 赤光波が収まって間も無くそこに浮かんでいたのは、煌めき輝く赤の珠。

 何もかもをも焼き尽くす破滅の光だ。


 これは極光線砲とは性質が異なる、命力を暴走させて解き放つ超爆発である。

 それも命力そのものではないからこそ、地面さえも抉り消し飛ばせるという。

 加えて、命力制御による領域限定機能までも有し、その消滅範囲は限定的。

 それ故に領域内の破壊エネルギーは凝縮され、その威力を格段と増させる。

 なればもはや極光線砲をも遥かに凌駕しよう。


 これがグランディオン最期の光。

 己の身体をも犠牲とする最終手段―――自爆、だった。


 しかしこれで良かったのだろう。

 強大な力を誇るからこそ、いっそこうして消し飛んだ方が。


 それで宿敵を倒せるのならば、古代人もきっと本望に違いない。




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