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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十八節 「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
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~鬼神再臨 獅堂達 対 忘虚④~

 ズーダーが光球の中へと飛び込んだ後。

 獅堂達はただただ逃げの一手だけに殉じていた。


 それは他に何も出来る事が無いから。

 バロルフを抱えた獅堂も、普通の人間のディックも成す術が無いから。


 戦況は既に散々たるものだ。

 逃げる途中で自慢の魔剣をも喰われて。

 銃も補助具もただの重しだと脱ぎ捨てて。

 抗う力も無く、ただただ光球を避けては走るだけ。


 悔しい。

 情けない。

 不甲斐無い。

 そんな想いが二人の脳裏をぐるぐると掻き回す。


 あれだけ大見得切ってこのザマなのだ。

 おまけにズーダーも失って、バロルフも死に体で。

 例え信じろと言われても、消えてしまえば不安だけが募ろう。

 このままでは、例え世界を救えても勇達に合わせる顔が無い。


「どうすればいい、どうすればッ!?」


 ディックはもう言葉を返す事さえ出来ない程に疲弊しきっている。

 やはり普通の人間ではこの様な戦いには適応しきれない様だ。


 もう大光球は地表をも飲み込み続けている。

 故にその重圧(プレッシャー)は計り知れない。

 際限なく膨らむ破壊の権化から、いつまで逃げ続けなければならないのかと。


 もし少しでも足を留めれば、追い付かれてしまうかもしれない。

 そんな恐怖が必要以上に体力を奪い、消耗を加速させて足を鈍らせる。

 悪循環だ。

 二人の顔が悲壮感で覆われる程の。


 しかしそんな落ち掛けた二人の心を、思い掛けない存在が掬い取る。




『皆、聴こえるか!? 私だ、ズーダーだ!!』




 ズーダーの声が腕輪(リフジェクター)から聴こえて来たのだ。

 僅かに雑音(ノイズ)を拾ってはいるがハッキリと。


「ズーダーさん!? 今、一体どこに!?」


『光球の中だ。 それよりも、キッピーを倒す方法がわかった。 皆の命力波を光球に注いで欲しいのだ! そうすれば本体を破壊出来るかもしれん!!』


「ええッ!?」


 きっと獅堂達にも余裕が無い事はわかっているのだろう。

 だからこそ理屈を掻い摘み、要求を真っ先に押し通す。


 それしか今の彼等が勝つ可能性は無いからこそ。


 でもズーダーは今置かれた現実を知らない。

 もう外側(獅堂達)にはそれさえ成せる力が残っていないという事実を。


 獅堂はもう精神的にも追い詰められ、命力が委縮しきっていて。

 命力量が自慢のバロルフも吸心に抗う事で弱り切っている。

 ディックに関しては言わずもがな。

 

「待てよ、光の中に突っ込んで平気なら、僕らもあの中に入ればいいんじゃ!?」


『いや、中からでは駄目だそうだ。 命力の本質が変わってしまうらしい!』


「それ一体誰に聞いたってんだいッ!? 中に攻略本でも仕舞われてたのかあッ!?」


 おまけに中に入る訳にもいかないという。

 これでは光球に命力を注ぐどころの話では無い。

 逃げるのに必死で、力を放出するなど不可能だ。


 つまり、獅堂達ではもうロワを倒せないという事に他ならない。


 焦りが募る。

 絶望が滲む。

 決死で飛び込んだズーダーにも応えられなくて。

 勝利の糸口が見えているのに、手が出せない。


 ただ必死に、彼方を見据えて駆ける事しか―――




「つまり命力を注ぐだけで勝てるのだな。 ならば容易い事だ」




 その時、突如として二人の視界がぐるりと回る。

 低く唸る様な、謎の声と共に。


 まるで空を飛んだかの様だった。

 それだけの重圧、空圧、そして浮遊感が襲ったからこそ。


 それに何より、光球達があっという間に景色の彼方へ。

 一瞬にして距離を離す程の速度で〝飛ばされた〟事によって。

 謎の存在が彼等を掴み飛んでいたのだ。


ガゴゴォッ!!


 その間も無く、獅堂達を抱えた存在が大地を踏みしめる。

 アスファルトを打ち砕きながら力強く。


「何か状況が変われば叫べ。 お前達がやる事はそれだけで良い」


「え、あ……」


 そうして解き放たれた獅堂達が尻もちを突く。

 目前でそそり立つ赤の巨体に唖然とした眼を向けながら。


 獅堂もディックも、その男を知っている。

 素性こそ知らないが、その強さだけはよく知っている。

 かつての【東京事変】の映像で、その強さを見せつけられたからこそ。


 その体躯、人を胸元にさえ至らせない程に高く逞しく。

 赤黒い肌と引き締まった肉体は歴戦を越えたに相応しい。

 頭頂に伸びし角は、この男が誇る力の象徴か。


 そして体に滾る輝きは、今知る誰にも劣らない程に強大無比。




 それを示す男の名は―――ギューゼル。

 かつて魔者最強として【魔烈王】の名を冠せし鬼神が、何故か今ここに。




「あ、アンタは死んだはずじゃあ……」


「その問答は必要か? 否、不要だ。 ならば行こう、俺の成すべき事を果たす為に」


 しかし間も無く、そのギューゼルは景色の彼方へ跳んでいく。

 その規模を膨らませ続ける光球へと向けて。

 唖然とする獅堂達を置き去りにしたまま。


 驚かない訳も無い。

 ギューゼルは二年半前に茶奈達と戦い、討ち倒されたと思われていたから。

 その弟子であるアルバさえ、師が生きている事など知りもしないだろう。


 でも、だからこそ期待せずには居られない。

 膨大な命力を誇っていたギューゼルが助っ人として現れたのならば。

 かつて剣聖ともまともに戦いあった事のある男ならば。


 今は情けなくてもいい。

 役立たずと罵られても構わない。

 それでもただひたすらに願い続けよう。


 鬼神の勝利と、仲間(ズーダー)の無事を。

 





 ギューゼルが舞う。

 光球の埋め尽くす廃墟へと向けて。

 己の命力を翼が如く羽ばたかせながら。


 その両腕から惜しむ事無く。


 ギューゼルの両腕はかつての【東京事変】で茶奈に断ち切られたはずだ。

 にも拘らず、今の彼の両腕は何故か元通りに。

 しっかりと自由に動く両手までが備わっている。

 

 ただし、肌の色が全く異なるが。


 赤黒いギューゼルの肌に対し、腕先は人間と同じ肌色で。

 境目には溶接跡らしき跡がくっきりと残っている。

 それでいて不自然無い形に整い、暗闇の中なら差などわかりもしないだろう。


 そんな腕を奮い、遂に光球達の前へと躍り出る。

 恐れる事も無く、怯む事も無く。


 そして一歩を堂々と踏み出すその姿はまさに歴戦の王。

 従者を鼓舞するが如き雄姿を惜しむ事無く見せつける。


「存在を喰っているか。 だが俺を喰えるかな? 現役を退いたとはいえ、この俺はまだ【魔烈王】なのだッッ!!!」


 その洞察眼もまた年季の賜物か。

 光球の特性にもすぐに気付いた様だ。

 しかし理屈さえ理解すれば対処は簡単である。


 それを成せる程の経験がギューゼルにあるからこそ。


 小光球が迫る。

 四方八方から見境無く。

 目の前に現れた闘志へと向けて。


 ゆっくりと歩み来る鬼神を消し去る為に。


ギャギャギャッ!!!


 だが、喰えない。


 なんとギューゼルは耐えていたのだ。

 光球達が当たったにも拘らず。

 今なお次々と当たり続けているにも拘らず。


 全ての光球を全身で受け止めていたのである。


 境目からは耐えず火花が飛び散り、それ以上の侵攻を許さない。

 それは圧倒的な命力を誇るが故に。

 強靭な肉体を誇るが故に。


 鋼の肉体は魔剣無しの今でも健在だ。

 ならば小癪な光球如きが止める事など叶いはしない。


 そう、なお歩き続けている。

 体に光球を無数にくっつけてもなお。

 膨らみ迫る大光球に向け、腕をも掲げて迎え撃つ姿が。


「なるほど、そうか。 貴様は記憶を喰らうか。 よかろう、ならば喰わせてやる。 俺が駆け抜けた八〇〇年の記憶を!! だが喰いきれるかな? ここまで溜め込んだ俺の悲しみを」


 悟りの眼を向け、力を迸らせる。

 全身に光を放ち、心を昂らせる。


 その脳裏に、人生を賭して築いてきた記憶を駆け巡らせて。




「俺の想いが勝るか、貴様が受け止めきれるか―――勝負だあッ!!」




 今こそ解き放とう。

 鬼神の壮絶な過去を、命力と共に。


 この世界で愛を求めたが故に絶望を知った、たった一人の男の人生を。




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