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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十八節 「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
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~二人は一つで二つ ナターシャ達 対 劣妬①~

 茶奈の宣言から間も無く、ロシア・モスクワの街は恐怖のどん底へと突き落とされた。

 【劣妬】ペルペインの容赦無き無邪気な邪行によって。

 街を壊す事も無く人間・魔者だけを執拗に狙い、確実に殺し回った事で。


 こうも殺してしまえば意味は無いなどと思うだろうが、それは少し違う。

 地球上に住む人間の数に比べれば、こんな街の六つや七つ分などたかが知れている。

 ならより多くの者達へ、一斉にリアルな恐怖を味合わせ、それを世界に伝えるだけでいい。

 たったそれだけで、残り大半の人類が絶望に堕ちるのだから。


 もっとも、ペルペインに限ってはそこまで考えてると言えないが。


「ペルね、ペルね、いっぱいにくをたべるの。 それでね、いつかニンゲンになるの! よわーいよわーいニンゲンになるのが、ペルのゆめなの!」


 誰に言っているとも知れぬ語り草を上げ、逃げ惑う者達を伸びる角で突き刺していく。

 その度に角が悦んでいるかの様な輝きを放ち、光を本体へと送っていくという。

 まるでストローで溶液を吸い取るかの様に。


 これをしいて例えるなら、蚊だ。


 蚊は他の生物の生き血を啜って繁栄を続ける虫で。

 その為には、例えどの様な大きな相手だろうとお構いなしに襲い掛かろうとする。

 でもそれは生存本能に従っているだけだから、罪悪感など微塵も持ち合わせていないだろう。


 ペルペインはまさしくそれそのものだと言えよう。

 世界崩壊の為に残虐行為を行うも、それはあくまで自分の目的に付随するもので。

 他者から命を吸う事に、罪悪感も抵抗も一切無い。


 異なる所を挙げるならば、養分にする人間が弱いと思っている事か。


 実際、彼女にとっては人間など脆弱な存在でしかない。

 一つこうして角を突き刺せば、あっという間に干からびる程度の存在なのだと。

 ちょっと踏めば、それだけで消し飛ぶしかない脆弱な存在なのだと。


 故に憧れる。

 故に願わしい。


 劣る者に嫉妬し、成りたいという願望を抱きし準神。

 それが【劣妬】ペルペインの、邪神に付き従う理由であり、存在理由でもある。


 彼女はもしかしたら、世界崩壊の意味さえわかっていないのかもしれない。

 わかっていれば、どちらかと言えば世界を守る方に付くだろうから。

 ただし〝人間が餌〟だという概念を抱いたままにだが。


 可愛い(なり)をしていても、本質はそれだけ本能と言える程に超自我的だ。

 自我を保てていると勘違いしているジェロールとは格が違う。

 恐らく彼女が唯一、邪神の眷属でありながら真の抵抗を示せる存在だろう。


 しかしその抵抗の意志を抱く理由など、今は微塵も無い。

 ならば次にその本能が向けられるのは当然、餌たる人間達でしかないのだ。


 だからこそ今、ペルペインは狂喜乱舞する。

 念願の、大量の精気を吸い取れるこの時がようやく訪れたのだから。


 それはまるで、お預けを食らった犬が解き放たれたかの様に。

 本能を解き放たれたならば、理性無しも同然の彼女が止まるはず無い。




「みんなみんな、げんきをもらうね! ぜーんぶ、もらっちゃうね! あはははっ!!」




 遂には角が漁網の如く街全体をも覆い、なお逃げる人間を囲う様に襲い始める。

 例え建物の中に隠れようとも無駄な事だ。

 ビルの壁さえ軽く貫き、生命反応へ向けて一直線に突き抜けるから。

 決して一人たりとも逃そうとはしてくれない。


 故に間も無く、街から阿鼻叫喚さえ消えよう。

 枝分かれした角数と生存する人数の比率が拮抗した事で。


 しかも角の侵攻はそれで止まらない。

 更には近隣の街にまでその触手が伸び始めていて。

 このまま放置すれば、世界が守れてもロシアの国家存続が危うくなるのは必至だ。




 だが、その可能性の侵攻もたちまち停滞する事となるが。

 その角達が、空から迫る特別強い生命反応を察知した事によって。


 その生命反応とは当然―――ナターシャとアンディである。




「わぁ!? 街が光る網に包まれてるっ!」


「でも普通の網とは違うみたいだッ!! こっちに来るぞーッ!!」


 互いに二刀を携え、その加速力で急降下してきたのだ。

 そう出来る程の強力な命力を迸らせていたからこそ、角達は即座に感じ取れたのだろう。


 ならば迎えるのは当然、無数とも言える数の瞬きで。

 直下から周囲に至るまで一挙にして、角達が二人に向けて突っ込んでくる。


 その様子はまるで、空に光のドームを描くかのよう。

 それだけの広域から一斉に、弧を描いて向かって来たのだから。


「ナッティー!! 敵のボスを倒すまで、やられるんじゃねーぞッ!!」


「わかってる!! どっちが先に倒すか競争だよッ!!」


 でも二人も気持ちは負けてはいない。

 赤と銀の輝きを身に纏い、瞬きの群れの中へと恐れる事無く飛び込んでいく。


 自信満々の眼差しを直下へと向けて。




 二人の熟練度は皆と比べて低いかもしれない。

 でも誰よりも成長が速く、才能に溢れ、適応能力に優れているからこそ誰にも劣りはしない。

 その持ち前の感受性(センシティビティ)と何事をも受け入れる度量(キャパシティ)が大きいからこそ。


 故に、この二人もまた命力を操るあの三秘術を使いこなせる。

 今ならば魔剣靴【ナピリオの湧蹄】が無くとも空を翔ける事が可能だ。

 ナターシャなら当然のこと、ブランクの長いアンディでさえも。


 では何故、アンディまでもが秘術を扱えるのだろうか。

 実際の所、その身体の精錬度は獅堂にさえ劣るのに。


 剣聖が伝えた【剛命功(デオム)】、【命踏身(ナルテパ)】、【命流滑(トーマ)】。

 本来この三秘術は、並みの人間には扱えない代物だ。


 常人が無理に【剛命功】を扱えば、体のみならず内臓もが凝固して死に至るだろう。

 常人が無謀に【命踏身】を操れば、たちまち四肢が耐えきれず弾け飛ぶだろう。

 常人が無策に【命流滑】を放てば、命力流と共に己の血飛沫さえバラ蒔くだろう。

 

 つまり、命力操作技術のみならず、高度の肉体精錬度もが必要な技術なのだ。

 だから剣聖は今まで黙っていた。

 御眼鏡に適う者だけにこの秘術を教えるべきなのだと。


 しかし、その絶対的条件を強引に突破する〝裏技〟が一つだけ存在する。


 肉体が弱いのなら、その肉体を強制的に増強すればいい。

 それを成したのが別対式短刀型魔剣【アーデヴェッタの双心(ラカージュモ)】。

 二人の愛剣と同様の共感覚能力を誇る金の片刃刀だ。

 ただし能力の性質はと言えば、まさに魔剣というべきものか。


 その能力とは―――【双身同調】。


 心を繋ぐ先の魔剣と違い、新魔剣は片方の身体強度を物理的に増強するというもの。

 どちらか片方、強靭な方の身体をベースとして。


 簡単に言えば、使用者の片方を強い方の分身へと〝換える〟のである。


 それこそ、肉体そのものに一時的な変化が生じる。

 身体強度や反応速度、内臓動作からホルモン分泌量まで。

 外見こそ変わらないが、中身は別物と言っても過言では無いだろう。


 ではその心はどうなってしまうのか?


 本来ならば思考能力さえも変わってしまう。

 変化するのは脳も例外ではないのだから。

 しかもそうなれば最後、身体をまともに動かす事が出来なくなる。

 自意識が肉体の変化に適応出来ないからだ。


 ただし、二人には【レイデッター】と【ウェイグル】がある。

 心の共感覚能力を誇る自慢の魔剣が。

 この対の魔剣があるからこそ、アンディは心を維持したまま体を認識して戦う事が出来る。

 二つの魔剣が心を繋ぎ続けている限り、二人は同じながら別で在り続けられるから。


 故に今のアンディは、ナターシャでありながらアンディなのだ。


 これは二人だからこそ出来る戦術と言えよう。

 互いに心を受け入れ、換わる事も受け入れて。

 それでいて個で在り続けられる順応力を持つ二人だからこそ。


 だからピネは【アーデヴェッタ】を託した。

 二人ならば問題無く扱えるだろうと。




 そしてそれが今、救世の切り札が一つと化す。

 



 今のこの兄妹は、二人で一つなどではない。

 二人で、二つなのである。


 二つ閃光纏いて、天翔け降りる姿はまさしく双心の如し。

 激しく突き抜け、鋭く跳ねて落ちていく姿はもはや稲妻か。

 迫る殺意さえも軽々と躱し、怪しく光る群れの中へと飛び込んで。


 故に刻むだろう。

 それぞれの二刃が、稲光の如く煌めき誘うままに。


 二人の快進撃を前には、角達の応戦など無意味だった。

 近付くものは一瞬にして切り刻まれ、分断されて光へと還るのみ。

 並の攻撃などではもう止まらない。


 二人はそれだけ、今までを超えて昂り合っているのだから。




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