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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十八節 「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
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~世界を在るべきままとする為に 剣聖達 対 憤常②~

 剣聖が立ち塞がった事でパーシィにも余裕が出来たのだろう。

 空かさず倒されたキャロの下へと向かう姿が。


「良かった、生きてる! 生きてるわぁ!!」


 どうやら最悪の事態は免れたらしい。

 瓦礫の中から彼女を引き出してみれば、まだ息はあった様で。

 そうわかればと直ぐさま抱え込み、颯爽と剣聖達から離れていく。


「悪いけどここは逃げさせて貰うわん!! まぁアタシ達なんか何の役にも立たないだろうしッ」


「ああ、とっとと遠くに逃げやぁがれ」


 そんなパーシィを相手にも、剣聖は背を向けたまま相変わらずの塩対応で突っ返す。

 とはいえ、これが剣聖なりの優しさではあるのだが。


 これから巻き起こす戦いは恐らく、人知を超える。

 そこに〝常人〟二人が巻き込まれれば、剣聖の足枷となってしまうだろう。

 ならこうして逃げて貰った方がずっと戦い易いというものだ。


 幸い、もうゴルペオの好奇心はパーシィ達には向けられていない。

 今は目の前で立つ強者だけに一心を注いでいる様だ。


 故にパーシィ達が無事に彼方へ去ったのは間も無くの事で。


ズズンッ……!!


 たちまち、周辺一体に地響きが唸りを上げ始める。

 剣聖とゴルペオが共に己の身体を震わせた事によって。

 その体に内包した力を昂らせているのである。


 これから始まるであろう激戦に備える為に。


「寝覚めが悪いと言っていたが―――その心配をする必要は無い。 どうせ貴様らに望む明日は来ないのだからな……ッ!!」


「ほぉ、随分な自信じゃあねぇか。 片腕だけでどうするつもりなんだぁよ?」


「これか? 怒怒怒……この程度などなんて事は無いわ!!」


 そんな中、ゴルペオが肘下を失った腕を掲げ、奮わせたままに力を込める。

 するとどうだろう、突如として傷口が紫炎の様な炎に包まれ始めていて。

 その途端、なんと失われていた腕が突如として再生を果たしたではないか。

 まるで塵芥から構築したかの如く、周辺から集まった破片が固まる事で。


 形も、力も先程と寸分と変わらない。

 出来上がった途端に拳を握り締め、その力強さを見せつける。

 ただそれだけで「バォンッ!!」と爆音の如き衝撃波が産まれる程に強く。


「怒怒怒、この通り主様より賜った我の体は不滅。 そして憤怒の如く、打たれれば打たれる程さらなる強靭な肉体へと変化していく。 如何な者とてこの神体を砕き切る事など不可能よ!! その根源たる怒りを拭わねばなあ!!」


 そう、この再生能力こそがゴルペオの自信の根源なのだ。

 人間では絶対に滅せない、永久なる進化を続ける肉体を持つからこそ。


 その様な不死体を造り上げたアルトラン・ネメシスの如何に恐ろしい事か。

 もはや邪神にとって、命とてなんて事の無いただの工作物に過ぎないのだろう。


「いいのかよぉ、そんなネタ晴らししちまって」


「怒、怒、怒!! 構わんッ!! 聞いた所で我を滅する事など不可能なのだからなッ!!」


 しかしその工作物も、人類にとっては最悪の脅威となる。

 パーシィでさえ傷一つ付けられなかった上に、今の剣聖の一撃さえも無為に消え。

 言った通りならば、もう先程の力で打っても砕く事は出来ないかもしれない。

 普通の者ならこれだけで諦めようとも仕方の無い事だ。


 でも剣聖はと言えば―――やはり常人の型には嵌らないらしい。


「クハハ、そうか! 何度でも打ちまくれるって事かぁ!! なかなか面白れぇモン持ってるじゃあねぇか……!! ならよぉう―――」


 見下されていようと関係無く、身構え闘志を滾らせる姿が。


 当人はもう既にやる気充分と言った所か。

 相手が不滅だろうが進化しようが関係無い様だ。


 ならばゴルペオとて応えよう。


 それはこの男が決して武人の心を持つからではない。

 強者を更なる力で容赦無く叩き潰す事が主義趣向だからこそ。

 

「―――早速、ブチかまさせてもらうぜえッ!!」

「来るがいい!! 脆弱な肉如きが愚かさを知れぇいッ!!」


 二人の気迫は既に最高潮だ。

 故に、二人から打ち放たれた闘気がぶつかり合い、衝撃波さえも周囲へ撒き散らす。

 ありとあらゆる粉塵を、瓦礫を巻き上げ吹き飛ばす程に強烈な衝撃力を以って。


 


 だがその瞬間―――




 突如として、その衝撃波さえも押し込み飛ばす程の力が打ち込まれた。

 空より、二人の間を割る様にして。


ッドバォォォーーーーーーンッッ!!!


 まるで爆発だ。

 それも大地を抉り取ってしまう程の。


「んなあッ!?」

「ぬうッ!?」


 余りの威力に、剣聖もゴルペオも堪らず足を退かさせる。

 それだけ、二人にとって想定外でかつ強烈な一撃だったのだから。


 そう、想定外だったのだ。

 その者の登場は、双方にとっても。




「剣聖には悪いけれど、ここは私が戦わせてもらうッ!!」




 そうして現れたのは、人影だった。




 推参せし者、黄金の柔髪を靡かせて。

 銀色の身体にを輝きを、その節々に雷光をも纏い放とう。

 己の宿命に殉ずる事を望むままに。


 【鋼輝妃】ラクアンツェである。


 恐らくはウィグルイ同様、アルクトゥーンへ強引に乗り込んで来たのだろう。

 それも戦力外通告されていたからこそ内緒のままで。

 莉那達も航行に集中していて気付かなかった様だ。


「てめぇ、役立たずは待ってろって言っただろうがッ!!」


「そういう訳にはいかないわ。 私にだって意地があるッ!! 例え不完全であろうと、この力を全て注ぐという覚悟と信念がッ!!」


「て、てんめぇ……!?」


 当然、身体は通告を貰った時のまま。

 異音も出ていれば、節々に走る激痛も未だ健在で。


 でも、それさえも押し退ける気概がラクアンツェにはある。

 三〇〇年で培った胆力は、この程度では怯みもしない。

 それだけ、この長い年月で己を賭け続けて来たから。


 故に引き下がらない。

 例え剣聖が口煩く咆えようとも。

 共に戦う事になろうと、邪魔されようとも。


 世界の敵を討ち滅ぼす為に力を奮う。

 その為に生きて来た彼女に、それ以外の選択肢はあり得ない。


 それが例え、己の死に繋がる事になろうとも。


「同じ様な状況に立たされれば貴方だってこうしたでしょう? なら大人しく黙って見ていなさい。 主役というものは、引き立て役の前座が終わるのを黙って待つものなのだから」


「ラク、おめぇ―――」


「なら、世界を救う為の前座にさせて頂戴。 全ては、〝世界を在るべきままとする為に〟ね」


「―――ッ!? ……ちぃ、わかった。 なら好きにしろや。 だが何もしねぇで負けるんじゃあねぇぞぉ!?」


「ふふ、わかったわ。 ありがと!」


 その覚悟を、その信念を剣聖は知っている。

 だからラクアンツェの心の強さも知っている。

 体が不完全な今でも、仲間の誰よりも強いのだと。


 だからこそこうして送り出す事を決めた。

 共に戦うのでも無く、退けるのでも無く。

 彼女の思うがままに戦わせるのだと。


 決して見放した訳では無い。

 決して疚しい他意など無い。


 これは誓いの形である。

 遥か昔に交わした約束の、あるべきと願った姿なのである。


「どうやら先に我の相手をするのは貴様らしいな。 怒、怒、怒ッ!!」


「ええそうよ。 けれど、舐めないで欲しいわね。 死を賭けた者の強さというものをッ!!」


 ならばもう臆しもしない。

 目の前の強大な宿敵に、一つでも決定的な一打を加える為にも。

 三〇〇年で培い、築き上げて来た希望を後世へ繋げる為にも。


 今、その力を全てぶつけるのみ。




機構解放(イグニッション)ッ!! ウーグィーシュッ・フルオーバードライヴッ!!」

指令受託(レディ)




 その一言と共に、全身に走光が迸る。

 白銀鋼の輝きを際立たせる黄金の閃光が。

 それと同時に節々から命燐光までもが荒々しく吹き出して。

 肘から、膝から足首から、なんと小さな金の光翼が顕現したのだ。


 まるで極光を纏うかの如く、輝羅輝羅と瞬かせて。


 その姿は他の魔剣と違って殆ど変わりはしない。

 しかして今まで以上の機動性が実現可能となる。

 その節々に制限された機構が解放された事によって。


 こうなれば例え不完全であろうとも関係は無い。

 強引であろうとも、無理があろうとも。

 結果、身体がバラバラになるのだととしても。

 不調ならば、命力で纏めて無理矢理動かせばいいのだから。


 その強き鋼の意思が、不調さえ押し退ける。

 その未来に賭ける輝きが、弱い心を押し退ける。


 故に【鋼輝妃】。

 それこそが真の名の由来。

 鋼の体など、彼女にとってはただの手段にしか過ぎないのだ。


「さぁ、始めましょうか……未来に踏み出す一歩目をッ!!」


「理解出来んなぁ、負ける為の戦いなど!! 怒怒怒ッ!!」


 その【鋼輝妃】が今、剣聖に代わってゴルペオとぶつかり合う。

 全身全霊を賭けて、命ある限りに。


 いつか見た未来を、今生きる子供達へと託す為にも。




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