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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十八節 「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
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~その心、魔剣に託して アージ達 対 諦唯①~

 アメリカ大陸が日中-夕方の時間帯ならば、ユーラシア大陸は夜間となる。

 ヨーロッパの遥か南に位置するアフリカ、ナイジェリアもまた同様で。

 旧首都ラゴスは夜闇に包まれながらも、街らしい明るさを未だ帯びていた。


 とはいえ、それはただ明るいだけに過ぎないが。


 明かりは付いていても、動きが殆ど無い。

 街を彩るはずの声や機械の音などは一切周囲から消えていて。

 車もバイクといった物も全てが停止し、道路上に停まっている。

 それというのも、この街の人という人が皆揃って廃人と化しているからだ。

 謎の美女集団が突如として無数に現れ、彼等の意識を体から切り離した事によって。


 そう仕立てた元凶こそが【諦唯】マドパージェである。


 ……この場合、〝達〟を付けるべきなのだろうか。

 容姿様相、声、全てが同じ、違いは一切無くて。

 強いて言うなら挙動が異なるくらいか。


 そう、容姿も挙動も至って普通なのだ。

 普通の女性の様な細腕だったり、歩く姿も踊る様だが特別何かを壊す程でも無く。

 所によっては道に躓いたりなど、常人らしい様子も見せる程で。

 〝似ている女性が列挙して踊っているだけ〟と言われてもなんら不自然ではないだろう。


 その様子は他の【六崩世神】達と比べればなおさらで。

 それこそ不思議な能力や、廃人となった人間を踏み潰すだけの力はあるのだが。

 他に特筆する点は無く、無数にいるだけで人間の成人女性となんら変わらない。


 魔剣使いが一つ小突けば絶命してしまいそうな程に。


嗚呼(ああ)、強き意志が行く。 何故此の世界はかように強く在れるのでせうか。 諦めてしまえば何もかもが楽といふのに」


 そんな美女達が揃ってふと空を見上げる。

 一筋の残光を残して去る飛行物体を見送る様にして。

 やはり普通に見えても力を感じ取る事は出来る様だ。

 ならば彼女達はもう一つ気付いている事だろう。

 この地に降りようとする二対の〝強き意志〟に。


 故に美女達は皆微笑む。

 かの様な嘆きの声を上げていたにも拘らず。

 その細やかな笑い声を無数に重ねて合唱と化し、降り来る者を壮大に迎えよう。


 唯々、その者達をも諦めへと誘う為に。






 一方、空からは金銀二つの輝きが。

 地上へ向け、二つ揃って高速で落下していく。


 マヴォとアージである。


「一気に街まで降下して奴等を叩く!! 数が居るなら纏めて薙ぎ払うだけだッ!!」


「わかった!! だが奴等が人間みたいだからと加減はするな!!」


「兄者こそ【ギュラ・メフェシュ】に振り回されるなよおッ!!」


 その速度はもはや急降下する戦闘機の如し。

 しかもマヴォが地上へと向けて更なる加速を始めていて。

 両腕から光を吹き出す様相はまるでロケットだ。


 今のマヴォならば、もはや最大出力で降下しようが何の問題も無い。

 抵抗も恐れも何もかも、鍛え上げた身体が全て受け流してくれると信じているから。

 唯一の懸念である兄アージも、もはや心配する様な存在では無いと括っている。


 だからこそアージを容赦無く置いていくつもりで加速したのだ。

 まるで魔剣の扱い方と、その雄姿を見せつけるかの様に。


「フッ、強くなっても調子のいい所は相変わらずか。 良かろう―――ならばこの魔剣、俺も使いこなして見せようッ!!」


 ならばアージとて黙ってはいられない。

 例え力で劣っている事を認めても、追い付こうという意思が失われた訳では無いのだから。

 空かさず意気に駆られるまま両手に力を灯す。

 遥か前方を行くマヴォに追い付く為、そしてあわよくば追い越す為に。


 しかしその瞬間―――


ドッゴォォォォ!!!


 想像を絶する重圧がアージを襲う事になる。 

 そう、試験運用で心輝を半殺しにしたあの強烈な重圧が。


「ぐ、うおおおおーーーッ!!?」


 あの自慢の出力は今も健在だ。

 マヴォが使いこなしているから問題が無いだけで、むしろ出力だけなら現状の方が強い。

 それを知らずに使えば、マヴォと同じ肉体を持つアージとて翻弄される事となる。


 たちまち体中に引き千切れんばかりの軋みが走り。

 加えて肉が、内臓が押し潰されそうな重圧にも晒されて。

 真っ直ぐ飛んではいるが、もう既にアージから余裕は消えていた。

 余りにも強力な反動が故に、抵抗で身体が委縮し固まってしまっていたのだ。


 そうして出来た姿はまるで、空から落ちる亀のよう。

 みっともない姿を晒し、先程の己の意気に恥さえ感じざるを得ない。


「こ、これ程の出力とはッ!? マヴォめ、これだけのモノを扱っていたのかッ!?」


 そうなった今だからこそ、フランスでの戦いでのマヴォの強さが真に理解出来る。

 【アスタヴェルペダン】の一撃さえ凌ぎ、素手で破壊したあの地力を。


 マヴォの強さの秘密は、勇達と共に鍛えた事だけとは限らない。

 こうして【ギュラ・メフェシュ】を扱うなど、多くの可能性に触れてきたからだ。

 普通なら無理と言われそうな物を強引に扱い、使い慣れ、身体を合わせて来た。

 全てはその先に見える、〝自分自身の進化〟という可能性の為に。

 その可能性を信じて突き進むという曇り無き信念が、身体をも極限に強くさせたのである。


 気合いや気持ちだけではどうにもならない世界がここに在る。

 ただ(魔剣)を得ただけではどうにもならない世界がここに在る。


 その二つが培った体でしか成せない世界が今ここに。

 現実を前にしてアージはそう理解する。

 今見える景色と同様の、手が届かない程の力の差をも感じながら。


「そうか、お前はこうして強くなったのか……敵わない訳だ」


 手を伸ばしても届きそうになく。

 悔しくて、その手を握り締め。

 己の不甲斐なさを牙で噛み締めて。




「―――だが今は力が必要なのではない。 成さねばならぬという意思こそが必要なのだッ!! 力及ばぬのなら、俺が出来る事をするだけだあッ!!」




 しかしその不甲斐なさも、悔しさも、己の信念へと繋げられる強さがアージにはある。

 だからこそ再び体を開き、己の拳に力を込める。

 今自分の出来る事を、成すべき事を成す為の力を奮う為に。

 

 そして、その意思に魔剣が応えた時―――アージの世界がまた一つ、変わるだろう。


 突如として、加速に無理が無くなったのだ。

 体が軋む事無く、重圧も耐えられる程で、迫る地上への恐怖も薄れていく。


「おお、【ギュラ・メフェシュ】よ、俺に合わせてくれるか……!!」


 元々、魔剣とはこういうものだ。

 持ち主に感応し、力の強弱を使用者に合わせて調整してくれるという。

 道具として長く使い続けて来た者にはわからない相棒というべき存在で。

 きっとこの魔剣に対する認識もまた、マヴォの強さを象る要因の一つなのだろう。


 〝魔剣を信頼し、己の力へと換える〟

 以前のアージならば至れない境地だったのかもしれない。

 魔剣を忌み嫌い、破壊する事だけを考えてきた頃では。


 でも今、ようやく魔剣の本質に気が付いた。

 どんな魔剣よりも装着者の意志に敏感な、この銀手甲のお陰で。

 人を想うカプロ達が造り上げた事で、きっと感応力が限り無く高まっているからだろう。


 魔剣を物ではなく、自らの相棒として奮う。

 それが己の力の一つとわかった今ならば―――もう、迷う理由は無い。


「これなら行けるぞ!! ならば魔剣達よ、今こそ俺に力を貸してくれ!! マヴォ程とは言わん……でもせめて、この世界の窮地を脱せる程の力を俺にくれえッ!!」


 故に今、アージは地上へと向けて突き抜けていた。

 落ちるのではなく、自らの意志で加速出来ていたのだ。

 その両手に備えた魔剣を操るのではなく、意志を託す事によって。


「かあああーーーーーーッッッ!!!」


 ならば間も無く接敵しよう。

 マヴォ同様、地上にて待つ謎の存在達へと。


 その両手に黄金の剛槌を携えて。




 己の意志を、信念を、世界の敵へと打ち付ける為に。




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