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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十八節 「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
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~舞え、真の銀飛龍よ~

 勇達が流れ行く白光の元へと落ちていく。

 世界の中心(アストラルストリーム)へと赴く為に。


 これは普通の天力転送とはまた違う。

 全感覚を世界に散りばめ、全ての事象に意識を向けられる移動手段だ。


 それを成せるのが【第九の門 ギ・パュツヴォ】。

 【第四の門 ナ・ロゥダ】と同じ中核点の門である。

 ここまで解放する事によって、天士ではない心輝と瀬玲をも正確な目的地へと連れて行く事が出来るという。


 それと同時に、世界の中心の光景を見る事もまた。


「すげぇなこの景色……まさに幻想郷って感じじゃんか」


「宇宙空間も凄かったけどさ。 これ虹宇宙っていうの? もう別次元だよね」


 瀬玲にはここが虹の宇宙に見えるのだろう。

 確かに黒い宇宙と違って色が映えるから、そう見えるのかもしれない。

 勇とはまた少し違った反応に、連れて来た当人も「なるほど」と思わず声を唸らせる。


 でも本質的には似た様な物だ。

 宇宙全てを命脈に、銀河を人の多い街に例えればおのずと同じ様な光景になる。

 色彩はあくまでも光を受けた脳の認識でしかないのだから。


「まぁ綺麗なのは同意するけどあんまり夢中になるなよ? 手を離したらその瞬間に二人とも消滅するからな」

「マジかよ!?」

「そういう事、跳ぶ前に言ってくれない?」


 とはいえここが宇宙的な場所である事には変わりない。

 今は勇が言わば宇宙服の様な役目を果たしているから二人とも生きられる訳で。


 だからといって緊急時で説明しないというのもどうなのか。

 突如として打ち明けられた事実に、二人揃ってツッコむ姿が。

 所構わずな点は相変わらずである。


 もしかしたら星の中心でツッコミを入れた地球人は彼等が初めてではなかろうか。


「で、実際はどれくらい掛かるの?」


「時間的な感覚は現実と変わらないよ。 移動で三〇分とか言ってたから、それ以上は掛かるだろうな。 ただ道が拓けたら、その瞬間にはもうアルトラン・ネメシスが目前に居ると思ってくれて構わない」


「じゃあ着いた瞬間即戦闘って事も有り得る訳だ」


「ああ。 アイツがそれだけ血気盛んならな」


 今はまだこんな会話を行う余裕もある。

 だから今だけはこうして準備を整えつつ、会話に華を咲かせるのもいいだろう。

 道が拓けた時、この三人は即座に人知を超えた戦いへと身を投げ出す事になるからこそ。


 その時が訪れる事を信じ、勇達は待つ。

 感情渦巻く虹の宇宙に身を委ねたまま、ゆらりゆらりと。


 今はただ、仲間達が事を成すのを信じて。






◇◇◇






 仲間が去れば管制室も静かなものだ。

 電子音(ノイズ)除去されたこの空間では、タブレットを触れる音さえ目立つ程で。

 莉那が機体の最終調整を終え、ようやく〝SHUTDOWN(シャットダウン)〟ボタンに指を掛ける。


 これは勇達が星の中心へと跳んだ直後の事。

 ボタンが押された事で、とうとう管制室が闇に包まれる。


 でも、アルクトゥーンを機能停止させた訳ではない。

 全ての現代産の電子機器だけが停止したのだ。


 というのも、人員が不要な様に、電子機器を使う必要が無いから。

 それに加え、もう管制室をも使う必要が無いからである。


 そんな沈黙の管制室を跡目に、莉那が速足で立ち去っていく。

 ずっと世話になった場所なだけに、やはり感慨深いものがあるのだろう。


 昔は鉄面皮だなどと思われた彼女も、今はもう随分と軟化したものだ。

 人前でこんな感情を見せる事も少なくはなく、しっかりとした大人の仲間入りを果たしている。

 それどころか、もしかしたら今この艦に乗ってる者の中で一番大人なのは彼女なのかもしれない。

 剣聖やアージやマヴォ、ディックなどと比べてもずっと。


 だから今、そんな感慨さえ振り払って通路を駆けている。

 少しでも早く世界に飛び、世界の、勇の活路を拓きたいが為に。


 そうして艦内を駆けて間も無く辿り着いたのは、【第一電脳室】。

 【特禁室】とも呼ばれ、ピネにも疑いの目を向けられた事のあるいわく付きの部屋だ。

 その入口を専用カードキーを通して開けば、先には広くも暗い空間が広がっていて。

 にも拘らず、そのまま惜しげも無く足を踏み入れていく。


バツンッ、ババツンッ!!


 するとたちまちライトアップされ、部屋内部の様子が露わに。

 その中で彼女が見上げた先には、巨大な物体の影が。


 そこに佇んでいたのは、巨大なマシンだった。


 この機体の元名は【ウカンデス】。

 かつて勇達が空島へと初めて訪れた際に接収した古代ロボット型魔剣だ。

 大きさはおおよそ八メートル程度。

 四本の腕と四本の脚を持つ、多腕多脚の巨大ロボットである。


 しかし当時と比べると、その形は大きく変わっている。

 例えば、操縦席が剥き出しだったが故に搭乗者は丸見えで。

 でも今は金属製の天蓋(キャノピー)が設けられ、搭乗者の安全を意識した形に。

 他にも各種装甲が追加されたりなど、徹底的な強化改造が施されているという。

 もはや以前の形など見る影も無い程の魔改造っぷりだ。


 ただ、それ以外にも特異な部分が色々と見える。

 自慢の四脚が全て床に固定されている所などは特に。

 専用の拘束具で完全に一体化しており、容易には外せそうにない。

 その他には巨大なケーブルが背面から伸び、アルクトゥーンと繋がっている所か。

 このまま無理に切り離せば、どちらかに異常が発生してしまいそうな様相で。


 見る限り、どうにも戦える様な物とは思えない。

 オブジェと言っても差し支えない程の在り方だからこそ。


 それでも莉那は簡易タラップ階段を昇り、搭乗席へと向かう。

 何故なら、それはこの【ウカンデス】こそがアルクトゥーンの中枢ユニットだからだ。




 アルクトゥーンが機能不全に陥ったのは、いわゆる正規中枢ユニットが壊れた為で。

 そのままだと空島としては平気でも、旗艦状態での航行はほぼ不可能だったという。


 それをいち早く悟ったカプロとビーンボールは、解決策としてとある修復案を導き出す。

 同じ古代兵器である【ウカンデス】を代わりの中枢ユニットとして運用するという手段を。


 理論は完璧だった。

 何せ同じ技術を使って出来た物なのだから。

 大きさが異なるだけで、操舵機能を操る演算能力は大して変わらない。

 ならばと大幅な改造を施し、こうしてアルクトゥーンの新電脳として運用されている、という訳だ。


 そのついでに戦闘能力も強化するなど、調子に乗って弄った結果がコレである。




 つまり莉那はその新電脳の機体でアルクトゥーンを精密操縦するつもりだったのだ。

 生まれ変わった最新鋭ロボット型魔剣【グランデス】で。


 純白の専用魔装をその身に纏い、戦闘準備も万端だ。

 早速外部開閉スイッチを操作し、天蓋を開かせる。


 するとその時―――




「やぁ莉那さん、遅かったですねぇ」

「ッ!?」




 莉那の視線の先にはあの老人の姿が。

 なんと福留が既に操縦席の奥にて居座っていたのである。


 操縦席は複座式。

 つまり、最大二人乗りという事だ。


 きっとその事を知っていて、福留は先回りしていたのだろう。


 若人を見送るのはもう嫌だから。

 老人だからと置いて行かれるのはもう懲り懲りだから。


 だから決意したのだ。

 どちらかが戦うのではなく、共に戦うのだと。


 世界が滅びればどちらにしろ人生終了(ジ・エンド)だ。

 そこにもはや若者だ老人だなどと区別する理由は存在しない。

 ならもう共に戦えばいい。

 二人の力を合わせて戦えば、負担も減って成功確率はずっと増えるだろうから。


「お爺様、何故ここに!?」


「おや、野暮な事を訊きますねぇ。 もちろん戦う為です。 一人よりも二人で戦った方がずっと良いでしょう? それに、勝ちに行くのにわざわざ勝算を絞る必要はありませんし」


 そう、生きて勝てばいい。

 生きて勝って帰れば、莉那の想いも福留の想いも叶う。


 なら、わざわざ片方が残る必要も無い。

 どっちも戦いたいなら、二人で戦って生きて帰ればいいのだから。


「それに余り時間はありませんよ? 問答するよりも、今出来る最大の効果を導く方が大事でしょう? 私はそう教えたはずですが」


「……全く、お爺様の強情な所は相変わらずですね」


「はは、それはお互い様ですよ」


 そうわかってしまえば、莉那も否定する事は出来ないだろう。

 共に強情だという所はよくわかっているからこそ。


 やはり二人は祖父と孫でありながら親子だ。

 血が直接繋がっていなくとも、互いに長く長く見合って過ごしてきたから。


 なら獲る結果はもう目に見えている。


「ではお爺様は火器管制を。 私は操縦を担当します。 それでいいですね?」


「えぇ、えぇ、それが最良の選択です。 互いの得意分野で補い合いましょうか」


 間も無く莉那が颯爽と飛び乗り、操縦席へとその身を埋め。

 空かさず天蓋を閉じて操縦桿を握り締める。


 きっとそれが起動トリガーなのだろう。

 その途端に周囲の壁一帯が光を放ち、機器の始動音が響き始めていて。

 暗闇の操縦席を一杯の光が包む事となる。


 そうなれば外の映像が周囲一杯に映る事に。

 内部全域がリフジェクターモニターになっているのだ。

 マヴォの【ヴォルトリッターバラストブレイド】の隔膜モニターの基礎となった物である。

 しかしてその規模はそんな小型の機械とは比べ物にならない。


 現代技術と古代技術、そしてカプロの魔剣技術の集大成が今ここに。

 専用に、潤沢に仕立てられた兵装に一切の隙は無い。


戦闘用命力増幅炉(ソウルアクセラレータ)起動確認、サブフレームアクチュエータ内圧正常、各駆動制御全箇所問題無し(オールグリーン)


「火器管制チェック、問題ありません。 腕部マニピュレータ一番、二番、三番、四番―――動作正常。 カプロ君もビーンボールも良い仕事をしていますね」


「機械屋じゃないのにこれですからね。 【グランデス】全機能起動確認、皆さん聴こえますか?」


 遂にその集大成が起動を果たす。

 それと同時に莉那が画面へと声を上げると―――


 その間も無く、画面に後部ハッチの映像が。


 そこには既に到着していた戦闘員組の姿もが映っていて。

 莉那の声が聴こえていたのだろう、カメラに向かって手を振る様子も。


 つまり、準備は滞りなく万端だという事だ。


「これから世界各地に急行します。 各担当は表示されるカウントダウンと私の合図に合わせて降下してください」


『了解、こっちの心構えはもう出来てるよぃ』


「わかりました。 ではアルクトゥーン高速強襲モードへ、トランフォーム開始します」


 故に莉那がトリガーへと指を掛ける。

 戦闘開始を意味する引き金を引く為に。


 そして遂にその時が。

 機体が唸りを上げ、振動を始めたのである。

 これこそが形態変形(トランスフォーム)の始まり。


 今、銀の龍はその姿をあるべき形へと変える。






 この時、大地が揺れた。

 アルクトゥーンがその形を大きく変え始めた事によって。


 大地に着いていた逆ドーム型の居住区をそのままに、本体が空へと浮き始める。

 前後に別れ残った翼の長大部もが、居住区と共に送り出す中で。

 長い尾も同様に、大地へと傾き本体から離れていて。


 そうして現れたのは細身の銀龍。

 首の方が長いと感じる程の。


 そんな長い首がたちまち背面滑走帯(スライダー)に沿って、縮む様にスライド移動していく。

 するとどうだろう、出来上がったのは今までの半分以下の大きさとも言える戦闘機状の機体で。

 底部にはまさに龍と言わんばかりの、爪を模した後脚型マニピュレータなどがお目見えだ。

 それでも大きさは三〇〇メートル近くもあってかなりの巨体だが。


 これこそがアルクトゥーンの高速強襲モード。

 余分な重量を全て排し、機動力に全てを注ぐ為の姿である。

 その姿はまさしく飛龍そのものと言えよう。


 そしてこの時、転回しながら浮き上がっていた機体が遂に加速を始める。

 それも一瞬にして神奈川の地から消え失せる程の超高速度で。


 


 今、銀龍は真の飛龍となる。

 なれば世界を縦横無尽に駆け巡ろう。


 例え銀翼が折れようとも、目的を果たすその時まで。




「―――ホッホホ、もしやと思うて来てみれば、なかなか面白そうな事に巡り合えたではないか!! 果たして一体どういう戦いに連れてくれるかのぉ!?」


 そんな銀飛龍の腹部に、とある男がぶら下がる。


 その者、ウィグルイ。

 イシュライトの師であり祖父であるイ・ドゥール族最強の男だ。

 どうやら戦いの匂いを嗅ぎ付け、ここまで馳せ参じていたらしい。


 何はともあれ。

 彼ほどの者が加われば、戦力の一人として心強い事この上ないだろう。




 意外な力をまた一人加え、アルクトゥーンは行く。

 星を、世界を蝕む邪神の従者達を討ち滅ぼす為に。


 彼等にとっての最後の戦いはこうして始まったのだ。




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