~暴かれし伏兵、仇名す力を呼ぶ~
怪音と茶奈の宣告、そして【六崩世神】達の襲撃。
その一連の出来事は当然、グランディーヴァの面々にも届いていた。
幸いにもアルクトゥーン内部は命力フィールドのお陰で影響が薄く。
戦闘員達もビックリして起きる程度で精神的苦痛はそれ程無かった様だ。
ただその代わりに、早々に退艦した人員達は苦痛に晒されてしまった事だろう。
偶然とはいえ不幸に見舞われた人々を目下に、勇達の憤りを見せる姿が。
『今の音は宇宙を構築する【空間梁ポリフィック】が軋みを上げた音です。 敢えて言うならば〝宇宙の悲鳴〟と言った所でしょうか。 ですがまだ序の口でしかありません。 正崩壊を迎えればたちまち世界は更なる苦痛に包まれたまま消滅、感情固着するでしょう』
「もう間に合わないって事かよ!?」
「いや、これはただの脅しだ。 まだこの程度しか出来ないんだ。 だから何も抵抗が無ければ、ここから更に負の感情を汲み取って崩壊に足る力に換えるまでは、こんな事を続けるだろうな」
ただ、今は人員達に目を配っている余裕も無い。
音が止んだ今ならばもう。
それに勇達には別の懸念が見えていたからこそ。
「にしてもあのキッピーの野郎、まさか敵さんだったとはねぇ。 全く以ってやられたもんだ」
そう、それはあのキッピーだ。
今この時にも、キッピーの殺戮を行う姿が空に映り込んでいて。
そのあり得もしないはずの姿に驚きを隠せなかったのだ。
「ア・リーヴェさんは気付けなかったのかい?」
『申し訳ありません……私も全く気付けませんでした。 力を感じ取れないからこそ、怪しい素振りがなければ気付く余地も無くて』
よくよく考えればキッピーはやたらとア・リーヴェさんに執着し絡んでいた。
もしかしたらそれは一つの妨害行為だったのかもしれない。
存在を知らされずに天敵を葬り去ろうという。
それも勇達の仲間の一人として。
ならば懸念は広がるばかりだ。
勇達の持つ秘密がキッピーを通して漏洩している可能性もあったからこそ。
「じゃあ私らの情報も知らされてるって事なんじゃないの?」
「いや、それは恐らく無い。 行為は意思を映すからな。 この艦に物的証拠が残ればそれが意思の残滓になってア・リーヴェが察知出来る。 だからキッピーは徹底して馬鹿を貫いたんだろう。 俺達に悟られない様に、身近な所では何もせず茶奈を監視していたんだ」
ただそれに限っては杞憂に過ぎなかったが。
例えア・リーヴェが力を認識出来ないとはいえ、存在を悟れば認知する事が出来て。
そうなれば力を感じ取る事も出来る様になるし、誰が怪しいのかもすぐわかるだろう。
そしてその事を恐らく、キッピー自身も知っている。
『それに私達の隙を突いて破壊活動を行っていたのも彼女でしょう。 グーヌーの里を飲み込んだのも恐らくは』
「ッ!! そうか、彼奴が故郷をやったのか……!!」
それに艦内に残滓を残さなければいいだけで。
キッピーは常々そうして世界に傷跡を残している。
それも勇達に気付かれない様に。
だからキッピーが身近で一切行動を起こしていないと言い切れるのだ。
茶奈を監視する事だけが彼女の役目だとすれば、バレる事があってはならないから。
あの馬鹿さが演技だと思えば、それだけを成す知能があると結論付ける事も容易い。
となれば憤りすら湧き上がろう。
今まで馬鹿にしてきた相手に、実はずっと馬鹿にされ続けていたとわかってしまえば。
「あんのヤロォ、もしまた会ったら俺の【灼雷咆哮】ぶっこんでやるッ!!」
「同感。 ちょっとこればっかりは私もキレそうだわ。 なんかしてウサ晴らししたいトコね」
これは恐らく皆が同意している事だろう。
誰しもあのキッピーの異様な行動力に振り回された事があるからこそ。
「話は聞かせてもらった。 ならば俺もそのウサ晴らしの一人として参加させてもらおう」
するとそんな時、勇達の背後から野太い声が聴こえて。
それに気付いて皆が振り向くと―――
そこには笠本と共に立つ、白毛を纏いし一人の魔者の姿が。
「ッ!? 兄者ッ!?」
「うむ。 どうやら間に合ったらしいな」
そう、アージである。
アルライの里からこうして馳せ参じたのだ。
しかしてその表情は当然浮かない。
先程の茶奈の宣言も聴いて、事態も充分飲み込めているのだろう。
「そのキッピーとかいう奴が先日、アルライの里をも飲み込もうとしていてな」
「「「なッ!?」」」
「だが安心しろ、俺が追い払っておいた。 もっとも、素直に戦って勝てるかどうかはわからん相手だったが。 それでも一矢報いねば気が済まん」
そこは相変わらずのアージと言った所か。
常に落ち着きを見せ、慌てず事情を語る姿を皆は忘れていない。
故に頼もしくもあろう。
その存在感は心に高揚感さえ与えてくれるから。
例え力が乏しくとも、そんな事は関係は無い。
「今更ノコノコと戻って来た所で役立つかどうかはわからん。 だが、それでもこの力を再びお前達に捧げたいと思ってやってきた。 今だけは恥も捨て、力を存分に奮おう。 だから俺も戦力に加えて欲しい」
「過去の蟠りなんて関係無いさ。 今こうしてここに居てくれるだけで頼もしいよ。 どうか俺達に力を貸してくれ!」
「アージ、おかえり!」
勇達は一度として、アージを心から敵だなどと思った事は無いから。
立ち塞がろうとも、それはあくまで〝乗り越えるべき壁〟と思っていただけで。
すなわち、勇達にとってアージはまだ仲間なのである。
武人肌の頑なな態度でありながら、時には優しく、時には笑わせてくれて。
それでいて居るだけで士気を上げてくれる掛け替えの無い存在として。
だから笠本もこうして引き返してアージを案内してくれた。
誰しも敵意は向けず、こうして「おかえり」と言ってくれる。
これにアージが報われない訳も無い。
「ありがとう……やはり俺は、皆に出会えてよかったと心から思う。 なれば奮おう。 バノ殿から預かったこの【グダンガラム】を―――そして俺の命を!!」
故にアージは誓う。
その命を賭して世界を救う力となる事を。
真の仲間達に、そして世界に勝利の明日を導く為に。
こうしてまた一人、戦力が加わった。
【白の兄弟】アージとマヴォ―――金銀の武熊が遂に再びその手を取る。
混迷を極める世界から闇を祓う為に今、その輝きを解き放とう。