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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十八節 「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
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~積年の懺悔に感謝を~

「久しぶりだね、勇君」


 それは勇が両親達から勇気を貰い、身を震わせていた時の事。

 そんな時突然、聴き慣れない声が勇の耳に触れて。


「えっ?」


 ふと振り返ってみると、そこにはいつの間にやら見慣れない中年男女の姿が。

 人々に意思を向けていて気付かなかったのだろう。


 ただ勇としては首を傾げずには居られない。

 いきなり現れた二人が誰だかわからなかったから。

 「久しぶり」と言われても、この一瞬では思い出せなくて。


 同伴組の一人だろうか。

 そう思ったがそれも違う。

 彼等とはまた一つ違う心の色を持っていたからこそ。


 同伴組は勇達と共に行動した事で、とても強い希望を胸に抱いている。

 だから勇なら見ただけですぐにわかりそうなものだ。


 でもこの二人から感じるのは―――強い失望。

 グランディーヴァに関わった者達なら抱くはずもない感情で。

 思わず心を覗き込んだ勇が顔をしかめる程に強く染まっている。


 ただそれでも心の色だけはわかるもので。

 そのお陰で勇は気付く事となる。


 その心の色が誰を意味していたのかと。

 いつか夢の中で見た親友の心色ととてもそっくりだったから。




「まさか……統也のおじさんとおばさん!?」




 そう、なんと二人はあの統也の両親だったのだ。


 一度きりしか会った事が無く、それでも忘れられない。

 それだけ印象深い対面を果たしたあの二人が、勇の前に今再び現れたのである。


「良かった、覚えていてくれたんだね」


「忘れる訳も無いですよ、あれだけの無念を語ってくれたんですから」


 あれは【フララジカ】が始まった翌日、勇が統也の死を伝えた時の事。

 事実を伝えた勇に、統也の父親は返礼として親友の内なる思いを教えてくれた。


 そしてその思い出は今にも繋がっている。

 勇の信念の原動力の一つとして間違い無く結びついているのだ。

 だからこそ忘れられない。

 例え顔を忘れても、その存在感は忘れようも無い。


「でもどうしてここに? お二人は今、別の所に行ったんじゃ……」


 ただ、以降会えなかったのには理由がある。

 実はこの二人、事件直後から別の場所に引っ越していたのだ。

 それも勇にさえ行き先を伝える事無く。


 そんな事もあって以降は音信不通に。


 にも拘らず、こうして突然現れたのが不思議でならなくて。

 勇がまたしても首を傾げさせる。


「ええ、実は色々あって最近まではあの街から離れていたの。 でも勇君にはどうしても話をしたくて、また戻って来たのよ」

 

「えっ?」


「それというのも、君にどうしても謝りたくてね」


「謝る……?」


 更には思い当たらない話までがこうも出てきて。

 堪らず顎に手を当て、思考を巡らせる。


 それでも思う節が全く見当たらない訳だが。


「今が忙しい時という事はわかってる。 無礼だという事も。 それでも君に伝えたかったんだ」


「俺に伝えたい事……?」


 けれどこの二人の決意は本物だ。

 真面目な時の統也にも通じる瞳がそう教えてくれる。

 語ろうとする話は、二人にとっては何事よりも大事なのだと。


 故に勇は静かに頷き応える。

 二人が語りたい事を聴き入れようと。

 それこそが、今こうして訪れてくれた二人への報いになるのならばと。


「……ありがとう」


 そうして、まばらに人が駆ける中で統也の両親から告げられる。

 彼等が今までどんな想いで今日まで生き続けて来たのかを。


 そこには少なからず、勇達に()影響を与えていたから。


「謝りたいというのは他でも無い、君を責め続けてしまっていた事だ」


「俺を?」


「ええ。 実は私達ね、勇君に事実を伝えられた後からずっと、反政府運動を行っていたのよ。 どうして危険な魔者の事を隠すのかって。 統也が殺されたのに、なんで黙ってるのって」


 そう、これこそ二人が引っ越した理由だったのだ。

 最も政府を叩き易い場所に移り、行動を起こす為の。


 勇から真実を聞いた二人だからこそ、黙ってはいられなかったのだろう。

 なればその結果はもう想像にも容易い。


「それから私達は、統也の事を盾にずっと政府を責め続けたわ。 影で貴方が戦い続けていた事も知らずに。 私達はずっと……自分達の事ばかりで精一杯で……!」


「あの【東京事変】の後に、君が最初から魔剣使いとして戦い続けていた事も知ったよ。 でも、それでも私達は止まらなかった。 止められなかったんだ。 じゃないと統也が報われないと思い込んでしまって。 だからその後、魔特隊を責め続ける事さえ止められなかったんだ……」


 きっと二人はよほど統也の死が堪えたのだろう。

 その責任を他者に押し付けたくなる程に。

 それが間違っているのだと、例え心の奥底で思っていようとも。


 その末に影で反政府運動を行い、糾弾し続けた。

 更には勇達を知った後、魔特隊をも責め続けた。


 つまり、【東京事変】の後に本部を囲っていたのはその反政府団体。

 統也の両親とその仲間達の団体だったという訳だ。


 なんという皮肉か。

 勇を守って死んだ親友の両親が、まさか批判側に回る事になるなどとは。


「でもそれは間違いなんだってやっと気付いた。 報われないのは統也じゃなく、私達なんだと。 今までやってきた事が余りに愚かで情けない事だったのかと、この間の公式発表(ア・リーヴェの真実)の時にやっと気付けたんだ」


「貴方が仇を討ってくれたと教えてくれた時も、そういう事なんだって思うだけで考えようとはしなかったわ。 事実を知っても、目を背けて理解しようともしなかった。 だから後悔したわ、私達はどれだけ無知だったのかって……貴方はずっと、世界の為に戦い続けていたというのにね」


 ただそれでも人は成長し、理解する。

 勇達の戦いがその答えを導き、正しい形に向かわせたのだろう。


 だからこうして懺悔を面と向かって行う事も厭わない。

 この時の為に覚悟と決意を固め続けて来たから。

 その想いを形にする為に、団体も解散し、心も正し、仲間も正し、全てを賭してここに来た。


 少しでも勇の力になりたいという想いのままに。


「許してくれとは言わない。 怨んでくれても構わない。 ただ知って欲しかっただけなんだ。 私達ももう君の敵になる事を止めたのだと。 それが私達に出来る唯一の償いだから……」


「ごめんなさい、本当にごめんなさい、勇君……」


 故に今、二人は頭を下げる。

 今まで背負い続けた後悔と罪悪感を重しにしたままで。

 その重さ故に深々と、身体が震える程に力強く。


 これが二人の望んだ姿だからこそ。






 そんな二人を今、勇は()()()()いた。

 命脈(アストラルストリーム)の中から、その心までを覗き込む様にして。


 隣で輝く灯と共に。


『いよぅ勇、久しぶりだなァ』


「ああ。 まさかお前がまだ星に還ってなかったなんて思わなかったよ。 ()()


 その灯こそ、かつて勇を守って散った統也当人。

 何かしらの後悔を抱き、ずっと世界に残り続けた魂だったのである。


 とはいえ、その姿はまさに魂と言った所で、人とはどうにも言い切れないが。


『へへ、こんな姿でわりィな。 死んで久しくて、自分の形すら忘れちまった』


「もう五年以上になるしな。 そもそもお前、自分の姿なんてそこまで意識してなかっただろ?」


 その性質は生前の性格にも起因する。

 なれば自身像に無頓着な統也なら、人の形すら成さないのは必然か。

 その性格こそ、以前となんら変わりないけども。 


 そしてその心に宿す後悔さえも。


「まぁでもお前がまだ()を残してて良かったよ。 あの二人が来てくれたお陰で気付けた。 それに、お前の声も今なら届けられそうだ」


『おう、すまねェな。 どうやら俺の後悔も、あの二人に向けたモン()()()し助かるわ』


 例え魂となっても時の流れというものを感じるのかもしれない。

 だからこそその後悔の素もぼんやりとして、よく思い出せなくて。


 でも今は思い出せる。

 勇なら天力でその掠れた心を復元する事が出来るから。


『お、サンキュ。 お陰で思い出したわ。 やっぱり何だかんだで俺もあの二人が好きだったんだなァ。 だから別れが言えなかったのが悔しいって、そんだけだった。 ハハッ』


「そうか。 でも、それでいいんじゃないか? 二人もお前の事を想って色々やってたらしいしな。 なら、俺はあの二人にお前の想いを伝えるだけさ。 内容なんて関係無い」


『そうかァ、ならちょっと伝言頼むわ』


 そうして生まれた後悔の塊が灯の中からポコリと剥がれて。

 小さな灯として勇へとふわりふわりと渡っていく。


 言葉ではなく、姿や仕草ででもなく。

 心の一部を直接手渡す事で、想いを託す。

 これがこの空間における最も効率的な想いの伝達方法だから。


『……つう訳でやっと俺も星に還れそうだ。 じゃあな勇、後は任せたわ。 あの二人も守ってやってくれよな?』


「お前はまたそういう事を俺に押し付けて……わかった、後は任せろ」


 でも、そう勇が言いきった時には既に統也は消えていた。

 想いを託した時からもう、消え始めていたから。


 けれど勇の声は届いてる事だろう。

 星を通して、溶けていく心にきっと。

 天力はそれさえも成せる奇跡の力なのだから。


 去り行く親友にサヨナラを捧げて。






 勇が統也と話を交わしたのは、体感時間でおおよそ〇.〇〇五秒。

 刹那と呼ばれる時間の中である。


 詰まる所、統也の両親が頭を下げた直後だという事で。


「―――二人とも、頭を上げてください」


 その二人に間も無く勇の一言が囁かれる。

 穏やかで、慈しみに溢れた一声がゆるりと。


 その声に誘われて統也の両親が顔を上げると―――


 視線の先には、微笑みを向けた勇の素顔が。

 

「俺は全く気にしてませんよ。 むしろ来てくれてありがとうって感謝したいくらいです。 お陰で気付けなかった心に気付けたから」


「気付けなかった……心?」


 勇は本当に嬉しかったのだ。

 この二人が来てくれなければ、きっと統也の魂には気付けなかったから。


 天士は万能に見えるが、実はそんな事もない。

 星に還れなかった魂の存在もキッカケが無ければ気付けないし、見えもしない。

 全てが見えている様で、意外と見えていないものだ。


 でもこの二人が来てくれた事で、親友の存在に気付けて。

 話まで交わして、お別れも出来た。

 それが嬉しくて堪らなかったのだろう。


 それにもう勇が人を怨む事は無い。

 それこそが天士の本質であり、勇の持つ心の在り方だから。




「ええ。 そんな二人に統也から伝言です。 〝俺の事を想い続けてくれてありがとう〟って」




 空色の心を前に、人は疑いを向ける事など出来ない。

 空の如き広大さが疑念さえも吸い込み、彼方に溶けて消してしまうからこそ。


「勇君、君は……そうか、そんな事も見えるんだな、天士という者は」


 故に今、統也の両親は勇の言葉を信じる。

 真に統也の言葉として受け入れる。


 そう信じたくなる程に、今の言葉が心へと響いたのだから。


「なら私達も贈るよ。 統也の声を届けてくれてありがとう。 そして世界を、どうかよろしくお願い致します」


 そして今は二人の人間として願う。

 その広大な空色の心に願う。


 統也が居たこの世界を終わらせない事を。

 息子の生きた証を残し続ける事を。


 またしても頭を下げて。

 背負っていた重しを降ろし、決意のままに鋭く力強く。


「任せてください。 俺は負けませんから」


 だからこそ勇は応えよう。

 その想いを叶えると誓って。


 統也の願う、二人が居る世界を―――必ず守るのだと。






 こうして統也の両親は場から去っていった。

 勇にまた一つ願いを託して。


 確かに二人のしてきた事は間違っていたのだろう。

 許される事とは到底言い難い。


 しかしそれでも、彼等は知った。

 その末に過ちを正す勇気を持った。


 それだけで充分なのだ。

 人とはそれだけで正しい一歩を踏み出せる生き物だから。

 ただそれだけで、この世界が希望に満ちていくのだから。




 それだけで勇はまた強くなれる。


 茶奈を救い、世界をも救う為の力を―――また一つ。




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