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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~心に矢、身に悲痛の叫び~

「―――ッ!? 茶奈ッ!?」


 茶奈が身体を乗っ取られた直後の事。

 南米アマゾンでは、アルトラン・ネメシスの予想もし得ない出来事が起きていた。


 なんと、勇が茶奈の叫びを耳にしていたのだ。


 まだブラジルの肉塊は破壊出来ていない。

 それに蛇岩の破片が撒いた妨害波の効力も出ている。


 それでも届いていたのだ。

 茶奈からの必死で悲痛な叫びが。

 声にしてもいないのにも拘らず。


 それはまるで心の一矢の様に。


 矢の様に放たれた心の叫びは大気に乗って。

 一直線に、ズレる事なく、愛する者の心へ突き刺さる。

 その悲痛が、苦痛が、漏れる事無く伝わる程に強く強く。


 それは世界が望んだ奇跡か、それとも想いの強さ故の必然か。


「獅堂すまないッ!! 俺は茶奈の所に行くッ!!ここは頼んだッ!!」


『えッ!? ちょ、勇君ッ!?』


 しかもその一矢の想いは、放たれた場所がどこかもわかる程にハッキリとしていたから。

 その一言を撃ち放った瞬間、その身を深く屈ませる。

 何の迷いも無く、その一矢が放たれた方角へと向けて。




ズッ―――ドォォォーーーーーーンッッッ!!!!!



 

 その瞬間、アマゾンの一部が吹き飛んだ。

 木々が、土が、草花が。

 近くを流れていた小さな渓流や池が。

 侵入者達を執拗に追い回す魔者達もが。

 その全てが抉られ、弾き飛ばされる程の凄まじい衝撃波が走ったのだ。


 勇のたった一踏によって。


 流星跳躍。

 いつか小嶋由子を捕まえる時にも使用した超高速跳躍法である。


 しかもその加速度は以前よりもずっと上。

 天力に目覚め、その力の使い道を知り、剣聖から教わった秘技もあるからこそ。

 だから森林の一部を吹き飛ばせる程に凄まじい力が放てたのだ。

 ならば瞬時に赤熱層を纏う事もまた当然の事。


 その姿はまさに流星。

 灼熱の炎を纏い、衝撃波を撒き散らしながら闇夜を突き抜ける。




 だが、それでも速度が圧倒的に足りない。




 地球の三分の一を回りきるには、すぐに到達する為には。

 地上を一度踏むだけでは、何もかもが届かない。

 力が圧倒的に足りないのだ。


 それに今は天力転送が使えない。

 ア・リーヴェの声も聴こえない。

 だから今は自力で向かわなければならない。


―――茶奈ッ!! 茶奈ァァァーーーッ!!!―――


 ただその必死の覚悟が、茶奈への想いが、勇に更なる加速を与える事となる。




 勇の背中から虹の閃光が解き放たれたのだ。

 まるで光翼が如き迸りとなって。




 その輝きそのものは意思の象徴でしかない。

 しかし背から放たれ生まれた推力は、もはや茶奈の全力航行出力さえも超える。


 【命流滑(トーマ)】によって集められた大気が踏み台となり。

 【命踏身(ナルテパ)】による跳躍加速を放出可能な全天力によって行う。

 そうして生まれた推力は、勇の身体をも押し潰す程に激しく強く。


 でも、それであろうと勇は耐える。

 例え辛くても苦しくても、天力を防御に回せなくても。

 一刻も早く茶奈の下へと辿り着く為に、秘める力を全て推力に注ぐのみ。


 一分でも、一秒でも早く。




 この時、勇はあっという間に地球上を突き抜けていた。

 空を日中の如く照らす程の光の軌跡を残して。


 仲間達がその軌跡をつい眺めてしまう程に強く強く―――

 










 それから間も無く、サイパン島近海。


「あったッ!! あそこだッ!!」


 空の彼方にはまだ夕日が輝いていて。

 島からは離れつつあるが、それでもまだ淡く照らす程には輝かしい。


 そう、勇はそれだけ早く目的地近くに到達していたのだ。


 ただし、一挙に放出出来る天力はもう残り少ない。

 だからこそ、天力放出による加速はもう終わる。


 後は目的地に向けて、自力で跳ぶだけだ。


 己の身体に再び天力を漲らせ。

 再び【命踏身】によって空気を叩く。

 最後の加速である。


 島が見える今ならば、それだけでも充分到達可能な推力を得る事が出来るから。


ッドォォォーーーーーーンッ!!!


 たちまち勇の身体が目的地の浜辺へと向けて一直線に突き抜けていく。

 ここまで乗せてきた速度も何もかもを殺さぬままに。


 しかし大気摩擦と重力が次第にその勢いを奪っていく。

 このままでは砂浜ではなく海に激突するだろう。


 ただそれも勇の計算の内に過ぎない。


ッパァーーーンッ!!


 なんと海面へと到達した瞬間、勇は再び跳ねていた。

 海を踏み台にして跳ね上がっていたのだ。


 それも一度だけではない。

 二度、三度、海に飛沫をもたらしつつ跳ねて行く。

 それはまるで石投げの小石の様に。


 そして最後の一踏は、まるでスケートの様に海面を滑っていて。

 その勢いのまま一跳びし、遂に浜辺へと到達する。


「茶奈ーーーッ!? どこだ、茶奈ーーーッ!?」


 けれど立ち止まりはしない。

 茶奈を見つけるまでは。




 もう南米妨害波の影響外で、【創世の鍵】とのアクセスが出来る様になっている。

 だから本来は茶奈の命力を感知する事が出来るし、生死を確認する事だって可能だろう。


 でも、今は何故かわからない。

 全く反応が無いのだ。


 余りの異常事態が故か、ア・リーヴェもだんまりに。

 勇が飛んでいる間に何度も検索(サーチ)していたのだが、その結果は変わらず。

 こんな事は初めてで、どう答えたらいいのかわからなくて。


 だから勇には茶奈が生きているのか死んでいるのかがわからない。

 何が起こったのかも、まだわかっていないのだから。




 でもそれはすぐにわかる事となるだろう。


 事が起きた茂みへと足を踏み入れた事によって。




「こ、これは……ッ!?」


 ()()を見ただけで何が行われたのか、勇にはすぐに理解出来た。

 いや、これはきっともう誰が見てもわかる事だろう。


 押し潰れた茂みの中央に、倒れた紫織の姿があったのだから。


「小野崎紫織……ダメか、事切れてる」


 いざ彼女の様子を確かめるも、もう微動だにすらしない。

 それどころか、その惨状は酷いものだ。

 アルトラン・ネメシスに生命力を吸い尽くされてしまったのだろう、全身が干からびていて。

 体の一部は割れ、まるで乾物の様にへし折れている。

 相応の力が掛かった事もあるが、もう生物としての形も残っていない。


 まるで潰されたセミの抜け殻だ。


『アルトラン・ネメシスに憑りつかれた者は須らくこの末路を辿っています。 貴方が知るドゥーラも、イデタツオも』


「ああ、わかってるよ……わかってるけど、今は黙っててくれ……ッ!!」


 その惨状が、そこから予想される結末が、勇の叫びさえも掠れさせる。


 付近にはラーフヴェラの破片や魔装の断片が。

 命力糸の綻びも見え、そこからどうやって茶奈とコンタクトしたのかも予想が付く。

 その場に立っているだけで、何もかもが見えて来る様で。


 それだけで、茶奈の苦しみが感じ取れる様で。


 零れた吐息が哀しみを帯びて震え。

 目が掠れ、頬も震えて止まらない。


 ただただ、悔しくて、苦しくて。


「茶奈……ごめん、君を一人にさせてごめん……ッ!!」


 遂にはその膝が大地を突く。 

 後悔と自責に押し潰されて。


 そう項垂れる姿は、まるで神への懺悔の様であった……。

 





 それからおおよそ四時間後。

 アルクトゥーンは勇の居るサイパン島沖に到達していた。

 もちろん、南米救出作戦を見事に成功させて。


 ベネズエラでは街の地下に存在していた肉塊をイシュライトが発見、即排除し。

 森の中に隠れていた肉塊も、なんとか獅堂が見つけて破壊して。


 そして仲間達を回収して、こうして勇を迎えに行ったのだが。

 サイパン島へと降り立った仲間達が最初に目撃したのは―――


 砂浜に座り込んで(うずくま)った、勇だった。


「なぁ勇、一体何があったんだよ……」


 でも、そう声を掛けても返事は返ってこない。


 そんな勇の手には、茶奈が大事にしていたウサギ人形の髪飾りが握られていて。

 ただただ震え、膝に顔を埋めたまま。


『本体からの情報更新(アップデート)が完了しました。 事情は後で私からお話しましょう。 今はとりあえず勇を艦に戻してあげてください』


 勇の傍に来た事で更新が出来たのだろう。

 莉那に預けられていたア・リーヴェさんが神妙な声色で仲間達へとそう促す。


 今の彼女に出来るのはもはやこれだけだから。

 余計な慰めは、勇を追い詰めるだけなのだと。






 こうして勇達は再びアルクトゥーンへと戻っていく。

 たった一人の仲間を見失ったままで。


 二度ならず三度。

 それも最愛の人を失った勇の悲しみは―――計り知れない。




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