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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~山に双、林に銃剣砲轟く~

「ナターシャ!! アンディ!! 俺が魔者達を引き受ける!! お前達は対象を探せェ!!」


 一方その頃、南部チリ、サンティアゴ近郊の山岳地帯にて。

 マヴォもまたバロルフと同様に、己の身体を囮として魔者達を引き寄せていた。


 マヴォはもう気付いていたのだ。

 魔者達が何に対して惹かれていたのかを。

 先程、己自身が操られそうになったからこそ。


 魔者達は明らかに生命反応―――すなわち命力を目指している事に。


 万物には命力が宿っている。

 有機物・無機物に拘らず。


 その中でも特に、知性が高い者にはより多く備わっていて。

 人間や魔者はその中でも筆頭とも言える存在だ。


 そして魔者が操られた今、殺意を向ける相手は人間しか居ない。


 だから彼等は真っ直ぐ人間を襲い始めたのである。

 より高い命力を秘めた者達を狙って。

 魔者が剣聖に向かって集まっていたのもこれが原因だ。


「でもッ!? マヴォは命力が回復しないんでしょッ!?」


「心配するな!! 俺はこの程度で衰える程―――弱くはないッ!!!」


 ただ、マヴォはバロルフとは違う。

 例え命力制限を受けようとも、バロルフよりも長く強く戦う事が出来るだろう。

 当然、雑兵に後れを取る訳も無い。


 ならば、その気迫だけで魔者達を吹き飛ばす事さえ可能。


 たちまち迫り来る魔者達が弾かれて宙を舞う。

 ただ一声、咆哮を打ち上げただけで。


 たかが雑兵相手にもはや【闘域】すら不要。

 ズシリ、ズシリと一歩一歩を踏み出すマヴォを前に、本能で動く魔者達さえ怯みを見せる。


 脅えているのだ。

 凄まじい命力を前に、本能が勝てないと訴えているのだろう。


 そんな姿を見せられて安心するなと言う方が無茶というもので。


「わかった! 頼んだぜマヴォ!!」


「でもダメだと思ったら逃げてね!」


 隙を見て、ナターシャとアンディが離れる様に飛び出し行く。

 標的である肉塊を探す為に。


 それぞれの手に輝く魔剣の力を速さに換えて。




 ナターシャが右手に掴むのは【ウェイグル】。

 アンディが左手に掴むのは【レイデッター】。


 しかしてその対の手に備えしは、全く形の異なる金色の魔剣。

 細い先端から波なく太くなっていく刀身が特徴的で。

 その刃がナックルガードから、命力珠の備えた取っ手末端にまで続き。

 その形状ゆえに、柄打ちでさえ斬撃を与えられるという前衛的なフォルムとなっている。

 

 これこそが愛刀を再び分けた二人へと贈られた、正真正銘のピネ自信作だ。


 その名も【アーデヴェッタの双心(ラカージュモ)】。

 先の二本と同様の共感覚能力を誇る短剣型魔剣である。

 とはいえ、その共感覚能力の特性はほんの少し異なるが。


 それに加えてエリアルブラスト機構も搭載しており、機動性も格段に上がっている。

 いつだか壊してしまった魔剣【エスカルオール】と同じシステムだ。

 それも【エテルコン】製という事もあって、その性能は以前の比ではない。

 スペック上、マヴォの【ギュラ・メフェシュ】と同等の出力に仕上がっているというのだから驚きだろう。


 これが二人に与えられた新しい力。




 余計な力でも無く、使い難くも無く。

 純粋に二人の感覚とマッチした相性最高度の魔剣なのである。




 その新たな力で二人が大地を素早く駆け抜ける。

 空を飛ぶ程ではないが、それだけの出力を誇っているからこそ目にも止まらない。


 もちろん、それだけの速度で二人が離れても問題は無い。

 二つの魔剣が持つ共感覚は実はそれなりに実効果範囲が広く。

 少なくとも、マーカー付近を捜索する程度ならば充分範囲内に収まっている。


 だからこそ縦横無尽に駆け抜けられるのだ。

 山岳地帯であるからこそ、目立った障害物が少ないが故に。

 マヴォが引き付けてくれているお陰で、魔者も殆ど相対せずに済む。


「待っててねマヴォ!! すぐにあの気持ち悪いのをぶっ壊すよ!!」


『やってやろうぜナターシャ!! 俺達が皆を救うんだ!! あの時救えなかった母親さんみたいな人を増やさない為によ!!』


「うんっ!!」


 そして勝気なアンディとリンクしている今だからこそ。

 ナターシャが遂に昔の強気を取り戻す。

 明るく振る舞う事の出来た魔特隊時代と同じ様に。


 これこそが彼女の望んだ形。


 こうして信頼するアンディが復帰した今、もう恐れる物は―――何も無い。






◇◇◇






 そしてブラジル、アマゾン大森林にて。

 勇と別れた獅堂が木々の合間を所狭しと駆け巡る。


『獅堂、想像以上に魔者達の抵抗が激しい! 最悪の場合は逃げるんだ!』


 ただし、多くの追手を引き連れながら。

 時に飛び掛かって来る魔者を躱し、攻撃を防ぎ、叩き伏せて。


 ジャングルは彼等オッファノ族のなわばり(テリトリー)だ。

 木々を使った縦横無尽な動きだけでなく、命力を受け流す体毛が気配を殺して獅堂の隙を突く。


 見舞うのは死角からの攻撃。

 仲間達をも囮にした連携攻撃だ。

 それも本能のままに全力で。

 

 その太い腕による攻撃はもはや全てが一撃必殺級。

 獅堂の様な急ごしらえの肉体程度ならば、頭が一発で吹き飛びかねない程の。


「大丈夫さ! 確かに彼等は予想を超えて強いけど―――」


 しかし、獅堂はそれでも挫けない。


 獅堂には見えているのだ。

 そんな魔者達の四方八方からの攻撃が。


 それはイシュライトから叩き込まれた洞察眼が故に。




 戦いにおいて「見る」という行為は極めて重要だ。

 何よりも速く相手の形と位置を教えてくれるから。

 視覚を主として戦う者ならばなおの事で。


 しかし、それは決して「視界に入れる」という意味ではない。

 正確に言うならば、「認識する」という事。

 周囲のどこに、誰が居て、いつ、何をしようとしているのか。

 相手の挙動を即座に理解し、その先を読む。


 それがすなわち洞察眼。

 あらゆる生物が持つ危機察知の能力である。


 獅堂はまず、その真髄を叩き込まれた。

 相手の動きを読めなければまず生き残れないからだ。


 より本能的に、より先鋭的に、より正確的に。

 襲い来る殺意を瞬時に嗅ぎ分け、見切り、回避に繋げる。

 そう出来る様に今日まで延々と訓練を繰り返してきて。




 それが今、ようやく芽吹く。




 それは勇達にとってしてみれば当たり前にも近い能力だろう。

 名状する必要も無い程に基礎的だから。


 でも獅堂もようやくその領域へと足を踏み入れる事となる。

 そう出来たから、あの才能だけなら群を抜いているバロルフに勝ち越す事が出来たのだ。


 その成果が今こうして実感出来たから。

 必死に鍛え上げて来た身体が応えてくれたから。

 ここで自身への疑念が確信へと変わる。


 今まで培ってきた全てが、信頼へと進化する。




「―――今の僕はもう止められはしないさあッ!!」




 だから今、獅堂は心の底から悦んでいた。

 ここまでの力を得られた事に。

 ここまで成長させて貰えた事に。


 その悦びが、感謝が心を押し上げて。

 内に秘めた力を更に更に増強させていく。


 これこそが自己高揚(セルフエレベーション)

 自らの意思だけで自己ポテンシャルを引き出す精神コントール技術の一つだ。

 しかも命力という特異能力によって、物理的な力さえ引き上げられるというオマケ付きで。


 こう出来る今の獅堂に、恐れるべきものは何も無い。

 加えて、その手で重厚の輝きを放つ魔剣さえあればなおの事だ。


 そう、獅堂の持つ魔剣もまたピネが力を込めて造り上げた業物。


 その名も【クロィエルンの天つ慟哭(レシエルィージ)】。

 小剣と長筒銃の特徴を有する複合銃剣型魔剣(マルチブレード)である。


 その片刃刀身は砲身を守る様に伸び、銀色の光沢を瞬かせる程に滑らかで。

 しかし腕よりも長くは無く、振り回す事にも適した軽装剣としても仕上がっている。


 それに何よりも特徴的なのは、逆刃側に備えられた長身砲(ロングバレルガン)だ。

 弾倉交換(カートリッジ)式で、鍔部の背面にソケットが備わっている。

 それ故に、精密射撃が可能でありながら消耗無しで撃てる優れもので。

 しかも弾倉そのものにも秘密があり、多種多様な弾丸が撃ち放てるという。


 例えば―――


「悪いねッ!! 今は眠っててもらうよッ!!」


ドゥンッ!! ガゥンッ!!


 迫り来る相手に早速弾丸が撃ち込まれる。

 しかし風穴が開く訳でも無く、たちまち打ち当たった光が弾けるだけ。


 だが、撃たれた相手は地上に転がったまま、痙攣するだけでもう動かない。


 それもそのはず。

 撃ち出したのは殺傷力のある弾丸ではないのだから。


 魔者に撃ち放ったのは高濃度の麻痺光弾。

 身体に巡る命力を一時的に停止させる能力を秘めた特殊弾頭だ。


 他にも睡眠弾や閃光弾、刺磔弾や鳴裂弾など、多種に渡る妨害弾頭がてんこ盛りで。

 研究班が考え付いて試験的に実装したというが、運用性も実に優れている。

 何せ命力珠に力を充填するだけで、弾倉に沿った特殊弾が撃ち放てるというのだから。

 

 そんなエネルギーフリーで多種弾頭を撃ち放題というのがこの魔剣の特徴。

 汎用性の富む、獅堂の望んだ最高の魔剣なのである。


「ただちょっと、この数は弾が足りるかどうか怪しいねッ!!」


 とはいえ、その数も決して無限ではないからこそ。

 自分自身で弾を補給出来る強みもあるが、いかんせん相手の数が多過ぎる。


 躱しても、防いでもいなしても。

 動きを止めても塞き止めても。

 相手は延々と増えて襲い来るばかりで。


 それを如何に躱し続けるか。

 そして肉塊を見つけて破壊出来るのか。

 獅堂にとっての問題はまだまだ山積みだ。

 立ち止まっている余裕などありはしない。


 「いっそ勇が先に見つけてくれないか」と、願って止まない程に。






 各地でグランディーヴァの面々がひた走る。

 一刻も早く肉塊を見つけて潰す為に。


 ただその不気味な脈動が届く程の距離には―――未だ誰も、到達していない。




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