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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~街に怪、森に一天敗走す~

 南米救出作戦が開始されてからおおよそ三〇分が経過した。

 既に勇達は各地に降下し終えており、急ぎ破壊目標を探し始める。


 だが、アルトラン・ネメシスの用意した物がそう簡単に見つかるはずはない。


 故に、勇達は森を、山を、街を駆け巡る事となるだろう。

 全てが手探りの状態の中、ア・リーヴェが示したマーカーを頼りに。




 瀬玲ら第一チームが降下したのは北部ベネズエラ・州都バレンシア南西。

 瀬玲とイシュライトが二手に別れ、建物の合間を縦横無尽に駆け回る。


『本当にこの街の中にあの肉の塊があるのでしょうか?』


「わからないけど、ア・リーヴェが言ってたなら信用するしかないんじゃん!?」


 瀬玲は命力の糸を使って建物の合間を跳び、魔者達の頭上を飛び越えて。

 一方のイシュライトは得意の死角移動で地上を駆け抜ける姿が。


 そう、彼女達が探す肉塊は、なんと街中に存在している。

 ア・リーヴェの示したのが、このバレンシア外れの街中心部だったのだから。


 確かに、魔者達は外の森林部から現れたのだろう。

 でも妨害電波の発信もが森からであるという訳では無い。

 アルトラン・ネメシスにとってはどこだろうと関係無いのだ。

 人に見つからなければただそれだけで。


 その策略が透けて見えたかの様に、二人の顔に苦悶が浮かぶ。


 郊外と言っても、大勢の人々が営み繰り返して大きく発展した街中だ。

 家屋は愚か、店や工場、ビルさえ佇む巨大な都市で障害物がやたらと多い。

 その中を探すのはある意味で言えば森よりもずっと困難を極めるだろう。


 ただその対策が決して無い訳でもないが。


温感(サーモ)センサーにゃ何の反応も無いね! 検知外なのか、それとも熱が無いのかどっちかねぇ!」


 飛び跳ねる瀬玲の背中からディックが大声を張り上げる。

 仰々しい被り物を被ったままで周囲を見回しながら。


 今回のディックは戦闘要員では無く探索要員。

 瀬玲の背負う椅子型バックパックに座りながら、瀬玲達には見えない物を探るのが役目だ。


 ディックが被っているのは、探索用の各種センサーを備えたロボットゴーグル。

 現代技術が創り出した英知の結晶は伊達ではなく、その性能は技術班の折り紙付きというもの。

 赤外線や紫外線、微光や温度、音波などといった多くのメカニズムを捉える事が可能で。

 もちろん命力の波なども拾う事ができ、しかも瞬時に切り替えられるスグレモノである。


 しかし、どうにもそれらしいものは見つからない。

 そんな性能の誇る高性能機械を駆使してもなお。


『存在そのものが隠されているからなのかもしれません! リフジェクターの様に、認識を阻害する力が働いている可能性も否定できませんから』


「イシュの言う通りかもしれない……!! ちょっとこれは骨が折れるかもッ!!」


「おいおい、この状態を続けながら探索かい!? ちょっとオッサンにゃあしんどいってもんだよぉ!!」


 何せ相手は蛇岩ほどの巨大な物体を生み出せる様な存在なのだ。

 ならば知覚遮断を施していても不思議では無い。

 例えアルトラン・ネメシスが現代技術に対して無知であろうとも。


 とはいえ、瀬玲達には瀬玲達に出来る手段がある。


 例え見えなくとも、聞こえなくとも嗅げなくとも。

 そこに物質があるのならば、触れてしまえば識る事が出来るから。


 以前の瀬玲達ならそれも難しかっただろう。

 でも今ならば。

 剣聖より一つの技術を得た今ならば認識する事も容易だ。

 

 そう、【命流滑(トーマ)】を使うのである。


 この技術の真髄は、命力による気流の操作を行う事に有る。

 命力を流して強引に気流を生み、相手を押したり引いたりするというもので。

 あの命力レーダーもこの技術の派生だという。


 この技術の本質を理解し、強い命力を持つ今ならば精密操作も可能。

 瀬玲もイシュライトも、故意的に広範囲へと気流を生み出しながら進む事が出来る。


 その様子はまるで、目に見えない小さな台風である。

 それもディックや市民に影響を及ぼさず、感知した敵意だけを跳ね飛ばすという芸当まで見せつけて。


 とはいえこの技術、効果範囲はそれ程広くはない。

 だからディックの様な遠方へと向ける〝目〟も必要となってくるのだ。

 必ずしも知覚遮断されているとは限らないからこそ。


「おおっとぉ!! あっちにちょっとでっかい影が見えたよぉ!! 八時の方角だ!」


 今は少しでもキッカケがあるならば縋る。

 手探り状態なのならば、強引にでも可能性を手繰り寄せるだけだ。






◇◇◇






 その頃、西部エクアドルでは。

 降下間も無い心輝とバロルフが早速、魔者達に囲まれる事態へ。


 その圧倒的な数の魔者達を前には、心輝ですら顔をしかめる程だ。


「ふはははッ!! 雑兵共がいくら集まろうとォ!! このバロルフ様の相手ではなぁい!! この俺様専用魔剣【グラーナウ】ならば一網打尽よぉ!!」


 しかしそんな魔者達を前にしようと、バロルフの猛りは留まる事を知らない。

 その手に握る大剣型魔剣が輝きを放ち、横暴なまでの意思に呼応するかのよう。


「いいか、間違っても殺すんじゃねぇぞッ!? テメーが一番危ないんだからなッ!?」


「わかっておるわ!! あのお方を悲しませない為にも!! 俺は!! 愛の意思に殉じるッ!!」


 だがその図体に反して、割と奥手の模様。

 まだその相手に告白どころかまともに話す事すら出来ていない。

 それなのにこんな事を抜かせば、心輝が呆れるのも無理は無いだろう。


「意気込みだけは立派だけどよお!? のっけから脱力させるんじゃねぇよ!!」


 しかしそれも一瞬の事に過ぎない。

 間も無く雷光が駆け巡り、瞬時にして何十人もの魔者達が空へと打ち上げられる。


ドガガガガーーーッ!!!


 無挙動からの【紅雷光の軌跡(ラティスタンドライヴ)】である。

 その威力、その勢い、もはや並の魔者に止める術は無い。


「テメーが愛とか気色悪いわッ!!」


「なにをぅ!? 俺は常に愛に飢えた男だぞ!! フジサキユウさえ居なければタナカチャナは俺の物だったのだあ!!」


「それは絶対にねーよ!!」


 本人は本気らしいが、こうなるともう冗談にしか聞こえない。

 心輝の口元にはどうしても笑いと苦悶の織り交じった珍妙なニヤつきが浮かぶ。

 決死の戦いに来たつもりなのだが、これではどうにも拍子抜けだ。


「だぁ~もう!! あの肉塊見っけたら容赦なくぶっ壊せよな!? 俺は行くぜッ!!」


 そもそもこうして話している暇も無い。

 たちまち心輝が雷光へと姿を変え、景色の彼方へ跳び消える。


 ただ、残されたバロルフはと言えば―――


 そんな心輝を背に不敵な笑みを浮かべていて。

 どうやら心輝が飛び去るのを待ちかねていたかの様に。


「ふん、ようやく行ったか。 認めたくは無いが実力は(心輝)の方が圧倒的に上よ。 ならば俺は全力で奴を送り出すのみ!!」


 口では馬鹿な事を宣っていたバロルフだが、頭の中までそうではなかったらしい。

 間も無くその顔が真剣味を帯び、襲い来る魔者達に刃を向ける。


 伊達や酔狂でグランディーヴァに参戦した訳では無いのだ。

 少なくとも、今の意思が勇達により近いからこそ。


 だから性格が横暴であれど、成さねばならない事はもう見えている。


「ならば纏めて掛かってくるがいい!! 俺様は七天聖が一天、バロルフ様だあああ!!!」


 今バロルフがしようとしているのは囮。

 森にひしめく魔者達を雄叫びで引き寄せようとしているのだ。


 機動力の優れた心輝に自由度を与え、目標を見つける可能性をより上げる為に。


ガッキャァーーーンッ!!


 そんなバロルフへ、たちまち魔者達の歯牙が襲い掛かる。

 その力はもはや普通の魔者とは違い、全てが渾身に匹敵する程だ。


「お、おおおッ!? ま、待てェい!? ちょっ、力強くなぁい!!?」


 それも当然か。

 操られて本能剥き出しとなった今、その力は限界まで引き上げられている。

 理性のタガ(リミッター)が外れた所為で。


 ならば例え一人一人の攻撃でも、今のバロルフでは抑える事さえ困難を極めよう。

 彼は勇達と比べればまだ凡人。

 限界突破の扉を開いただけで、まだ一歩を踏み出したばかりのひよっこなのだから。


 才能に溺れすぎたが故に、その成長率は限り無く遅い。


「んんふ……た、耐えらんないかもしんない……ッ!!」


 しかもそんな魔者達が無数に飛び掛かろうとしている。

 となれば―――


「ぬぅおあああ!! これは逃げではない!! 戦術的撤退なりィ!!! 俺の目的は肉塊をぶった切ることなのだからなぁあああ!!」




 もう逃走以外に道は無い。




 何せ手に掴んだ剣も、言うなればただの金属の塊に過ぎず。

 【アーディマス】製というだけの普通の魔剣で、何の特殊能力も持ち合わせていない。

 となれば逆転要素も無し、おまけにそれほど楽観主義でもないので。


 あれだけ「魔剣を造ってやる」と息巻いていたピネだったのだが―――

 対象が限界突破直後のほぼ常人とあって、恐らくこっそり手を抜いたのだろう。


 魔剣を真に使いこなせない者へと業物は渡せない。

 それがピネの持つ魔剣製造の理念につき。


 哀しいが、これが今のバロルフにおける虚しい実情なのである。




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