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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~光に破、滅に二突閃裂拳~

 二つ閃光が飛び交い、大地を砕いて果てへと突き抜ける。

 後に刻まれるのは抉ったかの如き大地の傷痕。

 障害物など無いも同じ、木々など擦れるだけで破砕し、跡には何も残らない。

 ただ駆けるだけで、ただ打ち合うだけで。


 それが剣聖とラクアンツェの戦い。

 強者二人の戦いは人の目に留まらぬ程に速く、そして力強く。

 

 だが、その戦況はと言えば―――





挿絵(By みてみん)





 まさかのラクアンツェ攻勢一方である。




 鋼拳突きは、その鋭さ故に白銀の煌めきを打ち放ち。

 大地の蹴り上げは、その重厚さ故に閃銅の瞬きを生み。


 そして舞い上がりし黄金の獅子髪が、猛り輝きその身を後光に染め上げる。


 凄まじい輝きだった。

 まるで太陽が飛び跳ねているかの如く。

 それ程までに迸り、猛り、漲っていたのだ。

 本能が誘いし戦意がそうさせたのである。


 その勢いが繰り出す連撃はもはや全てが閃光。

 一撃一撃が速く重く鋭く無駄無く。

 剣聖さえ受け止める事に必死で、手を出す事さえ叶わない。


「こッのッ!! ヤロォ!?」


 確かに、剣聖は全力では無いのだろう。

 確かに、本能剥き出しが故にリミッターが働いていないのだろう。

 でもそれが劣勢の主な理由なのではない。


 単純に、ラクアンツェが強い。

 

 その正体こそ、彼女の体を構成する魔剣。

 カプロの手によって復元された身体同化型魔剣が凶悪なまでの性能を誇っていたからだ。




 本来、基礎体である【ウーグィシュ】は形状記憶合金製で柔軟さを持ち合わせていた。

 戦いは元より、通常生活などでも順応出来るようにする為である。


 しかし、その形状記憶合金も現代では精製不可能で。

 砕かれた魔剣はやむなく、通常の金属フレームと残った元素材を転用して復元される事に。


 ただ、そこでカプロが黙ってそのまま復元する訳も無い。

 そもそもが設計図すら無いので、一から作るつもりで造った結果―――


 それがとてつもない結果を生み出す事となる。


 骨格及び非駆動装甲を完全なる金属ブロックで再構築し。

 そこに以前以上の命力珠分布と、現代の魔剣技術を盛り込んで徹底強化を図り。

 ナノテクを駆使した耐靭性ワイヤーフレームを幾重にも張り巡らせて柔軟部をも保護して。

 さらには掌と踵には高サイズ命力珠が埋め込まれ、力をダイレクトに乗せる事が可能に。

 加えて心輝の【灼雷宝鱗甲ラークァイト】に実装した命爆循環機構のプロトタイプが組み込まれ、消費効率も格段に上昇している。


 こうして出来上がったのが魔剣【ウーグィシュ・ラフトネイター】。


 通常生活力を犠牲にした完全戦闘特化型として。

 戦闘能力を格段に跳ね上げた身体機械化型魔剣へと進化したのである。




 その凶悪なまでに進化した魔剣が、ラクアンツェの能力を格段に跳ね上げた。

 以前よりもずっと強く、速く、鋭くなる程に。

 しかも決して壊れる事も無く、全ての一撃において順応している。


 その全ての攻撃が命煌拳となる程の威力であろうとも。


 今やラクアンツェの通常攻撃全てがフルクラスタ級の一撃。

 あまりにも命力循環効率が高過ぎるが故に。

 加えて元々の能力の高さがその威力を限り無く引き上げていて。


 その怒涛の威力が、あの剣聖に苦悶さえ誘う。


「あの毛玉小僧オッ!! 今だけは恨んでならねえーーーッッ!!!」


 そう咆え猛ってしまう程にラクアンツェの攻撃が凄まじいのだ。

 ここまでの強さの彼女を知らないからこそ、戸惑いも大きい。

 カプロの技術力が敵となった場合の恐ろしさが身に染みる程に。


「ウオオオーーーーーーッッッ!!!!」


 絶え間無い金属干渉音。

 途切れない殺意の咆哮。

 疲れすら見せる事無く、剣聖を打って打って打ちまくる。

 大地を砕き、木々を砕き、家も塀も車も何もかもを吹き飛ばして。


ガガガガガガッ―――!!!


 遂には海岸沿いにまで達し、砂浜に高々とした黄金の砂埃を巻き上げていく。


「っく、このぉ!! 調子に乗るんじゃねぇええッ!!」


 でもこれで引き下がる剣聖ではない。

 大振りの一撃を見切り、拳を剣でいなして背後へと受け流す。


 そうなれば、勢いに押されたラクアンツェが擦れ違うのは必然だ。


「かあああーーーーーーッ!!」


 力の操作に長ける剣聖ならば、その慣性や摩擦さえ力と換える事が可能。

 それもラクアンツェの背後を取る程に素早く鋭く昇華させる程に。


 そうして刻まれしは―――三日月二閃。

 海を輝かせる程の月光の如き残光が、ラクアンツェ目掛けて振り下ろされる。


 その二閃、まさに裂鋼さえ厭わぬ渾身撃。




ギャィィィーーーーーーンッッッ!!!!




 たちまち打ち上がるは金属裂音。

 耳の奥底を掻き毟る嫌鳴音である。


 全てが終わった、と思える程の。




 だがこの時、剣聖は改めて知るだろう。

 ラクアンツェの実力の本質が決して、格闘術()()にあるのではないという事を。




 なんと、剣聖の一撃が―――塞き止められていた。

 背を向けていたのにも拘らず。

 見えていないのにも拘らず。


 その両腕を頭上で交差させ、巨大な魔剣二刀を細腕で受け止めていたのだ。


 これが【輝羅氣鋼(シーリーディオル)】。

 あらゆる攻撃を無へと帰す、絶対無敵の防御術。

 金属の千切れた様な鳴音を掻き鳴らしたのは、余りの命力濃度が故に。

 受け止めた一撃が重ければ重い程、弾ける輝きが強い瞬きと裂音を生むのである。


「う、おおおッ!!??」


 いつもならこれで終わっていたはずなのに。

 揺るがぬ勝利だったはずなのに。


 今この時、剣聖の魔剣が逆に跳ね上げられていて。

 そして目の当たりにするだろう。


 かの秘拳の胎動を。




 その両拳が刻む軌跡は孔雀の虹翼が如し。


 流れ描いて瞬けば、大気を打つまでの命光が散り駆けて。


 成れば鋼の頂きに太陽の輝きを瞬かせよう。


 


 (これ)ぞ【光破滅突(イーラークェンシィ)】。

 この破光が煌めきし時、如何な全てを穿ちて滅ぼさん。




 ラクアンツェ究極の秘拳が、あろうことか剣聖へと打ち放たれる。

 瞬く間も無い程の刹那の一瞬で。


「ちぃぃぃ!!?」


 しかしその一瞬も、剣聖ならば対処可能。

 ならばと取ったのは、魔剣二刀による防御体勢だ。


 その二つの魔剣が重なり合った時―――




 その場が、直視出来ない程の強い光に包まれる。




 音を掻き消す程に強く。

 景色を塗り潰す程に眩しく。

 周囲の全てを吹き飛ばす程に激しく。


 それどころか海さえ弾き、切り裂き、大きく退ける。

 まるでかのモーゼの所業(海原割り)が如く。


 今の【光破滅突】はそれ程までの威力を誇っているのだ。

 剣聖の身体をも裂海の隙間へと弾き飛ばす程に。


「ぐぅおおおッ!?」


 しかし剣聖は生きていた。

 その威力の拳を前にしてもなお。


 ただし二本の魔剣を犠牲にして。


 魔剣の剣腹には大きな風穴が。

 もし一瞬でも防御が遅ければ、剣聖自身に大穴が開いていたかもしれない。


「んなッ!! ヤッロォ―――」


 それでも耐え凌いだ。

 ならば次は剣聖の反撃だ。




 それが出来るならば、だが。




 いつだかラクアンツェは言った。

 〝剣聖は詰めが甘い〟のだと。

 その実力が故に、見落とす事が多いのだと。


 だから今、剣聖はまた一つ見落としていた。




 その一撃は最初であって、最後ではないという事を。




「―――なんッ、だとおッ!!?」


 そう気付いた時にはもう遅し。

 その時には既に、景色の先でラクアンツェがもう片方の拳を腰に引かせていたのだから。


 【光破滅突】は言わば超高速の突撃拳。

 貫けぬ物が無くなる程の力を溜め、その身を乗り出して撃ち放つ、単純至極の正拳突きだ。


 それはつまり、如何な距離があろうとも関係は無いという事。

 射程内であれば、瞬時にして相手の懐へと飛び込み一撃を見舞えるだろう。




 ならば、射程外に行く前に―――即座の二撃目も実現可能。




 そうして光が再び瞬いた時、剣聖の身体に凄まじい衝撃が走り込む。

 追撃の【光破滅突】が炸裂したのである。


 ラクアンツェの雄叫びと共に。




「ウゥオオオーーーーーーッッッ!!!!」




 咆哮が、衝撃が、再び海を引き裂き消し飛ばす。

 海底が露わとなる程の破壊力を以って。

 閃光で景色を包み込みながら。






 ラクアンツェ、圧倒―――


 その戦闘力はまさに最強の一角。

 三剣魔の名を連ねるに相応しい実力と言えるだろう。


 だが露わにする殺意は世界への犯意。

 今の彼女は人類の敵である。


 殺意をばら撒き猛り狂う鋼輝妃。

 彼女はもはや、そう簡単には止められない。




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