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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十八節 「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
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~SIDE心輝-01 それぞれの役割~

 現在時刻 日本時間15:47......


 ディックら五、六番隊が乗るヘリコプターが空に消えた。

 そんな時、本部に取り残された瀬玲達は既に次の行動に移していた。


 瀬玲とイシュライトがグラウンドと入口を繋ぐ広い通路で佇み何かを待つ。

 二人は既に持ちうる完全武装を身に纏っていた。


 瀬玲はメイン魔剣である【カッデレータ・フェグリームII(ツヴァイ)】を背中に担ぎ、腰にはどこか見覚えのある短刀型の魔剣を横刺しに携える。

 それは【エスカルオールII改】……心輝の妹、園部亜月が使っていた魔剣の片割れを単品で使える様にしたものだ。

 そして身に纏うのは先程から着ていた彼女専用(ディープブルー)の【循環蓄積(ウァルコ)型】魔装……使い捨てではなく、命力珠に自身の命力で補填可能な()()式魔装である。

 古代文字式が描かれる事で昔使っていた物よりも性能が格段に上がっている。


 それに対し、イシュライトは彼の故郷【イ・ドゥールの里】で着ていた服に似せて作り上げられた彼専用(エメラルド)の魔装を着込むのみ。

 どこか中国拳法服にも似た、僅かに大きめで伸縮性に富む、動きやすさを追求した一品である。

 仕様は瀬玲と同じだ。

 彼に魔剣は必要無い……己の拳がそれと同等の力を持つのだから。


 そんな二人が本部の外に辿り着いてから待つ時間はまだ1分か2分程度。

 だが遅いと言わんばかりに瀬玲がつま先で地面を叩き、退屈な様を見せつけていた。




ドゥン!! ドォウンッ!!




 その時、けたたましい音が彼女達の耳に飛び込んで来た。

 そんな音を掻き鳴らし、グラウンドから姿を現したのは……深紅に染め上げられた一台の車だった。


 炎を模した様な紋様が入り、新品同様の輝きを放つその車。

 見紛う事無きスポーツカー……しかも高級外車である。


 二人の前までやってきた車が停まり、昇開式(ガルウィング)の扉が開く。

 そして車内から姿を現したのは……言わずもがな、心輝であった。


「ロンバルディーニッ!! アルヴェッタドゥール!! グワイヴスペシャァーーールッ!!!!」


 それが言いたかったのだろう。

 自慢するかの様に声を張り上げて両手を高々と掲げる。

 そんな様を瀬玲は冷たい目で見つめていた。


「遂にこいつが世に放たれる時が来たのだ……!! 今この時をどれだけ待ちわびた事かッ!!」


 その車、ざっと見積もるだけでも数億の価値を誇る。

 それは彼の夢。

 彼の希望。

 そして彼の目標だった物。

 長い魔特隊生活の末に手に入れた愛蔵品である。


 儲かっていたかといえば違うだろう。

 だが、戦いの対価があって消費が無かったから、手が届いたのだ。


 そしてそれが遂に、道を走らせるという最終目的へと繋がった瞬間であった。

 彼等はこの車を使い、ヘリコプターを追ってカラクラの里へと向かおうとしていたのだ。




 かつての仲間であり、今でも友人だと思っているジョゾウ達を助ける為に。




 勇と茶奈がもう違反を犯したのだ。

 許せぬ事があった以上、彼等ももはや制約を守る理由など有りはしない。


「それじゃあよォ……ちょっくら行ってくるぜッ!!」


 心輝がニッコリとした笑みを浮かべ、やる気満々に声を張り上げる。

 だが、それに対して瀬玲はなお冷静な面持ちを向けていた。




「悪いけど、行くのは私とイシュ。 アンタは別の事をしてもらうから」




 その時……彼等の間に風が流れ、無情の風切り音が虚しく響いた。




「なんでだよッ!?」


 思わず心輝からツッコミが入る。

 その目には悦びから絶望へ変わった事で滲んだ涙が浮かび上がっていた。


「……なんでだよッ!?」

「あーはいはい、説明するのも面倒臭いわ、時間無いのに」


 すると瀬玲はズカズカと心輝の下へ歩み寄り、おもむろにその指で彼の胸元を「トントン」と強く叩く。


「アンタは感覚系技能ほとんど会得してないじゃない。 でも私には視覚拡張(フェグリーム)がある。 高速で運転するなら私の方が得策よ」

「ううっ……!?」

「それに、逆にアンタの力なら街中を動く分には有利でしょ? アンタは勇が戻って来た時の助けになってあげて欲しい。 それは私の力じゃ難しいと思うから」


 瀬玲がそっと視線を心輝の足元へと移す。

 そこに見えるのは……心輝が備える足甲。


 心輝もまた準備万端の様子を見せていた。

 その腕に備えるのは魔剣【グワイヴ・ヴァルトレンジ・リファイン】。

 体に纏うのは瀬玲と同じタイプの彼専用カラー(ブライトレッド)の魔装だ。 


 そして足に備えた魔剣は……かつて彼等が対峙した魔者が使っていた魔剣【イェステヴ】を改修、改造を加えた魔剣【イェステヴ・リグオーデ】。

 グワイヴと同じ炎熱放出機構を備えた、彼の新しい力の一つである。


 瀬玲の言う通り、心輝の力はまさに機動力が売りだった。

 小回りが可能な高速移動を実現する事が出来る装備……それを心輝は有しているのだ。


「くっそ……何も言い返せねぇ……」


 愛車を乗り回したい気持ちはあったのだろう。

 だが今は我儘を言える時ではない事ぐらいは彼でもわかっている。


「……いいか、壊すんじゃねぇぞ?」


 心輝がそっとポケットへ手を突っ込み、ライセンスキーを取り出して瀬玲へと預ける。

 それを持っているだけで所持者と認識してくれるスグレモノだ。


「それは保証出来ないかな……でも、必ず間に合ってみせる」


「おう、弁償くらいはしてくれよな」


「仕方ないわねぇ……」


 そんなぼやきを述べながら、瀬玲が差し出されたキーを受け取り懐へ忍ばせる。




 その時突然、周囲に大音が鳴り響いた。




ドッガァーーーーーー!!




 何があったのかと二人が振り向いた先は、入り口ゲートだった。


 なんと、ゲートが丸ごと弾け、吹き飛んでいるでは無いか。

 その先には外の道路が丸見え。

 そしてその手前には……手を背後に回して立つイシュライトの姿が在った。


「セリ、こちらは準備が整いました。 急ぎましょう!!」


 ゲート前の警備室から二人の守衛が走り込んでくる。

 そんな事など気に留める事無く、イシュライトは相変わらずの笑顔を瀬玲へと向けていた。


「イシュ、ナイスー!!」


 瀬玲はそう声を上げると、空かさず車へと乗り込み……扉を閉める間も無く思いっきり車を前進させる。

 心輝が慌てて飛び退き見守る中、イシュライト飛び込む様に開かれた助手席へとその身を埋めた。


「貴様ら!! 自分達が何をしているのかわかっているのか!? これは国家に対する明確な―――」


 守衛達が彼女達を止める様に前に立ちはだかり、大声を張り上げる。

 だがそんな彼等の下へ、心輝が車を素早く飛び越えて立ち塞がった。


 その胸元の制服を掴み、瀬玲達の道を作る様に飛び退ける。

 掴まれた守衛達が慌てふためく中……用意された道を、瀬玲は思いっきりアクセルを踏み込んで飛び出していったのだった。




ヴォオンッ!! ウァァァァーーーーーン……!!




 あっという間に爆発音とも言えるエンジン音は遠くへと去って行く。

 後に残るのは心輝と、持ち上げられてぶら下がる守衛のみ。


「キ、キサマラ……こんな事をして……どうなるかわかっているんだろうな……!?」


 彼等の言う通り、これは明白な制約(ルール)違反。

 これを犯せばどうなるかくらい、心輝は当然知っている。


 しかし……そんな脅しにも足る一言を前に、心輝は静かにその両手を更に持ち上げた。


「うおあ……」


「んな事わかってるよ……けどよ、それぁアンタらだって自分達がやってる事がどんな事か、わかってないんじゃないのか?」


 その時、心輝が突然掴んでいた手の力を緩め、二人の守衛の体が地面へと落下する。

 たちまち二人は尻餅を突き、心輝を見上げる形となった。


「アンタらは今起きてる事を聞かされてるのかよ?」


「そ、それは……」


 彼等もまた事情など知りはしない。

 ただ、そこを守る様にと命令を受けて仕事をしているに過ぎないのだから。


 心輝も今の状況を知りはしない。

 でも、彼は今が明らかにおかしいと気付いているから……行動しているのだ。


「俺達がやってる事は正しいのかなんて、俺にもわからねぇよ……でもよ、良いとか悪いとかじゃねぇんだよ。 なんでこんな事になってるのかわからなけりゃ……今起きてる事がおかしいって感じても、行動しなきゃ何もわからないままじゃねぇか!! そんなの、見捨ててるのと同じじゃねぇかッ!!」


 守衛達は彼の言葉を前に言い返す事など出来なかった。

 少なくとも、彼等は今までの自分達が正しいと信じていたから。

 彼等なりの信念があって、今の仕事に就いている事には違いない。


 その信念の基が間違っているとしたら……。


 それを知らされた彼等の顔に陰りが生まれる。

 少なくとも……抵抗する素振りはもはや見られはしない。


「俺達は行くぜ……守りたいものがあるからな。 アンタらだってその例外じゃあ無いんだぜ?」


 そう言い残し、心輝もまた空へと跳ね上がって街へと消えていった。




 後に残る守衛達はそんな彼の姿をボーっと見送ると……ゆっくりと立ち上がり、トボトボと歩いていく。

 行き先は警備室ではなく、ゲートの外……。

 彼等は被っていた帽子とバッジをかなぐり捨て、そのまま自宅へと向けて歩いて帰っていったのだった。


 今そこで起きているであろう出来事に備える為に。




 彼等にもまた……守りたい家族が居るのだから。




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