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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~森に降、士に経験と志を~

『―――二番隊、勇さんと獅堂さん、降下してください』


「「了解!」」


 アルクトゥーンは現在、夕焼け差すブラジル上空を飛んでいた。

 東西南北巡回、所要時間僅か三十分という超高速旋回機動下で。


 一番隊である瀬玲・イシュライト・ディックは既に進路途中で降下済み。

 瀬玲に背負われて落ちたディックが悲鳴を上げていたのはここだけの話にしておこう。


 軍隊上がりのディックがそこまで怖れる程の超高速機動。

 そんな中へ、遂に勇と獅堂が飛び出した。


 するとたちまち二人を凄まじい重圧が襲う。

 並みの人間なら瞬時に押し潰される程の圧力を誇る加速Gだ。

 慣性制御されていた艦内から急速離脱した事で、その負荷が一気に掛かったのである。


 でも勇にとってはもう馴れたものだ。

 この二週間で幾度か繰り返した事もあれば、身体も充分耐えきれるから。


「ぐぅおおあッ!?」


 でも獅堂はそうもいかない。

 空へと投げ出した途端に体がきりもみして落ちていく。

 想像を超えた重圧によって驚き、姿勢バランスを崩してしまったのだ。


 初めての降下、初めての実践、そして初めての本番で。

 それをいきなり上手くやるなど、余程の才者でなければ不可能だ。

 例えこの日の為に厳しい訓練を繰り返してきても。

 例え直前に勇からコツを聞いていたとしても。


「獅堂ッ!?」

「だっいっ!! っじょぉぉぉおぶッ!!!」


 しかしここまで獅堂は何度も無茶を繰り返してきた。

 何度も何度もマヴォとイシュライトとぶつかって。

 身体が壊れそうになりながらギリギリを生きて来た。


 ならば例え降下を失敗しようとも、耐える事に苦痛は無い。

 気合いと根性で重圧を跳ね退け、強引に姿勢を整えていく。


 そうなれば、事実上は降下成功だ。


「お前、そんなキャラだったかぁ?」


「そうさ! 僕は!! 正義の為なら百八回キャラが変わる事も厭わない獅堂という男なのさあ"ぁ"ぁ"ぁ"~~……」


 ただ降下そのものはそう上手く行く訳も無く。

 たちまち勇よりも速い速度で大地へ向けて落ちていく。

 馴れないと頭が地表へ向いてしまう、人間の構造ゆえに。


 どうやらお金持ちの獅堂でもスカイダイビングは未体験だった模様。


「全く……やる気があるのは良いが、落ちて死なれるのは困るんだぞッ!!」


 これは勇としても予想外だった様だ。

 もっとも、このまま地表に衝突しても平気であろう事は承知しているが。


 即座に勇の姿が消え、落ちていく獅堂の傍へと現れて。

 そっと肩を起こす様に手で押し上げて姿勢を整えさせる。


「これ、転移でさくっと地上に降りれたりしないのかい?」


「わがまま言うな。 【ナ・ロゥダ】の転移は天力使うから割としんどいんだぞ? 特に今の状況だとな」


 この様な降下を勇自身も行っているのは、決して獅堂のお守りをする為ではない。

 通常の天力転送による移動が不可能な為である。


 現状、南米全土が殺意に包まれている状態だと言える。

 命脈を狂わせる程の強力な妨害波によって。

 それはつまり、天力転送にとって出入口を塞がれた状態に等しいという事だ。

 命脈移動を基礎としているからこその結果だろう。


 そんな中を無理矢理【第四の門ナ・ロゥダ】の力で突破するには、相応の消耗が伴う。

 今の距離を跳ぶだけでも、勇の額に汗が滲む程には。

 デュランとの戦いの時とは状況がまるで違うのだから。


「それにしても、君とこうして一緒に戦いに出られる日が来るなんて嬉しいよ。 この日をどれだけ夢見てきた事か」


「それ程か?」


「それ程さ。 間に合わないんじゃないかって不安もあったけど、その度に胸を殴って抑え付けて来たもんさ」


 ただ、こんな降下時間が有るお陰で、こう軽く会話を交わす事も出来る。

 戦前最後の憩いとして楽しむかの様に。


「でもお陰で間に合った。 今なら僕専用の魔剣もある。 君の力になれる時が来たんだ。 今日ほど喜ばしい事は―――三度目くらいさ」


「なんだ、随分多いなぁ」


「そうだね。 でも滅多に出来ない経験さ。 一つ目はジャスティオンに出会えた事。 二つ目は父さんの本心に気付けた事だから」


「そうか……そうだな、充分だよな」


 こうしている今、きっと獅堂はかつての出来事を走馬灯の様に思い出している事だろう。

 背後に向けて流れていく風に乗って、記憶が駆け抜けていくかの様に。


 この五年間で、獅堂も随分と丸くなったものだ。

 最初は勇の敵として現れて、大事な人(エウリィ)の命まで奪って。

 その様相は鬼の如く、社会の敵とも言える存在だったのに。


 親の愛を知って、誤解が晴れて。

 勇にも許されて、仲間にも加えさせてもらったから。

 その感謝をずっと形にしたかったのだろう。


 勇に示したかったのだろう。


 その機会がやっと訪れたのだ。

 これを猛らずにいられるものか。

 ならば募った想いが駆け抜ける事もまた必然。


「願わくば、その三度目を最後にしたくはないね。 四度目も君に捧げてみるさ。 君よりも速くあの気色悪い肉の塊を切り倒してね」


「言うじゃん。 なら後は一人でも大丈夫だな」


「んん、出来れば降下のサポートで一緒に居て欲しいなぁ、着地怖いし」


「知るかよ。 俺はそこまで面倒を見るつもりは―――無いッ!!」


ズン、ズズンッ!!!


 だがその憩いの時間ももう終わり。

 間も無く二人がその足を大地へ突く。

 強引に土面を踏み抜いて。


 共に着地に問題は無い。

 今の会話が緊張を解し、獅堂にもそう出来る余裕を与えてくれたから。


 二人が降りたのはジャングルのど真ん中。

 オッファノ族が居たアマゾンの奥地である。


 恐らくその殆どは人里へと向かっている事だろう。

 しかし目標を守る護衛が居ないとも限らない。

 加えて、もう間も無く光の無い闇夜となる。


 視界が最悪な上に、相手は夜に馴れた魔者達。

 加えて森に隠れた肉塊は上空からでは認識不可能だ。


 ならば出来る事はただ一つ。

 ア・リーヴェが示したマーカーを中心に、しらみつぶしに探し回るのみ。


 その作戦はかつてのアマゾン攻略戦を彷彿とさせるかのよう。

 勇としてはあまり良い思い出ではないが。


「獅堂、無茶はするなよ!?」


「安心してくれたまえッ!! 逃げ腰なら君にも勝るッ!!」


 そんな一言を残し、獅堂が颯爽と森の中へ消えていく。

 それはただの卑屈か、それとも勇を讃えているのか。


 どちらにしろ、以前この森から逃げた勇にとっては耳の痛い事でしかないが。


「ったく、口だけは相変わらず達者だなぁ……」


 もちろん獅堂はその事実を知らない。

 恐らくは後者の意味合いなのだろうが、口は禍の元か。

 後に残された勇の顔には堪らず苦悶が浮かぶ。




カァッ―――




 するとそんな時、闇夜に成り掛けた空の彼方が途端に空色を取り戻す。

 それも明るく、それも長く。


 勇もその光に気付き、思わず視線を向けていて。


「この光……茶奈だな」


 そう、この光はまさに茶奈が放った【星穿煌】によるもの。

 蛇岩を包む程であるが故に、西の彼方を光が覆ったのだ。


「彼女も頑張ってる。 ならこっちも早く終わらせて向かうだけだ。 まぁこの調子だと茶奈が先に戻ってきそうだけども」


 そんな光を見せられれば、勇も黙っている訳にはいかない。

 高揚した気持ちがその足を突き動かし、跳ねる様にしてその身を押し出させる。


 ただ強く、使命感の赴くままに。






 勇達の南米救出作戦が遂に始まった。

 この間にも、先に降下した瀬玲達が。

 これから降り行く心輝達やマヴォ達が戦場を駆け抜けるだろう。


 しかしこうしている間にも、各地で被害が広がり続けている。

 急いで原因を見つけださねば、悲劇は深みを増していくばかりだ。




 少しでも、その悲劇を重ねない為にも―――勇達は今、己の命を限り無く奮う。




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