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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~地に距、星に極柱穿ちて~

ズズン! ズズゥン!!


 遥か景色の先で爆発が起こり、破片が弾け舞う。

 弧を描いて落ちていく先は海の上。

 それも飛沫が見えない程に細かく無音で。


 それは蛇岩の顔部岩肌面で起きていた。

 茶奈が到達した途端に攻撃を開始したのだ。


 【ユーグリッツァー】の星達が光を放ち、岩肌を焼き。

 その度に連続の爆発が起き、表皮を砕いていく。

 一発一発が【コンポジットカノン】並みの威力を誇る高威力射撃だ。

 並の相手ならこれだけで殲滅必至であろう。


 だが、相手が余りにも大き過ぎた。


 全く通用していない。

 痛がる素振りすら見せない。

 そもそも全く動きに変化が無い。


 茶奈にすら全く反応する事無く、今なお悠々と動き続けている。

 意思があるのかさえわからなくなる程に。


 ただそれも仕方ないのかもしれない。

 何故なら、茶奈の射撃場所は余りにも表皮から離れ過ぎているから。

 相手が大き過ぎて距離感が掴めず、適正距離での攻撃が出来ないのだ。


 何せ接近すればする程大きく成り続けてもはや際限が無い。

 余りの大きさ故に、遠近感や平衡感覚すら狂っていくのだから。

 気分はまるで宇宙遊泳である。


 だから近くで攻撃したつもりでも、地表距離は未だ何キロ先で爆発も小さく見えるほど。

 岩肌が大地にも見えるので、空を飛んでいるのか落ちているのかさえわからなくなる。


 しかも接近すれば円筒状の岩肌も平坦に見え始めて、次第に本物の地上と錯覚してしまう。

 大地が隆起して生まれた物な為か、よく見れば木々さえポツポツと在るのだから。


「何て大きさなの……!? 先が見えない!」


 だからと言ってその地表に沿って変に動けば、あっという間に成層圏を抜けてしまう。

 余りにも大きいが故に、その背はもう成層圏を越えて宇宙空間にまで達しているから。


 宇宙に近づけば近づく程、気圧や気温が急激に減少し、通常行動に支障が出る。

 世界最高峰のエベレスト山頂付近で晒し身での踏破が出来ないのは、それが理由だから。

 一つ呼吸すれば肺が凍り、肌が空気に長時間触れれば爛れ、陽に目を向ければ網膜が焼ける。

 圏境近くというだけでも生身で生存し続ける事が出来ない、過酷熾烈な環境なのだ。


 そしてその条件は超人である茶奈とて例外にはならない。

 例え命力フィールドで守られていても、影響は蓄積していく。

 その様な場所で下手に動き回れば、それだけで茶奈自身の負荷となるだろう。


 故に戦える場所は広い様で狭い。

 特に、茶奈の様な高速で動き回る者ならば特に。

 その速度で岩肌や海面へ下手に激突すれば、それだけで十分死ぬ可能性だって有り得るから。


「大き過ぎる……!! 少しづつ近づいて行かないとッ!!」


 それでも恐れず岩肌に沿う様に並走しながら、徐々に距離を詰めていく。

 茶奈との間には薄っすらと雲が浮かび、距離感を更におかしくさせるかの様だ。


 こうして急接近しないのは、距離感が掴めないからだけではない。

 蛇岩は今でも縦横無尽に動き続けていて、岩肌が突然に迫って来る可能性もあるから。

 接近している時に岩肌が打ち付けられれば、それこそ小さな茶奈が弾かれるのは必然だろう。


「頭を消せば落ちるかな。 でもグリュダンみたいに頭が弱点じゃないって事もあるし……!」


 対しての蛇岩はと言えば、弱点がわからない。

 どこを叩けば倒せるのか、削って倒せるものなのか。

 そもそもどういう仕組みなのか。 


 それを探ろうにも、相手が大き過ぎて特異点が見つからない。

 見る場所が余りにも多過ぎるからだ。


 全てが岩壁。

 全てが異質。

 全てが同じ。


 最初の手の付け所さえ迷いかねない状況に、茶奈の顔が歪む。

 先程の攻撃も試してみただけで、全く何の意味も成さなかったから。


「なら頭から消していくしかないですね……ッ!!」


 下手に近づけば弾かれて終わる。

 半端に攻撃しても全く通用しない。

 ならもういっそ、最初から飛ばしてしまった方がずっと楽だろう。


 そう理解した茶奈が突如速度を上げて岩肌から離れていく。

 蛇岩は航行速度ならば遅く、例を挙げるならば小型プロペラ機程度でしかない。

 となれば進路先、頭部の前へと辿り着くのは容易だ。 


 あっという間に頭部の前へと躍り出た茶奈が、両手の魔剣を掲げて力を迸らせる。


「行けッ!! 【ユーグリッツァー】!!」


 するとたちまち魔剣の先端が輝き、計十個の星が瞬時に飛び交って。

 間も無く、その正面に命力の軌跡で描かれた紋様が浮かび上がる。


 空に刻まれしは五芒星、二つ。


 星達がそれぞれ規則正しく並び、力を繋げたのだ。

 ただしそれは決して魔法や術式の様なものとは理屈が違う。

 均一に、寸分の狂い無き等間隔で並んだからそうなっただけに過ぎない。




 何故なら、星達の配置はあくまでも―――茶奈のサポートなのだから。


 


 【ユーグリッツァー】とは万能魔剣である。


 時には近接戦闘を行う為の槍型魔剣として。

 時には全周囲攻撃を行う射撃魔剣として。

 時には相手を引き裂く遠距離斬撃魔剣として。

 時には星を繋げて防護壁を張る盾型魔剣として。

 場面場面の戦闘シチュエーションに備え、あらゆる事が出来る事をしている。


 ならば、砲撃と言えばどうだろうか。


 実は、ただの砲撃であればこの魔剣は非常に弱い。

 魔剣そのものに増幅機能が存在せず、放たれた力(イコール)命力消費量となるからだ。 


 でもそこは魔剣の使いよう。

 使用者の工夫次第でどうにでもなる問題なのだ。


 その工夫こそが、この星達の二連五芒星配置。


 均等に並び、力を張り巡らせて命力磁場を中央部に発生させる。

 こうして生まれた磁場は放たれた命力波を何倍にも増幅し、強化させる事が可能。

 それも星達に力が宿る限り、砕けない限り何度でも、何度でも。




 それがこの五芒星の正体。

 【命踏身(ナルテパ)】の技術を応用して生み出した陣形。


 名付けて、【命力(ソウル)超増幅機構(フルチャージャー)】である。




 もちろん、これは最初から出来た訳ではない。

 そのヒントは名の通り、エクィオの【極雷命槍砲(ソウルフルブラスター)】から得た物だ。

 フランスで見せられたのは素より、あの会議の後でも話し合う事があって。

 話を聴いた結果、【ユーグリッツァー】でも同様の事が出来ると踏んだのが発端となっている。

 

 そして今、その形がしっかりとイメージ通りに出来た。

 ならば後は、実際に撃ち放つだけだ。


「世界を、人を脅かすなら、私は力を奮う事を躊躇わない!!」


 その腰の両端に柄を添えて。

 魔剣を握る手を強く握り締める。

 真っ直ぐと、前を見据えながら。


 こうして構えしは、水平に伸びる二本の魔剣。

 向けられるのは当然、空を貫く巨岩の蛇。


「【ラーフヴェラ】、【エフタリオン】、フルオーバードライヴッ!!」


 その掛け声と共に、背中に虹光四翼が形成されていく。

 ピューリーをも圧倒した、大気さえも武器と換える程の力の巨翼が。

 加えて【剛命功(デオム)】の力が更に張り巡らされ、体が大気に固定される。


 これから放たれる一撃がどれ程の威力を誇るかはわからないから。

 最大の力を放つ為にも、身体を支える為にも、限界解除(リミットブレイク)さえ躊躇わない。


 こうして全ての(ピース)が揃った時、遂にその時が訪れる。

 巨岩の行く手を阻む為に。

 世界沈没を防ぐ為に。


 今、茶奈がその力を解放する。




「これで―――終わって!!」




 その時、魔剣と五芒星の間に雷光が煌めき(はし)る。

 青空を裂く程の無数の光芯を広げながら。


ピッ―――


 そして杖先から放たれたのは、糸程に細い一筋の閃光。

 鳴音も無く、反動も無く、真っ直ぐ刻まれていて。


 だがその小さな一筋が五芒星へと到達した時―――




 太陽の如き光珠が、地球の蒼海上にて煌めき輝く。




 凄まじい輝きだった。

 視界が真白に塗り潰される程に。

 それ程までに強大な輝光の柱が五芒星から解き放たれたのだ。


 それも、二本。

 それも、渦を巻いて。


 そしてその二つの柱が渦巻き混ざり、絞られた時―――






 蛇岩にも劣らぬ巨大な極輝光柱となって大気を貫いたのである。






 そして今。

 蛇岩矛を包み。

 穿空軌道を照らし。

 大気圏層をも貫いて。

 月廻軌道さえも通り越え。

 無限の彼方で輝く星と成る。


 それ程までの規模だったのだ。

 それだけの威力を誇っていたのだ。


 それを成せるのがアストラルエネマ。

 星の力を託されし巫女の意思がままに。


 この力こそ、まさに【星穿煌(たまうがことき)】と飾るに相応しい。

 それ以上の銘載はもはや無粋。




 その力銘―――星()く事他に超ゆるもの無し。




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