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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~理に優、覇に人心在りて~

 勇と剣聖の戦いが始まっておおよそ一〇分。

 たったそれだけの間で既に、グランドキャニオンの山が五つ崩れ落ちた。


 しかしなおも二人の余力はまだ充分。


 だからこそ、勇が遂に創世剣を手に取る。

 不利であるとはいえ、諦めるつもりは当然無いのだから。

 例え圧倒的な力を見せつけられようとも、そんなもの全力で乗り越えるだけだ。


 対する剣聖も、顔から余裕を取り払う。

 久しく見なかった創世剣を前に、もう加減は必要無いと悟ったから。

 これからが本当の戦いなのだと。


 そう互いが静かに力を漲らせていた時、一つ湧いた疑問が剣聖へと投げ掛けられる。


「……一つ、聞いていいですか?」


「なんだ?」


「カイト・ネメシスが現れたあの時、何故本気を出さなかったんですか? 今の剣聖さんなら命力無しでも勝てたハズだ……!」


 勇の疑問ももっともだろう。

 ゴトフの里でカイト・ネメシスと戦った時、剣聖はその力を前に敗北しそうになっていた。

 全力を出せば天士となった勇さえもこう圧倒出来る程に強くなれるのに。


 なら何故、あの時全力を出さなかったのか、と。


「答えはなんて事ねぇ。 正直自信が無かった、それだけよ」


「えっ?」


「全力出してもよ、命力まで抑えられる自信が無かったのよ。 身体を抑え込む事に慣れ過ぎてなぁ。 だからもし全力出してコントロールが出来なくなっちまったら、それこそ負けは必至だ。 オマケに茶奈達ごと一帯をぶっ壊しちまうだろうよ。 そんなリスクを犯せる場じゃねーって思ったからな」


 しかし返って来たのは―――何よりもずっと理知的な答えだった。




 剣聖は周りから見れば自信の塊の様な人間だ。

 嘘こそ言わないが、虚勢を張る事など常々で。

 おまけに粗暴で利己的で、印象だけなら悪人にさえ見えてしまう程に。


 でもその内面は違う。

 与えられるメリットとリスクを考え、天秤に測る事が出来る。

 その上で負ける事よりも逃げる事よりも、茶奈達やゴトフ族を救う事を優先したのだ。


 それが最善の手段だという答えを導き出したから。




 剣聖もやはり人だったのだろう。

 こうして他人を想う事が出来るから。


 勇もようやく、これで剣聖がどういう人物なのかをやっと理解出来た。


「……そうだったんですね。 ありがとうございます、あの時全力を出さないでくれて」


 だからこうして素直に礼が言える。

 茶奈達を守ってくれた事への感謝を込めて。


「なぁに、礼なんざ言われる事じゃあねぇよ。 俺がそうしたいと思ってやった事だ」


 だから剣聖も謙遜無くこう答えられる。

 勇が自身を理解してくれたとわかったから。




 だから二人は、笑顔のままに力を高め合う事が出来る。




「けど、もうここに剣聖さんを縛る物は何も無いですよねッ!!」


「へっ、おめぇの気を散らす様な余計な物もなあッ!!」


 もう何もかも、遠慮する必要は無いと悟ったから。

 むしろこうやって戦う事こそが相手の為になるともわかったから。


 二人が遂に力を放ち、その手に翳す剣に光を灯す。

 目の前に立つ強敵(ライバル)を打倒する為に。

 もうそこに、師弟などという立場など影も形もありはしない。


 ならばもうこれ以上の会話など、不要。 




「「いくぞッ!!」」




 その雄叫びが空を、大地を駆け抜けた時―――遂に全力の二人が激突する。


 両手で掴んだ創世剣を、背中へ付く程に大きく振り被る勇。

 巨大双剣を斜に構え、頭で突かんばかりに前のめりの剣聖。

 そんな二人が力の限りに踏み込み、一直線に剣を打ち合う。




 たったそれだけだった。

 たったそれだけで、山がまた一つ崩壊した。




 ただ今回の様相は先程とは違う。

 先程まではただ撃ち抜かれて自壊していっただけ。


 でも今回は―――爆破・消滅。


 二人の剣が打ち合った瞬間、爆発的な力が周囲に放射されたのだ。

 まるで二人の立っていた場所に大型爆弾が投下されたかの様に。


 それを成してしまう程に、二人の秘めていた力は凄まじかったのである。


 こうもなれば二人とも無事では済まされない。

 抑え切れない程の反動が襲い、たちまち二人を引き離す。

 瞬時にして別々の山肌に叩き付けられる程の勢いで。


ドドォーーーンッ!!


 たちまち、空から見える程に大きな土煙がどちらからも巻き上がっていて。

 大きな岩片が無数に飛び散り、衝撃の強さを物語るかのよう。


 だがそれでも戦いが終わった訳ではない。


「うおおおッ!!!」

「かあああッ!!!」


 どちらも一切怯む事無く、力の限りに跳ねていて。

 遥か彼方に居るであろう相手に向けて一直線に飛び掛かる。


 もう距離など二人には何の関係も無い。

 見えておらずとも、互いが認識し合っているから。

 心の色という存在反応を目印として。


ガッキャァァァーーーンッ!!


 そして二人が再び剣を交えるのはもはや必然。

 今度は互いに空中で、飛び出した勢いのままにぶつかり合う。


 この様に一定の速度へと到達すれば、空力作用を利用して加速する事さえ可能。

 どちらもそう出来る事を実証している身だからこそ、互いに疑う事無く飛んできた。

 「勇/剣聖は必ず真っ直ぐ飛んでくる」のだと。


 ただし、空中戦となれば圧倒的な優位性が勇にはある。


 ついたった今、二人は剣を打ち合っていたはず。

 その次の瞬間には、剣聖の視界からは既に勇の姿が消えていて。


 同時に、その巨大な背中が大きく反り曲がる。


「ぐぅおおッッ!!?」


 勇が背後から斬りかかっていたのである。


 空中こそプロセスアウト攻撃の独壇場。

 相手がデュランの様に飛べないのであればなおの事。


 そしてこの一撃に一切加減は無い。

 剣聖がそれを望んだから、全力で戦うと公言したからこそ。




 だが―――斬っても、切れない。




 せいぜい切れたのは僅か皮一枚だけ。

 命力で極限まで硬化させた筋肉が創世剣の刃ですら通す事を許さない。

 その強靭さは、まるで全身が【アーディマス】製の魔剣であるかの如く堅固だったのだ。


 ただし、斬られたのでなければ、それはつまり叩かれた事と同義。

 となれば、今度は剣聖が弾き飛ばされる事となる。


「おおおッ!?」

 

 空中であれば張る根も無い。

 そうなれば如何に剣聖の巨体と言えど叩き落とされるのはもはや必死。


 その姿はまるで流れ星の如し。

 己の身が自由に出来ないまでの速度で落ちていく。


「まだまだだあーーーーーーッッッ!!!」


 それにその状況を利用しない勇ではない。

 たちまち天力粒子の残光を弾いてその場から消え失せる。


 向かう先は当然、剣聖の落ちるその先。


ドッギャアァァァン!!


 そうなれば後は、打ち返すだけだ。

 斬れなければ、叩き続ける。

 何度でも、何度でも。


 まるで野球の打者の様に。

 筋切り仕込みを行う料理人の様に。


「うおおおーーーーーーッッッ!!!」


 決定的な一撃を与えるまで、勇は諦めるつもりなど無い。


 剣聖が敗北を認めるまで、止まる理由などもはや無いのだから。










 そうして空に刻まれるのは不規則な鋭角軌道の残光。

 それも一瞬で遥か彼方へ飛び去っていく程の速度で。

 

 その極点に輝くのは常に虹光。

 勇の全力が迸っている証拠である。


 その様子を空から見ていた者達は何を思ったのだろうか。

 何を思わせたのだろうか。


「実にファンタスティックだ。 こんな光景を見られた私はきっと幸運なのだろうな」


「そんな良いものじゃないですけどね。 あれだけの力になると」


 初めて見た者には美しい虹燐光(こうりんこう)も、戦いを知る者には全く別に見える。

 あれこそが力の極致が示す光なのだと。

 命力も天力も、どちらも究極に至った時に初めて見せる輝きなのだと。


「ラクアンツェさんが昔言ってた事が真に理解出来た気がします。 命力が多いだけじゃダメだって。 命力自体にも練度みたいなのがあって、身体と一緒に鍛えなければああまでなれないんだって」


「そうだな。 茶奈も魔剣を使って虹色の命力は出せてるけどよ、あれは余程集中してないと出来ねぇもんな」


「私達は魔剣(ブースト)無しじゃあそこまで到達するのは不可能だもんね。 勝てない訳だわ」


 その輝きを勇も剣聖も、己の力のみで実現している。

 それも常時、自然に。


 これ出来るか否かが、勇・剣聖と茶奈達との決定的な差なのである。


「だがどうやらこのショーももうお開きの様だね。 彼等を追う事はさすがに出来ないだろう?」


 ただ、その現実に打ちのめされる時間もこれで終わりだ。


 もうアルクトゥーンからでは勇達の姿を追う事は出来ない。

 景色の彼方に消えて久しく、追いかけるにもまず速度的に追い付けないだろうから。


「この場所は思い出深い所だと思って選んだのだが、結果的には正解だった様だ。 被害の方もまぁなんとかなるだろうしなぁ」


 既に二人の戦闘領域は封鎖地域を越えている。

 それだけ思いっきりやりあっているのだろう。


 でも、このグランドキャニオン国立公園は指定地域さえも一部にしかならない程に広大だ。

 多少なりに人が住んでいるとはいえ、被害が出る可能性も少ない。

 それに二人なら、人が居ても避けて戦えるだろうから。


 そう信じられる二人だから、ブライアンもこうして楽観的になれるのだ。






 例え姿が見えなくなっても二人の攻防は続く。

 更にその力を上げながら。

 人が居ないからこそ、遠慮する事も無く。


 灼熱の台地、アリゾナ州グランドキャニオン。

 この地は今日、たった二人の戦士によって―――原型を留めない程に変わり果てる事となる。




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