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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~責に望、問に仲間を映す~

「私は重要な任務を受けながら使命を放棄し、救世同盟の一員として、デューク=デュランの仲間として共に行動致しましたッ!! その罪は重々承知しているつもりでありますッ!!」

 

 ブライアンの甥であり、アメリカのスパイでもあったアルバ。

 しかしそんな彼が犯していたのは、祖国への裏切り。


 そう、アルバはアメリカ政府から受けた指令を放棄していたのだ。

 自分の立場を捨ててデュラン達に力を貸していたのである。


 考えてもみよう。

 何故スパイであるアルバが傍に居ながら、昨今のデュランの情報が全く無かったのかを。


 もし彼が指令を受け続けていたならば、アメリカは居場所すら察知していただろう。

 そうすればアルクトゥーンが直接宇宙から強襲する事だって出来たはず。


 でもそれを知らなかったのは、とある時期からアルバの連絡が途絶えたから。

 詳細情報がリークされていなかったからだ。


 そこでもうアルバはデュランを信じきっていたのだろう。

 彼と共に行く事を決め、祖国との決別を決めたのである。


 その時点でアルバは国家反逆の罪に問われるべき存在となった。

 本来ならばホワイトハウスの敷地にすら踏み入れられない程の重罪人だと言えよう。


 でもその救世同盟はグランディーヴァと手を組んだ。

 だからこうして改めてブライアンの前に姿を晒す事を決めたのだ。

 アルバなりのけじめのつけ方として。


 アメリカでの先行鎮圧作戦は名目上の話。

 アルバはもう覚悟しているのだ。

 今ここで裁かれる事を。

 己の使命が終わった今、不要な蟠りを拭い去る為に。


 信じたデュランがそうしようとしている様に。


「そうか。 どうやら覚悟は出来ている様だな」


「ハッ!!」


 そうして応える様子に恐れは無い。

 後悔も、やり残した事も。


 親族であるブライアン大統領に裁かれるならば本望なのだと。




「だがここで敢えて訊こう。 ロバート少尉にとってのデューク=デュランとは一体どういう人物だったのかね?」

 



 ただその罪罰はあくまでもアルバの主観的観測から思い付いた事に過ぎない。

 少なくとも、ブライアンの思惑とは少しばかり違った様だ。


「私は知りたい。 デュランという男がどういう人物なのかを。 剣を交えたユウ=フジサキからではなく、仲間として戦ってきた君が抱いた感情のままにね」


「そ、それは……」


 そして、こう切り返される事などアルバは予想もしていなかったらしい。

 たちまち頑なだった顔に僅かな震えを、不屈だった心に得もしない動揺を呼ぶ。


 アルバにとって、ブライアンは最高の人間だ。

 親戚として、家族として、時には良き友として。

 憧れたから、勧めてくれた肉体鍛錬も始めて。

 大統領になってからも、役立ちたいと軍学校に入って士官にもなった。


 これだけ憧れるくらいに知っていたから、導き出す答えも自然と予想出来るつもりだった。


 でも今、アルバはブライアンの思惑が読めないでいる。

 ここにやってくるまでに色々と考えを巡らせてきて、結論は出ていたはずなのに。

 良く知った人物だからこそ、きっと結論通りに裁きを下すのだと。


「どうしたのかね? 言えない事情でもあるのか?」


 ブライアンはガタイが良くとも、とても頭が回る。

 常に考えを巡らせ、最も()()()手段を導き出せる程に。

 いつだかの対エイミー戦においても勇達を利用していた事は記憶に新しいだろう。


 それくらいしたたかで非情な一面があるという事も、アルバは当然知っている。

 例え相手が親族であろうとも裁きを下す覚悟と気概がある事も。

 アメリカ大統領としての責務を果たす為に。


 だからこそ、この質問の意図が読めない。

 一つ答えを間違えればどういう結末が待っているかもわからない。

 一つ選択を誤れば、以後デュラン達にどういう影響を及ぼすかもわからない。


 これ以上の知恵が―――回らない。


 その気の迷いが、あのアルバを震わせていた。

 心輝に敢然と立ち向かい、敗北しても崩れる事の無かったその体が。


 今のアルバにはブライアンが何よりも恐ろしい存在に見えている事だろう。

 自分だけでなく、仲間達をも天秤に掛けられてしまった事が恐ろしくて。


 それを乗り越えられるだけの覚悟がアルバには無かったのだ。


「わ、私は―――」

「気負うな()()。 いつも通り砕けて行けばいい」

「―――ッ!?」


 けどそれはきっと考え過ぎだったのかもしれない。

 自分の責任と使命と、憧れだった人への想いの板挟みで追い詰められたから。


 なんて事無かったのだ。

 今目の前に立っていた男はブライアン。

 偉大なる大統領ではなく、ただのブライアン=ウィルズだったのだから。


 今の穏やかな一言が、ようやくアルバにその事を気付かせる。


「……私の、いや、俺にとってのデュランとは―――」


 そう気付けたからもう震えは止まっていた。

 それどころか、己の拳に「ギュギュッ」と握り締める程の力を込めていて。

 通路を塞ぐ心の枷が無いのなら、抱いた想いをその大きさのままに撃ち出せばいい。


 だから後は、ただ己の思うがままに〝友〟を語るのみ。




「―――とても素晴らしい男です。 この俺が信じたくなる程に。 誰よりも優しく、思いやりに富み、正義を忘れない。 救世同盟の志があろうともその心を失わず、自分をも犠牲にする強い覚悟と信念で皆を導いてくれました。 そしてきっとこれからも導いてくれる、そう信じられる男なのだと俺は思います」




 これこそがアルバの持つデュランの肖像(イメージ)

 何一つ飾る事の無い、正直な印象だ。


 そしてこれは勇が抱く印象と変わらない。

 天士として相対し、心で存在を感じ取ったものと何一つ。

 だから勇もアルバの一言を聴いた時、自然と笑みが漏れていた。


 〝なんだ、何も変わらないじゃないか〟と安堵の籠った微笑みが。


「そうか……フフ、ハッハハ―――」


「ブ、ブライアン……?」


 その微笑みが波及したかの様に、遂にはブライアンまでもが笑みを零していて。

 先程までの緊張感がまるで嘘の様に。


「―――なら何も問題は無いな。 その救世同盟はグランディーヴァと手を組んだ。 そして唯一の疎いだったデュランという謎の男がお前の言った通りなら、あの会議動画で見た通りという事だろう?」


 これにはアルバも呆然とするばかりだ。

 何もかもがお見通し、掌で転がされていたなどと気付いてしまえば。


 勇達とデュラン達の会合はもう既に世界へ配信されている。

 何一つ隠す必要が無いからこそ。

 となれば当然、ブライアンが見ていない訳など無く。


「それがわかれば充分だ。 我等を裏切ってデュランの傍に長く居たお前の証言なのだ、何よりも信じる証拠となるだろう。 以前教えただろう、逆ロジックだよロブ。 特に、お前が信じられん様な男ならすぐに見抜けるものだ。 そういう所だけは単純だからな」


 だから後は、映像に映っていたデュランが本当に映っていた通りの人物なのかを確かめるだけだ。

 だったら手っ取り早く、自身の前では嘘が言えないアルバに答えさせればいい。

 どうせすぐに帰ってくるだろうと踏んでいたから。


「という訳でロバート少尉、貴君の働きで結果的に世界救済が進んだ。 任務放棄はその布石と判断されたのだ。 そしてその功績は称賛に値するだろう。 しかしまだ全てが終わった訳ではない。 そこで君に新たな任務を課す。 まずは本館にある会議室へ向かいたまえ。 そこで君の直属の上司が首を長くして待っているだろうからね」


「なっ!?」


 なんて事は無かったのだ。

 何もかもが予定調和で、つつがなく進んでいて。

 全てはブライアンの思惑通りだったのだから。


 こうしてアルバを許す事もきっと。


「それとも今の決定では不服かね?」


「い、いえ!! ロバート=ウィルズ少尉、これより会議室へ向かいますッ!! 失礼しましたあッ!!」


 こうもなれば後は早い。

 アルバが空かさず執務室から飛び出せば、あっという間に執務室は静けさを取り戻す。

 何もかもがブライアンの采配のままに。


「いやはや、さすがですねぇブライアンさん」


「いいや、これ程単純な話なら褒められる事ではないさ。 私は最初から確信していたからな。 ロブが()()()()()()()ね。 アレは熱いが本当は賢いし、人を見る眼がある。 私が保証するよ」


 長年見続けて来た甥だからこそ、彼もまたよく知っていたのだろう。

 アルバがこうして迷う事も、振りきれる事も。

 もしかしたら、そこから覗くデュランの本質さえも。


 でもそんな事はもうどうでもいいのだ。

 その憶測全ては確証に変わり、公となったから。

 その証明が成されたから、後は前に進むだけだ。


 ブライアンも、アルバも。




 だからアルバの心にもう迷いは無い。

 走るその姿はがに股で荒々しかったけれど、その足取りは飛び跳ねるかの様にとても軽快だった。




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