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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~議に戒、胸に救世の志を~

 救世同盟陣の参上はアルクトゥーンの住人を大いに湧かせた。

 でもデュラン達がこうして訪れたのは、決して人々を喜ばせる為ではない。


 グランディーヴァと救世同盟、この二団体が進む道を決める為だ。


 デュランが天士に目覚めた今、状況は彼も十分に把握している。

 それでもアルトランに関する情報は皆無で。

 紫織を見失った以上は動向さえ追う事が出来ない。


 だからこそ、今出来る事を。


 見つからないのなら探せばいい。

 世界が未だ抱える問題を解決しつつ。

 戦力がこうして大幅に増えたのだから、出来る事の幅も広がったはず。


 ならばと、その役割を決める為にこうして集う事となったのである。


 ちなみに勇達が会議室に辿り着いたのは、その会議開始予定時刻からおおよそ三〇分後。

 いざ会議室へと足を踏み入れれば、そこにはだらけた様子の心輝達の姿が。


「オイオイオイ、随分遅い登場じゃねぇかぁ」


「すまない。 歓迎してくれた皆さんがどうしても離してくれなくてね」


 そんなデュランの胸元には腕一杯の花束やプレゼントが。

 まるでもう、今にでも何かから卒業して帰りそうな雰囲気だ。

 迎えた人々は一体どこからそんな物を持ってきたのやら。


 頂いたプレゼントを笠本に預け、勇と瀬玲、デュラン達がようやく会議の場へと座していく。


 会議室は関係者全員が収まってもなお余裕を感じさせる程の広さで。

 一面を白で包んだ空間の中央には、円を描いた会議机が置かれている。


 さしずめ、現代の円卓(ウィンチェスター)と言った所か。

 そんな伝説を持つ国に最も近く、馴染み深い者であれば微笑まずには居られない。

 

「ではいきなりだけど、改めて謝罪をさせて頂きたい。 今日これまでの行い、本当に申し訳なかった」


 そして座して早々、デュランが机上に両手を突いては頭を下げていて。

 それを見た仲間達が揃ってたちまちの動揺を見せる。


 どうやらこう謝罪する事は彼等も知らされてなかった様だ。


「些細な勘違いで世界中の人々を苦しめ、多くを死に追いやってしまった。 その罪はもはや万死に値すると言えるだろう。 そして仲間をも巻き込んで苦しめてしまった事もまた同様に」


 その謝罪は勇達に対してではなく、まるで自分以外の全ての人間に対するもの。

 仲間であろうとも例外無く。


 そう語るデュランの拳は震えていて。

 よほど悔しいのだろう。

 拭いきれない程の過ちを犯してしまった事が。


「私はその罪を潔く受け入れるつもりだ。 もしこの場で断罪するというのなら、私はそれに抵抗も弁明もするつもりは無い」


 この会議の様子は当然、千野とモッチによって撮影されている。

 つまりこの会議は後ほど全世界に公開されるかもしれない、という事だ。


 二人の撮った動画は今日に至るまでに全て公開されている。

 真面目な話から恥ずかしい姿までを全て。

 それは当然、デュランも閲覧していて知っている事で。


 きっと今回も同様に公開されるだろう。

 それを見越しての、この謝罪なのである。


「それが私と、この過ちの始祖であるデュゼローが受けるべき報いであるならば……喜んで償うつもりだ。 それが私のこの場に立った事への覚悟だと思って頂きたい……!」


 自身の抱える罪の重さを、世界へと告白する為に。


 これがデュランの覚悟。

 死をも受け入れ、明日に繋ぐ。

 そうする事が自分以外の全てを救う手立てならば、と。




 でも、そんな覚悟なんて必要無かったのだ。

 少なくとも、このグランディーヴァという団体の下では。




「なぁデュラン、お前はそんな謝罪をする為にここへ来たんじゃないんだろ?」




 その時、謝罪で静まり返った会議室に勇の声が響き渡る。


 とても穏やかな声色だった。

 デュランを責める訳でも無く、罪を戒める訳でも無く。

 ただただ()()()、何事も無かったかの様に真っ直ぐ見つめていて。


 そんな言葉が聴こえれば、デュランとて顔を上げずにはいられない。


「ユウ=フジサキ……」


「確かに、お前が始めた行いは世界的に見れば非道だったかもしれない。 色んな人が償って欲しいって思ってるかもしれない。 でも、だから命で償うっていうのはなんか違う気がするんだよな」


 そう語り始めると、途端に茶奈達もが「ウンウン」と頷き始めていて。

 心輝や剣聖に至っては「やれやれ、またかよぉ」と呆れてお手上げの様子を見せつける。


 こうして語られるのは大抵、彼女達が飽き飽きする程に聴いてきた『藤咲勇節』だからこそ。


「だって死ぬのは簡単だろ? 俺が今、剣でグサッってやればそれで終わりじゃないか。 でも世界を救うのはそんな簡単な事じゃない。 だったら世界を救った方がずっと罪滅ぼしになるんじゃないかなって思うんだ」


 勇が語るのは、端的に言えば効率の話だ。

 罪を償うなら、死ぬよりも生きた方がずっと生産的なのだと。

 例え被害者やその遺族がデュランの死を切望しようとも関係無く。


 これが薄情だと思う者も居るかもしれない。

 相応の償いを今すぐすべきだと思われるかもしれない。


 でも、今の勇にそんな()()()()()()()なんて通用しない。


 日本には「罪を憎んで人を憎まず」ということわざがある。

 罪こそが清算されるべきであって、人を責める事に意味は無いという言葉だ。


 だが、勇はその罪すら憎んではいない。


 それは天士であるが故に。

 憎む事よりも、怨む事よりも、犯してしまった罪を償えるくらいの恩恵を人に与えればいいのだと。

 その究極的な()()()とも言える世界救済がデュランには出来るから。


 なら、そうした方がずっとずっとお得だ。

 勇的にも、人類的にも、世界的にも。


 そして未来の為にも。


「デュランが死を望むなら話は別だけどさ。 それでも俺は生きてくれる事を望むよ。 お前が死んで戦力が減って、その結果アルトランに負けちゃえば責任もクソも無いしな。 それなら全部が終わった後に色々考えた方がいいさ。 今あれこれ考えるよりもね」


 もしデュランを殺した場合、天士が単純に一人減る。

 それどころか彼の仲間の信用をも失い、得られるはずだった戦力は皆無となるだろう。

 そうなった場合、勇は【第四の門 ナ・ロゥダ】を開いたデメリットを抱えたまま戦わなければならない。

 それはあまりにも不利益だ。


 それだけではない。

 もし勇がそう言おうとも納得しなければ、世界から負の感情は消えない事になる。

 つまり、勇の天力が全力を発揮する事も難しくなり、アルトラン・ネメシスとの戦いに不利が生じるだろう。

 それも不都合だ。


 いずれも世界が終わる可能性を大いに秘めている。

 そうもなれば罪を背負わせるメリットなど一切ありはしない。


 そう―――勇は今、自分を世界と見立てて語っているのだ。

 ア・リーヴェと繋がって、創世神話を知ったから。

 世界にとって今何が一番重要なのかを考えて。


 それがひいては、最も自分自身の為になるとわかっているからこそ。


「それに、そんな事をわからないお前でもないだろ? 一番したい事が何なのか、それももう決まっているんじゃないか?」


「……そうだね。 ああ、決まっているとも。 私の心は既に。 君に気付かされたあの時から」

 

 そして勇と同じ心の色を持つデュランが、その語りの意味を理解出来ない訳が無い。

 天士に目覚められた者が、真意を見出せない訳が無い。




「例え全てが終わった後に世界から排除される事になろうとも、私は戦いたい。 愛するこの世界と、祖国と故郷の人々の為にッ!!」




 きっと今回の謝罪も、先日デュランが言った「茶番」の一つなのだろう。

 今、世界に何が一番必要なのかを悟らせる為の。


 世界に最も信用されているであろう藤咲勇にこう語らせる為の布石として。


 謀略的かもしれない。

 出来レースだとも思われるかもしれない。


 でもそんな事も関係無いのだ。

 その結果、人々が救えるならば。


 勇もデュランも、世界を騙すペテン師になる事さえ厭わない。


 それが二人の本心だから。

 打ち合わせる必要も無い程に同じな心のカタチだから。


 これが世界を救うという共通の目的を持った者同士の、絆の在り方なのである。


「ならもう過去に向けた謝罪なんて必要無いよな。 俺達は未来を掴む為に話し合うんだから」


「……場を取り乱してすまなかったね。 ならば話し合おう。 皆の未来のために」


 そしてその心情はどちらの仲間達も共感出来るから。

 だから何事も無く、本来の目的へと移る事が出来る。


 これから始まるのは、世界を救う為の談話。

 でもその真意は、世界に実情を知ってもらい、理解してもらう事に他ならない。


 世界の認識を統一し、来たるべき戦いへと備える為に。






 勇とデュラン。

 二人が目指す道はこうして紡がれ始める。


 もう後は世界を纏める為に語り、人々に希望を見せて導いていくだけだ。




 かつてのデュゼローがした事と同じ様に。




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