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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十七節 「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
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~闇に森、天に凶星ありて~

 勇達グランディーヴァとデュラン達【救世同盟】の決戦。

 その結果は見事グランディーヴァの勝利という形で幕を閉じた。

 それも、デュラン達を仲間に引き入れるという大金星を得て。




 しかし勇達がその勝利に湧き上がっていた頃―――




 南米、とある森林。

 それも日が落ち始め、森一帯に闇が包み始めた時。


 そんな場所に、誰にも存在を知らされずに一人佇む少女の姿があった。


「……クフフ。 そうか、やはりあの男―――」


 小野崎 紫織(アルトラン・ネメシス)である。


 そんな彼女は一体何を感じたのか、思ったのか。

 ただ一言そうポツリと呟き、ぼんやりとした瞳を虚空に向ける。

 朽ち果てた切り株に座り込み、己の膝上で頬杖を張りながら。


 でも、その口元には不敵な微笑みが浮かび上がっていて。


「―――【ナ・ロゥダ】を開いたな。 ア・リーヴェが付いていながら……不用心な事だ」


 それもそのはず。

 彼女は遂に知ってしまったのだから。

 間接的に、勇が天士だと証明してしまった事を。


 その原因こそ、勇が行った【第四の門 ナ・ロゥダ】の開門に他ならない。


 この開門がもたらすのはつまり、地球への直接的アクセス。

 命脈と強く濃く繋がる事で、プロセスアウトの攻撃さえも可能とする。

 

 そう、足跡を残してしまう程に強く濃く。


 それが地球の中心(アストラルストリーム)への直接的アクセスのデメリット。

 使用者の天力が足跡として命脈に残り、他者に察知されてしまうのである。


 例えるなら、記録(ログ)を持った端末でフリーWIFIに接続する様なもので。

 誰が地球にアクセスしたのか、同じアクセス権を持つ者ならその記録を辿ってすぐに解明してしまう。

 それもその筋に詳しい者ならば即座に。




 そしてシステムを共有しているならば、例え異星に居るとしてももはや関係は無い。




「フフ……()()か」


 その時、紫織が何かを察知し、空へと視線を向ける。

 視線の先に映るのは、暗空に瞬く四つの星。


 でもその星はどこか不自然だ。

 まだ闇夜というにはほんの少し早い時間帯にも拘らず、一等星の様に輝いていて。


 それも、次第に大きくなり始めていたのだ。


 その星達はあろう事か紫織目掛けて真っ直ぐの軌跡を描いていて。

 まるで流れ星の様に落ちていくではないか。


 しかし紫織は動じる事も無く、じっとその様子を見届けるのみ。

 先程と変わらぬ無感情の微笑みを向けたまま。




 だが、その星達が地表へ到達しようとした瞬間―――それは起きた。




 突如として星達が四方へと飛び散ったのだ。

 何にも当たる事無く。

 木々や草花を微塵にも揺らす事も無く。

 ただただ、静かに光の粒子へと姿を換えたのである。


 その場にたった一瞬だけの瞬きをもたらして。


 本当に一瞬の出来事だった。

 たったそれだけで、森は再びの暗闇を取り戻していて。

 それどころか、更なる常闇を誘うかの様な静寂が周囲をたちまち包み込む。


「……姿を見せる事を……許そう」


 そんな中に再び紫織がぽつり。

 小さくとも、周囲が無音なだけに目立つ呟きを零す。


 するとどうだろう。

 暗闇の中に一つ、また一つと灯の様な物が浮かび始めていく。

 炎の様に揺らめきながらも、形を知らない不定形物(アメーバ)の様に蠢き続ける灯が。


 それも、星の数と同じ―――四つ。


憤常(ふんじょう)ゴルペオ……主の命にて参上致しました』


『同じく諦唯(ていい)マドパージェ、御心のままに』


劣妬(れっと)ペルペイン、きたよ』


揚猜(ようさい)オーギュ、お待たせしやした』

 

 しかもその灯達が、何と声を発したのだ。

 それも一つ一つが別の意思を持って。

 紫織を囲む様に寄りながら。


「よく来た、【崩世神(ほうせいしん)】達よ……」


『我等が導神たる主様の命なれば。 我等が魂、使い潰す事も本望なり』


 赤く滾る灯は墳常と名乗りし者の声。

 雄々しくも唸る様な声色はまさに憤っている様にすら聞こえる。

 

『主様からのお言葉、恐悦至極に存じます』


 青く靡く灯は諦唯と名乗りし者の声。

 か細く聴こえるも、甲高い声質が自然と耳に入るかのよう。


『でも、忘虚(ぼうきょ)がいない。 どこ、いったの?』


 緑に跳ねる灯は劣妬と名乗りし者の声。

 幼く柔らかな声色だが、一言一言の度に弾ける様な強い揺らめきを見せる。


『許可無く主様に問うなどおこがましいぞペルペイン!!』


 黄に瞬く灯は揚猜と名乗りし者の声。

 粗暴に叱責すれば、まるで雷の様に灯そのものを打ち鳴らすかの様で。


 その様な灯達に囲まれながらも、紫織の表情は一つ変わる事も無く。

 優悦とも見える微笑みのままに彼等を見下ろす。


「構わん……忘虚は今、別行動中だ。 アレだけに出来る事を……任せている」

 

『おお、さすが主様ですぜ!』


「それと憎悦(ぞうえつ)の枠だが……良き魂を見つけた。 間も無く仕上がるであろう……」


『我等が遂に【六崩世神(りくほうせいしん)】となるのですな。 なれば念願の時も近い』


「そうだ……この愚かな肉だらけの世界を脱却し……始祖へと戻り行く念願の時が。 その為にも……お前達の力、存分に奮ってもらうぞ」


『いいよ。 ペルたのしみ。 にくをつぶしたときのおと、すき』


『それこそが私達の使命なれば如何様にも』


 しかしたったそれだけの言葉を交わし―――灯達は消え去った。

 闇の中へと溶ける様にして。


 彼等にこれ以上の会話は必要無かったのだ。

 自身の存在を紫織に伝える、ただそれだけで十分だったから。


 後は時を待つだけだから。

 彼等が望むその時を。

 力を奮うその機会を。




「……天士、フジサキユウ……クフフ。 ア・リーヴェよ、お前が抵抗するというのであれば……私は備えるだけ。 どうしようとも……結果は変わらない……!」




 その為に彼等はやって来た。

 新たな策略を張り巡らせる為に。

 アルトランの計画を盤石の物とする為に。


 そう、彼等【崩世神】こそが、ア・リーヴェの示唆していたアルトランの眷属。

 世界崩壊計画に盛り込める程の力を秘めた〝準神〟たる存在なのである。


 その力、もはやア・リーヴェですら計り知れない。






 こうして、遂に新たなアルトランの眷属が『こちら側』へと舞い降りた。

 『あちら側』に居るアルトランが勇の存在を察知したが故に。

 分身たるアルトラン・ネメシスへの増援として。


 これにより、デュランという心強い仲間を得た勇達の優位性は結果的に失われた事となる。


 いや、これはむしろ以前よりもずっと深刻な状況と言えるだろう。

 天士に目覚めたばかりのデュランに対し、相手は天士級であろう存在が四人。

 デュランの仲間達を加えたとしても補えるかどうかは不明だ。


 そして何より、勇達はこの事実をまだ知らないのだから。




 果たして、この結果が導く行く末は。


 世界はなお、悪意の思惑のままに混ざり合い続ける。

 それも加速し、引き合う力を強めるがままに。




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