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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」
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~Crie au centre de l'étoile <星の中心で叫ぶ>~

 デュランが創世剣に手を触れた時―――その場を強い光が包み込んだ。


 それは厳密に言えば、デュランだけが見える光。

 創世剣を通じて星の中心へと呼ばれたが故の。


 その瞬間、視界が空へと向けてぐらりと崩れ込む。

 光に包まれた己と勇の姿を目前としながら。


 まるでそれは魂が抜け出たかの様に。

 大地をすり抜けて地面の中へ落ちていくかの様に。

 突如としてその身を墜落感が襲う。

 どこに掴む事すらも出来ず、真っ白な光が流れ落ちていく中で。


「うわあああああ!!?」


 まるで自分も光になったかの様だった。

 瞬時に加速し、あっという間に自分達を置き去りに。

 空の景色も土の色さえ一瞬で消え去って。


 気付けば彼の周囲は白と黒(モノトーン)の世界で包まれていて。

 墜落感も、相対物が無くなった事で次第に消え失せていく。


 ただ、自分が光と共に落ちている―――そんな〝確信〟だけは感じ取れていた。


 どこに落ちていくのかは()にはわからない。

 どこへと続くのかも、どうなるのかさえ。

 勇からも何も聞かされていないし、まだそれを理解する程に心が()()しきれていないから。






 そんな景色も次第に白一色へと塗り潰されていき。

 今度は()の心を言い得ない浮遊感が包み込む。


 水に浮くような感覚にしては、足をいくら振っても動きは変わらない。

 でも、緩やかな水面を流れる木の葉の様にゆったりと回っていて。


 逆にそれが、周囲の景色に気付かせる事となる。


「なんだここは……」


 そこに見えたのは、白の宇宙。

 白の背景に虹色の星雲が揺らめき彩る静寂の世界。


 そう、ここは星の中心(アストラルストリーム)

 星の心の中である。


 芸術的観点も持ち合わせている()には、この世界は絶景そのものだった。

 今までに見てきた芸術作品には無い、創造性そのものを象徴しているかの様で。


 虹色の光は手に取れる様に近く、それでいて触れられない。

 しかし心では身を通り抜けた様に感じ取れ、それでいて不快感が無く温かい。

 それだけ不可思議で、それでも理解出来てしまう。


「美しい……」


 そう呟いてしまうまでに、この世界が余りにも感動的だったから。

 つい、今にも泣いてしまいそうな程に。




『まさかお前が生きてここに来る事になるとはな』




 そんな時、()の心に誰かが囁いた。

 景色に見惚れていたその心を即座に引き寄せる声が。


「ッ!? その声は、まさかっ!?」


 その時だけ何故か、身体が意思に伴ってくれて。

 それで振り向く事が出来た。


 すぐ近くに現れた、その存在の前へと。




『久しいな、ミル坊。 また会えるとは思っても見なかった』




 その者の姿、この世界に映える程の黒で包まれていて。

 でもその中で違和感が無い程に、淡くも輝いてるかのよう。

 黒い髪はゆらゆらとゆるやかに揺れ、景色の流れに身を任せ。

 見下ろす瞳は、彼が知っている優しさに溢れている。


 そして淡い虹色に包まれて舞う――― 一人の男。




「その呼び方……やっぱり、デュゼローさんなんだね!!」




 そう、そこに居たのはデュゼロー。

 かつて勇によって命を断たれ、この世界から消えたはずの者。


 でも今、こうして星の中心で彼を迎え。

 それどころか、相対する姿は穏やかさに溢れている。

 いつかの【東京事変】では一切見せなかった姿がそこにあったのだ。

 

 ただ、()はそんなデュゼローを嬉々として受け入れる。

 その姿を幾度となく見て来て、知り尽くしているから。


『……どうやら私はこの星の理に依存し過ぎて、魂が固着してしまったらしいな』


「じゃあもしかしてギューゼルさん達も―――」


『いや、彼は来ていない。 他の皆はきっと元の場所に還ったのだろう』


 そうして見上げれば、世界の果てには朱色の点が浮かんでいて。

 それが元の場所―――『あちら側』である事を静かに諭す。


 こうして視覚化する程に、世界は今完全に混じり合おうとしているのだろう。

 その景色を眺めるデュゼローの眼が僅かに眇められる。


「ごめんなさいデュゼローさん……()は貴方の代わりになろうと必死に頑張ったけど、もうダメかもしれない。 ユウ=フジサキは僕では止められそうにないっ……あれはもう、人じゃない」


『……』


「そして僕は今、自分のやっている事にさえ懐疑的になっています……。 本当に、人を憎む事で世界を救えるのかって……!!」


 ()の想いが声と共に迸り、七色の光が波の様に溢れ出ていく。

 意志を貫き切れなかった事への怒り、悲しみ、憎しみ、妬み。

 デュゼローと再会出来た事への喜び、嬉しみ、楽しみ。

 それらが合わさって、弾き合って、砕け合って。

 何度も何度も、虹の光となって放たれていく。


 それだけ今、心が揺れていたのだ。

 誰にも伝えられなかったから。

 押し殺すしかなかったから。


 それが今解き放たれて、デュゼローへとぶつけられる。

 ずっとずっと、想いをぶつけたかった相手に。


「教えてくださいデュゼローさん!! 貴方のやろうとした事は本当に正しいんですか!? 人を憎む事で世界は本当に救われるんですか!?」




 でも、答えは返らない。




 デュゼローはまるで後ろめたい姿を晒すかの様に、その目を背けていて。

 ただただ静かに世界に浮かび続けるだけ。


 そんな恩人を前に、()は黙ってはいられない。

 溢れ出した想いを返してくれるまで、望む答えを得られるまで。


 もうこの機を逃したくないから。

 ずっと願ったこの時を見逃す訳にはいかないから。


「僕は貴方に憧れて!! 教えに従って、信じて来た!! 今までも、きっとこれからもずっと!! だからお願いです!! 正しいと……自分が正しいと言ってください!! 僕はその答えを待っているだけなんですよデュゼローさんッ!!」


 呼吸を必要としない空間なのにも拘らず息が乱れる。

 それだけ魂の叫びを目の前の存在にぶつけたから。

 これ程に無いまでの強い強い叫びを。


 そしてその叫びが、再びデュゼローの視線を呼び戻す事となる。


 心が届いたのかはわからない。

 浮かない表情である事には変わりないから。


 でも()には関係無かったのだ。

 例えそれが首を横に振る結果になろうとも。

 ただデュゼローから直接、その答えを聞ければそれだけで。




『すまない、私からそれを伝える事は出来ない』




 しかしデュゼローは望む答えを返す事は無かった。


 とはいえ、これは仕方のない事なのかもしれない。

 デュゼローが答えを返せないのは、この世界の理が故に。


『私はもう既に死んだ身だ。 そんな死者が垣間見た世界の真実を生者に伝えてしまえば、世界はたちまち死者に引っ張られてしまうだろう。 ここはそんな事が出来ない場所なのだ』


「そんな……」


 ()が今居る場所はすなわち、星の記憶の中。

 そこから真実を紡ぎ出せるのは―――真の天士だけ。

 だからデュゼローも語りたくとも語れないのだろう。

 その理がこの世界における全てだから。


 デュゼローがこうして顕現出来たのも、訪れた者に最も近しい存在だったから。

 そして一つの残留思念を伴っていたからこそ、二人は引き寄せ合ったに過ぎない。

 「後悔」という名の思念を。


 ただその「後悔」も、それほど複雑な事ではないから。


『……再会して早々ですまないが、どうやら私の疎いは晴れたらしい』


「えっ!?」


『もしかしたら、お前に別れを言わずにこの世から去った事が……唯一の後悔だったのかもしれん』


 気付けば、そう語るデュゼローの輪郭を覆う虹光が零れて行って。

 まるでどこかへと吸い取られているかの様に。

 次第に、下半身から光となって消えていく。


『そうか、私はそれで今喜んでいたのか……もう久しく感情を受けていないから忘れていたよ』


「あ、ああ……」


 まだ何も伝えないままで。

 伝えられないままで。


『でもきっと、こうして会えたから十分だったのだろうな』




 それでももう満足だから。




「まだ行っちゃ駄目だ! デュゼローさん!! 僕は……僕はまだ何もッ!!」


 でも、()の方は何も満足なんてしていない。

 まだ何も聞いてないから。

 何も教えてもらってないから。


 また後悔したくないから。


 その時、こうして生まれた想いが彼の心の拳を握り締めさせる。

 目の前で消え行く恩師へその瞳を真っ直ぐ向けさせて。


 その心に従うままに。


「それならっ!! 一つだけ……一つだけ教えてください……ッ!」


『……なんだ?』


 そこに迷いはもう無かった。

 自分と出会う事がデュゼローの喜びとなったなら。

 ならば自分も満足出来る一言を聞ければそれでいいのだと。


 真実よりも何よりも。




「デュゼローさんは……僕の事をどう思っていたんですか!?」




 これはずっと聞きたくても聞けなかった想いの一つ。

 例え生きていても、恥ずかしくて言える訳の無い一言。


 けれど、もうこの質問も出来なくなるなら、いっそ。


 その想いがこの問いを呼び起こした。

 今度は自分が後悔しそうだったから。

 また苦しむのはもう嫌だったから。


 だからもう、迷う訳が無い。




 だからもう、デュゼローも迷わず言えるのだろう。






『お前は私の―――真の親友だ……!』






 その一言を最後にデュゼローは消え去った。

 虹の光となって、世界に溶けて消えたのだ。


 ようやく、星に還れたのである。


 そしてその一瞬で紡がれた意思が届いた時。




 その意思が、想いが、()の心を貫く。




 二人の心がようやく開き合ったから。

 真実の心を見せ合う事が出来たから。


 やっと二人は―――心を通じ合わせる事が出来たのである。


 その刹那に通じ合った心は、()の身を再び光の自由落下へと誘う事となる。

 デュゼローという存在が生前に持ち得た記憶と、その想いと覚悟が織り成す世界へと向けて。


 そこに秘めたる自身の願いと共に。


 でももう()は恐れない。

 その先に待つ理を知ったから。

 ただただその理に期待を抱き、今は望んで落ち行こう。




 デュランではなく、レミエルという一人の男として。




 そうしてレミエルの心に流れたのは―――かつての記憶に沿う真実。


 レミエル(かつての彼)デュゼロー(その恩師)

 二人が出会った時から始まる、かつての思い出の日々であった……。




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