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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」
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~Duc=Durand <デューク=デュラン>~

――――――

――――

――




 これは前日、説得されたリデルから真実の説明を受けた後の事。

 一連の話が終わって間も無く、勇は医務室へと訪れていた。

 

 現在療養中の獅堂と話す為に。


「傷の様子はどうだ?」


「すこぶる調子はいいね。 それより時間が余り無いんだろうし、用件だけ伝えておくよ」


 それというのも、リデルの話は獅堂もモニター越しに聞いていて。

 それで気付いた事があると勇を呼び出したのである。


 しかしその様子はと言えばいつもの軽さは見えず。

 何か深く考えているかの様に表情は浮かない。


「さっきリデルさんの話の中で、デュランの()()を教えられたよね」


「ああ。 俺は偽名だなんて思ってもみなかったけど」


「あれで気付いたんだけど―――あの名前が本当なら、多分僕はデュランに一度会ってる」


「えっ……!?」


 そんな獅堂から語られたのは衝撃的な一言で。

 これにはさすがの勇も驚きを隠せない。


 まさか獅堂がデュランと面識があったなど想像も付かないから。


 ただこれはもしかしたら必然だったのかもしれない。

 獅堂がこの場に居るという事こそが、デュランと出会う事のきっかけにも繋がるから。


「実はね、僕はフララジカが起きた当時フランスに居たんだ」


「なんだって!?」


「ほら、僕がデュゼローから魔剣を渡された事は教えたよね? あれはフランスでの出来事だったのさ。 仕事の関係で渡って、巻き込まれて、そこでデュゼローに助けられた。 そしてその時、確かに()も居たのさ」


 そう、全てのきっかけはフランスから始まったのだ。

 獅堂が魔剣を得て野望に走ったのは、そこでデュゼローに救われて力の使い方を教えてもらったから。


「その頃の彼は聴いた様な人物には思えなかったけどね。 控えめでそこまで意思が強くないというか、影が薄い雰囲気でさ。 まぁ、ほんの少し事情を聞いた所で魔剣を渡されて放り投げられたんで、それ以上はわからないけど……」


 ただどんな人物であっても、あの時の思い出は忘れられない程に衝撃的で。

 だから影の薄そうな人間でも覚えていられたのだろう。


「僕の記憶に間違いなければ、だけどね。 でも当時からデュゼローと一緒に居たなら、話の通りに強いのも頷けるかもしれない。 限界を超える方法を教えて貰えたと考えればね」


 そしてフララジカ開始当時からデュランが限界を超える方法を教えてもらっていたならば。

 その実力は仲間達よりもずっと高い可能性は否めない。

 もしかしたら自分()よりも。


 そんな予感を胸に抱き、勇は戦いに挑む事となる。

 まさかそのデュランが天力を持っているなど、予想さえする事無く。




 この話があったから。

 リデルと獅堂の話を擦り合わせて、容姿も聞いていたから。

 勇はデュランと初めて出会った時、疑う事も無くわかったのだ。


 「コイツは間違いなくデュランなのだ」と。


 そして戦い、知った。

 その心の強さを。


 この時では知るはずも無い強さの秘密を。


 その秘密は―――間も無く垣間見る事となるだろう。




――

――――

――――――






 勇の放った一閃がデュランの魔剣を打ち砕く。


 擦れ違い行く二人の身体。

 巻き上げられる砂塵。

 刻まれる残光。


 たちまちデュランの膝が崩れて大地を突く。

 魔剣を失った事による反動が心に響いた為である。


「そんな、私の【アデ・リュプス】が……」


 遂にはその身が前傾する程に項垂れて。

 ガクリと肩を落とす姿が。


「もうお前に戦う力は無い。 ならもう―――」




 だが、勇が振り向こうとしたその瞬間―――驚きの事態が襲う。


 なんと、デュランがその拳を振り上げて勇へと飛び込んでいたのだ。




「私は!! まだ!! 終わってなあいッッ!!!」




 視野も合わぬその眼で、血に塗れたその顔で。

 勇へとその敵意を露わにしながら。


 それが彼の〝デューク=デュラン〟である事への誓いだから。

 デュゼローの意思を受け継いだ彼の覚悟だから。

 

 その信念が籠った閃光の拳が今、彗星の如く振り下ろされる。

 彼の想いと願いを受け取って。




メリゴォォッッッ!!!!




 そしてその場に、鈍い音が強く響き渡る。

 肉を、骨を叩き潰した様な殴打音が。




 勇がデュランを殴りつけていたのである。

 その顔が歪む程の威力で、大地へ叩き付ける様にして。




 たちまちデュランの頭が急転直下で大地を打ち抜いて。

 有り余った力の迸りが再び土砂を激し弾き飛ばす。


 その身全て土の中へと埋める無様を晒しながら。


「もう抵抗は無意味だとわかっているはずだ!! これ以上戦ったって何の意味も無い事くらいッ!!」

 

 圧倒的な力量差は時に相手の戦意を根こそぎ奪う。

 例えどんなに強靭な心を持つ者でも、力を誇示し続けられれば終わりは来るだろう。


 かつて勇がそうだった様に。


 そして今のデュランも同じだ。

 圧倒的な力に敗れ、力も失い、武器も無い。

 何より、天士を信じないからこそ天力ももう生まれない。


 そこだけは唯一、勇とは決定的に違う所。


 デュランはもう、自分に秘めた奇跡をかなぐり捨ててしまったのだから。


「わ、私は―――」


「ッ!?」


「私は〝デューク=デュラン〟だ……! 諦める事も、負ける事も……あっては、ならない……ッ!」


 それでもまだデュランは立ち上がろうとしていた。

 ただそれは決して奇跡に期待している訳ではない。


 彼には負ける訳にはいかない矜持があるから。

 【救世同盟】のリーダーとして、仲間達の代表として。

 デュゼローの代わりとして。


「私はッ!! 負ける訳には―――ッ!?」


 でもそれは勝ち負けという概念に拘り過ぎていたからに過ぎない。

 団体のリーダーとしてあるまじき姿を魅せたくないから。

 仲間達を裏切りたくないから。

 恩師を否定したくないから。


 しかしこの時デュランは気付かせられる事となる。

 その想いが余りにも自分よがりな物だったのだと。




 拳ではなく、掌を差し出す勇を前にして。




 間も無く、デュランの体が勇の手によって引き上げられ。

 上半身がぐらりと起き上がる。

 デュランが戸惑いを見せる中で。


「何故だ……何故私を斬らない?」


「言っただろ、俺は〝デュラン〟を止める為に来たんだって。 いや、本来ならこの場合は『レミエル=ジュオノ』って言えばいいかな」


「……リデルから実名も聞いたんだね」


 そう、勇は最初から言った通り、デュランを止めに来ただけだ。

 それも〝デューク=デュラン〟という役割としてではなく、レミエルという普通の人間として。


「ああ。 それに獅堂からもな」


「そうか、彼も思い出していても不思議ではないか。 思えば、君達は意外と私という存在と最も身近だったのかもしれないな……」


 その名を知る事も、その経緯も、もはや運命の悪戯と言えるだろう。

 ただ、これはもしかしたらこれは必然だったのかもしれない。


 勇がデュランを倒すのではなく、止めるべきなのだと世界の運命が応えてくれたから。

 ア・リーヴェがいつか仄めかした、「混沌への反発によって生まれた奇跡」として。


「でも、私という存在がわかったからと言って止める理由にはならないはずだ。 私がそう簡単に止まるはずも無いという事も!」


「ああそうだな。 でも違うんだ。 そう単純じゃないんだよ。 俺達の戦いっていうのはさ」


 でもデュランにはわからない。

 こうして手心を加えた勇の考えている事が。


 それと言うのも、デュランはずっと雌雄が決するまで戦うのだと思っていたから。

 勇の話を聞いていた様で、全く聞いていなかったから。


 でも今ようやく彼は聞く事になるだろう。

 ようやくまともに聞けるのだろう。


 勇の言葉に秘められた真意を。


「確かに、デュランが死ぬまで戦うなら、そうするしか道は無かったかもしれない。 でも、そうしなくてもいい可能性が生まれたから、俺はもうお前とこれ以上戦うつもりは無いんだ」


「何……?」


 勇の手からはもう既に閃光剣は残されていない。

 戦意も、闘志も気迫さえも。

 戦う前と同じ緩やかな雰囲気を纏っていて。


 もう勇に戦う意思は無いのだから。


 何故なら―――


「……お前の信念はよく理解出来た。 だから俺はその意思に応えたいと思ってる。 でもそれはちゃんと真実を知ってからだ」


「真実を知る……だと?」


「そうだデュラン―――その為に、この創世剣を手に取ってみろ」


 その時勇が顕現せしは創世剣。

 それも差し出すかの様に、両手へと乗せた状態で。


「お前には俺と同じでこの剣を掴める資格がある。 お前にも天力が備わっているかもしれないから」


「私にも天力が……!?」


「ああ。 そして真実を知るんだ。 もしその真実を知った上でお前が今の道をなお突き進むと言うのなら、俺はもうお前を止めようとは思わない。 関わる事もしない。 絶対にな」


 それこそが天士である勇の意思。


 デュランが天力を有しているならば、それはすなわちア・リーヴェとの邂逅を果たせるという事。

 それが出来るならば、天力の本質を心で理解出来るかもしれないという事。


 勇はその可能性に賭けたのだ。

 デュランが星の中心(アストラルストリーム)で真実に辿り着ける事を。

 口で説明するよりもずっと、こうする方が伝わり易いから。


「……いいだろう。 その言葉を忘れないで頂きたい」


「ああ。 男に二言は無いさ」


 そして、デュランがそこに偽りを持ってくる様な男ではない事も知っているから。

 だから安心して創世剣を差し出す事が出来る。


 その先に見える真実を、心で理解してくれる事を祈って。




 この時、デュランがその手で創世剣に触れ。

 そうした瞬間、場が強い光で包まれる事となる。


 真実へと導く、命の道を通る為に。




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