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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十八節 「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
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~SIDE小嶋-01 不穏な面影~

 【二次転移】と呼ばれる現象。

 それは主に、フララジカが起きた事のある場所で再び起こる事象の呼び名。

 土地や生物の転移ではなく、【グリュダン】と呼ばれる『生物の様で違う何か』を呼び出すのが相違点だ。

 茶奈曰く、それは現在も様々な地で起き続けているのだという。


 勇と茶奈が渋谷へ訪れたその日。

 二人にとっての運命の地で、奇しくもその現象が彼等に襲い掛かった。


 辛くも出現した【グリュダン】の集団は勇達によって全て破壊され、途中で駆け付けた心輝達魔特隊によってその場の混乱は収まりを見せたのだった。

 





 現在時刻 日本時間14:20......


 そこは総理官邸。

 内閣総理大臣、小嶋由子の公務室。

 白が基調とした清潔感のある広い空間に、彼女が使う執務用デスクが置かれている。

 壁に備えられた大きな窓から太陽の光が射し込み、レースのカーテンを通して僅かな暖かみと共に部屋に彩りを与えていた。


 そこに腰を掛けるのはもちろん小嶋総理本人。

 机を挟み、正面に立つ平野の報告に耳を傾ける彼女の姿があった。


「先生……先程、東京・渋谷にて二次転移が発生した模様です」


 その内容と言えば、慌てる事もいざ仕方の無い事であろう案件だ。

 だが……平野は依然表情を崩す事無く、淡々とした口調で報告を行っていた。


「……そうですか」


 そして小嶋もまた、同様だった。

 まるでそこに関心など無い様な冷淡な表情を浮かべて相槌を打つ。


 肘を机に突き、組まれた手が顎を支え、視線だけが平野へ向けられる。

 僅かに解けて自由と成った子指が、まるで平野に続きを催促するかの様にピクリと僅かに振れた。


 それに気付いたのか、読んでいたのか……平野が留めていた言葉を連ねる。


「その後、偶然居合わせた田中茶奈と、特務急行した一番隊隊員によって事態は収束したとの報告を受けております」


 淡い日差しを背に受ける小嶋の顔に浮かぶ陰り。

 そこからチラリと覗かせた瞳は、獲物を見据える鷹の様に鋭い。

 無表情であるが、下がった口角は陰りと相まってどこか憤りの風体とも感じ取れる。


 そんな表情が僅かにピクリと動きを見せた。


「それは誰からの報告ですか?」


 その雰囲気とは裏腹に、上がったのは僅かにトーンを下げた落ち着きの声。

 しかしその着眼点は雰囲気にも足る鋭さだった。


「現場に到着した相沢瀬玲からの報告です」


「……副隊長の園部からではなく、相沢からの報告……妙ですね。 それに確か田中茶奈は今、新宿に居るハズですが?」


 平野の頬に一滴の汗が流れ落ちていく。

 小嶋の雰囲気に緊張感を感じ取ったのだろう。

 僅かに表情を曇らせるも、手に持ったタブレットを細かく操作して素早く情報を引き出し始めていた。


「追跡班によりますと、田中茶奈は新宿に赴く前に荷物の盗難に遭った様です。 その後彼女は荷物を諦めて行動を再開したとの事。 ですがその後の足取りは不明だという事です」


「そうですか……まぁそこはいいでしょう」


 すると何を思ったのか……小嶋はそっと立ち上がり、踵を返して窓の外へと振り向いた。

 淡い日差しが彼女の顔に当たると、細かった瞳が更に細らせる。


「ですが、何か作為的な意思を感じます。 意図はわかりかねますが……これは()()を起こす必要がありそうですね」


 その一言が小嶋の口から発せられた途端、平野が表情を強張らせた。

 彼女の放った事が余程重要な一言(キーポイント)だったのだろう。

 

「渋谷の件は都政がどうにかするでしょう。 それよりも、頃合いですから()()()()を実行に移します。 平野、外遊の手配をお願い致します」


()()()()()()は如何なさいますか?」


「……良いカモフラージュになるでしょう。 そちらも計画通り実行に移してください。 五番、六番の全部隊投入で構いません」


「早速手配いたします」


 平野が一歩下がり会釈を行うと、部屋の隅にある秘書用デスクへと戻っていく。

 椅子へ座ると、早速受けた指示を実行する様にタブレットへと再び指を伸ばし始めた。


 小嶋はそんな彼の動向などには見向きもせず……僅かに窓から覗く空を目だけで見上げる。

 彼女が何を考えているか……そう察する事も出来ない束の間。

 そっと小嶋が振り返り、平野が居る方とは異なるもう一つの空間へと視線を向けた。


 そんな彼女の視界に映ったのは……小柄で白髪が目立ちながらも、灰色のスーツを着こなして立つ一人の老人の姿だった。


「福留さん、貴方にも動いて頂きますよ」






 そこに居た人物こそ、かつて魔特隊の代表として動き、勇達の信頼も厚い人物。

 しかし忽然と彼等の前から姿を消して久しかった福留その人であった。



 



 福留に向けて放った一言と共に、小嶋の瞳が陽日を受けて妖しく輝く。

 彼女の意思が向けられると……福留はいつもと変わらぬ笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。


「わかりました。 如何様な御用ともお申し付けください」


 その低い物腰も以前となんら変わりはしない。

 相手が総理大臣であろうと、格下であろうと。


 福留が深く頭を下げると、小嶋は彼の仕草を目に留める事も無く、そっとデスクの引き出しへ手を伸ばす。

 最下段の引き出し……その中から姿を現したのは、仰々しい様相を飾ったジュラルミンケースであった。


 それを小嶋が手に取り持ち上げると、重そうに机の上へと乗せる。

 長さで言えば80センチメートル程だが、高さは30センチ、厚さは20センチ程であろうか。

 大きいが、鍛えていない老人が一人で持つのであれば多少難儀する程度の物である。


「福留さんには()()()を【魔剣技研】へと届けて頂きたいのです」


 机の上で「ズイッ」とケースを引きずり、差し出す様に動かす。

 『こちら』がそのケースである事をアピールするかの様に示すと、福留はゆっくりと歩み寄っていった。


「拝承致しました。 早速出向きますねぇ」


 福留が差し出されたケースを両手で抱える様に持ち上げると……例に習った様に一歩下がり会釈する。

 そして彼はケースを抱えたまま踵を返し、軽快かつ滑らかな足取りで公務室から退室していったのだった。






 福留が駐車場へ停めた自身の車へと足を進めながらスマートフォンを手に取る。

 画面にでかでかと映るのは「御味泰介」という文字。


 そっとスマートフォンを耳に充て、繋がったであろう対話相手に向けて声を上げた。


「御味君、申し訳ありませんが予定通りお力添えをお願いいたします……えぇ、はい」


 ただそれだけ対話を交わすと、福留はそっとスマートフォンを降ろす。

 懐へと再び忍ばせると……彼はそのまま車へと乗り込み、街中へと向けて車を走らせていった。






 小嶋が福留が去っていく姿をカメラ越しに眺め観る。

 官邸から彼の乗った車が出ていく様子を、小嶋は静かに細めた瞳で追っていた。


 彼女が心に想うのは果たしてどの様な事なのだろうか。

 それを知るのは彼女だけだ。 






 様々な思惑が交錯するこの街で、蠢くのは善意か、悪意か。


 勇達と、福留と、小嶋。

 彼等の思惑が導く明日は……果たしてどの様な形と成るのだろうか。




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