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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」
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~Au-delà du pouvoir <力を超えて> マヴォとアージ③~

 魔剣【アスタヴェルペダン】が再び現世に顕現する。

 巻き込んだあらゆるモノを破壊する、破滅の象徴とも言うべき魔剣を。


 封印された理由がわかる程のおぞましさ放ちながら。


 カプロもまさかここまでとは思わなかったのだろう。

 だからもう彼も事実を知ってから、補助モジュールの再生産は行っていない。

 マヴォの持っていた物が最後の一つだ。


 それによって得た力を今、敵意を乗せて向ける。

 一切の魔剣を纏わないマヴォへと。


「後悔するなよォ……!! もうこうなった以上は止められぬ……ッ!!」


「来ォいッ!!」


 魔剣の放つ鬼気に魅入られて、アージの顔がグニャリと歪む。

 もはや血を分けた弟であろうとも、もう容赦する気は無いのだから。


ギィィィーーーーーーンッッ!!!


 魔剣に秘められた力ももはや臨界点。

 今すぐ放てと言わんばかりに、走光が轟き叫ぶ。


「ならば行くぞォ!! もはやこの覇道塞ぐ者なしィ!!!」

 

 その叫びが、轟きが、アージの咆哮を受けて唸りを上げた。

 アージが飛び出し、巨大な魔剣を振り被ったのだ。


 マヴォへ向けて一直線に。




「さらばだマヴォーーーーーーッッッ!!!!! 星に還れェーーーッッ!!!」




 そして魔剣が打ち下ろされた時―――






 ―――場が一瞬にして、何者の介在も許さない白光に包み込まれた。






 空気も、土壌も、音も色彩も。

 視線も意思も、期待さえも飲み込んで。


 巨大な白光珠の世界が、領域内の全てを何もかも押し潰す。


ゴゴゴゴ―――!!


 まるで世界をも震わせる様だった。

 例えその力の影響が限定された領域だけであろうとも。

 それ程までに、【アスタヴェルペダン】の打ち放った力は強大なのだ。


 しかもその力は直ぐには消えない。

 内包した全てを潰し、壊し、引き裂ききるまで。

 敵の意思を粉々に打ち砕く為に。




ズズズズ……




 農地に突如として出現した巨大なドーム状の白光珠。

 その姿は余りにも不自然で、それでいて神秘的で。

 遠目で見ていた一般人や戦闘員達の視線すら奪う。

 

 例え破壊の光でも、何もわからぬ者にはただただ美しかったから。

 陽炎を伴い、白霞を纏わせて光るその様相が。




コォォォ―――




 その力も遂に限界を迎え、白光珠が収縮していく。

 全ての力を解き放ち終えた事で。


 その様子もまた異様。

 まるで強引に圧縮されていくかの如く、外面が震える様にして縮んでいたから。


 でもその光が去った場所には何も残ってはいない。

 土壌さえも消し飛び、珠の形をくっきりと残していたのだ。




 そして次に現れしは―――アージ。




 補助モジュールは使用者の命を守る機能も有している。

 これ程の力に巻き込まれても自壊しない為に。


 破壊の力を使う為に篭められた唯一の良心である。


「こうなる事は運命だったのだ。 信念も、願いも結局、力の前には無力……!!」


 例え強い意思を持とうとも。

 例え希望を願おうとも。

 それを超える力を前には、ただの弱者の戯言にしかなりはしない。


 だから力を奮う事を是とした。

 力を持ち、それを奮うデュランを信じた。

 その心は今、ようやく補完される事となる。


 今見せた力が、強き信念を砕いた事によって。




 砕いたと、勘違いした事によって。






「その様な運命など―――存在しないッ!!」






 その一声は突如として響いた。

 白光珠が完全に消え去る前に。

 アージの正面から。


 心の声と共に、確かに響いたのだ。


「なあッ!? バ、バカなあッ!?」


 そして思い知るだろう。

 強き信念が力などには屈しない事を。

 それさえも跳ね退ける力をもたらすという事を。




 マヴォは、耐えていた。

 その力強い両腕を構えたまま、しっかりと耐えきっていたのだ。




 白毛が銀色に輝き、一本一本に閃光が迸る。

 揺らめき、靡きながらも。


 その全てが壁。

 その全てが意思。


 こうして生まれた強靭さは、もはや究極魔剣の力をも超えた。


 いくら押し潰されても、切り裂かれても、捻じられても。

 こうして耐えきったのだ。

 自身が足を突く大地と共に。




「俺は耐えきったぞッ!! アァーーージィーーーッッッ!!!!!」




 その時、魔剣を受け止めていた両拳が振り開かれる。

 その意思、その信念が生み出した力を一身に受けて。


バッキャァーーーンッ!!


 その力、もはや魔剣ですら留める事は出来ない。

 【アスタヴェルペダン】の前刃を砕く程に―――強靭。


「なんッ!?―――」


 だがそれでは終わらない。

 振り開かれた拳が、突如として再び目前に打ち付けられたのである。


 魔剣の刀身を挟み込む様にして。




ガシャァーーーーーーンッッッ!!!!!




 そして垣間見るだろう。

 その意思の強さが強大だという事実を。

 もはや想像を超えて、力をも超えて。




 魔剣【アスタヴェルペダン】の刀身が破砕される姿を目の当たりにして。




 まるで鋏の様に。

 軸芯をずらした拳を撃ち当てただけだ。

 ただそれだけで魔剣は砕け散った。


 マヴォにはもう、魔剣を砕くのに魔剣など必要無いのだから。


 少なくとも、目の前の信念を失った者の魔剣など、紙屑に等しい。


 魔剣とは信念。

 魔剣とは意思。

 主の心を受け止め、力と換える魔剣である。


 その全てを失ったアージに、もはや魔剣を強固にするだけの能力など無かったのだから。


「足を踏み外し!! 崖から落ちて溺れたのはお前だったのだ!! アージッ!!」


 更には持ち手に正拳突きが見舞われ。

 アージの拳が、魔剣の柄がへし折れる。


「お前は逃げて忘れただけなのだッ!! 魔剣使いとはなんたるものなのかをッ!!」

 

 落ち行く魔剣の残体も、強烈な膝蹴りによって宙を舞い。

 間も無く名刀が如き手刀によって真っ二つに切り裂かれ。


「信念と想いこそが力なのだと!! それこそが命力であり、可能性なのだとおッ!!」


 拳が、脚が、幾度となくアージの顔を体を撃ち抜き。

 その体を、心を、完膚なきまでに打ち砕く。


「その心を捨てたお前にッ!! 世界は微笑まないッ!!」


 迸る力は気高く、高らかに咆える。

 大気も大地も切り裂いて。

 一撃一撃に魂を込めて。


 唸る鉄拳。

 猛る剛脚。

 そこに全てを懸ける事こそがアージ()への慈悲。


 全ては、武人だったかの姿を取り戻す為に。


「だから俺はッッ!!! あの時の兄者よりもォ!!」




 そして今、陽光を遮る白迅の烈光拳が振り下ろされた。






「強く在り続けてみせるッッッ!!!!!」






 己の生き様を推し貫く為に。




 この一撃こそが究極の慈悲。

 力を求め、渇望し、溺れた者への救済の。


 きっとかつてのアージならそれを願うだろうから。

 力を信じ、心も信じていた頃のアージならば。




 マヴォの一撃が産みしは再びのクレーター。

 アージの体をも押し潰さんばかりの巨大な圧跡である。




 再び土砂が舞い落ちる中でマヴォは見下ろす。

 拳を撃ち抜いたまま、ただ静かに。

 体も心も砕かれた惨めな兄を。


「もうわかったはずだ。 力に囚われたのはアンタだったのだと。 俺は、俺達はその力で粋がっている訳ではないのだと」


 でも応えは返らない。

 死んでいなくとも、返す気力すら砕かれていたから。


「犠牲も時には出るだろう。 守れない事もあるだろう。 そこを否定するつもりはない。 だが、それを見て見ぬふりをするよりも―――俺は、その犠牲に嘆きながら拳を奮いたい。 必要の無い犠牲を出さない様にと顧みる為に」


 マヴォの握られた拳が解かれ、その身が起き上がる。

 その力強さは衰えさえも感じさせないほど。

 あれだけの攻撃を受けてもなお強靭のまま。


「俺達が力を持つのは他者を傷つける為ではない。 心を伝える為だ。 アンタの様なわからず屋とぶつかり、拳で語り合う為にな」


 故に戦士は行く。

 目の前の男には全てを伝えたから。

 もうこれ以上語り合う事は無いから。


 仲間達の戦いを見守る為に。

 そして信じる勇が勝利を掴む瞬間を見届ける為に。




 刻む足跡は、降りしきる土砂などにも怯まず―――気高く誇らしかった。




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