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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」
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~Déjà vu <デジャヴ> 心輝とアルバ②~

 心輝に与えられる事になった一分間の耐久試験(マッスルチャレンジ)

 それが例え相手から与えられた機会であろうとも、心輝はもはや躊躇わない。


 以前の心輝なら余裕を見せていたかもしれない。

 強がって対等な事をし始めたかもしれない。


 でも今の心輝には成さねばならない使命がある。

 貫き通さなければならない決意がある。


 だからこそ目的に対して厳格(ストイック)に。

 一発一発に己の全てを懸けて。

 確実に、愚直に。


 相手を倒す為だけにその力を奮う。


 その姿にもはやかつての甘さは微塵も無い。

 それこそが今の心輝。


 ラクアンツェより【灼雷(ラティスタン)】の称号を得たが故の。


「だありゃあッ!!」


 活声は全身の筋肉を極限に引き絞らせ。


「おおおッ!!」


 雄叫びは己の心を最大まで震わせ。


「コォォォッッ!!」


 吸気は瞬時にして全身を活性化させる。


 一挙一動。

 全てにおいて無駄無し。

 全てにおいて隙間無し。


 ありとあらゆる行動が攻撃に繋がり、劣化する事さえ有り得無い。


 そしてその全ての反衝撃を受け止める【ラークァイト】の強度。

 烈火の戦鱗甲はあらゆる要求を受け入れ、全てに応えてくれる。


 だから今、心輝は間違いなく全力で攻撃し続ける事が出来る。


 そうして見せたのは―――多重幻影。


 殴り、蹴り、そして高速移動していく。

 そう移動した後でも、心輝の姿が鮮明に残り続けていたのだ。

 余りの放出濃度が故に、残留命力がその姿を模していたからである。


 それ程までの速さ。

 その中での強威力。


 僅かな時間の中で絶え間無く撃ち込み続ける全てが。

 



 それはまさに裂光乱撃。

 

 あのアルバが堪らず両腕で顔を塞ぐ程の連続拳が打ち込まれ続ける。




 残り三十秒。


「うおおおおッッ!!」


 残り二十秒。


「っしゃらああッッ!!!」


 残り十秒。


「おああああ!! 倒れやッがれえええ!!!」




 残り〇秒。




 だが、それでもアルバは―――倒れなかった。




「~~~ッ!?」


 あれ程撃ち込んだのに。

 あれだけ叩き込んだのに。


 アルバの立ち位置―――未だ、不動。


「……一分だ」


 それどころか、腕の隙間から見せたのは光り輝く程の眼光。


 アルバは意識さえも保っていたのだ。

 あれだけの連続攻撃に晒されていても。


 こうやって今、心輝に対して戦意を露わとしていた。

 自身に溜め込まれたフラストレーションを吐き出すかの如く、鼻から蒸気を吹き出しながら。


 そしてその一瞬で、形勢は全て逆転する。




 空中で停滞していた心輝に、剛腕拳が叩き込まれたのである。




 まるでその停止を狙ったかの様に。

 まるで心輝が拳に吸い込まれたかの様に。


 そんな驚異の拳が、心輝の側腹部へと突き刺さった。


「ぐぅおあ……ッ!?」


 余りの威力故に、心輝の体が横にぐにゃりと曲がる。

 それでいて、全身を押し潰す様な衝撃までをも加えて。


 たちまち心輝の体が大地へと叩き付けられ。

 一度、二度、三度―――その身を跳ね上げさせる。

 それ程までの威力が今の一撃には篭められていたから。


 まるで心輝の初撃のお返しと言わんばかりの一撃が見舞われたのだ。


 だが、それで終わる心輝ではなかった。

 咄嗟にその身を勢いに乗せて捻り、両手足を大地へと滑らせ。

 軽快な身のこなしで体勢を整える。


 そうして立ち上がった様子は―――なお余力有り。


 何故なら、先程の攻撃は心輝にも見えていたから。

 〝躱す事が出来ないなら防げばいい〟

 その咄嗟の判断が、回避から徹底防御へと意識を変えさせた。

 腕と脚を固める事で衝撃を受け流したのである。


 後は自慢の超回復で痛みを取れば、戦う分には何も問題無い。




 攻撃が通りきらなかったという問題以外は。

 



「ほう、今の攻撃を受け止めたか……それだけは褒めてやろう」


「この鉄筋野郎が……!!」


 それでも今の心輝に余裕がある訳ではない。

 今まで打ち放ったのは紛れも無く全てがベストの連撃で。

 それが全てこうして無為に消えたのだから。


 倒しきれると心のどこかで思っていた。

 その慢心が、これ以上の無い悔しさを生んでいたのだ。


「だがもうわかったハズだ。 お前の拳の軽さが」


「ッ!?」


 心輝にはアルバの言う「拳の軽さ」の真意はわからない。

 ただ貫く事が出来なかったという事実だけは否定する事が出来ないからこそ。


 何も言い返す事が出来ない。


「―――ただ予想は越えていた。 ナイス筋肉だ。 これが貴様の誇る信念と魔剣への想いだという事がしっかりとわかる程にな」


 でもそんな心輝へと向けて放たれたのは、まさかの称賛。


 それはアルバという存在が純粋なまでに筋肉を愛するが故に。

 筋肉に対して嘘を付けない性格が故に。


 だからこうして讃えたのだ。

 心輝が見せた攻撃能力が伊達では無かったのだと。

 何一つ惜しみなく。




 しかしそれはあくまでも―――自身が優位である事を前提としているからであるが。




「魔剣の力も良い。 それに合わせた肉体もまた良き!! だーがー!!」


 その時、再びアルバがその肉体を誇示する為に両腕を力強く掲げる。

 上腕二頭筋の膨らみを誇示せんばかりに。


「それでも貫けぬのはァ!! この俺の筋肉的防御力が勝っているから!! そしてこのッ!! 筋肉を更に高めてくれる我が筋肉魔剣【ダーナガン】があるからこそであぁるッ!!」


 そして掲げた腕の先で延びる指が指し示したのは、己の胸部を飾る金属胸甲。

 パンツ以外でアルバの肌を隠す唯二の装備である。


 そう、アルバの圧倒的防御力の正体は魔剣による物。

 自慢の筋肉だけによるものではなかったのだ。


 ただし〝筋肉魔剣〟という呼称の装備は一切存在しないが。


「結局魔剣じゃねぇかあッッ!!!」


「魔剣使いが魔剣を持っていて何がわるぅい!! 否!! 俺が筋肉の為の筋肉魔剣を持つ事は当然の事だぁ!!」


 しかもこの期に及んでのこの言い訳。

 自身の筋肉に忠実な所は相変わらずだ。


 つまり彼の持論は、魔剣ありきでは無く筋肉主体であれば何でもいいという事だ。

 筋肉を大事にし、敬い、愛すれば、魔剣で強化しようと何の問題も無いという訳である。


 なんたるダブルスタンス。

 なんたる利己筋肉主義。


 それがアルバの持つ本質なのである。


「だがこの魔剣は伊達ではないぞッ!! 我が筋肉の質を倍加し、しかも更なる成長を促す性質を持つ物だぁ!! つまりこれを着ている限り、無限に成長する事が可能なのだッ!!」


 ただ、その筋肉もが伊達ではない事は証明されている。

 基礎的な防御能力が群を抜いて高い事には変わりない。


 今の心輝でさえも容易に貫けないその防御力は、もはや驚異的なのだから。


「そう、俺はまだ成長しなければならない。 そうでなければあの方を超える事など出来はしないッ!! 俺が敬愛せし筋肉の貴公子ギューゼル殿を超す事などォ!!!」


「ッ!? ギューゼル、だとッ!!」


 だがその名が出た途端、心輝は遂に気付く事となる。

 アルバの防御力の秘密、その力の根源に。


 そう、アルバはあのギューゼルと全く同じなのだ。

 二年前、心輝が茶奈達と共に戦って倒したあのギューゼルと。


 胸甲型魔剣を装備している事から、その圧倒的な防御力と、一撃の重さ。

 戦闘スタイルまでもと何もかも。


 あのギューゼルと直接対峙した心輝だからこそ、すぐに思い出す事が出来ていた。




 あの時の戦いは心輝にとっても大きな転機(ターニングポイント)となっている。

 何故なら、あの時もまた己の弱さに嘆いた戦いだったから。


 圧倒的防御力を秘めたギューゼルを前に、心輝自身の攻撃は全く通用しなかった。

 後半通用したのは、あくまで茶奈の超高濃度命力を受け取ったからに過ぎない。

 命力の質そのものが変わったからこそ、辛うじて通用し、形勢逆転に繋げられたのである。


 でもあの戦い以来、心輝は悩み続けていて。

 だからがむしゃらに鍛え、超回復を得て、一撃に力を籠める事を専念してきた。

 ずっとギューゼルの幻影を払おうと必死だったのだ。




 しかし今、こうしてその幻影を纏ったアルバという男が現れて。

 まるでデジャヴを与えんばかりに同じ事を言い放った。


 「お前の拳は軽い」と。


 そしてギューゼルの名が出れば、気付かないはずも無い。


「クソッ、嫌な名を思い出しちまったッ……」


 たちまち心輝が悔しさに歯ぎしりを見せる。

 今なおトラウマとなり続けるギューゼルと、その面影を重ねるアルバ。

 その二つの影を前にして。


「フフン、ギューゼル殿は強かっただろう? そう、あの方こそ筋肉オブ筋肉ゥ!! 俺が超すべき目標にして目的!! あの方に出会った時から俺は!! あの方に追い付き追い越す事だけを夢見て来たのだあ!!」


 そんな心輝の様子を前に、アルバはどこか自慢げだ。

 まるでギューゼルの強さが自身の誇りだと言わんばかりに。


 いや、実際そうなのだろう。

 ギューゼルが敗れた今でもアルバの想いは変わらない。

 出会った時から残る圧倒的存在感は、今なお憧れと強い成長意欲を促し続けているのだから。


「あの方に出会った時、俺はまだ井の中の蛙だった。 ビルダーとして成長しても、その本質を理解していなかったからな。 だが!! あの方がフララジカ直後に俺の前へと現れたァ!! 奇跡の神、降臨である!!!」


 当時の思い出はもはやフララジカすら喜びと変えてしまう程に強烈。

 その出会いもまた同様に。


「あの筋肉美!! 逞しき体格!! それに相応しきパワー!! 何もかもが完璧過ぎたぁ……だから俺はあの方を師事したのだ。 例え拒否されようとも幾度となくゥ!!」


 もしかしたらギューゼルも面倒だったのかもしれない。

 この暑苦しいまでのしつこさを前にすれば。


 ただあのギューゼルは戦闘派の魔者にしては珍しく、殺意らしい殺意を向けない男だった。

 だからこそアルバは殺される事無く、こうして力を学ぶ事が出来たのだろう。


 そしてそんなギューゼルを心から敬愛しているからこそ、今なお求め続けられるのだ。


「その後あの方に筋肉の成長方法を教えて貰い、俺は鍛え続けた。 ただひたすらに!! そして手に入れたのだ!! この無敵の肉体を!! 更にはこの【ダーナガン】をも仲間から譲り受け、こうして戦場に立つ事となったァ!!」


 ギューゼルへの敬愛は今や、高らかと自慢出来る程に増幅されている。

 その自信が、自慢が、今のアルバの筋肉を生む原動力となっているからこそ。


「すなわちッ!! この無敵の筋肉はギューゼル殿以外に止める事叶わぬゥ!! シンキボゥイ!! 貴様の様な骨と皮ではなぁ!!」


 それ故に止まらない。

 筋肉への愛と、欲求は止められない。

 己を砕ける筋肉を持つ者が現れない限り。




 それこそがアルバの求める戦いである限り。




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