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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十七節 「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
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~群れる巨人~

 神出鬼没の巨人【グリュダン】……。

 生物とは言い難い、300メートル程の身長を有する謎の魔者。

 突然現れては石や土といった出現地の環境に合わせて形を変え、何もしなければ数日後に消え去る……そんな性質を持った『あちら側』の生物である。


 かつて勇達が魔剣を持ち始めてまだ半年ほどしか経っていなかった頃、彼等は一度その存在と対峙した事がある。


 結果は散々たるものだった。

 その巨体を前に普通の攻撃など効くはずも無く、茶奈の渾身の一撃すら致命的には至らず。

 危うく死にかけた所を剣聖に救われ、事無きを得たが……当時の力ではどうにもならない程に強大な力を持っていた。

 戦う様はまるで確固たる意志を持ち、その反応速度や動きは人のそれに近い。

 戦闘狂の様に暴れ回って戦う様は、怒り狂う人そのものの動きだったのである。




 それが今、勇達の目の前に顕現した。

 しかし、違う点は多い。


 まず背丈が小さい。

 天を突く程だったはずが、目の前に現れたのはほんの4メートル程の大きさ。


 外観が赤い。

 レンガを吸収し、形作られたのだろう。

 脆そうに見えるが、見た目よりもずっと堅いのがグリュダンの特徴の一つ。




 そして……それは一体だけではなかったのだ。




 次々に床が盛り上がり、形を成していく。

 一つ、二つ、三つ……次々に出現していくたびに、勇の焦りから生まれる冷や汗が額から流れ落ちていった。




「小さいからと油断しないで下さい!! 彼等は()()()と何ら変わらない!!」




 茶奈が今までに見せた事の無い程に険しい表情を浮かべて咆える。

 それほどまでに強い相手だという事。


 勇もまた茶奈の激昂に合わせて力を巡らせていた。

 彼女の様に力が迸る訳ではないが……その力強さだけならばフルクラスタすらをも凌駕する程だ。


「茶奈、魔剣無しでやれるのか!?」

「やれます!! 勇さんは市民の保護を優先してください!!」




 ダンッ!!




 途端茶奈が飛び出し、グリュダンの集団へと突っ込んだ。


ドッガァ!!


 激しい拳撃が未だ形成中のグリュダンの体へと突き刺さり、その体を真っ二つに引き裂いて他のグリュダンもろとも弾き飛ばしていった。


 それを横目に見ていた勇が思わず驚く。

 彼女はそれ程までに強くなっていたのだ。


 勇もまたそのまま飛び出し、周囲にへたり込んだ人々を引っ張り上げて起こしていく。


「自分で走れる人は建物の中に隠れてッ!! 魔者の方は自衛をお願いしますッ!!」


 そして建物の中へ隠れる様に誘導し、再び飛び出した。

 視線の先に映るのは……別所で生まれたグリュダンに襲われそうになっている人々。




「や め ろォーーーーーー!!」




ドォンッ!!




 凄まじい脚力が一瞬にして遥か前方の現場へと彼の体を運び、打ち降ろされそうになった拳からすり抜ける様にして襲われた人を救い出す。

 勇の足が大地を激しく滑り、激しい土煙を巻き上げる中……グリュダンの視線が勇へと向けられた。


「早く逃げるんだッ!!」


 抱えられた女性が状況把握出来ないながらも、勇に後押しされて走り去っていく。


 女性に目も暮れる事も無く……勇とグリュダンが睨み合うかの様に互いの動きを観察し合う。

 勇がゆっくりと立ち上がり、そのまま身構えた。

 

「……やれる……かッ!?」


 左拳を突き出し、右拳を脇に構えて力を篭め……全神経を正面の敵へと集中させる。

 その時、痺れを切らしたかの様にグリュダンが勇へと向けて飛び出してきた。


ドッガァ!!


「ッ!?」


 大地を蹴る音は凄まじく、その勢いも強く素早く。

 それはかつてのグリュダンを彷彿とさせるくらいに素早い動きであった。




 だが、今の勇にとってはそれもゆっくりに見えていた。




 感覚鋭化の力が残っている訳ではない。

 彼の研ぎ澄まされた感覚がまさしくその通りに見せていたのである。


 巨大な拳が勇の頭部へと向けて一直線に振り抜かれる。

 それを勇は紙一重で躱し、流れる様にその体を捻らせた。


 その姿はまるで竜巻の如く。




「フッ!!」




 グリュダンの懐へ容易に到達した勇が意識をその腹部へと集中させ……途端、避ける際に生まれた回転力のままに右拳で打ち抜いたのだった。




ドッガァァァ!!




「うっ!?」


 だが、結果は……無傷。

 魔者特有の障壁がグリュダンを守り、全ての衝撃を吸収してしまっていたのだ。

 しかし、それに対して殴った勇の拳もまた無傷。

 本来であればその衝撃・慣性など全ての物理法則が跳ね返るにも関わらずである。


 しかしそんな物理現象を気に掛ける事も無く、勇はその拳を引き戻した。


「クソッ、やっぱりダメかッ!!」


 懐の勇を押し潰さんとその両腕で叩き降ろすグリュダンであったが、それを勇は素早く滑る様にグリュダンの背後へと回り込んで躱す。

 勇に命力が無いからであろう……グリュダンはその一瞬で勇の姿を見失い、戸惑う様に周囲を見渡す姿を見せていた。




 見つからぬのも無理は無い……相手は既にその場から姿を消していたのだから。




 当の勇は既に移動を再開していた。

 茶奈が暴れ回り、次々とグリュダンを粉砕していく中……その場から離れて大きく跳び上がり、別のグリュダンの姿を探す。

 それを見つけては一気に急降下し、襲われていた人々を救助していった。 


 だがその数は未だ知れず。

 街全体に出現していると思われる程に……点在して出現しているようであった。


「これじゃあ間に合わない……!!」


 救助に駆け付けた勇が襲い来るグリュダンの攻撃を躱し、合気道の如く相手の力を利用して跳ね飛ばしていく。

 その様にいなす事は出来てもダメージには繋がらない。

 自分が戦う事の出来ぬ状況に、勇は早くも苛立ちを募り始めさせていた。




 すると突然、グリュダンが見上げる様に首を振り上げ……何を思ったのか、勇には目も暮れずその場から走り去っていく。

 相対していた個体だけではない……続く様に別の個体が現れ、同じ方向へと向けて走っていくでは無いか。


 その行先にあるのは……茶奈が戦っているはずの広場。


「まさか……茶奈ッ!?」


 救助が必要無くなったと悟った勇は、駆けていくグリュダンと共に茶奈がいるであろう広場へと向かっていったのだった。




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