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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十七節 「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
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~なんて事の無い土産~

 一台のピンク色の軽自動車が他の車へ追従する様に国道を走り抜けていく。

 それを運転するのは、サングラスを掛けたレンネィ。


 見慣れた道を通り、訪れたのは魔特隊本部。

 大きな外壁を沿う様に走り、正面ゲートへと向かう。


 すると……彼女の走る先の十字路を横切る様に一台の大型車が通り抜けていった。


「あら、あれは……」


 見慣れた車体に気付き、思わず声を漏らす。


 それは茶奈達の送迎を行う車。

 彼女達が先程幼稚園での『任務』を終えて帰還中、丁度そこを通りかかったのだ。


 偶然の遭遇に、レンネィの口から再び思わぬ笑いが漏れていた。




 茶奈達が乗る大型車が正面ゲートへと辿り着くと、大きな扉が音を立てて開き始める。

 その途中レンネィの車が追い付き、それに気付いた大型車が僅かに横にずれながらゲート内へと侵入していく。

 するとレンネィの車が並列する様に大型車の横へと付かせた。


 第一ゲートが閉まると、第二ゲートが開き……彼等を同時に受け入れる。

 そしてそのまま駐車場の決められたスペースへと各々が停めると……軽快に車から降りていった。


「レンネィ!!」


 声を上げて一番に歩み寄っていくのは当然心輝。

 レンネィもまた手を振り上げ彼等を迎える。


「偶然ねぇ! どうだった、お仕事は?」

「戦いと比べたら気楽なもんだぜ」


 先程の溜息はどこへやら……にこやかな心輝の笑顔が彼女と面を合わせた。


「午前中だけでしたし、良い気晴らしにはなりましたよ」


 続いて茶奈と瀬玲が姿を現し、手軽く挨拶を送る。

 毎日会っている様なものなのだから、彼らにしてみれば至極当然の対応だ。


「皆おつかれさま。 今日はちょっとおやつとお土産持ってきたから、皆で召し上がってね」


「おっ……気が利くねぇ」


 彼女の手に掴まれているのは今言った物が入った袋。

 その中に潜むのは……勇が買ってきた焼売の箱だった。






 彼等を続き迎えたイシュライトと共に食堂へ向かい、席を挟んで五人が座る。

 するとお目見えした持参品に、茶奈達がその目を光らせた。


「おお……これはレンネィが焼いた奴かぁ!!」


 心輝が手に取るのは、レンネィが自分で焼いた焼き菓子(クッキー)

 素っ気ない形のものだが、先ずは味からと……まるで命力を鍛えるかの様に、じっくりと研究を重ねて作り上げて来た一品だ。


「んで、これは……焼売?」


 それに対し、如何にもお土産といった箱を瀬玲が開封してみると……その内包物にあっけらかんとした言葉が漏れる。


「なんで焼売……」


 仲間内から漏れるのは明らかに場違いとも言える物に対する呟き。

 そんな彼女達の反応に、思わずレンネィが噴き出していた。


「ウッフフ、まぁそう言わないであげてよぉ……これ、勇が買ってきたものなんだから」


「えっ……」


 その時、茶奈達三人の声が詰まる。

 久しく関わって来なかった彼からの、間接的な気持ち。

 勇自身もこうして彼等の前にお土産が出されるとは思ってもいなかったのかもしれないが。


 そんななんて事の無いどこにでもありそうなお土産を前に……途端三人の態度がしおらしくなる。


 どこか懐かしみを感じているのだろう。

 彼と別れてもう二年……直接的な再会は一切無い。

 間接的にと言えば、こうやってたまに訪れるお土産くらいだ。


「勇さん元気かなぁ……気落ちしてないかなぁ……」


 不意に茶奈の口から溜息が漏れる。

 彼を想っているのか、それとも目の前にある供物を想っているのか……僅かに頬を赤らめ、じっと焼売を見つめながら指を机上になぞらせる。

 そんな惚けた彼女の様を前に、心輝達は水を差す事無く座った目を浮かべながら見守っていた。


「……ま、彼はいつも通りだったわよ。 いつも通り……ね」


 だがそんな事を言うレンネィの顔は落ち着きを見せた余裕の笑顔。

 普段ならこういう事には一番食い付く彼女であるが……その態度を前に、瀬玲が視線を移して指を鋭く向ける。


「レンネィさん……何か企んでるでしょう?」

「……わかる?」


 そう呟く彼女の表情は変わる事無く。

 心輝と瀬玲の座った目は、今度はレンネィへと向けられる。


「まぁ、今はお昼時だし? そんな野暮な事は置いておいて……早く食べちゃいなさいな」


「あ、はい!」


 そう彼女に言われると……思い出したかの様に茶奈が立ち上がり、焼売の箱を手に取る。

 そのまま食堂内にある電子レンジの下へと急ぐ様に駆けて行くのだった。






 レンネィが本部内でやる事は大した事では無い。

 屋内の清掃と訓練施設の清掃を隔日で行うだけの、言うなればただの清掃員だ。


 魔特隊が極秘性の高い場所ともあって、一般人の出入りは基本的に出来ない。

 例外があるとすれば、安居料理長の様に口が堅い人間くらいだろう。

 だからこそレンネィがその役目に選ばれたのである。


 清掃員だからと侮るなかれ、その給料は一般の平社員より高いのだ。


 自分に課せられた仕事をこなし、その出来栄えを讃える。

 時折擦れ違う隊員や職員に挨拶を交わし、彼女は今日の仕事を終えたのだった。




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