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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十七節 「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
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~今に至りし世界~

 長い月日が流れた。

 【東京事変】から二年と言えば、長く聞こえはしないかもしれない。

 だが少なくとも、世界にとっては余りにも長く苦しい月日だった。


 その間に、多くの命が失われた。


 それだけではない。


 なお止まる事の無いフララジカ。


 世界の各地で、未だ転移は続く。


 世間には公表されていないが、そのスパンは徐々に短くなっていた。




 ここまでに世界で起きた事の真実のほとんどを勇は知らない。

 日本では、世界で起きた事は事細かには報道されていないのである。

 インターネットの情報も一部制限され、何があったかどうかの記述がされるのみ。

 勇自身の行動の制限もまたそれを助長する。


 それは全て国内で【救世同盟】の信者を増やさない為の処置。


 


 だが勇はその不穏な空気を僅かだか感じ取っていた。

 しかし何も出来ない今……勇は一心不乱に体を動かすのみ。

 何が出来るのかがわからないからこそ……ただ静かに、自分を磨く事に専念するのだった。




 これが過去二年間で起きた記憶である。

 そして時間は勇と小野崎紫織が渋谷の空を仰いだ時へと舞い戻る。


 ここまでに起きた出来事を胸に……勇は今もなお、自身と戦い続けていた……。





◇◇◇






 僅かに空が青みを帯びる。

 日が落ちていく時間帯……僅かな雲が彼方の夕焼けを反射し空に彩りを呼ぶ。


 勇が東京横断(ロードワーク)を終え、帰路に就く。

 ほんの少し道がずれたのか……彼が胸に抱えるのは、横浜土産だった。


「よっ……」


 土産を潰さぬよう、加減し跳ぶ。

 それもまた一つの彼の訓練。

 気付けば空高く……まるで雲に届きそうな程に。


バサバササッ


 空を抜ける勢いが包み袋と服を煽り、激しい音を掻き鳴らす。

 気付いて見下ろせば、そこは見慣れた街並みが広がっていた。


 たちまち跳ねた勢いが弱まり降下が加速していく。

 徐々に大きくなっていく街並み。

 その先に見据えるのは……見た事があるが、普通なら見る事の無い景色。




ットーーーーーーン……




 それは静かな着地だった。

 重心のバランス制御と足のバネとしなりを利かし、全ての降下慣性をも殺す見事なまでの着地。


ぶちゅっ……


「あ……」


 だが……ほんの少し加減が甘かった様だ。

 抱えたお土産の箱が僅かに崩れ……内包してあった焼売(シュウマイ)が僅かな音を立てて潰れていた。

 

「うーん……まだちょっと加減にムラがあるな……少し見直さないと」


 「はぁ……」と一吐き溜息を洩らすと……勇はそっと立ち上がり、くるりと振り向く。

 そこあるのは彼の実家だった。




ガチャリ……


「ただいまー」


 玄関の扉を開き、屋内へと足を踏み入れる。

 すると間もなく返って来るのは母親の声だった。


「おかえりー」


 素っ気なく返って来る返事に反応する事も無く、勇が靴を抜いて上がる。

 そのままリビングへと入り、目の前にあるダイニングテーブルの上に買って来たお土産の袋をストンと置いた。


「ちょっと行き先ズレて、横浜付いちゃったから……焼売買ってきた」


 ダイニングチェアに座る母親がそれを見ると、「やった」と言わんばかりに笑みを浮かべた反応を返す。


「じゃあ今夜のおかずにしよっか」


「一部ミスったから……それから使って。 残りは皆に持っていくよ」


「はーい。 まぁちょっと前と比べたら随分成長したんじゃない?」


 途端勇の顔に浮かぶのは眉間にシワを寄せた苦笑。


 こんなロードワークを始めたのもほんの一年前からで……こうして力の使い方を学んでいるという訳だ。 

 当初はお土産を()()()()させた事もあり、それと比べれば相当マシになったと言えるだろう。




 こういった毎日を過ごし、彼はその力の使い方をほとんど理解する事が出来ていた。

 しかし未だ【光の剣】に関してだけはどうにもならず、模索する毎日が続いている。


 その力の源が何であるか……そのキッカケさえ掴めれば……。


 そんな想いを胸に、今日も彼は体を休める。

 もしかしたら明日にはきっと何かがわかるかもしれない……期待と願いを込めて。




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