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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十三節 「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」
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~遺物と再生 心から始まる会話だから~

 アルトランとアルトラン・ネメシス……二つの存在と目的が露呈した。

 これによって勇達グランディーヴァの最終目的が遂に定まったのだった。


 しかしそこに至る道はまだ険しい。

 【創世の鍵】を得る事は終わりでは無く、真の始まりに過ぎなかったのだから。




 恐らくは主要な話を一通りを話しきったのだろう、ア・リーヴェの語りがとうとう終わりを迎える。

 傍聴者側はといえば、まだまだ知りたい事を秘めた者は多いであろうが。


 話の途中で動き回っていた勇達も自席へと戻り、ビーンボールもまた傍聴側にある席へとその身を埋める。

 一端の落ち着きを取り戻した所で……傍聴席側から一人の声が上がった。


「一つ質問にござる」


 大きな腕を伸ばし、存在感をアピールするのは……他でもないジョゾウその人。

 先程まで静かに聴き耳を立て、声一つ挙げなかったのは今までの彼らしくも無い大人しさ。

 既に王となって久しく……貫禄も付いたのだろう、堂々とした精悍な面構えを見せていた。


 ア・リーヴェもまた、そんな彼に何一つ戸惑いの無い微笑みを浮かべた顔を向ける。


『はい、どの様な事でしょうか?』


「先程びぃんぼぉる殿の言うた事の一つ、異種族との対話能力。 これは確かに便利な力でござろうな。 そう、便利であろう……が、そこがいささか腑に落ちぬ点よ」


 その事を耳にすると、ジョゾウだけでなく他の『あちら側』の者達が揃って頷く様を見せた。

 きっと彼等も皆、『あちら側』の者達だからこそわかる疑問があるのだろう。

 

 それは今まで知りながらも敢えて伏せてきた、『こちら側』の者ではわかるはずも無い……大きな疑問だった。




「その力は我等にとっても与り知らぬ事。 ふららじっかが始まった後、そこで初めて気付きし事であろうたのは何故(なにゆえ)か」




 そんな時、茶奈や勇の父親がふと思い出す。

 まだフララジカが始まって間もない頃の出来事を。

 その時、翻訳の力が働き……勇と剣聖だけが『こちら側』と『あちら側』とで話が通じる事に気付いた。

 当時出会った『あちら側』の人間もそれによって戸惑い、結果として勇を頼っていたのはもはや記憶にも遠い。

 

 そう、剣聖ですらもその時初めて知ったのだ。

 まるで世界が混ざり始めてから命力に翻訳の力が備わったかの様に。


 そしてきっとそれは誰もが思っていながらも、便利だったが故に忘れていた事実。


 長い年月において隠れてきた疑問が遂に再び白日の下へと晒された瞬間であった。


『それは……』


 質問を前に、ア・リーヴェの声が詰まる。

 それは答えが出ないというよりも……躊躇いを感じさせる様な振る舞い。

 そっと顔を背け、浮かべていた微笑みすら失わせて。


 先程までの弁舌爽やかな雰囲気とは打って変わり……続く一言を上げられない姿がそこにあった。


 彼女の消沈ぶりに、戸惑いの声が傍聴側から僅かに漏れる。

 返らぬまま沈黙の間が続くと思わる程に、彼等の動揺は大きい。


「そこに関して、また僕からの見解で返させてもらうとするよ」


 そんな時、再びビーンボールが重くとも軽快な腰を上げる。

 彼もまたどこか神妙な面持ちを浮かべてはいるが。


「その方が君にとっても助かるだろう?」


『―――はい、お気遣いに感謝致します……』


 勇もまたどう答えていいのかわからなかったのかもしれない。

 そんな彼等の気を察したからこそ、ビーンボールは立ち上がったのだ。


 それは余りにも……酷な真実だから。


 そして自身がそういった事を遠慮なく答える事が出来る人種だと知っているから。


「では僕が彼女の代わりにその質問に答えよう。 単刀直入に言わせてもらうとだね―――」


 再びゆっくりと壇上へと上がりながら、自身の中で最も相応しい言葉を選ぶ。

 科学者であるからこそ。

 真理を追究するからこそ。


 最も相応しい……残酷な言葉を。






「―――君達『あちら側』の者は、言わば天士にとっての失敗作。 力の在り方のレールから外れた、直される事の無い朽ちた遺物なんだ」






 その瞬間、場が凍り付いた様な静けさを生む。

 『あちら側』だけでなく、『こちら側』の人間までもが声を失って。

 余りにも衝撃的な一言は、彼等の思考すら止めたかの様だった。


 そんな中でもなお、剣聖とラクアンツェだけは彼の続くであろう言葉を前に冷静を保たせて見つめる。

 その一言の真意を求めんとせんばかりに。


「君達の祖先が遥か昔から戦いに明け暮れ、他種族との交流を断ち切り、殺し合いを続けた。 その結果、君達の心が他人を受け入れる力を失い……最終的に命力の持つ力すらをも衰えさせてしまったんだ。 そう、君達の命力は長い年月を経て退化してしまったのさ」


 力の退化、それは一つの進化の形とも言える姿。

 争い続ける世界の中で、その力はおのずと不要とされ……知らぬ間に消えていたのだろう。


 いつからだろうか、その力を失ったのは。

 いつからだろうか、その力に気付かなくなったのは。


 ずっと遠い遠い昔に置いてきて、気付かぬままに失って。


「退化……か、そうかもしれねぇなぁ」


 剣聖がそっと見上げ、想いを馳せらせる。

 きっと彼も思い出せないくらいに心を通わせなかったのだろう。

 精々交わすのは、言葉がわかる人間くらいか。

 魔者とは、話せたとしてもきっとすぐ別れて(殺して)しまったから。


 それ程までに自然となってしまったのだろう。




 現代においても文化や言語の壁で争いになる事などいくらでもある。

 どんな些細な事であっても、争いの火種となりえるのだ。

 わかりあう事がどれだけ難しいか……命力を元々持たない『こちら側』の人間にとってはよく知った事だろう。




『ですが、それでもあなた方は再び力を取り戻す事が出来ました』




 しかし、その静寂を溶かしたのは……ア・リーヴェの優しい声だった。


『確かにあまりにも長い年月で力は失われたかもしれません。 でも甦る可能性までは失われていなかった。 それを素に戻したのは皮肉にも、融合した先の世界の人間達。 ある意味で言えば、これは世界融合という悲劇の中に生まれた細やかな幸運なのかもしれませんね』


 最初は戻った翻訳の力も微力なもので、片言にしか聞こえなかった。

 だがあっという間にそれは会話に支障のないレベルへと変質した。


 いや、完全に戻ったのだ。

 あるべき姿へと。


 『こちら側』の者達と会うだけで。


 元に戻るキッカケなど、それだけで十分だったのだ。


『それが新しい世界の人間の持つポテンシャルからだったのか、それともただ忘れていただけなのかは私にもわかりません。 ですが、今こうして甦った事……それはまだやり直せるという事に他なりません』


 そして今、こうして甦ったからこそア・リーヴェも希望を持つ事が出来た。






『もし世界が再び元の形に戻る事が出来たのならば……姉星(あちら側)の未来はきっと明るいでしょう……!』






挿絵(By みてみん)




 過去を清算し、争いを無くす。


 心で感じ合える事を知ったから。

 思い出したから。


 今ならそれが出来る。


 人間と魔者。

 共に生き、共に育ち、共に次代へ繋ぐ。

 もうそれは難しい事では無いだろう。


 今まさにその形が……この世界で出来ているのだから。


 『あちら側』の希望。

 可能性はこうして立証された。

 大きな障害はあろうとも、それを乗り越えられれば先に待つのは希望の未来。




 双星に溢れる未来を掴む為にも……勇達は負けられない。




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