~幸所と豆球 懐かしき旧友との再会~
世界の真実が明かされ、勇が天士へ成った事もまた証明された。
しかしそれでもなおまだ明かされていない事は多い。
幾多もの疑問が残る中で、ア・リーヴェの語りはまだまだ続こうとしていた。
「ア・リーヴェ、そろそろ代わろうか?」
『いえ、それには及びません。 真実を語れるのであれば私としてもありがたい事ですし』
いくら精神生命体とはいえ、疲れもするのだろう。
彼女の話の通りであれば、その体はいわば半身……昔の様な体では無いのだから。
しかしア・リーヴェは疲れを見せる事無く微笑みを見せ、皆の前に立ち続ける。
『きっと、こう語る事が出来るのは私だけでしょうから』
勇も語るには語る事が出来るだろう。
だが理論的な話ともなれば、知識だけではどうにもならない部分が出て来る。
理解する事の方が要素が大きいからだ。
だから勇には恐らくアルディの様な博識な人間を前に語る事はまだ出来ない。
当人もそんな不安があったからこそ彼女に任していたのだから。
『では何故、私達がこの世界を生み出すに至ったか、その訳を―――』
「ちょっと待って欲しいッ!!」
その時、ア・リーヴェの声を遮る様に大きな声が講演室に響き渡った。
誰しもが驚き、声の元へと顔を向ける。
ア・リーヴェもまた同様に。
彼等が顔を向けた先、そこは講演室の入り口。
そこに立っていたのは……一人の男だった。
全体的に小柄だが横柄が大きく、まるで大きな球のよう。
頭は剃り込んでいて髪は無く、ふっくらとした頬が体付きとマッチングしている。
その体にフィットした白の上着は恐らく白衣だろう。
背丈同様短い足を小さく動かし、トコトコと中央へ向けて歩き始めていた。
「おや、ビーンボールではないですか!! 間に合ったのですね!!」
「おお、ラッキーステイツ!! 久しぶりだねぇ!!」
途端、福留が喜び立ち上がり、丸男の下へと駆け寄っていく。
そして二人が相まみえると、途端に手を取り合い握手を交わし始めた。
「ようやく合流が出来たよ。 足が短いからね、移動も大変さ」
「ははは、相変わらずですねぇ君は」
気付けば二人は周囲の人々からの注目を集めていた。
二人は英語で話し合っていて、言葉がわからない者には何を語っているのかわからないようではあるが。
「福留さん、その方は……?」
「この人はビーンボールと言いましてね、私の旧友であり、科学者でもあるのですよ」
恐らくその名前も、福留と同じ様な由来なのだろう。
旧友とはつまり、そういう事だ。
「今はもう数少ない福留コネクションを繋ぐ初期メンバーの一人で、私の最も仲の良い人物です」
「ラッキーステイツ、仲が良いのはいいが私を科学者と呼ぶのは止めてくれと言っているじゃないか」
すると途端にビーンボールはその丸い顔をぷくりと膨らませ、いかにもな顔を見せつけた。
「科学者とは結論を求める為に研究を行う者達の事を言うんだ。 私は彼等と違い、空想から現実を導き出す『探求者』だと言っているではないか」
「ははは……申し訳ない。 でも君の肩書がそうなのだから仕方ないでしょう?」
そう語る福留の顔は、まるで勇達とプライベートの話をしている時の様に柔らかだ。
いや、もしかしたらそれ以上の緩さか。
何せ若者だった頃からの付き合いなのだ、もはや遠慮すら要らないのだろう。
「ビーンボールさん久しぶりッス!!」
途端、福留の背後からカプロが飛び出した。
どうやらタイミングを見計らっていた様だ。
勢いのままその小さな体目掛けて飛び込み、そのまま抱き付く。
ビーンボールも手馴れた様にそれを受け止め、互いにハグをキメていた。
「やぁフジヤマ、久しぶりだねぇ!!」
「うぴぴ、相変わらずの弾力っぷりっスね」
図柄はもはや肉団子の上に浮かぶ毛玉だ。
ぼよんぼよんと跳ねる様なハグなど、ここ以外で見られる事など滅多に無いだろう。
どうやらカプロもまた彼の事を知っている様子。
どうにも接点がわからず、勇どころか彼等に関しては何も知らぬア・リーヴェすらも首を傾げさせていた。
「カプロ、ビーンボールさんと知り合いなのか?」
そんな質問が飛ぶと、カプロは肉団子から離れて再び地へと立つ。
皆の注目が集まる中、カプロは嬉しそうに「うぴぴ」と笑いながら惜しげも無く答えた。
「実はッスね、ビーンボールさんはアルクトゥーン改造の基礎設計をやってるんスよ」
「「「ええっ!?」」」
初耳の事実に、勇達が驚きを隠せない。
その反応がカプロに、ビーンボールにすらもニタリとした笑みを呼び込んでいた。
「ボクがアルクトゥーンの構造を知った時、内部構造の改造計画をビーンボールさんに助けてもらったんス。 実際見つけた時もアイディア出してもらったりで助けられたんスよ」
「いやいや、フジヤマの構想や着眼点は実に見事だった。 君の能力が無ければアルクトゥーンはきっとまだ島のままだったろうね。 僕は君の補助をしただけに過ぎないよ」
つまり、機動旗艦アルクトゥーンは二人の手によって今の形に進化したと言っても過言ではないのである。
たった一年半ほどでこれだけの改造を施したのだ……さすがにそれをカプロ一人では無理があったのだろう。
そこでビーンボールという影の立役者がいたからこそ、成し得たという訳だ。
「そうだったんだ。 ありがとうございます、ビーンボールさん」
「いやいや、僕は好奇心に従っただけに過ぎないからね。 楽しくやれて良かったよ」
この様に謙虚な所を見せるのもどこか福留と被る所がある。
実際に言う通りではあるのだろうが、軽く言ってしまえる所もまた福留と同じ人間性を持っているからなのかもしれない。
かつて共に歩み、学び、育ってきた者として。
「ところで福留さん、なんでカプロは『フジヤマ』って呼ばれてるんですか?」
再びビーンボールとカプロが再会に華を咲かせる中で、福留の下へと近寄った勇が小さく声を掛ける。
すると福留は……「フフッ」と笑いながら、小さくカプロへと指を差した。
「ほら、ああやって笑っている所を見ていると……見えませんかね」
指の赴くままに勇が視線をカプロへ向けると、そこには高笑いするカプロの姿が。
ツンと鼻を上に突き出し、笑う様……鼻の周りの白い毛と、そこに下がる茶色い毛。
その模様が連想させるのは―――
「ああ、なるほどね……」
全てを納得した勇とア・リーヴェが頷く姿は、意図せずともどこか連動している様にすら見えた。




