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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十三節 「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」
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~崩壊と永遠 そこに至る悲劇~

 小さな女神ア・リーヴェの話は遂に宇宙の原理にまで至る。

 彼女が掲げる腕の先に映る映像……それは宇宙の真理そのものの姿。


『―――この宇宙は私達天士が生み出した【次元空層(じげんくうそう)】と呼ばれる飽和領域に【空間梁(くうかんりょう)ポリフィック】という格子構成体を流し込んで造り上げた空間です。 【空間梁ポリフィック】とは簡単に言えば三つの鋲に細い糸を張り、そこにシャボン液膜を張った様な物だと思ってください』


 半透明の映像空間にはまさに画鋲の様な針が三つ、そしてそこに糸が張り合わされて繋がって出来た物が映し出された。

 続き、薄く黒い膜の様な物が中央に浮かび上がり……それが幾つも連なる様を見せる。


『それらが流体の様に連なって流れ、その中に空間を形成しているのです。 つまり宇宙とは例えるならば川の様なもの、その流れによって生まれた気泡が銀河という訳です。 私達はこの宇宙構造を例えの通り【泡沫型宇宙】と呼称しています』


 宇宙は常に流れ続け、川の中で巻き上げられる泡沫の様に銀河を大きく揺れ動かす。

 しかしその速度は実際の水の流れとは異なり、光すらも圧倒的に凌ぐのだろう。

 だからこそ、光の速度すら認識出来ない人間にとっては宇宙空間が止まっている様にすら見える。

 今遥か空の彼方に見えているのは動く前の景色であり、その光すら人間にとっての光速の様に宇宙の動きを遅れて見せているのだから。


 人間にとっての百年も、宇宙にとってはほんのコンマ数秒後の出来事でしか無いのだ。


『宇宙を構築する【空間梁ポリフィック】は非常に脆く、一つ指を伸ばせば簡単に崩れてしまう様な物体です。 しかしこの空間において壊れる事は絶対にありません。 何故なら認識出来ないから。 この空間では触る事は愚か、見る事も、感じる事すら出来ません。 なので何一つ影響を与える事が出来ず、壊す事が出来ないのです』


 黒い宇宙が何で出来ているのかを考えた科学者は少なくは無い。

 ダークマターという物質で出来ているといった話もあるが、その解明には未だ至ってはいないのが実状だ。

 もしかしたら宇宙が黒いのも【空間梁ポリフィック】がダークマターと呼ばれる物質の正体であり、映像の通りに黒いからなのかもしれない。

 見えないというからには黒いと認識出来る訳も無く、そうであるとは言い切れないが。

 その証明はまだ人類に出来はしないだろう。


『ですが、フララジカシステムだけは例外です。 あれは私達の世界のシステムであり、その力は【空間梁ポリフィック】にまで影響が及びます』


 その時、アルディ達の目が見開く。

 「そうか!」と言いたげに口を小さく動かしながら。


『世界の融合はフララジカシステムにとってのイレギュラー。 それが行われた場合、膨大な負荷エネルギーが噴出する事となってしまいます。 そうなった時、負荷エネルギーが空間を超えて飛び交い、間違いなく【空間梁ポリフィック】へと影響を及ぼすでしょう。 その時、世界はどうなるのか―――』


 もはやその時、口を挟もうとする者は居ない。

 その先がどうなるのか……予想すら容易だったのだから。


『宇宙を構築する【空間梁ポリフィック】の膜に歪みが生じ……途端、内一つが崩壊します。 すると、その崩壊は連鎖的に起き続け、あっという間に全体に広がっていくのです。 その崩壊速度は宇宙が広がるよりも……ずっと速い』


 光よりも速いとされる宇宙の拡大速度。

 それ以上の速さ……人間にはもはや予測すら付かぬ程の……刹那の中の刹那。


『ほぼ一瞬で宇宙を覆う【空間梁ポリフィック】は全て崩壊し、宇宙に存在する全ての物質が【次元空層】へと放り投げられます。 【次元空層】とは言わば宇宙の拡張を助ける無限飽和の空間。 そこに直接放り投げられた場合、あらゆる元素が組成に拘らず飽和崩壊し、霧散して消滅してしまいます』


 その時ア・リーヴェの頭上の映像に映し出されたのは一つの丸い粒。

 それが突如として膨らみ続け、途端、弾け飛ぶ。

 さらにそれらが集まり、複数で重なりながらも同様に弾け飛んでいく。


 彼女が言うのは詰まる所、それらの動作が元素単位で行われるという事。


 体が風船のように膨らむのではない。

 厳密に言えば体の細胞一つ一つが風船のように膨らむと思う方がより近い例えだ。


『ですがこれはあくまで物質的な話です。 実は皆さんの様な個体意思が生まれると、それもまた一つの次元として認識され、補完されます。 そして個体意思……簡単に言えば霊的存在が生まれ、そしてそれは【次元空層】において飽和の対象には含まれません』


 次に続く結果を前に、ア・リーヴェが僅かな躊躇を見せる。

 しかしそっと腕を降ろし、片手を自身の胸に沿えると……静かに続く事実を口にした。


『つまりどういう事か。 恐ろしい話ですが、肉体は飽和分解しても、霊的存在はそこに残り続けます。 崩壊によって生まれたありとあらゆる感覚を残したままで。 その時、霊的存在は亜次元的エラーによる消滅を認識出来ず、一瞬にして多くの感覚を得る事となるでしょう』


 その空間はもはや人知を超えた世界でありながら単純至極。

 残された者に行われるのは負の永遠。




『すなわち、痛み、苦しみ、悲しみ、怖れ……消滅によって生まれいずる苦痛の感情を持ったまま、霊的存在は【次元空層】の中で未来永劫苦しみ続ける事となってしまうのです』




 そしてそれは人類だけに限らない。

 全宇宙に存在するであろう知的生命体もまた、同様の状況に晒されるだろう。

 つまりは、宇宙の各地に散った天士が育んでいるであろう別の星々での計画すら巻き込んでしまうという事なのである。


 そうなってしまった時の惨劇はもはや形容し難い程の……地獄。


「まるで無間地獄ですね……」


 言い得て妙だが、その通りとも言えるだろう。

 現実世界が丸ごと無間地獄に変わる……そう言っても過言ではない様な出来事が起きようとしているのだから。


 結末がただの死であればまだ諦めも付くだろう。

 だが待つのは永遠の苦しみのみ……それは余りにも残酷な仕打ちである。


 最悪の場合の行き着く先を知った時、殆どの傍聴人が顔を落として陰りを呼ぶ。

 それはいつも明るい鷹峰とて例外ではなかった。


「それって天士も同じ様に巻き込まれてしまうんですか?」


 そんな中、茶奈が手を上げて質問の声を投げ掛けた。


 ア・リーヴェの告白は確かに絶望的だっただろう。

 それでもグランディーヴァの面々は比較的落ち着いていた。

 それも当然か……彼等はそうならない為に戦っているのだから。


 そんな気持ちを前に押し出して上げられた質問の声に、ア・リーヴェもまた何かを感じたのだろう……僅かに口元が緩みを見せる。


『―――いえ、天士の様な天力で構成された精神生命体へと昇華する事が出来れば、空間の制約を抜けて前宇宙に戻る事も可能でしょう。 ただ、今の人類の精神レベルでは全てが()()()()()事は恐らく不可能ですので、そうやって逃れる方法は万が一にも無いと思っていいかもしれません』


「天士に至る? それってどういう事でしょう?」


 その時、ア・リーヴェの放った言葉の一つに茶奈が気付き声を上げる。

 すると彼女はそっと一つ頷きを見せた。


『先程からのお話で察せる方もいらっしゃったのではないでしょうか。 人類が天力を得られるという現実、そして私達が精神生命体になるまでは人間だったという事から』


 もしかしたら他の傍聴人の中には幾人かは気付いていたかもしれない。

 ア・リーヴェの語りの中に潜んでいた秘密を。


『天力を得るという事。 それはすなわち、私達と同等の存在になれるという事に他なりません。 それは先程、フジサキユウが示した通りです』


「それってまさか!?」


 その途端、彼女の語ろうとしている真実に気付いた茶奈だけでなく心輝達までもが驚きの余り立ち上がる。




『そう……フジサキユウは人間を超越した存在、天士へと進化したのです』




 先程勇が見せた瞬間移動も天士としての力の一端。

 創世剣を使う事もまた同様に。


 そう、勇はもう人間では無く、天士となっていたのである。


 しかも前宇宙の天士であるア・リーヴェの力を受け継いだ……前世界と現世界、二つの力のポテンシャルをもつ複合体(ハイブリッド)として。


「言われる様な実感は無いけどな」


「ちょま……お前、そういう事は早く言って、んん、くださいよぅ!」


「いきなり敬語になんなよ……今まで通りでいいって!」


 途端に行われた二人のやりとりがどうにもコントのようで。

 先程の緊張が解れたかの様に傍聴席から大きな笑いの声が湧き上がる。

 勇達もそんな笑い声を前にどこか気恥ずかしく、小さく頭を下げながら席へと戻る姿を見せていた。


『しかし全ての天士があの様に【天力転換(瞬間移動)】出来る訳ではありません。 真理を学び、事象を心で知る事で初めて使える様になります。 かつてもう一つの星に生まれた者達も、そこに至る事無く天力を失い、争いに身を委ねてしまったのです』


 もし争う事が無ければ、『あちら側』の人間は天士へと進化していたかもしれない。

 そうなればきっと、もう争う可能性も無くなったのだろう。

 精神生命体……いわゆる天力転換した存在に変化すれば、心だけでの会話が可能となる。

 疑う事が無くなるのだから。


 きっと、疑う心が無ければ、今の人類もまた早い段階で天力に目覚めていたのかもしれない。


 争いが現代の文明を発展させたのは事実である。

 とはいえこの様な進化もあるというのは、史実に対してなんという皮肉と言えるだろうか。




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