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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十三節 「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」
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~発展と戦争 あちら側の伝説秘話~

 その後私達は命溢れる星へ降り立ち、知的生命体の心へと宿りました。

 こうする事で、生命体の心に囁いて知恵を与える事が出来るようになるのです。

 そうしなければ次のステップへ進む事が出来ないから。

 私達の祖先もまたそうであったように……きっかけを与える事が必要なのです。


 私達から知恵と知識を得た知的生命体は瞬く間に大きな進化を遂げる事となります。

 また、進化の手助けの為に獣にも進化を促し、彼等のパートナーとするべく成長させたのです。

 それが皆様の言う『あちら側』の人間と魔者の誕生。


 元来、人間は『得人(ノクシュ)』、魔者は『与人(バドォ)』と呼ばれていました。


 その名の通り、魔者とは人間に命力を教え与える者の事。

 人間がいつか成長し、自身の力である天力を得るキッカケとする為に。


 彼等の関係は実に良好で、互いが支え合い続けた事によって凄まじい速度で文化が構築されていきました。


 その結果……人類の始祖が生まれておおよそ一万年も経たぬ内に全人類が天力を得て、宇宙にまで手を伸ばす事が出来るようになったのです。


 それは私達自身が刻んだ記録よりもずっとずっと速い速度でした。

 これならば新しい宇宙は私達が知るよりもずっと早く栄華を極める事が出来るだろう……そう思わずには居られなかった。




 しかし……とある事がキッカケで全てを失うとは、当時の私達は思いも寄らなかったのです。




 そんな頃、私は一人の青年に宿っていました。

 彼はとても優しく、賢く、天力に最も優れ、誰にでも愛される素敵な方でした。

 私の存在に気付いては語り掛けてくれるなどの心遣いに感謝を欠かした日はありません。

 私もそんな彼の事を愛しており、いつまでも共に居られればと願う時もありました。


 彼はいわばその頃の人類の代表とも言える存在でした。

 それでいて誰からの相談でも受け、どんな悩みにも応えてくれる。

 だからきっと誰からも愛される事が出来たのでしょうね。


 そんなある日、彼の下に一人の魔者が相談を持ち掛けました。

 「隣人の人間に与えた物よりも優れた道具を作って欲しい」……と。

 彼はその相談に疑問を感じましたが、性格上断る訳も無く……言われた通りに道具を作りました。

 大した事の無い小道具です。


 すると翌日、彼の下に一人の人間が現れ、相談を持ち掛けました。

 「隣人の魔者に与えた物よりも優れた道具を作って欲しい」……と。

 またしても彼は疑問に思いましたが……良い物を作る事に抵抗が無かったので、彼は喜んで作り与えました。


 まさかそれが争いのキッカケとなるとは彼も思わなかったのでしょう。


 なんと、その魔者と人間は仲違いをし、争いを始めたのです。

 どちらが優れているのか……たったそれだけの事で。

 そしてその争いはあっという間に世界へ波及し、人間と魔者の関係を危ぶませる程に成長してしまいました。


 私達天士はそこで初めて気付いたのです。

 「彼等を成長させる速度が余りにも速過ぎた」のだと。


 人が精神を成熟させるには成長以外にありません。

 しかしその根底となる意識の基礎はいわば種としての経験の方が大きい。

 ありとあらゆる経験を経て世代を重ね続ける事で地盤を固め、そこでようやく人は次に進む事が出来る。

 私達がそうであったように。


 しかし彼等は成長が速過ぎたせいで基礎精神が不安定でした。

 だからちょっとしたキッカケで大きく心を揺らしてしまう。

 それこそ、足場を固めないまま物を積めば、突くだけで崩れてしまう事と同じ様に。


 瞬く間に仲違いは更に大きくなり、種族間の戦争にまで発展してしまったのです。

 それは彼等にとっても前代未聞の出来事でした。

 争いなど、これまでに一度も起きた事が無かったのですから。


 初めて起きた戦争……それは留まる所を知りませんでした。

 やってはやり返し、やり返されてはやり返し……復讐が復讐を呼び続け、負の連鎖は長きにわたって続いたのです。


 そこで私達天士と彼や多くの賢人達が集まり、異常事態とも言える状況を解決すべく緊急的な対応を行う事を決めました。


 仲間達同士で相談し合った結果、一つの解決法に辿り着きます。

 それは月に設置したフララジカシステムを利用し、人間と魔者が互いに不干渉にさせる為の防護システムを構築する事。

 発動させる事で互いに敵意を向けた相手への攻撃が無効化される様になるといったものです。

 お互いに傷つける行為を強制的に止め、落ち着くまで時を置こうと考えての処置でした。


 その対策に決定すると、私達天士は急ぎ月にて防護システムを構築します。

 そして主星の命力をエネルギーとし、完成したシステムは間も無く起動を開始しました。


 これでようやく争いは終わる、そう安堵したものです。

 ですが……そこで私達は一つの失敗を犯してしまいました。


 なんと、防護システムが魔者側にしか働かなかったのです。


 何故そうなってしまったのか……私達は悩みます。

 しかしその原因はすぐにわかりました。


 それは、争いによって負の感情を持ち過ぎた人間がもう天力を持っていなかったから。


 防護システムはいわば天力と命力を強制的に防御へ転換させる技術。

 互いに力を持つから成り立つシステムも、その力が失われてしまえば意味を成しません。

 対して魔者の持つ命力は先天的に持てる様になっています。


 だから失われる事は無い……それはつまり、魔者の一方的な防護と成りえてしまうのです。


 そうなった時、世界は大きく荒れました。

 魔者が一方的に人間を襲う事態へと成り果ててしまったのです。


 彼は大きく悩みました。

 こんな事態になる事など予想もつかなかったから。

 そこもまた、歴史が浅い人類にとって初めての経験だったから。

 どうすれば解決出来るのか……もう何もわからなくなってしまっていたのです。


 この間に、私達天士にも大きな影響が出ていました。


 私達天士は精神生命体ですが、生きている事には変わりありません。

 故に栄養を摂らねば、生きていく事は出来ないのです。

 本来であれば、自身が生み出す天力によって半永久的に存続する事は可能です。

 また、他種族が持つ希望のエネルギーを得る事で生きながらえる事も出来ます。


 しかし、世界が混沌に包まれ、負の感情に溢れかえった時……事態は大きく変わります。


 負の感情は人々から天力を奪うだけでなく、私達の生存力までをも奪う程に強くなっていました。

 人の持つ希望を糧にするどころか、自身が生み出す天力すら打ち消され。

 フララジカシステムの防護機構を止める事すら出来なくなる程に衰退し。

 気付けば一人、また一人と私達の仲間が消滅していったのです。


 もはや必死でした。

 世界はここまで変わり果てるものなのかと。


 そんな中であっても、彼やその仲間達が私達を守ろうとしてくれていた事は今でも覚えています。

 彼等はそんな中でも諦めず、全てを解決しようと知恵を振り絞りました。

 私達もそんな彼等の想いに応えるべく、知りうる情報を与えたのです。


 この時、当初千人以上も居た私達天士の人数は、既にもう十二人程にまで減少していました。


 そこで天士とゆかりのある彼を含めた賢人達が集まり、一つの決断を下す事となります。

 それは……絶対的な武力による統治。

 互いを傷つける事の出来る武器を造り、統治者となる賢人達がそれを奮って強制的に秩序を取り戻すという事でした。


 最初は反対の声も多く上がったものです。

 天士達にとっても苦渋の決断となりました。

 しかし、もうこれ以外に方法は無かった。

 そうでもしなければ、争いに囚われてしまった者達を諫める事など出来はしないのだと。


 彼も渋りましたが……最後には折れ、遂に計画が進められます。

 それが原初の魔剣『古代三十種(エンシェントサーティ)』と呼ばれる事となる武器の製造でした。

 武器としては実に単純な造りです。

 ただ人間と魔者、どちらも傷つけられればそれでいい……それだけの為に造られた武器だったから。


 これによって世界が落ち着いてくれるならば。

 そんな断腸の思いで、私と彼は魔剣を生み出したのです。


 ですがそこでまた一つ、私達は失敗してしまいました。

 そうしている間にも、賢人達に負の感情が芽生えてしまっていたのです。


 負の感情の芽生え……それは天士にとっての毒。


 気付かぬ間に、天士は更に数を減らし……とうとう私を含めて四人にまで減少してしまっていました。

 それに気付かぬまま、とうとう魔剣が完成してしまったのです。


 その後は想像にも容易い事でしょう。

 負の感情に囚われた賢人達は出来た魔剣を奪い去り、その製造方法と共に……あろう事か争う人間と魔者達にばら撒いたのです。


 その武器を造ったのが彼だという情報も含めて。


 その時、全ての人間と魔者が怒り狂いました。

 信じていた彼が自分達を殺す為の武器を造っていたのだと勘違いしたのです。


 そうなってからはもう後の祭り。

 もはや誰一人彼の言葉に耳を貸す者は居なくなってしまいました。


 そんな折、とうとう残る賢人にも負の感情が生まれてしまいます。

 遂には彼等の心に居続ける事が出来ず……天士達は弾かれる様にその中から飛び出してしまったのです。


 そして負の感情はあろう事か、彼の心すら蝕み始めました。


 ずっと一緒に居られると思っていた。

 しかしそれも叶わず。

 私もまた彼の心から弾かれ……離れ離れに。


 きっと彼もずっと苦しかったのでしょう。

 信じていた人達に裏切られて。

 友人だと思っていた人達に罵られて。


 私と離れたその間に……彼はいずこかへと姿を消してしまったのです。


 もう星に留まる事は出来ない程に負の感情は広まっていました。

 心に宿せる領域を持つ者はもう居ないのだと思える程に。


 その頃にはもう天士は私を含めて三人。

 全員が消滅してしまえば……全ては無に帰します。


 それだけはどうしても避けたかった。

 こんな事になっても、この星を愛していたから。

 失う事がもったいないと思っていたから。


 そこで私達は最後の決断を下す事にしました。


 世界の存在を二つに分け、再星(リテラリング)する事にしたのです。


 この宇宙の原理を私達は良く知っています。

 だから存在をコピーする事は理論上可能でした。

 そこで私達は月のフララジカシステムを再び使用し、世界の事象を分岐させる方法を考え付きました。


 原理を簡単に説明するとこうです。

 星の存在を二つに分け、一つの宇宙に同じ存在を二つ浮かべます。

 太陽を中心として、分けた星の間に位相空間を設ける事で互いに認識出来なくさせます。

 そうする事で、二つの存在が一つでありながら二つという事を互いに知られなくさせる。

 それによって世界が二つの星を一つの個体であると誤認して存在し続けられる事が出来るようになるのです。


 二つに分けた星の片方に、人間と魔者が争う世界を。

 もう片方に新たな歴史を。

 そして新たな世界で再びやり直す。


 もう二度と過ちを犯さない為に。


 予め、フララジカシステムには天士が干渉する前の星体データを残していました。

 後は世界を二つに分けて、そのデータを新しい世界に貼り付け(ペースト)するだけ。


 ですがそこでただ一つ、問題がありました。


 二つの世界を分ける為には、楔となる存在が必要となります。

 誰か天士の一人が互いの世界の楔となって二つに別れ、延々と星の一部とならねばならなかったのです。

 新しい世界はともかく……争いの世界の一部になるという事は、延々と苦しみ続けなければならないという事に他なりません。

 他の二人もその事実を前に名乗りを上げる事を躊躇していました。


 そこで……私が礎となる事を決めたのです。


 きっとこれは報いなのでしょう。

 世界をこんな形にしてしまったのは、彼と共にあった私の所為でもあったのだから。




 こうして……私を楔として、【創世(プログラム)の鍵(ア・リーヴェ)】が生み出されました。

 そしてそれを使い、世界は二つに分かたれたのです。

 争いを生みし創世の女神と呼ばれ蔑まされながら。




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