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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~救いを与えし者の唄~

 勇の視界が再び白の光に包まれる。

 しかしその後は先程と違い……一瞬だった。


 一瞬で……その光は留まり、先程までに見た光景が視界に映り込んでいた。


 そこはアルライの里、ジヨヨ村長の家の地下。

 そっと横に振り向くと、地べたに座るジヨヨ村長が見えた。


「ジヨヨ村長、俺が消えてどれくらい経ちました?」


「あ、え……あぁ、およそ十秒くらいやろか」


「そうか、よし……」


  勇はそこで自身に置かれる状況を全て理解し、一人でに頷く。


 それはただの確認に過ぎない。

 勇自身が知る事と現実のギャップ……それを認識したいが為の。


 そしてそれらが一致した時、勇は得た知識を肯定したのである。


「そ、それでおぬ、先には行けたのかの……?」


 涙を流していた事を悟らせぬかの様に、咄嗟に目元を拭って言葉を返す。

 すると勇は小さく頷き、笑顔で返した。


「ええ、全部理解しました。 ありがとうございます、ジヨヨ村長。 そしてヤヴさんにもそう伝えておいてください……きっとあの人が一番待ち遠しいだろうから」


 ア・リーヴェと通じ合った時、ヤヴがどんな思いでジヨヨ村長に通じたのかも知ったのだろう。

 その語りはまるで全てを知ったかの様に……一言一言が自信に満ち溢れていた。


「……わかった。 なら行きや、皆待っとるやろ?」


「ええ、それじゃまた!」




キュンッ……!!




 その瞬間、勇の体が光に包まれ……たちまち光の粒となって霧散した。




 あっという間に彼の姿は消え、その場に静寂だけが残されたのだった。


「そうけ……ならよぅ創世の女神様よ……勇殿をどうか助けたってぇな」


 ジヨヨ村長もまた希望が繋がった事を悟り、そんな一言を零す。

 彼もきっと勇の様な存在を望んでいたから……託せずにはいられなかったのかもしれない。


 これはまだ彼等にとっての始まりでしか無いのだから。






◇◇◇







 一方その頃、ゴトフの里。


 茶奈達と異形との戦いはなお続いていた。

 しかし劣勢も劣勢……命力に頼って戦ってきた茶奈達にとって、それ無しで戦うには余りにも酷とも言える状況であった。


 茶奈達のコンビネーションによって、幾つもクリーンヒットに至る攻撃が見舞われる。

 それでも異形は物ともせず、彼女達を払い除け続けた。

 命力が無ければ、彼女達の力など所詮は鉄の棒で殴られた程度の威力でしかない。

 それをこの様な怪物に繰り出しても……効くはずも無かったのである。


「ハァ……ハァ……このやろォ……!!」

 

 剣聖ですらももはや満身創痍。

 最も彼が激しい戦いを繰り広げていたからだ。

 

 だがもう力はほとんど残されていない。

 溢れ出る命力を回復に回しても、相手の一撃が容赦なく肉体そのものの力を削り取っていく。

 命力が残っていても、体の構造そのものが耐えきれる訳も無い。


 そしてそれは茶奈達も同様だった。


 茶奈も心輝もイシュライトも……自慢の闘技が使えず、一方的な場面ばかり。

 一方で回復に回る瀬玲は攻撃よりも支援重視で動いていたので傷は少ない。

 だが彼女の回復が間に合わない程に仲間達の傷は深く重かった。


 対して異形は……未だ余裕の笑みを零す。


 もはや異形にとってこの戦いは遊びにも近かった。

 思う存分暴れられる相手が幾人も居るという事。

 そして好き放題にしてもいいという事。

 退行し、子供が如き精神を持つ異形にとって、これほど喜ばしい場面など無かったのだ。


「お前等あッ!! 隙を作れッ!! 俺が畳み込む!!」

「はいッ!!」


 もはや必死だった。

 何が何でも勝たなければならない……そこにもはや手段など関係は無かった。

 例え自分が囮に成ろうとも、勝てればいい。

 異形に確実なダメージを与えられるのは剣聖の拳だけだったから。

 そんな想いが剣聖の指示を誤差(ラグ)無く受け入れる。


 茶奈が、心輝が、瀬玲が、イシュライトが……四方へ散って異形へと挑みかかる。

 その間に剣聖が自身の力を溜め込み、爆発させようとしていた。


 茶奈達が捕まらぬ様に飛び掛かりながら異形の隙を作る。

 異形もそれを聞いてはいるだろう……それでも彼女達の攻撃を前に、何もしないなど有り得るはずも無かった。


 目の前に飛ぶ玩具が面白くて……追うのに夢中だったのだから。


 そしてそこに僅かな隙が生まれた時、剣聖が遂に溜め込んでいた力を解放する。

 力の限りに踏み込み……一気に距離を詰めて渾身の一撃を与える為に。




 だが……肝心の踏み込みが、出来ない。




「なっ、がッ……!?」


 途端、ガクリと剣聖の膝が崩れ、大地に伏す。


 そう……それ程までに彼の体にダメージが蓄積されていたのだ。

 想像を越えて、命力の切り替え(スイッチ)が体に負担を掛けていたのである。


「がぁぁあ!! クソォ!! お前等逃げろォ!!!」


 崩れ落ちようとした瞬間、剣聖の叫びが咆え上がる。

 それに気付いた茶奈達が、間髪入れずその場から飛び退こうと大地を蹴り上げた。




 その時……宙に浮く茶奈に向けて魔手が伸びる。




「ああッ!?」


 余りにも一瞬の事だった。

 その一瞬で……彼女の細い腰が異形の手によって掴み取られていたのだ。


 彼女の体に衝撃が走る。

 強引に慣性を殺された事による反動と、強烈な握力による圧迫感。

 二つの力が急激に掛かり、彼女の判断力を鈍らせた。


 仲間達の助けようする意思すら間に合わない出来事。




 茶奈の体が大地へと叩きつけられた事すらも。




「あぐッ!?」


 地表は草木と柔らかい土で構成されていて、その衝撃は言う程強くは無い。

 それでも余りある力が彼女全体に打ち付けられ、体の自由を奪い取る。


 それが例えほんの僅かな間でも、それは致命傷となるだろう。




 何故なら……その間に必殺の一撃を撃ち込む事すらも異形には可能だったのだから。




 誰しもが見ている事しか出来なかった。

 手を差し伸べる事すら出来なかった。


 気付いた時には異形が拳を振り上げていて。

 その目指す先には茶奈が倒れていた。


 そして巨木の様な腕が振り下ろされようとしていた時―――




―――勇……さん……!!―――






 茶奈の心の声が星を貫く。







ドッギャァァァーーーーーーンッ!!!!!






 凄まじい衝撃音が鳴り響いた。

 その時、何が起きたのか……理解出来なかった。


 異形()()が何も理解出来なかった。




 自身の体が浮き、跳ね飛ばされていた訳を。

 



 与えられた力は強烈で、異形の体を大地へ転がす程。

 地面を抉り、土を撒き散らす程に……激しい衝撃だった。

 たちまち異形は景色の彼方、凹凸のある丘間へと落ち……その姿を消したのだった。


 そして茶奈達は見た。

 異形を跳ね退けた者の姿を。


 たった一撃。

 たった一撃の……普通の飛び蹴り。




 それだけで異形を跳ね飛ばした……勇の姿を。




「皆……すまない、遅れてしまった」


 勇が何事も無く着地を果たし、茶奈に手を差し伸べる。


 茶奈は余りの出来事に「ポカン」としながらも……差し出された手に自身の手を添えた。

 途端彼女の体が優しく引き起こされ、彼の胸へと抱かれた。


「あ、あの……勇さんっ!?」


「ごめん……でももう大丈夫だから……」


「えっ……」


 その間に着地を果たしていた心輝達が駆け寄ってくる。

 彼の突然の登場に、彼等はどこか不満げだ。


「勇!! お前一体どこに行ってたんだよッ!!」


 勇が居なくなった十数分間、彼等の不安は大きかったのだろう。

 彼が何故居なくなったのか、どこへ行ったのか……それだけが気に掛かって。


 しかし憤りを見せる彼等を前でも、勇は落ち着きいた笑顔で返していた。


「そうだな……敢えて言うなら、『色々』あったんだよ」


「ハァ!?」


「ま、その『色々』はこの後たっぷり説明させてもらうさ。 それよりも……まだ終わっちゃいないんだ、茶奈と剣聖さんを連れてこの場から離れてくれ」


 そのまま勇の視線が異形の消えた先へと向けられ、笑顔を殺す。

 そう、まだ終わってなどいない……そんな事など皆わかっていた事だ。

 咄嗟に瀬玲が茶奈の体を抱え上げ、その一歩を引かせる。


「あ、ちょ……」

「アンタやれんのね?」


 その一言は勇を振り向かせはしない。

 ただ頷く所だけを見たいが為に。


 そして彼女の望むがままに勇の首が縦に傾いた時……瀬玲達は黙ってその場から離れていく。

 瀬玲達は剣聖をも抱え、更に大きく距離を取っていた。

 単に彼の持つ自信が何を呼び込むかが計り知れないから。


 彼女達の注目を浴びる中……勇はただ一点を見つめ続けたまま。

 異形はまた来る……その「確信」があったのだ。


 その確信通りに……異形が景色の先からその姿を現した。

 鼻息を荒げ、大地を抉り取る様に掴みながら四つん這いでゆっくりと踏みしめて。

 その姿はもはや獣。

 血肉を求め、暴力を奮い、快楽に身を委ねる……獰猛な獣そのものだった。


 立ち上がってもなお……その異形は怒りを露わとし、激しい息遣いを見せる。

 勇にやられた事で頭に血が上っている様だ。




 こうして勇は茶奈達の下へと舞い戻った。

 異形との一対一の対決を繰り広げようとする中で、彼女達の期待と不安が交錯する。


 見え隠れする勇の自信の正体は……まだ誰にも知り得はしない。




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