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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~懐かしき緑の里の唄~

 ()の視界一面に白い空間が広がっていた。

 時折薄い空色が滲み、雲の様にも見えた。

 体を浮遊感が包んでいたが、不思議と不安は感じさせない。

 それよりもどこか安心出来て、何かに抱かれる様で。


 心地良さを感じさせる白の空間は……懐かしさすら呼び込んでいた。




 するとふと……浮遊感がゆっくりと消える。

 体の感覚も徐々に甦り始め、白かった視界がゆっくりと彩りを取り戻し始めた。


 彩りは次第に緑色へと変わり、深く濃く色付いていく。

 所々には白が残ったままだが、その部分はどこかゆらゆらと揺らめいていて。


 輪郭をも浮かべ、その形が認識出来る様になって初めて気付く。

 眺めていたのが……木の葉だった事に。

 白は木漏れ日……揺らめいていたのは、生い茂った葉が風に煽られて振れていたから。


 そしてまた気付く。

 その木の葉に見覚えがある事を。


「う……ここは……」


 体を動かし、自身の状態を確かめる。

 どうやら地面に仰向けとなり、空を見上げていた様だ。

 そっと顔を逸らし、周囲の光景を確かめる。


 そんな時……その目にある物が留まる。


 それは大きな石碑だった。

 読めぬ文字が幾つも刻まれ、羅列する。

 でもその文字が何を書いているのか……彼は知っていた。


「あれは……もしかしてここは……」


 ようやく意識もはっきりし、その身を起こす。

 何故ここに居るのか……その理由こそわからないが、自身に起きていた状況もやっと思い出し始めていた。




「よう来たの、勇殿」




 途端、その場に声が響き渡った。

 彼の知る、よく聞いた事のある声だった。


「あ……貴方は……ジヨヨ村長……!?」




 そう……勇は今、アルライの里に居るのである。




 今までタイに居たはずだった。

 謎の異形と戦っていたはずだった。

 茶奈達が、剣聖が今でも戦っているはず。


 でも何故か彼は今、ここに居る。


 それが余りにも謎過ぎて……把握した状況の何が虚構なのかわかならくなる程に。


「さよう、ワシがおぬを呼んだんじゃよ。 ゴトフの長に急かされての」


 勇がその名を聞いて初めて、タイの出来事が虚構では無い事を理解する。

 そして現在進行形で事が起きている事も。


「呼んだ……!? なら今すぐ戻してください!! タイでは大変な事になっているんです!! 俺が行かなきゃ茶奈達が―――」


 それが危機的状況である事にも気付いたから。

 呼んだという事も、ここがアルライの里であるという事ももはや関係無く。

 ただ守らねばならぬ人が居るから……彼は声を荒げた。


 だが、ジヨヨ村長はそんな彼を制す様に……キリッとした声を打ち上げた。


「ならばなおの事ワシに付いてくるべきじゃの……おぬの持つ可能性が全てのカギを握るかもしれぬのだから」

「―――えっ……?」


 ジヨヨ村長の言う事がどういう事なのか……まだわかりはしない。

 けれど彼の言う事に嘘を感じなくて。

 むしろ付いていく事が正しいのではないか……そんな〝確信〟が彼の中に生まれていた。


「時間が無いのじゃろ? ならはよ付いてきぃや」


 その一言を最後にジヨヨ村長が踵を返す。

 すると途端、今までに見た事の無い程の軽快さで飛んで走っていったのだった。


 今までの歩行スピードと言えば、亀かと思われる程に鈍かったものだ。

 だが今の彼はどうだろう。

 まるで兎かカモシカか、船の間を飛んで渡った牛若丸か……それらを彷彿させる様な軽快さだったのである。


「あっ!! ま、待ってください!!」


 驚く余りに呆けていた勇も、置いて行かれぬ様にと全力でその場から飛び出しジヨヨ村長を追う。

 すぐには追い付けないと思われる程の速度を前に、勇は彼の底力を垣間見ていた。

 もしかしたら今までの治療は、こんな時の為に力を温存する為だったのではないか。

 そしてその時が訪れたという事が……勇の中にある猜疑心を払い除けていた。




 二人が到達したのは当然の如く、村長の家だった。

 飛び込む様に家内へと足を踏み入れ、家の奥へと向かう。

 そこで村長は部屋に備えられていた家具をずらし……姿を晒したレバーを操作した。


ゴゴン……


 その時、突如床が横にスライドして開き……地下への階段通路が姿を現したのだった。


「こんな地下通路が……」


「狭いけん、頭に注意しや」


 ジヨヨ村長がそのまま地下へと続く階段を駆け下りていく。

 背丈が小さいなりに、その通路は丁度いい様だ。


 勇も彼を追って階段を降りていく。

 駆けるには少し不安に感じる、直立も難しい天井の低さだ。

 命力珠が光を灯して通路を淡い翡翠色に照らしており、視界はそれほど悪くはない。

 そんな中を勇は負けじと追いかけ……二人はどこまで続くかわからぬ地下へと向かっていった。

 



 ものの一~二分か……階段を降り続けた勇の視界にとうとう終点が見え始める。

 その先は通路以上に光に包まれ、階段の終わりを存分に照らしていた。

 そこへ向けて勇が滑る様に駆け下りていく。


 そして全ての階段を降り終えた時、勇は目の当たりにする。


 先にあったのは……小さいながらも広い空間。

 中央に建つのは、横幅全長二メートル程にもなる横長の石碑。


 それを見た時、勇はただ感心せざるをえなかった。




 何故なら……ゆっくりと脈動するかの様に不規則な淡い光を発していたのだから。




 青白い光を放ち、穏やかさすら感じさせる脈動。

 それが部屋一杯に包み込んでいた。


「これは……」


 その光る石碑を前に、勇は思い出す。

 先程の白の空間を。

 それと同じ様に……その光には意思があるかの様な暖かさを感じ取っていた。


「これが命脈(ソウルライン)を通じて世界中に繋がる、ワシらの通信手段じゃよ。隠れ里同士で繋がり、情報共有する為のな。 しかしそれと同時にとある目的も有しておる」


「とある目的……」


「さよう。 じゃがおぬに可能性があるのなら……こうやって話すよりも、直に触れてみた方が早かろう。 もしもおぬがそこに至れたのならば、きっと応えてくれるはず。 少なくとも、縁の深いこの地でなら一層強く、な?」


 するとジヨヨ村長がそっと石碑から離れ、勇と石碑との道を空ける。

 そっと首を「クイッ」と石碑へ向けて振って、仕草だけで勇を誘った。


「……わかりました」


 可能性があるのならば。

 その意味はまだわからない。

 でも、そこに道があるのならば。

 そこに茶奈達を救う()があるのならば。


 彼が躊躇う理由など、ありはしない。


 勇が一歩を踏み出し石碑へ近づく。

 光り輝く中央部へと向けてそっと手を掲げ……最後の一歩を踏み出した。




 そしてその手が石碑へと触れた時……たちまちその場が強い光に包まれる。




 目も開けていられない程の光。

 咄嗟にジヨヨ村長が大きく顔を逸らし、その光を避けてしまう程の。




 その光はたちまち勇を包み……そして彼をも光へと換え……その場から姿を消すのであった。




 光が収まり、ジヨヨ村長が振り向いた時……既に勇はその場から消え去っていた。

 それを見届けたジヨヨ村長は一人、その状況を前にそっと笑みを零す。


「そうか……おぬはやはり、我々の可能性そのものじゃったか……」


 途端、ぺたりとその場にへたり込む。

 疲れたからでも、驚いたからでもない。


 ただ今起きた事が……彼等の悲願そのものだったから。


 それを見届けられた事が嬉しくて。

 力が抜けずにはいられなかった。


 今起きた出来事を前に、全てを悟ったジヨヨ村長は声を詰まらせる。

 その目からとめどなく溢れ出る熱い涙が……彼等の悲願の重さを象徴するかの様であった……。




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