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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~力打ち消せし者の唄~

 茶奈の全域命力鎧(フルクラスタ)と、心輝の魔剣【グワイヴ・ヴァルトレンジ】。

 イシュライトの命力闘法は強力だが、全力(フルパワー)であれば二人の一撃の方が強い。

 そして同時攻撃……彼女達はそれならばと飛び出していたのである。


 ……剣聖が何かに気付き、彼女達を声で制する中で。


「奴は……まさかッ!? 待てお前等―――」


 止まるはずも無かった。

 目の前に居る強敵を前に……集中を切らす訳にもいかないのだから。


 間も無く繰り出される二人の拳による強力な一撃。

 これもまた見紛う事無き直撃……異形の両肩へと突き刺さる。




 だがそれすらも無動、無意味。




 驚愕の事実を前に顔を歪ませる二人。

 途端、意図せぬ衝撃が襲い掛かる。


 異形が二人の腕を、自身の両腕を交差させて掴み取ったのである。


 その瞬間、二人は強引に引っ張られ―――




ドッガァッッッ!!!




 茶奈と心輝が互いに引かれる様に打ち付けられたのだった。


 強引、強靭、強烈。


 もはや二人でも止められない。

 腕に引っ張られるがままに振り回され、瞬く間に二人は放り投げられていた。


 大地を滑るかの如く放られた二人は地表に引かれ、地面へ到達するも激しく転がっていく。

 周囲に散らばる草すら跳ね飛ばし、それでもなお勢い留まる事無く。




 そんな最中でもなお、異形は心輝へと向けて飛び掛かっていた。




 容赦すら無く。

 己の暴力性を如何なく発揮して。

 敵対する者を……完膚なきまでに叩き潰す。


 そんな意思すら垣間見える異形。

 その顔に浮かぶのは……これでもかという程に口角を上げた、嬉々とした表情であった。


 その喜びの素、敵の死。

 異形は嬉々としてその拳を振り上げ、心輝へと襲い掛かる。

 未だ体勢どころか飛ばされた勢いすら残り、状況把握も出来ぬ中で。




ドッガァーーーーーーッ!!!!!




 またしても凄まじい一撃が見舞われた。

 途端、周囲の草木が漏れなく弾け飛ぶ。


 しかし……その時、異形の顔から笑みが消えた。




「てめぇ……やはりかぁ……!!」




 なんと心輝を庇う様に……剣聖がその一撃を受け止めていたのである。


 腕を交差(クロス)し、異形の一撃を全て受けきる。

 余りの威力に……膝を地に突かせて。


 そして、そこで終わる剣聖では無い。


「ぬぐぉあッ!!」


 力任せに振り下ろされた異形の拳を力任せに押し返し、有ろう事か弾き返す。

 戸惑う異形を前に、剣聖はなおその両腕を突き出し反撃を開始した。


ガシィッ!!!!


 異形も負けてはいない。

 剣聖と同様に両腕を突き出し……二人は互いの拳を掴み合い、押し合いを始めたのだった。


 体格で言えば異形の方が大きい。

 押し潰すかの様に体重を力に乗せ、強引に押し込んでいく。


 剣聖もまた持てる力を発揮し、それに抗いながら押し返す。


 膠着状態とも言える状況。

 互いの筋肉が「ギリギリ」という軋み音を打ち鳴らし、繰り広げられる戦いが如何に激しい力の押し合いであるかを物語っていた。


 その間に茶奈と心輝も体勢を立て直し、イシュライトも辛うじて無事。

 しかしその戦いを前に、誰しもが手を出せずにいた。


 それ程までの力のせめぎ合いだったのだ。

 茶奈も心輝も、イシュライトも瀬玲も、そして遠くに居る勇も……その動向に目を奪われる。


 このまま剣聖が倒してしまうのではないか……そんな期待が湧き上がるかのよう。




 その時、とうとう力の均衡が崩れ始める。




「ぬ、ぐぉぉ……!?」


 なんとあの剣聖が……押し負け始めたのだ。


「剣聖さんッ!?」


 巨体に押し付けられ、その身が徐々に地面へと押し込まれていく。

 強引な力で地面がどんどんと歪み、剣聖すらもその身を押し込まれて。

 気付けば再び膝を突き、その顔から冷や汗が滲み出ていた。


「カァァァァァァーーーーーー!!!!」


 その途端、剣聖が強引にその身をわざと屈ませた。

 拍子に生まれた間隔が異形に一瞬の浮遊感を与える。


 その隙を突き……剣聖は異形の体を受け流す様に大地へと打ち付けたのだった。


ドォーーーーーーンッ!!!!!


 異形が大地へと転がる。

 その一撃が決定打になる訳などは無い。

 その間に剣聖は当然の如く距離を取り、体勢を立て直していた。


 異形は何事も無かったかのようにゆるりとその身を起こし始める。

 急ぐ必要も無い……そんな意思すら感じさせる程に、先程までの瞬発力とは相反した鈍さ。

 その証拠に……異形の目はなお、剣聖達に向けられたままだったのだから。


 圧倒的暴力性を誇る異形。

 しかし剣聖はその相手を前に魔剣を取らないまま。


 何故かと思う者も居ただろう。

 だがその理由は直ぐにでも……彼自身から明かされる事となる。

 



「野郎……命力の攻撃が一切通じねぇ!! 完全に無効化されてやがる!!」




 その瞬間、茶奈達の間に驚愕が広がる。


 剣聖は途中から気付いたのだろう。

 イシュライトの一撃、茶奈達の連撃……いずれも命力がふんだんに乗った、一撃必殺拳。

 まとも食らえば剣聖とて無事では済まない程の威力には間違い無い。

 それを異形は全く意にも介さぬ程にしか感じていなかった。


 拳撃による慣性も、受け止めた事による地表への影響も、全く出す事無く。


 これらの攻撃を受け止められる程の肉体でも、反動を殺す事など普通は不可能だ。

 茶奈達の威力は岩をも割り、大地を揺るがす程のもの……地表が持つはずが無いのである。


 それをも無効化にするという事……それが剣聖に特性を気付かせた要因。


 それ程までに相手の状態が不自然過ぎたのだから。

 

「命力が一欠片でも乗ってりゃ、力そのものが飛んで消えちまう!! 打ち消されちまうんだ!! ギオの事を思い出せェ!!」


 かつて勇が魔特隊に居た頃、似たような特性を持つギオという魔者と戦った事がある。

 彼は命力を秘めた攻撃を全て吸収し、自身の力にする能力を有していた。

 逆に命力の無い攻撃にはめっぽう弱く、それに勇が気付いて勝利を収めたのだが―――


 ―――目の前に居る異形は一味違う。


「だがあの野郎、命力無しで戦ってもかなり強えぇ!! 油断するんじゃねぇ、絶対にな!!」


 先程の押し合いから、剣聖は命力を使っていなかったのだろう。

 それでも押し負けたという事実……それはこの場に居る誰よりも強いという事。


 正体不明の異形は……今までに無い程の異質と破壊力を併せ持った怪物だったのである。




 そんな折、突然瀬玲が声を張り上げた。




「でもっ……そんな相手なら通用しそうなヤツが私達には居るじゃんッ!!」


 その時、その声が聞こえて。

 誰しもがそれに気付いて。

 皆が振り返った。


 そう、彼が居るから。


 常識を超えた力を持つ、()が居るから……。






 だが瀬玲達が振り返った時……驚愕する。






 勇がまるで煙の様に姿を消したのだから。

 つむじ風を纏い、細かい草を巻き上げながら。


 突如として勇が姿を消した事実を前に……彼女達はただ、唖然とする他無かった……。




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