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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~迫る悪意と魔手の唄~

 里の若者に案内され、勇達が戦いの現場へと駆けていく。

 向かうは里の入り口。

 未だ戦いとは程遠い気配しか感じ取れぬ現状で……焦りを隠せないでいた。






 一方、隠れ里の入り口。

 そこでは既に数人の防人であろうゴトフの者が地面に伏し、身動き一つ取らぬ姿があった。

 そして残るのは四人ほど。

 彼等の前に立つのは……彼等の知るはずもない魔者が如き異形であった。


 そう……ラクアンツェを襲撃した異形である。


 日の下に晒された事でその様相が浮き彫りとなる。

 姿そのものはキリスト教の悪魔バフォメットにも通じたもの。

 馬の様な極度に突き出た鼻と口を有する顔。

 頭にはヤギの様な螺旋の紋様を描いて巻かれた角を生やす。

 だが体はもはや人だった頃の面影は全く無く、体全体を赤黒い体毛が覆う。

 上半身が集中的に膨らみ、筋骨隆々とも言える体付き。

 体の各所には赤い蚯蚓腫れの様な紋様が走り、気味の悪い脈動を繰り返している。


 その様な姿の異形はもはや魔者ですら生ぬるい程に……醜悪そのもの。 


 実力もさることながら、その異様な姿形が畏怖すら呼び込み、ゴトフの防人達を脅えさせていた。


「ゴゴニイルノ知ッデル……ままノ嫌イなヤツ……!!」


 異形が重厚な足取りで一歩、また一歩と踏み出し、里へと近づいていく。

 じりじりと距離を詰めていく相手に対し、魔者達はただ下がる事しか出来ない。


 迂闊に近づけば……付近に倒れている者達と同じ結末を辿りかねないからだ。


 そこらに倒れているのは、漏れなく一撃の名の下に力尽きた者達。

 強者でも猛者でも無い彼等が耐えられるはずも無いのだから。


「クッ……どうすればいいんだ……」


「……こうなったらやってやる、やってやるぞおッ!! ウオオッ!!」


 そこで飛び出したのは血気盛んな若者の一人。

 例え凶悪であっても槍で一刺しすればあるいは……その様な考えが突き動かしたのだ。

 槍には命力が籠り、貫けない訳はない。

 そう出来る様に訓練されているからだ。




 だが、現実は得てして残酷である。




 その時、飛び出した若者は……その一瞬で何が起きたのかを全て理解する事は出来なかった。

 ただ、離れていた異形が一瞬で目の前に現れて。

 腹部に凄まじい衝撃が掛かって。


 異形が凄まじい速度で若者との距離を詰め、その巨大な拳を腹部へと突き上げる様に打ち込んだのである。


 その凄まじい威力は若者の体を跳ね飛ばし、大きく空へと打ち上げる。

 里全体が見えてしまうのではないかと思われる程に高く。




 その瞬間―――一つの影が、跳ね飛ばされた若者へと一直線に飛び込んだ。




 影が若者を空中で捕まえ、自身の勢いのままに彼ごと自由落下していく。

 そして着地を果たした時……影の姿もまた日の下に晒し、その姿を現したのだった。


「アイツが……襲撃者……ッ!!」


 それは勇。

 一足早くこの場へと馳せ参じたのである。

 若者を抱きかかえ、遥か遠くに立つ異形へと闘志を向けながら。

 彼の心にあるのは……怒り。


 何故なら……抱えた若者は既に事切れていたのだから。


 容赦の無い一撃だったのだろう、受けた場所の傷は言うに堪えない程に悲惨。

 上下が分かれてしまいそうな程に……全てが潰れ、千切れそうになっていた。


 そんな惨状を、その原因を作った者を前に……勇が怒りを露わにしない訳など無かったのだ。


 続いて茶奈達が遅れて馳せ参じ、異形の前へと立ち塞がる。

 空かさず見える惨状が、彼女達の動揺を呼び込んだ。


「酷い……ここまでやるなんて……」


 勇が抱えた若者だけではない。

 大地に転がる者全てが似た様な惨状。

 そこまでされて誰一人生きている訳も無かったのだ。


「皆さん下がってください!! ここは私達がやります!!」


 勇の代わりに茶奈が咆え、ゴトフの防人達を下がらせる。

 こうなった時の彼女はもう普段の時とは違う、リーダーとしての年季を見せつけた。


 彼女達も当然、異形が何者かなどわかる訳も無い。

 剣聖は目の前の異質に違和感を感じ、その目を細めさせる。




 そんな時、突如イシュライトが飛び出した。




「ならば初手優撃(先手必勝)、付け入る隙など与えません!!」


 彼の凄まじい脚力は、無動状態から一瞬にして最高速(トップスピード)へと達する事が出来る。

 地上を走る彼の速度はもはや、異形との距離を詰めるのにも時間を必要とはしない。


 地を這う様に駆け抜け……イシュライトは一瞬で異形の懐へと飛び込んでいた。




「カァァァーーー!! 剛掌蓮華(ごうしょうれんげ)!!」


 


 それは先日勇に見せた技を昇華させ、単発での突貫力に特化させた一撃。

 圧倒的突撃力と掌から足のつま先の骨格を直線に並べ、命力を篭める事で……突き当てられた掌から圧倒的貫通衝撃力を与える強烈無比の技である。




ドゴンッッッッッ!!!!!




 その瞬間、鈍い音が響き渡る。

 イシュライトの一撃が異形の腹部へと撃ち当てられたのだ。


 その威力は誰から見ても見紛うこと無き、一撃必殺。

 命力闘法の強さを知る勇達だからこその……確信出来る一撃だった。


 だが……彼等はその目を疑う。




 異形はなんと、その一撃を受けてなお……無動。




 その場に立ったまま……全く動いていないのである。


 剛掌蓮華は貫通力に特化しているが、技そのものが打ち放つ衝撃もかなりのもの。

 しかし異形はその衝撃すらもまるで()()()()かの様に、平然と立っていたのだ。


 必殺の一撃どころか物理法則すら無効化し、平然とする異形。

 それはまるで、命力を持たない人間と障壁を持つ魔者との差の様に……明らかな異質が間にあるかのよう。


「馬鹿な……!?」


 渾身の一撃のはずだった。

 自慢の技のはずだった。

 でも無為に消えた。


 その事実が彼の判断力を鈍らせた。


 途端、イシュライトの顔に陰りが帯びる。

 異形が……覗き込む様に見下ろしていたのだ。


 それに気付いたイシュライトが咄嗟に背後へと跳ねる。


「ちぃッ!?」




 そんな彼を襲うのは……異形から繰り出される突き出しの一撃。




 その圧倒的拳速は、イシュライトの後退速度すらをも凌駕する。

 まるでそれは勇の流星撃の様な、破壊の力の集大成とも言うべき一撃。

 だが勇のそれとは全く異なる……力だけで強引に振り切った、ただの力の塊である。


 それが見舞われた時……彼の体に凄まじいまでの衝撃が襲い掛かった。


「ぐぶぉおッ!?」


 空中で歪む体。

 全身を襲う衝撃は命力の障壁や防御すらをも撃ち貫いたのだ。


 後退による勢いは既に一撃の反動へと成り替わり……イシュライトを空へと舞わせる。

 宙で弧を描いて飛ぶ彼の体はとうとう大地へと身を落とし、転がさせたのだった。


「イシューーーッ!!」


 余りの出来事に瀬玲が叫ぶ。

 そうした時には倒れたイシュライトの下へと既に駆け出していて。




 その最中で……茶奈と心輝が間髪入れず、異形へと飛び掛かっていた。




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