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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~大空に賭けし者の唄~

 突如とした敵意の急襲。

 それは勇達に大きな驚愕をもたらした。


 ただの襲撃であれば、きっとこれほど驚く事は無かったのだろう。

 では何故こうまでして驚く程だったのか。


 彼等は報告を受けて今、襲撃の事を知ったからだ。

 

 戦いともなれば命力の波動が僅かに生まれ、例え離れていようと気付く事が出来る。

 障壁に阻まれて命力でなければ傷つける事が出来ない魔者相手なのであればなおさらだ。

 命力を感じ取れない勇や、感覚に乏しい心輝であれば気付けないのもまだ無理は無いかもしれない。


 だが……剣聖ですらも、襲撃者の存在に今の今まで気付かなかったのである。


 そういった事に対して誰よりも卓越している彼が、である。


「どういう事だ……!! そんな気配なんざ何も感じなかったぞ!?」

「剣聖さんも……?」


 だがゴトフの若者が嘘を付いているとは思えない。

 現れた彼の表情には必死さが伺える。

 それだけでなく……彼の体には赤い染みが幾つも浮かび、嗅ぎ慣れぬはずもない血の臭いを纏っているからだ。

 恐らくそれは既にやられてしまった仲間の……。

 

「でも襲撃されているのは間違いじゃない!! ヤヴさん、俺達が行きます!!」

「あ、ああ……どうか頼む……!!」


 その一言をを受けた途端……勇達全員の雰囲気がガラリと変わり、戦闘態勢へと移行する。

 間髪入れず立ち上がり、無駄の無い動きで野外へと飛び出していったのだった。

 

 気付けば後に残ったのはヤヴと、勇達の動きに見惚れる若者のみ。

 若者が唖然と彼等を見つめる中、ヤヴがそんな彼にそっと声を掛けた。


「お前も行きなさい。 彼等の邪魔にならぬよう、傷付いた仲間を救うのだ」


「あ、は、はいっ!!」


 若者もその一言で我に返り、勇達の後を追う様に駆け出していた。

 

 一人残ったヤヴは既に見えなくなった勇達の行く先と若者の走り去る姿を窓越しに見つめ……その目を細めさせる。

 長く伸びた口元に手を添え、考えを巡らせながら。


 どこか妙な胸騒ぎを感じとっていたからだ。


 それというのも……剣聖が出る直前に零した一言が妙に気になって。


「気配を感じなかった……気配……命力を……?」


 その一言が呟かれた途端……ヤヴの脳裏に思考が駆け巡る。

 自身の知る過去の記憶、使命、そして約束。

 遥か悠久の果てから受け継がれてきた全てを思い起こし、今の出来事と重ねた時……彼は、何かに気付いた。




「命力を感じない敵意……まさか……!?」




 その一言を最後に言葉が詰まる。

 彼の知る真実の一片が……悪意の根源を悟らせたのだ。


 それは彼を放心させるまでに……衝撃的だったのだから。


「何という事だ……これではあまりにも……!!」


 そしてその悟りはその行く末すらをも導かせていた。


 ヤヴが導いた結論。

 それは……「可能性の死」。


 つい今しがたに生まれた可能性が潰えるという事。

 意味するのはつまり……勇達の敗北。


「……このままでは彼等は……」


 怯えと悲壮感。

 ヤヴの心に諦念にも似た感情が沸々と沸き起こる。




 ずっとそういった感情に苛まれながら生きて来た。

 叶わぬ事に期待しなければならない人生を。


 でもいつか希望が訪れ、我等を照らすだろう。


 そんな夢を見られたから……彼は今まで生きてこれた。

 里長として、民衆を支える事が出来た。


 そして今、勇が来た。

 彼の存在感は、ヤヴにとって……紛れも無く、心を照らす「大空」だったのだ。


 青空の様に澄み渡った心を持ち。

 朝空の様に穏やかで。

 茜空の様に激情を浮かべ。 

 暗空の様に曇る事もあれば。

 雨空の様に涙を零す。


 まるで天気の様に……感情を露わとする。

 それがあまりにも人であり過ぎて。

 誰よりも何よりも前向きで。


 きっとヤヴは……それこそが何よりもの希望に見えたのだろう。


 だから彼は望む。




「……希望を失ってはならぬ……!! 可能性を失ってはならぬ……!!」




 その時、彼に一つの思考が浮かび上がる。

 それこそ彼の持つ可能性。


 微細なまでの成功率、対するは圧倒的絶望。

 浮かぶのは比較すらおこがましいまでの成功と失敗の比率差。


 だがきっと、それでも勇なら試すだろう。

 『待つのが絶望なら、試した方がいいじゃないか』……そんな事を言って。


 僅か短時間であったが、彼に触れる事が出来たから……ヤヴはそう理解する事が出来た。


 そしてそう理解したから……彼は立ち上がれる。


「僅かでも可能性があるならば……試さずで置くべきか……ッ!!」




 その時突然、ヤヴがその身を屈ませた。




 そして何を思ったのか、床に張り巡らされていた木の板を掴んだのである。


ガッ!!


 掴まれた木の板が勢いのままに持ち上げられる。

 すると木の板は彼の意思のままに軽々と持ち上がり……そこに隠れていた地下へ続く階段が姿を現したのだった。


 ヤヴはそのまま階段へと飛び込み、地下へと足を踏み入れた。

 間も無く木の板が彼の手から離れて床に叩き付けられるも、何一つ気に掛ける事無く。


「そうだ……万が一にも可能性があるのならば―――」


 ヤヴが老躯を押して地下へと続く道を一心に駆け下りていく。

 その先に待つモノが……勇達の希望となる事を信じて。




「―――ワシもそれに賭けよう……!!」




 勇達が、里の若者達が、命を懸けて戦場へ向かう。

 相手は……彼等の命を脅かし、可能性すら奪わんとする者。


 その者と、その背後の居る者の意図に逆らうべく……ヤヴは地下深く続く階段を降り続ける。




 全ては……希望の大空を奪われない為に。




 焦燥感、そして希望を胸に決意を固めたヤヴ。

 その時彼の顔に浮かぶのは……険しいながらも口角の上がった、彼の人生の中で最も活き活きとした使命感溢れる表情であった。




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