表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
175/466

~中心へ向かう為の唄~

 遂に勇達へ【創世の鍵】の在り処が伝えられた。

 しかしその所在地は、辿り着くのが不可能とも言える……星の中心(アストラルストリーム)


 それでも勇は諦めずに方法を模索する事を選んだ。

 諦めなければいつか必ず……その想いが彼の根底にあったから。


 その想いは、仲間だけでは無くヤヴの心にも一つの変化をもたらしていた。




「……以上が、ワシらの知る真実だ。 これから先はお主達が考えて行動するといいだろう」


「ありがとうございます、ヤヴさん」


 勇が笑顔を向けて頭を下げる。


 ヤヴが教えてくれた事は結論に至るにはまだ遠い事実なのだろう。

 でも一歩進む事が出来たから、勇にはそれだけでも十分だったのだ。


 そんな時、瀬玲が小さく手を挙げ……ヤヴへと視線を向ける。


「ヤヴさん、ちょっといいかな?」


「……何かね?」


 勇達が瀬玲へと視線を向ける中、瀬玲が手を降ろしていく。

 そして二人の視線が合った時……瀬玲の眼が僅かに鋭さを帯びた。




「この事ってさ……デュゼローも聴いた事なのかな?」




 その時、ヤヴの顔が「ピクリ」と動き、僅かな強張りが走る。

 明らかに何かを知っている……そう思わせるには十分な反応だった。


 背を向けた剣聖も目だけを動かし、動向に耳を傾ける。


 そんな中で……ヤヴは一つ息を整えると、彼女を前に頷いて見せた。


「うむ……その事はこちらに来てからグーヌーより聞いている。 彼等はデュゼローという者を筆頭とした【救世】を名乗る者達と密約を交わし、この真実を伝えたそうだな。 それ以上の事は訊かなかった様だが」


「やっぱりね。 それで【東京事変】に至ったのね……全部知って、無駄だと思ったから……」


「あの野郎……見ねぇと思ったら隠してやがったか……余計な気を回しやがって」


 デュゼローの事ともなればさすがの剣聖も気になるのだろう。

 そして彼が何を思って伝えなかったのかも……よく知る剣聖だからこそ理解出来た様だ。


「セリ、お前何か知ってたのかよ?」


「ん……まぁねー」


 その一言を最後に、瀬玲は何も語る事無く「ニヒヒ」といじらしい笑顔を浮かべていた。


 実は瀬玲、アージと会った事を打ち明けてはいない。

 それはまだ彼女とイシュライトとの秘密のままだ。

 まだアージが何を目的として動いているのか、何をしようとしているのかがわからなかったからこそ……迂闊に語る事を避けていた。


「デュゼローも言っていたな……『世界に神は居ない』って。 つまり、【創世の鍵】に触れる事が出来る者はもう居ないって事なんだろうな……知る限りでは」


 勇も【東京事変】の折にデュゼローと対話を交わし、そんな話を彼の口から聴いていた。

 その時のデュゼローに一つの諦めの様な意思を帯びていたのは間違いない事だ。


「でもアイツも諦めたんだ。 その先に進む事は出来ないって。 けど俺は諦めないさ……アイツが進めなかった道なんて幾らでもあるんだ。 だったら俺達は誰も進めていない道を切り拓くだけさ」


 そう、デュゼローは強かったが、決して万能ではなかった。

 勇を阻止できなかった事もしかり、アルクトゥーンの真価も発見出来なかったのだから。

 彼もまた人間だから……。


 そして勇は仲間達と共に今を切り拓けたから。


「それじゃあ、次は死なないで星の中心に行く方法を探さなきゃいけないですね。 なんだかすごい事になってきたなぁ」


 茶奈が小さく腕を前に構え、本人なりのやる気を見せる。

 そんな小さな仕草でも、勇達にはどこか元気を与え……大きな笑顔を漏れなく呼び込んでいた。


「もしかしたら昔から文化を継承するイ・ドゥールにも何か手がかりがあるかもしれません。 機会があれば立ち寄る事も考えてもいいかもしれませんね」


「ならよ、もしかすっと共存街の魔者達も何か知ってるかもしれないぜ? ゼッコォとか割と博識だしよ」


 勇の一言を皮切りに、仲間達の間に活気が生まれる。

 僅かな可能性でも、先に進む為のキッカケがあるのかもしれない。

 それが彼等に希望を呼び込んでいた。


 途端に屋内は提案と論議に包まれ、先程の様な明るい雰囲気を取り戻す。

 剣聖もそんな空気の中で……相変わらず背を見せながらも、自身なりのアイディアを模索する様を見せていた。


「なるほどな……これが()か……」


 話し合う勇達を前に、ヤヴは一人佇みぼそりと呟く。

 まるで何かを悟った様に……優しい微笑みを浮かべながら。


 彼の呟きを拾う者も居ない中で、彼はただ見つめる。

 目の前で諦めを知らぬ若者達を見守る様に。


 きっと彼には……()はそれしか出来ないから。




―――聴こえているだろうか、創世の女神よ―――




 願いを、想いを馳せるのみ。




―――彼等はきっと……貴女の希望に足り得るよ―――




 目を細め、慈しみを纏う穏やかな顔付きで。

 暖かく……勇達を見守り続けていた。






 それから一時間程が過ぎ去った。

 気付けば昼間は過ぎ去り、夕刻が迫ろうとする時を刻む頃。


 議論も詰まり、後は行動するのみ。

 勇達もどこか話し合う事に満足し、出来上がった結論に自信を覗かせていた。


 それが成功する確証なんてどこにも無い。

 そればかりは勇の「確証」も閃いてはいない。


 でも、試してダメなら違う方法を模索する。

 それでもダメなら次を探す。


 世界が終わるまで。

 世界が救えるまで。


 彼等は止まるつもりなど毛頭も無いのだから。






 だが……そんな彼等の足を掬わんと、悪意が魔手を伸ばしていた。






「里長、大変だ!!」


 突如、木の扉が勢いよく開き……外から若者のゴトフ族が勢いよく飛び込んで来た。

 息を上げ、険しい顔付きを浮かべて。

 手に握るのは手製の石槍……里を守る為の武器だ。


「何があった……!?」


 突然の事に驚きつつも、ヤヴは冷静さを失う事無く若者に応える。

 勇達の注目をも集める中で……若者は乱した息を整える間も無く荒げた声を上げた。


「正体不明の魔者が……里の入口の外にッ!! 恐ろしいまでに強く、既に半数の防人(さきもり)が犠牲に……!!」

「なんだとッ!?」




 前触れも無く訪れた敵襲。

 それはヤヴだけでなく勇達をも驚愕させる。


 果たして、急襲せし魔者の正体とは。


 争い知らぬゴトフの里を……得も知れぬ悪意が今、覆い尽くそうとしていた……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ