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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~知らずと知る者の唄~

 遅れて茶奈達が結界内に足を踏み入れると……すぐ前に立ち止まる勇と剣聖が姿を現す。

 そしてその先に見えるのは……見紛う事無き隠れ里。

 アルライの里の造りとも酷似した、丘の上へと続く石段と鳥居を有する入口が彼等の前に姿を晒したのである。


「おめぇ、見えてやがったな? どういう事だ?」


「えっと、どういう事と言われても困りますけど……多分俺が謎の力を持っているのが起因しているんじゃないかなぁって思ってます」


「謎の力ねぇ……ハッキリしねぇなぁ」


 もしかしたら命力を持たず、謎の力を持つ勇には隠れ里の結界を無効化する様な仕組みを有しているのかもしれない。

 その原因こそわかりはしないが……勇だけがこうして見えていたのだ、そうとしか思えないだろう。


 結界を抜けた先は表と異なった、短い草が生い茂る平原。

 手入れがなされているのだろうか、人為的に草木が刈られた様子が見える。

 

 それはつまり、足を止める障害がもう何も無いという事だ。


 剣聖が小言を呟く中で、勇は苦笑を浮かべながらもその足を踏み出す。

 素直に、真っ直ぐ里の入り口を目指して。


「願いの力だと思ってるんですけどね、なんか命力とは似た様で違う力っぽくて……いまいち実感が無いのが欠点なんですよ」


 剣聖もまた彼に並ぶ様に踏み出し、勇の言葉に「ほぉん」と相槌を打つ。

 顎に手を添え、「わしゃり」と顎髭を掻き毟らせた。


「それであの出力かよ……おめぇの体一体どうなってやがんだ」


 デュゼローの魔剣を溶断する程の光の剣。

 剣聖にとってもあの力はきっと常識外れなのだろう。

 少なくとも、デュゼローの力を良く知っている剣聖だからこそ……その恐ろしさを誰よりも理解しているのかもしれない。


「俺も知りたいですよ……カプロも剣聖さんもわからなきゃ、ますます望み薄ですけど」


 茶奈達が後に続くが、二人はそれすら気付かず会話を弾ませる。

 それは今までに募りに募った想いを吐き出し合うかの様に……しんみりとしながらもどこか楽しそうとも思わせる、声質の高さが混じった声だった。


「たぁーッ!! よくまぁそんな力信じられるもんだぁなぁ!!」


「うーん……なんだろう、信じるとか信じないというより……実感が先にあるんですよね。 凄く不思議な感じなんですけど、『こうすれば出来る』って確信みたいなのが」


 勇にとって謎の力はまだ未知の領域が多い力。

 彼が力を使おうとする時、まるで別の自分が語り掛けて来るかの様に「確信」が閃かれる。

 そして体を動かせば、その「確信」通りの結果が待っているのだ。

 例え信じたくなくても、信じられてしまう。

 嘘を根底から否定する様な「確信」の存在は、誠実を地で行く勇にとっては望ましい形ではあるが。


「それに、この力はどこか安心出来るんですよ。 俺にとってはね」


「ま、力の在り方に関してとやかく言うつもりはねぇよぉ」


 そうこう話をしている内に、勇達は里の入り口前へと辿り着いていた。

 見上げた彼等の目に映るのは手入れの施された石段と鳥居。

 見慣れているはずなのだが……その時勇達の顔に浮かぶのは緊張。

 ここに目的の物があるかもしれないという期待。

 そして隠れ里に住む者達の正体も知れないという事。

 二つの不安要素が彼等に余計な感情を呼び起こさせたのだろう。


 だが勇達は恐れる事無く一歩を踏み出した。


 例え友好的でも、敵対的でも。

 相手が魔者でも、人間でも。

 彼等には誰とでも話し合える気概と、どんな暴力をも押し退ける力がある。


 彼等が恐れる必要など、どこにも在りはしない。


 それ程長くも無い石段。

 勇達はあっという間に半分ほどの所を登り切っていた。




 するとそんな時……石段の先の末端に、ゆらりと何かの影が蠢いた。




 それを見掛けた勇達が思わずその歩を止める。


 太陽の光が降りしきり、逆光で相手の姿は殆ど見えない。

 ただ何かが居る……それだけはハッキリとしていた。

 それだけで、それ以上の動きは何も無い。


 和解か、戦いか……相手の動きからは何も察せない。

 未だ動きを見せぬ影を前に茶奈達が警戒し、堪らず拳を、魔剣を構え始めていた。




 しかしそんな中でも……勇は空を仰ぐ様に石段の先を真っ直ぐと見つめていた。




「よせ皆……そんな必要無い」


 振り向く事も無く。

 ただ彼等の意思を感じ取り、その場を制す。

 それ程までに自信に溢れた一言は……茶奈達の戦意を掻き消した。


「どうしてそんな事が言える?」


 その中で一人、武器を構える事無く腕を組む剣聖。

 勇と共に丘の上を見上げながら……落ち着いた声色で言葉を返す。


「あの人は……多分、俺達を知ってる」


「ほぉ? そうなのかぁよ?」


 それもきっと彼の中に呟かれた「確信」なのだろう。

 そう答えた勇の顔は自信に満ち溢れていて。

 剣聖もまたそれ以上返す事無く……「ニヤリ」と笑みを零した。


 そして間も無く……影が動きを見せる。




「よく来たな……お前達を待っていた」




 その時、突如として声が上がる。

 低く掠れた様な……老人の声だった。

 そして予想外の一言は、期待と共に動揺をも呼び込んでいた。


「俺達を……待って……?」


「そうだ。 そしてここに来た目的もまた察しが付いている。 【創世の鍵】を求めて来たのだろう? なぁ、フジサキユウよ」


「ッ!?」


 その単語が剣聖の大きな反応を誘う。

 それほどまでに……彼にとってもこの返事は予想外だったのだろう。


「さぁ来るが良い。 色々と話が聞きたかろう?」


 石段の先に居る影はその一言を最後に振り返り、景色の先へと姿を消していった。


 今までに無い感触。

 そして事情を知っているかのような物言い。


 そこにある期待が計り知れなくて。

 可能性に溢れていて。


 気付けば勇達は……彼の後を追う様に石段を駆け登っていた。




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